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リアクション
物語の始まりは、クリスマスが過ぎ去った繁華街。
そんな時にヒロインは去年のクリスマスに別れた恋人にばったり会ってしまう。
すれ違いの末お互いのためだと別れたので、好きな気持ちはお互いにまだ残っていた。
「よう、元気か?」
再開する別れた恋人役はキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)だ。位の高い貴族の生まれのため、庶民のヒロインとは溝ができてしまった設定になる。
「ちょっと口調がチャラすぎですわ、もっと声の調子を落としてください」
ヒロインの驚く台詞ではなく、キロスへのダメ駄目出しが来る。役に入りやすいように、という位置づけで本人に似せたキャラクターではあるが、違うキャラだ。
「とするとこんな感じか?」
渋々キロスは同じセリフを口調を変えてもう一度言う。今度は近くなったとエンヘドゥは頷き、セリフの返事をした。
電話番号を書いたメモを渡して、キロスは舞台袖へ去って行く。
「今のは素のままの口調でいいと思いますわ」
ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)はエンヘドゥに意見する。
「その方が助かる」
「せっかくボロボロになった衣装があることですし、いっそ本当に貧乏貴族というのもどうでしょう?」
「はぁ? 冗談じゃねぇぜ」
好都合だと表情を明るくしたキロスだが、眉に皺をよせる。エンヘドゥも同じような表情を見せた。
「うーん、それではあの首飾りを渡せませんわよ」
美緒と一緒になくなったピンクダイヤの首飾りだ。劇中では高価なアイテムとして登場する。お金持ち設定の相手役でないとできないシーンがある。
「会社の株が一気に上がって元の生活に戻る、という流れもいいと思いましてよ?」
ラズィーヤに言われ、そうねぇ、と白紙に流れを直したものを書いていく。成金貴族という設定だけに、いきなり事業に失敗して貧乏になるというのもおかしくはない。少々乱暴な口調にしておいて、徐々に人柄が落ち着いていくのも有りだ。
逆に、もう一度事業が成功してまた成り上がるという流れもエンターテインメント的には面白いという話になった。
「そうだな。身分的にも、どん底にいる奴が最後は勝ち組になるのはオレも納得いくぜ」
*
次は動揺しているヒロインが、占い師と出会うシーンだ。
「占いは確実という訳ではないんですってば!」
コミカルなBGMが流れ、八卦術師の東 朱鷺(あずま・とき)は舞台袖から中心へと駆けていく。占いが外れた男に難癖を付けられて逃げているところだ。
あっちへバタバタ、こっちへバタバタ。焦った表情やポーズをしながら駆け回る。
少々重たい再開シーンから、エンヘドゥはこのシーンで観客に笑ってもらいたいと思って入れたシーンだ。
「あのっ、逃げ道ならこっちです!」
反対の方からエンヘドゥが朱鷺の手を引く。この街の地元民であるヒロインは、抜け道をよく知っている。助けてくれたお礼にと朱鷺は占い道具を取り出した。
「お礼に占ってさしあげます。キミは何か迷い事があるのでしょう? 顔を見ればわかる」
「違いますわ。……多分」
「自分の心に決着が付かない。もしくは、その心がわからない。当たるも八卦、当たらぬも八卦。決めるのはキミ次第だけど、どうですか」
気持ちが落ち着かないヒロインは、話しかけてくれた占い師にどうすればいいか占ってもらうことにする。
その最中、ぐぅ〜とヒロインのお腹が鳴ってしまい(もちろん音はSEだ。)、「一緒に昼食でもどうですか」と朱鷺に誘われる。その後、街中で会う友達同士の仲になった。
「今のよかったですわ、朱鷺。さすが本業ですわね」
「どうも、大丈夫なら安心。ヒロインの気持ちを左右させるところですからね」
そうだ、とエンヘドゥは思いついたように顔を上げると、「美緒の行方を占って欲しい」と頼んだ。けれど、先の長い人生占いではなくリアルタイムで今すぐ解決しなければいけない事態なのにと朱鷺は困った顔をする。
「いいのですか? もし外れていたら」
「手がかりは多い方が判断しやすいこともありますわ」
物は試しだ。朱鷺は八卦術を発動して占った。
「ここからだと、東の方にいるようです。それと、水には気をつける事」
「ありがとう、ラナたちに知らせますわ」
*
「美緒、もうあの人には会わないって言ってたわよね?」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は気持ちのこもったような表情で、訴え掛けるようにヒロインの肩を揺らす。
去り際に渡されたメモを、姉気分のが見つけてしまい、問い詰めているところだ。
「けれどさゆみ、悪い人ではないのですわよ」
「嫌なことはしなかっただろうけど、あなたには寂しい思いをさせたんだから酷い人だよ」
さゆみの役は美緒の近所に住まい、幼い頃から慕われていた姉気分役だ。
「そ、そうですよ。他に良い、人が見つかります……し」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はさゆみの友人役だ。観客もいないのにガッチガチなセリフの物言いと、体の動きもロボットのようになってしまう。
「そこまで固まらなくても大丈夫ですわよ」
ラズィーヤは可笑しそうに笑いながら、アデリーヌの背中を持っていた扇子で軽く突く。
「で、でも」
「背筋を伸ばして。アデリーヌさんも陰ながら支える役でしょう?」
「ゆっくりと深呼吸して。確か、そなたはラズィーヤに一言言い捨ててから美緒を助け出すシーンがありましたね」
葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)は「落ち着いてください」とゆったりとした口調でアデリーヌに話しかける。
ラズィーヤはキロスの知り合いで代々続く古い家系。高飛車なキャラという設定になっていた。
「アデリーヌさんと同じでわたくしも普段と違う性格で戸惑いましたけれど、他の世界の人と思えばスッと台詞が出てきますわ」
「そうそう、あったよね。部屋で練習してた時はイケる! って思ったもの」
さゆみはさりげなく、個人練習中の話を持ち出した。
さゆみと台本の読み練習をしていたときは役になりきれていたらしい。パートナーと二人きりならまだしも、見られて試されていると思うと緊張してしまうようだ。
「わ、わかりました。やってみます」
房姫とラズィーヤのアドバイスもあり、練習は順調に進む。まだ動きは硬いけれど。
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