リアクション
「なんで房姫さんがヒロインじゃねぇんだよ……!」
「主役こそあの人の物なのに」
稽古場で縄でぐるぐる巻きにされている犯人グループたちの猿轡が外された。房姫のファンのようだ。
「わたしはそんな形で主役を取っても、きっと辞退していましたよ。これは舞台への妨害行為……。だからわたしへの妨害にも当たります」
房姫は犯人グループの男たちに歩み寄ると、静かにそう言った。
犯人グループたちはぐっと唾を飲み込み、何も言い返せないでいる。
主役をやりたい。そう言ったのは嘘ではないけど、他の候補者を貶めてまで、自分以外の力でヒロインになれたとしても意味がない。
「房姫様、何を浮かない顔をしているのです。衣装を着替えたら宴ですわよ」
美緒は衣装を着替えないままでいる房姫を呼びに来た。
舞台は成功し、これから打ち上げの宴があるのに悲しそうな顔をしているのは何事かと言いたいのだろう。
「ごめんなさい、わたしのせいで大変なことに……」
「なかなかあなたと直接連絡が取れなくて心配はしましたわ。あの人たちが知らぬ間にしてしまった事、でしょう。気になさらなくてもいいのですわ」
房姫が直接止めに行こうとしても、開演の近い練習は抜けられないし房姫の通信機だけ壊れたような電波妨害で動けずにいた。
「早く事をまるくおさめるのに、わたくしの役を譲る、という手もありましたけれどそれは房姫様を傷つけてしまうと思って……。ちゃんとお話できたらよかったですわね」
「美緒さん、その通りです。先に言われてしまいましたね」
本当のところヒロインの座を奪いたいとは房姫は一切口にしていない。
ヒロイン候補に選ばれただけ、その可能性があるというだけでも嬉しかったものだ。
ただ主役をやりたかったな、という小さなぼやきを、ファンの男たちが聞いて勝手に暴走してしまった。
つい本音が表情や口に出てしまったのだろう。
「ちょっとその気持ちわかるなぁ。結果的に美緒がハマり役だったから、私は逆の役をやったりしたんだけどね」
と、香菜。
「良い役者に変なファンが付くのは人気の証拠でしてよ」
と、ラズィーヤたちがフォローを入れる。それもあって、稽古場の皆も納得したようだ。
申し訳なさそうにまた謝ろうとする房姫を、エンヘドゥが遮断する。
「反省会はこれでおしまいにしますわ。少なくともこの演劇に関わった人に犯人は誰にもいなかった。そして、今日まで頑張ってくれた皆にお礼を言いますわ。また別のお話を考えましょう」
少ししんみりとした空気から、宴へと明るい空気に変わっていった。
マスターを務めさせて頂きました、かむろ焔です。
皆様シナリオに参加くださりありがとうございます!
当シナリオを楽しんで頂けたら幸いです。