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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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第4章 1時間目:実技タイム Story1

「新しい魔道具については以上になりますぅ!手持ちの魔道具を試すか〜、アイデア術の訓練をしたいという人いますかぁ?ただし、アイデア術はすでに成功している術のみでお願いしますねぇ」
「すでにある術の中から選ぶのね」
 セレンフィリティはどの術にしようか腕組をして悩む。
「考えた相手のチームに混ざるにしても、術を成功させることが条件よ。すでに成功例があるといっても、魔道具が足りなきゃ不発だわ」
「やっぱそうなるの?うーん…、今回は厳しそうね」
 何人か2時間目に流れる関係で、必要なメンバーが足りなさそうだ。
「ねぇセレン、試してみるだけでもいいじゃない?どういう条件で、どんな感じかくらいは学べると思うの」
「残念だけどただ諦めるより、ちゃんと理解しておく必要もあるわね!試すにしても宝石を使ったやつがいいわ」
「よければ、私たちと組まないか?」
「えぇ。お願いするわ、樹」
 メンバーが必要なら協力しようと樹の申し出に、セレンフィリティは即答した。
「すでに完成されている術の練習ということだが。どれにするか決めているか?」
「今回は感覚を掴んでおくくらいでいいから。涼介たちが授業で使ったやつはどうかしら。5人陣形じゃないけど、まぁただの試しだし」
「それって強化前のエアロソウルが必要なのよね?」
「ん?そうみたいね、セレアナ。とりあえずこのメンバーならそれ以外で、誰か該当アイテムを持ってないって感じはないわね」
 エアロソウルがないから術を成功させることは出来ないが、誰かが見ているだけにならなそうだからと決める。
「む…、今日はアークソウルを持っていないのだが」
「あれっ、そうだったの?」
「止むを得まい。いずれは私もアイデア術を完成させたいからな。そのためにもじっくりと見させてもらおうか」
「ごめんね、樹。じゃあ…アイデア術のイメージを掴んでおきたいから、試させてもらうわね」
「構わないよ。メンバーを集められれば次に活かせるはずだ」
「ありがとう」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)に礼を言うとセレンフィリティは、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)たちと共に教壇の前へ行く。
「背を向けて円状に並ぶの。ホントは術の光をつなぐと五芒星になるみたいだけど…。こんな感じでどうかしら」
 ノートに並び順を書いて樹たちに見せる。
「で、アタシは何すればいいわけ?」
 1人だけどうすればよいかまったく分からず、ヴェルディーはセシリアに視線を向ける。
「えっとね、ヴェルレクが持ってる魔道具を使って貰いたいのよ。わたしは、こっちを試しに使うから…ね!」
 セシリアはペンダントを見せると、彼の荷物に忍ばせておいたスペルブックを取り出して渡す。
「はぁ?この本使えばいいのね…ってか、魔道書が魔道書使うってナニよ」
「それは祓魔術を使うためだから、そういう感じとは違うと思うわ。ヴェルレクみたいに、人らしくなる要素はないんじゃ?」
「どんな境界線よそれ」
「ま、それよりも。効果のこと覚えた?」
「この哀切の章の効果って、形状は限定されるのかしら?形状が限定されないのであれば、波とか光の壁とかに変形させることが可能かもしれないわねぇ…」
 教師たちがその辺のことは今回何も言ってないため、初めて参加したヴェルディーはセシリアに聞く。
「壁のイメージはタイチが使ってたから問題ないけど。章だけでずっと効力を保つのはまだ厳しいと思うわ。あぁそれと、畏怖どころか恐怖を与える形状はよくないわ。詠唱する時に章と全く関係ないこと唱えると不発よ、あんたをオヤツにしてやろうかとかがいけないの」
「わぁかったわよ、チンクシャ!」
 長々と先輩的に説明をされ、若干ムッときてしまう。
「ていうかアンタ、ペンダント使いのくせになんで詳しいのよ」
「だってヴェルレクよりも前に参加してるし、タイチたちの使い方見ててこんな感じかなー?みたいに覚えたのよ」
「チンクシャのくせに生意気ね。アンタのは知識じゃないの」
「失礼ね、あるとないじゃ全然違うわよ」
「そこまでにしておけ!」
 アイデア術のイメージ練習が始められん!と樹が怒鳴った。
「う…、はーいタイチのお母さん」
「怒鳴らなくたっていいじゃないのよ、もうっ」
「えっと、ポジションはこの辺でお願いね。詠唱はそれに合わせる感じで。詠唱したら隣の人の魔道具に効力をそそぐイメージでね。詠唱が遅れると最初からやり直しよ」
「わたしはあなたの次に唱えればいいの?」
「えぇ。じゃあ始めるわよ。(ふぅー…集中しなきゃ!)」
 セレンフィリティはアークソウルの輝きをセシリアの宝石に送る。
「(私の力をヴェルレクへ…)」
「我、罪あるものとして嘆き、呪われたる者を罰し、涙の日なるかな」
 ヴェルディーはセシリアたちの探知の力を哀切の章に取り込み、その効力を緒方 太壱(おがた・たいち)の章に送り込む。
 彼から受け取った術の力を、今度は章へ送ってつなげていく。
「(つないできた力をミアキスくんに)」
「(…と、これでホーリーソウルを持っているに送らなきゃいけないけど。いないからここで終ね)」
 宝石が足りず背中合わせの状態で足元からつづく光が消えてしまった。
「ナニよ、これで終わり?」
「他にホーリーソウルと強化前のエアロソウルを使える人がいないからよ。相手の魔道具に力を送り合ったり、使い魔に魔道具の力をそそいだりすると成功することがあるわ」
「例えば宝石同士とかだけじゃ、それそのものの効力しか発揮しないわね。ただし、魔道具の効力からかけはなれたことは出来ないの」
 セレアナの説明にセレンフィリティが言葉をつなげる。
「ふぅ〜ん…。効力を合わせていくってことなのね」
「成功はしなかったけど。なんとなく手法とかはわかったわね!」
「何やらアキラの章に、文字が勝手に書かれていったようだが、もう消えてしまっているな」
 これも術の効力なのだろうか?と樹は首を捻る。
「発動中は自動的に書き込まれていくのよ。効果がなくなったら消えちゃうけどね」
「なんとなくだが、間近で見ていて感覚は掴めたな」
 次に活かそうと章たちが行ったアイデア術を覚えておくことにした。
「私のエレメンタルケイジに入れた宝石の力を…、ああゆうふうに…役立てることが可能なのですね…」
 “あの子”が表に現れた時のことを考え、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は他の人と離れた席で見学をしている。
「―…使えれば、……ですけど」
 仲間と協力し合える日がいつだろうか…と、首から下げたペンダントに触れる。
 それもこれも裏の人格の影響で魔道具を使えないからだ。
 免許を紛失してしまい探しているパートナーのためにも、知識だけは身につけてかなければ…。
「今の私は…、あの子のことすら理解していないのですから…。ただ……、見て学ぶことしか出来ないのですが。きちんと理解…したいですね」
 だが、それを恨むでもなく逆に、気にかけている状態だった。
 最近“あの子”が表に現れていないからだ。
「そういえば…今日も“あの子”が出てこないですね…。臨海合宿あたりから…でしょうか?…まぁ…当時の記憶がさっぱりありませんが…」
 レイナはエリドゥの町に着いた後のことから自宅に帰るまでの記憶がない。
 それものそのはず、裏側の存在である“あの子”が表に現れただけでなく、一切見せていないからだ。
「―…向き合って話さずに…、理解するのは難しいですが。なぜ……、表にも現れないのか…。考える必要もありそうですね…」
 貴重な時間を奪い、知識すら与えてくれなかった相手だが、何も語りかけようとしない“あの子”は今…何を考えているのだろうか。
 それとも現れらない原因でもあるのだろうか。
 どんなに心配しても、“あの子”は表のレイナに語りかけてくれなかった。



 グラルダとシィシャは合宿から帰還後も、安穏とした時間など無くハイリヒ・バイベルの章を強化するべく、とある都に赴いたのだった。
 強化した章をさっそく、今日の授業で試そうと教団の前へ向かった。
「扱い方を理解しましたか?」
「えぇ。とは言っても、今の段階では“知識として理解した”だけに過ぎないわ」
「と…申しますと?」
「章の力を完全に引き出すことは不可能だろうし、現状どれくらいの力が出せるのかの確認ね」
 この授業で新たに知識を吸収したグラルダは顔を輝かせている。
 彼女にとって、この時間こそが何より充実しているのだ。
 魔女であるシィシャのほうは、このような魔術は未知の分野だったが理解が早い。
 余分なことを考えず、グラルダの教えと周囲の者たちの行動を観察出来た結果でもある。
 これくらいは会得出来るだろうとパートナーのグラルダは予測していた。
 予測外なのはすでに、教えることがなくなってしまったこと。
 ―…が、まったく使い物にならなかったら、それではそれで問題だ。
 計算が繰りあったのだと考えれば、嬉しい誤算なかもしれない。
「シィシャ。いくつか教える手順を考えていたけど、もうアンタにアタシが教えることは何もなさそうね」
「そもそも、私と貴女を同じ尺度で比べることが間違いです」
 用意されていた命令をなくしたグラルダに、シィシャは無表情で自慢だか皮肉だか分からない言葉を投げる。
 それでも力量の差がかなりあるのだが、あえてそれは言わないでおいた。
「玉ちゃん、私たちも練習しよう」
「何故我がそんなことを…。だから月夜、付き合うから、その悲しそうな顔を止めろ」
 しょんぼりした表情で見つめられ、あっさり負けてしまう。
「オヤブン、練習してくるね!」
「あぁ、いってらっしゃい」
 一輝は嬉しそうに教壇の前へ向かうコレットに片手を振る。
「今日は章を使う人だけ?」
 集合ポイントに宝石や使い魔を扱う者がおらず、コレットは不思議そうに首を傾げる。
「2時間目の授業の関係でそうみたいね」
「協力してもらう魔性さんには、可視化してもらいますから大丈夫ですよぉ〜♪」
「そうなんだ?じゃあ、今回は説得とかはしなくていいのね」
 こんなこともあろうかとエリザベートがプランを考えてくれていたようだ。
「先生!実戦だと複数の魔性を相手にしなきゃいけないし、もっと強力な相手を祓わなきゃいけないことも思うの。だから、複数の強力な魔性と練習させてもらえないかな」
「―…ん〜。それだと怪我しない保障は出来ませんねぇ。それでもいいですかぁ?」
 強い相手を祓ってみたいという月夜の頼みに、少し悩んだが無傷じゃ済まないかもしれないと告げる。
「え?う、うん…」
 ちょっとだけ不安そうに返事をすると校長は、教室から出て行った。
 しばらく待機していると、小さな少年を連れて戻ってきた。
 外見は子供だが人ではなく魔性なのだろう。
「下級に分類される子ですがぁ、魔法を使ってくると高確率で命中させてくるので〜、気をつけてくださいねぇ。魔法は風系を全部使ってきますぅ」
「エリザベート。何かに、憑いたほうが、いい?」
「はい♪」
「わかった、じゃあ…適当に、これ」
 目にかかる緑色の前髪を手で退け、キャンディーボックスに憑依する。
 魔性はそれを変質化させ人型になる。
「それではぁ、始めてくださぁ〜い♪」
 生徒たちが前列を空けたのを確認すると、実技開始の合図を告げる。
「ぼく、たち。あまり、手加減、とか。しなくて、いいんだ、よね?」
 まんまるなキャンディーをトゲトゲキャンディーに変質させ、風術で操り月夜たちを襲わせる。
「あれじゃあ怪我っていうか刺さるじゃないか!」
 刀真は鞘から白の剣を抜き、術者たちに襲いかかる凶器とかした飴を粉々に断ち斬る。
「増えた、ね。あはっ」
 風の使い手による暴風で礫となった飴を巻き込んで吹き飛ばす。
「(くっ、数が多すぎる!)」
 避けようにも、後ろには月夜と玉藻がいる。
 斬りはらい切れなかった礫が、両足や首から上の部分を掠めていく。
「ほんの、ちょっと、でも。たくさん、ぶつかると、痛い、でしょ?くすくすっ」
「しかも、それだけ…じゃ、ない、よ」
「なっ…闇系の魔法ダメージか。玉藻、月夜…皆、大丈夫か?」
「月夜は我が守ったが。とはいえ、無傷というわけにはいかなかったが」
「死の風か。なるほど風といえば、それも風に分類されるわけね」
 風の使い手の術で巻き込んだ飴の礫ばかりに集中させて、そのすぐ2撃目に放ったのだとグラルダが分析する。
「シィシャ、この程度で傷つこうとも詠唱を止めるな。避けるべきかどうか、アタシに聞くな」
「はい。私自身の判断で、攻撃を受けても続けるか…ですね」
 深手を負わない程度かどうか、自分で判断しろという命令に頷く。
「これはもう、1体ずつ確実にやらないとやばいな。玉藻、俺がひきつけている相手を狙ってくれ。グラルダもそれで頼む」
「アンタが術者を守るというのなら、アタシたちの役割は祓魔術を行使し、速やかに祓うこと。ただし、アンタを気遣っている暇を与えるほど甘い相手じゃない。そのつもりでいなさい」
「ありがとう」
 グラルダの口の利き方は悪いが、想定以上のダメージをくらわないための彼女なりの最善策だ。
「我は手当は出来ぬが、褒美にそれ以外のケアをしてやろう。無事に実技を終えてからの話だがな」
「え…!?」
「もうっ。刀真、集中して!」
「あ、すみません」
 “褒美にそれ以外のケア”という言葉に気を取られ、玉藻のほうを見ようとした刀真は月夜に怒られてしまう。
「(あたしは祓うよりも、接近させないようにしたほうがいいね)」
 本来、哀切の章は祓魔術として行使するものだが、魔性から仲間を守る手段としても使えるだろう。
 チームで戦うのだから、誰かがこういう役割に回ることも必要なはずだ。
「殴り斬って、も、いいんだ、よね?」
 キャンディーをいくつも融合させ、ワンド状に変質化した武器で襲う。
 ダメージを与えたことに気をよくした魔性が接近戦に持ち込もうとする。
「(光を広げて刀真の周りを包むように…)」
 コレットはその進行を許さず、刀真を光の中に包み込む。
「(攻撃的な感じじゃなくって、退いてもらうイメージがいいよね)」
 彼を包んでいた光を霧状に散らし、拡散させると魔性たちは彼から慌てて離れる。
 詠唱を終えた玉藻は隙を見せた相手に酸の雨を降らせ、続け様にグラルダが強化した裁きの章で降らせる。
「む、あまり効果があるようには見えぬが」
「機械に憑依するような相手じゃないようね」
 それ以外の者の魔法防御力を減少させるためには、さらに己を高めてより力を引き出す必要がありそうだ。
「とはいえ、少しくらいは魔法のガードが落ちたはず。シィシャ、器から祓ってみせなさい」
 そうグラルダに命令されるだろうと、想定していたシィシャはすでに哀切の章を唱え始めていた。
 キャンディーボックスから祓うべく、刀真に襲いかかる魔性を彼ごと光の波ごと飲み込む。
「なるほど…。やはり、邪心のない人を巻き込んだとしても、傷つけることはありませんね」
「(でも、器は変質化したまま。これが生物だったら、精神がどんどん怪我されていく…)」
 焦る気持ちを抑え、月夜は彼女と同じく光の波を器に侵食させる。
 憑依する力を失った魔性は器から離れ、キャンディーボックスは元の形に戻り、床に転がり落ちる。
「ちぇ、だったら、魔法で…。あ、れ?」
「―…私が祓えなかった際に、章の効力が発動したようです」
 まだ憑依している間に、SPと体力を消耗させたのだった。
 何度か魔法を使ったせいで、シィシャの哀切の章の効力で残りのSPを失い、術を放つ余力がなくなってしまったようだ。
「私も使えるかな?」
「はい…、強化した哀切の章を記したスペルブックがあれば…。ですが、これは必ず発動するわけではありません」
「へぇー、そうなのね」
「月夜、落ち着いている暇はないぞ」
 祓えていない魔性がまだ残っていると玉藻が告げる。
「そうだったね、玉ちゃん。コレット、もう1度刀真のガードをお願い」
 魔性たちが自分たちを倒すために、まず刀真を片付けようと判断した様子に、月夜は彼を守ってほしいとコレットに頼む。
「分かった!」
 風の魔法から守るのは無理でも、接近や術を放つのをとめることに努めようと頷く。
 コレットは刀真を守った時と同じ手段で試してみる。
「(標的を俺1人に絞ってきたかっ)」
 避けようとしても相手が的確に魔法を放ってくるため、逃れようとすればするだけ余計に体力を消耗していく。
 もはや回避は不可能に近いかと諦め、身体をタービュランスに貫かれながら鞘に収めた白の剣で、人型となった器の腹を突く。
 床に突っ伏す者を見た魔性たちは、キャンディーワンドで刀真に殴りかかる。
 刀真に接近したタイミングを見計らい、コレットは清き光で彼を包む込んで、それを霧状に散らして退かせる。
 その怯んだ一瞬の隙をグラルダと玉藻は見逃さず、酸の雨で魔法防御力を削ぐ。
 シィシャが祓いきれなかった者を月夜が祓い、憑依する力や抵抗する余力を失わせた。