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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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第6章 2時間目:試作品作りタイム Story1

「次は魔道具の試作品作りー…。楽しみだね、スーちゃん」
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)はニュンフェグラールで呼び出したスーを膝に乗せる。
「がんばってねーおりりん」
「私としては、クローリスの力に近い物の方が作りやすいかも」
「わたくし、ちょうど相応しいものを考えてきましたの。協力してくださると嬉しいですわ」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を連れたエリシアが終夏の隣に座る。
「へぇー、どんなのかな?」
「それは…っと、授業が始まったようですから、後ほどということで」
 エリシアはベルの音を聞き、ひとまず教師の話を聞こうと黙る。
「2時間目の授業を始めますぅ〜!」
「試作品作りに必要な道具は、教壇に置いてあるから各自取りにきてね」
「それでは、試作品作りを始めてくださぁ〜い♪」
 エリザベートの声に、生徒たちは教壇の前へ集まる。
「おねーちゃん、かわいいー鈴とかもあるよ!」
「適当に持っていくだけでは適応するか、分かりませんわよノーン。まずは聞いてみないといけませんわ。…ちょっと聞きたいのだけど、これは何に使うもの?」
 生徒たちに機材を貸し出すため、教壇の傍に待機しているエリザベートに声をかける。
「その鈴は、魔の力を吸収する性質がありますぅ」
「ふむ。五月葉 終夏のところへ持っていてみましょう」
 何かに役立つやもしれないと思い、鈴を終夏のところへ持っていく。
 鈴について説明すると、今日の授業を受ける前に考えておいたことを告げる。
「魔性をリラックスさせる効果のある“香り”を発するアイテムを作りたいんですの。リラックスさせることでコミュニケーションが容易になって、悪事をやめるよう交渉をしやすくなるかもしれませんわ」
「あっ!おねーちゃん、アイデアを出すとわたしたちは提案するだけってことになるんじゃなかった?」
「―…は、わたくしとしたことが…」
「作る者と考える者は別…ということでしたわね。私も提案させてもらいたいのですが」
 アイデアはあるが、作成は別の者。
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は終夏に作ってもらおうと声をかけた。
「この時間内で作れるのは1つだけなんだよね。どっちか決めさせてもらってもいい?」
「えぇ、構いませんわ。使い魔に属性を、追加で付与させる魔道具はどうでしょう。既存の使い魔に、攻撃属性を追加付与させるものがよいですわ。形状としては、使い魔と同時に装備出来る様に指輪などがよいかと」
「―……うーん…。ごめんね、今回は人を守ったりするものを作ってみたいんだ」
「そうでしたか。考え方は人それぞれですから、仕方ありませんね」
 作ってみたいものの性質が異なるならば、退くべきかと判断する。
「ねー、終夏さん。作ってもらえないかな?」
「こういうのがいいなーって思ってただけで。特に考えてきたわけじゃないからいいよ」
「ありがとう!ハンドベルみたいなのがかわいーかも」
「スーちゃんにも聞いてみるね。…魔性をリラックスさせるような香りって作れるのかな?」
 ノーンが持ってきたおやつを物珍しそうにじっと見つめてるスーに言う。
「ん…?えーっとねー。ひつよーなものがあれば、できるかもー。だけどー、かくじつにってことはむりかもー」
 相手の力が強いほど効果は期待出来ないというふうに説明する。
「そっか。必要そうなものがあったら教えてくれる?」
「うん、いいよー!」
 ぴょんとスーが終夏の背中に飛び乗る。
 教壇の前へ行き、作成に必要な機材を聞く。
「あのねー。アタシたちのかおりをもとにしなきゃいけないからー。このぎんいろのやつとかがあるといいよー」
「何かの金属みたいだね」
 コンと叩いてみると涼やかな音が響いた。
「溶かして使わないといけないかも。うーん…これと、形を作るものを持っていこう」
 機材を選んだ終夏はエリシアたちが待機している席へ戻る。
「それはある金属を溶かすために使っていた炉ですわね。そのつまみの針を、火の印へ回して力を込めると溶かせるはずですわ」
「取っ手を回すと出来るよ」
「この中に入れてからだよね」
 蓋を開けて銀色の金属を入れ、エリシアとノーンが教えた通りに試してみる。
「火の魔法かー…」
「ただ溶かすだけというよりも、スーに頼んでみては?」
「そうだね。スーちゃん、お手伝いしてくれるかな」
「アタシの花びらを入れれば、うまくまざってとけるかもー」
 終夏のために白い花を茎に咲かせる。
 スーから花を受け取ると蓋を開け、炉の中に入れてみる。
「蓋をもう1度閉めてっと…。で、この取っ手を回すんだったよね。(この棒に溶かした金属をつけて…形を作ってみよう)」
 ガラス細工を作る用量で真ん中の空洞部分に、ふぅ〜〜!と息を吐く。
「なんか不思議だね。ノーンさんが言ってくれた形をイメージしたら、そんな感じになったよ!」
「溶かした金属を、考えた形にしてくれる道具なんだね?」
「そうかも。スーちゃんの花を混ぜたからかな?思ったより熱くないや。持ってきてもらった鈴をつけてみようっと」
 白い花の形をしたハンドベルに、魔の力を吸収する鈴をつける。
「完成したのですか?なんだかとても可愛らしいですわ」
「うーん、どうかな。既存の魔道具とは違うから試してみなきゃね、オメガさん。(鳴らしても大丈夫かな…?)」
 終夏がベルを指で撫でてみるとかちかちに固まっていた。
 試しに鳴らすと涼やかな音と共に、スーの花の香りが鈴に吸収される。
 もう1度鳴らしてみると、心がリラックスするような甘い香りが花をくすぐる。
「スーちゃんの香りを元にしたからかな?」
「アタシじゃなくっても、クローリスならたぶんだれでもだいじょーぶ。でもー、アタシのちからを、それにてきごーさせたからねー、クローリスいがいのかおりとかきゅーしゅーできないよ」
「扱えるのはクローリスを呼び出せる人だけってことだね。今回はごめんね、綾瀬さん」
「いえ、気にしてませんわ。今日の授業で思いついたアイデアを次に活かすためにも、ノートに書いておきましょう」
 作ってもらえるかどうかの点も踏まえて、アイデアをノートに書き残しておいた。
「―…陽太からメールですわ」
「何々?」
「毎度毎度、オアツイこと」
 のろけ話にしか思えない御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のメールに、エリシアは嘆息する。

 -魔道具、無事に完成しましたか?-

 もう、2時間目の授業だと思いますが。
 夕飯をちゃんととってくださいね。

 こちらは、妻が手巻き寿司を作ってくれました。
 まだ、魚の切り身までしか魚は切れませんが。
 ゆくゆくはさばけるようになりたいと言っています。
 わりと力がいりそうなので、夫としてはあまり無理しないでほしいですけど…。
 美味しいものを食べてもらいたいから、と言う事を聞いてくれません。
 まったく困ったものですね。

 では、またメールします。

「おにーちゃん、手巻き寿司食べてるんだね。いいな、美味しそう」
「ふぅ…。のろけのおかげで満腹ですわ」
 ため息をつきながらも、仲良く暮らしている光景を思い浮かべる。



 新たな宝石やそれに関わる魔道具を考えるべく、アイデアを述べようと生徒たちは1つのテーブルに集まる。
 テーブルの中央にはカットされたアップルパイが皿に盛られている。
「まずは皆を意見を聞いてから私のアイデアを言おうと思う。よいアイデアがあれば、そちらを優先するよ」
「わたくしがノートにまとめますわ、お父様」
 ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は何も書いていないページを開く。
「どうせ使うなら、派手に可愛いものがいいわね♪」
「地味すぎるのもあれだが、派手なのもどうかと思うけどな」
 カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)の期待を磁楠があっさりとへし折った。
「磁楠の言うと通りだ。密かに行動する場合、目立つものは好ましくないだろ。白の衝撃も常に使うわけじゃなく、状況に応じて使うものだしな」
「2人して何よぉ!いいじゃないの、言うだけはタダなんだし!」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)にまで呆れ顔をされたカティヤが文句を言う。
「こらっ、言い合いだけで時間切れになってしまうのじゃ!」
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)に怒られた3人は黙ってしまった。
「と、とにかく。順番にアイデア出していこう?…ミリィちゃん、最初は私からでいいかな」
「はい、聞かせてください」
「エレメンタルリングを付けると実体のない者に触れることが出来るようになるけど…。この効果を、普通の武器に付加する魔道具…例えば腕輪を作って出来ないかな?」
「どうでしょう…。…お父様はどう思います?」
「畏怖以上のもを与えそうなものは厳しいな」
「リオンが哀切の章で光を剣っぽくしてみたら、そんな反応だったかも」
「あー…そうだったの」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)たちが学んだことによると、リングの効果を普通の武器に付与するのは厳しいらしい。
「人だって、斬られるようなものとかは怖いと思うよ」
「もっと限定的なほうがよさそうね。じゃあ…、縄とか鎖とかならどう?もちろん…、恐怖心を与えそうな、トゲとかついてるのは除外で。それで、拘束したり出来ないかなーっと…」
 考えてきたアイデアを遠野 歌菜(とおの・かな)がゆっくりと説明する。
「魔道具はエントラスト・ライトっていうブレスレットはどう?意味は光を託すってことね」
「候補としてメモしておきましたわ」
「大地と風の魔力の宝石を作った指輪ってのを考えてみたんやけど。効果はすでに成功してるアイデア術限定で、使えるってものや」
「どんな感じで使うんですか?」
「発動に必要な魔道具を装備していれば使えるんやけど。中級以下の人が使った場合は、コピーした術の劣化版を発動出来る感じやね。それと上級以上なら、劣化無しで」
「―…陣さん。術者のメンバーなら劣化なしでもよさそうですが。それ以外の方は難しい感じがしますわ。あと、術を見たことがない人や術者に聞いてない人はどうでしょう…」
「う〜ん、そこはさすがに限定しなきゃいかんか」
 いくらすでに成功した術だからといって、まったく知らずに発動するのは厳しいと告げられる。
「あ、これ。何度も使えるもんじゃないから、そこんとこよろしく」
「えぇ。使用者の負担も大きくなりそうですからね」
 ミリィは陣が考えた魔道具も候補に入れる。
「僕も考えてきたんだけど、見てもらえる?」
「ノートにまとめてきてくれたんですか」
 そこには大地の宝石による闇黒属性への抵抗を高める力、祓魔術の章の祓う力、酸の雨で低級魔性を溶かす力を組み合わせた、結界石について書かれている。
「お父様、どうでしょうか?」
「ふむ…これは宝石かな?」
「一応ね」
「祓ったりする強い力を与えるのは厳しいな」
「うん、そこまでは難しいかなって思ってる。だから、人を助けてもまた狙われちゃう可能性があるよね?憑かれたりしにくくなる宝石があればって考えたんだよ。僕たちも祓うことに集中したりしやすくなると思うんだよね」
「なるほどな。ミリィ、メモ出来たかな?」
「はい!」
 北都からもらったアイデアを、きちんと聞き逃さず書き記す。
「(わたくしも提案したいのにっ)」
 こういう授業を待っていたのに、真宵はぎりぎりと悔しそうに歯ぎしりをする。
「真宵がアイデアを言ったら、テスタメントが作れなくなるから却下です。真面目にやってこなかった報いなのですっ!」
「なっ!?わたくしはいつだって真面目よっ」
「はー…」
 説得力感ゼロといった感じでテスタメントはエリドゥの海よりも深いため息をついた。
「何よ。ちゃんと見てから言ってよね」
「ふむ……。やはり却下します」
 えげつない効果ばかりが書かれたノートを閉じて真宵に返す。
「そんなの、真宵しか使いません。皆が使うものを考えるべきなのですよ?」
「くぅ〜〜…。言わせておけばぁああっ」
「い、痛いッ痛いです真宵っ!!」
 テスタメントはぶちキレた真宵に頭をぐりぐりされる。
 2人の喧嘩は他所に、話し合いは進んでいく。
「私が考えた魔道具は、時計型のものよ。時計の針を操作して、時間の加速量または減速量の設定をするの」
「エターナルソウルがあるので、効果が重複してますわ」
「宝石を使わず効力を使うのは無理でしょうから。ペンダントから力を供給する形になるわね」
 首を捻るミリィにフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は説明を続ける。
「強化したホーリーソウルもペンダントの中にある状態なら時の魔力で…。呪術による呪いを解く時に作成した魔道具を、被害者に装備させて被害者の時間を減速さたりなど…どうでしょうか?」
 フレデリカのアイデアにルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が付け加える。
「え、ルイ姉。それって…装備者じゃない人でも使えるの?」
「といいますか、魔力を込める人とそれをつける人は別でも可能ということですね」
「魔力いっても誰でもいいっていうわけにもいかないし。効果が切れたら宝石を使える人のところで、供給してもらう必要があるわ。呪いの解除なら、ルイ姉たちなら早く出来るでしょ?」
「確かに、フリッカの言うとおりですね」
 もっといざという場合を想定したものがよいのだろう。
 アイテムを考えるのは難しいが、人の意見も聞けたし学べることもたくさんあった。
「その魔道具で、時間が止められるように出来ないかな?」
「レスリー、それだと術者自身が術を解けなくなるかもしれないわ」
「あ、無理?むー残念。ん、これ美味しい!」
 スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)が効果を提案してみるが、フレデリカに即、却下されつつもアップルパイを頬張る。
「俺も思いついたアイデアがあるのだが…」
「ぜひ聞かせてください!」
「術者限定の宝石として、攻防一体型のものだ」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はノートをミリィのほうへ寄せる。
「実用化すれば、かなりよさそうですが。まずは試作品を作ってみなければいけませんわ」
「俺が作ってやろうか?」
「ベルクか…。あぁ、頼む」
 効果のイメージを描いたノートをベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)に渡した。
「…なぁ、なんかくっついてんだが?」
 開いてみるとアップルパイの食べこぼしにまみれている。
「そこのゴミ箱に食べこぼし捨ててこい!」
 ここまま渡すとかありえねぇっとベルクはノートを返す。
「他に、宝石に関するアイデアがなければ、作る担当を決めましょう」
「私は陣さんのほうを担当させてもらおうかな」
「あざーっす!」
「えっと私たちは…おやつを担当しますね♪」
 疲れた時の糖分を容易しようと、歌菜たちは別のテーブルへ向かう。
「―…あの、北都さん。その結界石は、私でも使えるものでしょうか?」
「たぶん光術を覚えてる必要があるかな。クラスを変えても使えるから、ネクロマンサーでも問題ないと思うよ」
「あ……では、私が作る担当しますね」
「うん、お願いするよ。あっちのテーブルで作ってみない?」
「ノートを貸してもらえますか…?必要な機材を持っていきます」
「見ないと分からないよね。はい」
 北都はノートをレイカに渡した。
「章の力が必要とあらば、テスタメントも手伝うのです!」
 試作品に自分の力が必要なず!と機材が置いてある教壇へ駆けていった。




「私がアイデアを出しちゃうと、ベアトリーチェに作ってもらえないのよね」
 でも新しい章は欲しい。
 どうすればよいか小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は悩んでしまう。
「ガイも提案するほうだしな」
「結和は何も提案しないの?」
「え…、えーっとー…。…いえっ。私は、章を作ってみたいのでー…。あ、あの…2人のアイデアを聞かせてもらってから…。そその、私が…選ばせてもらってもいいですか?」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はおどおどとしながら、2人のどちらかのアイデアを元に作ってみたいと告げる。
「あの、えっと…きっと、そういう…想いがきっと。魔道具や、祓魔術の力をより、引き出すんじゃないかなって…思いまして」
 そっと胸に下げた“デルディッヒシュトゥット”を握る。
 これは言ってみれば唯のお守りだけど…握るとあったかい。想いはきっと、物に宿るから。
 …それが魔道具なら、なおさら。
 おそらくどちらも強い想いで考えてくれたはず。
 だからこそ、慎重に選ばなければいけない。
「でしたら既存の章を読む前に読むと、効果が強化するような章を考えてみましょうか」
「んー…効果増大系は確かにねぇが…その分作成するのが難しそうだな…」
「修練あるのみですからな」
「あれだな、試作品にその効果がありゃいいけどな」
「その他の効果として中級クラス以上で範囲が伸びて、上級クラス以上では他の使い魔や宝石にも適用できるとかですかな」
「え、えーっと…。効果の強化とー……。…範囲を、広くする効果の章ですね」
 結和はガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)の説明を聞き、女の子らしい細く丁寧な字で書く。
「美羽さんは…?」
「光の帯が魔性に巻きついて、しばらく動けない状態にする効果よ」
「―……捕縛系の術ですかー…。ええっとー…そ、その。決めさせていただきますね。ああの…本当に、どちらも…、とてもよいアイデアでしたが…。ガイさんからもらったアイデアで、作ってみます…。ご、ごめんさい、美羽さん」
「んー……残念ね」
「また今度考えましょう、美羽さん」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はしょんぼりと座るパートナーの傍に座った。