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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 9

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第5章 1時間目:実技タイム Story2

「詠唱が終わるまで、誰かが注意を引きつけておいてもらうほうがいいみたいだね」
 実技を観察していたクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が言う。
「サポートしてくれる人とも組まなきゃかな。力の強い相手だとなおさらね」
「しかも目で見えないと厳しいからね。今回はエリザベート校長が魔性に可視化を頼んでいたし。そういえば呪いを使ってなかったな」
「たぶん、宝石を使う人がいなかったからだよ」
 ひょっとしたら校長が呪いを使わないように、事前に言っておいたのかもしれない。
「なるほどね」
 確かにそれもあるか、クリストファーは頷いた。
「魔性の攻撃を防いでくれる人に任せっきりするんじゃなく、パームラズくんがしっかりサポートしていたね」
「章を使う精神力の負担が減ると祓うだけじゃなくって、サポート側にも回りやすいのかな」
「その分、イメージで動かしやすくなるってことか…」
 一瞬の術じゃないから短時間ならそれも可能のだろうと考える。
「それだと唱えるタイミングも大事だよね。守りのバリアーを霧状にしたりする時とかさ」
「本来は俺たちが魔法から守ったりしなきゃいけないけど。いざという時は、そうやってサポートしてくれるとありがたいかな」
「うん。それと祓えなかった時、すぐにカバーし合うところもよかったね」
「仲間がいるからこそ可能なことかな」
 メンバーが少なすぎたら魔性に弄ばれてしまいそうだ。
「実技を見てて思ったんだけど。実戦の時みたいに一箇所で待機する場合、章や宝石を使える人にもいてもらう必要があるかも…」
「それか俺たちから動いたりして、臨機応変に対応するしかないな」
 救護エリアが襲われない保障はないし、応援要請に応じる必要もあるだろうと、クリストファーが言う。



「ちゃーんと器から祓うことが出来ましたねぇ♪魔性さんたちは自然回復するまで、教室に残っていてくださぁ〜い。では、皆さんは席に戻ってくださいねぇ」
 エリザベートがそう告げると、月夜たちは席へ戻っていった。
「刀真、…大丈夫?」
「うーん、魔法をくらいすぎてあちこち痛いな。飴の礫で掠ったところ…ちょっと血が出てるし」
 テーブルに固定しておいたデジタルビデカメラの映像をチェックしつつ、傷口をティッシュで拭く。
 補助を行ってくれる者がおらず、撮りながら守るのは厳しいと思い、録画ボタンを押してテーブルに置いてきたのだった。
「撮った映像を見てもらって、またアドバイスもらえるかな」
 月夜も画面を覗き、よくなかった点とか聞かせてほしいなーと言う。
「次の授業の関係で時間ないんじゃ?また今度だな」
「―…むー、それなら仕方ないね。ねぇ、おやつは持ってきてくれた?」
「そう思って作ってきたよ。授業の後じゃ、作る時間がないからな」
「チョコレートケーキ!?美味しそうだにゃ〜♪」
 おやつを黒色の双眸に映してキラキラと輝かせる。
「疲れた時の甘いものっていいよね。…でも喉が渇いちゃうな」
「我の分もあるのだろう?」
「はいはい、お茶ね、月夜は珈琲で玉藻は緑茶っと…」
 紙皿にケーキを盛り付け、パートナーたちの飲み物をコップに注ぐ。
「刀真、肩を揉んでくれ」
「……えっ、肩を揉め?はいはい分かりました」
「玉ちゃんだけずるい」
「仕方がないだろう?月夜と違って我は胸があるから肩が凝りやすいんだ」
「にゃっ!!?うぅ…」
 玉藻と自分の胸を改めて見比べると、切ない気持ちでいっぱいになりしょぼーんと俯く。
「刀真、今なら我の胸も着物の隙間から見放題だ、好きに見て良いぞ」
「な、何言ってるの玉ちゃん。刀真も何を見ようとしてるのっ」
「はっ!胸を見るとかこんな所でそんなことしません…言い方間違えました、スイマセン、マジカンベンシテクダサイって痛えっ!」
 月夜の往復ビンタをくらい、スパパァアーンッと刀真の頬が鳴り響いた。
「ああ人目が気になるか…なら2人っきりの時に我を好きにして良いぞ?いろいろと褒美をやると言ったからな」
 学校内、ましてや教室だから月夜が怒ったのかと、玉藻は2人きりになりやすい自宅などならよいかと言う。
「あのね、玉ちゃん。刀真もやることあるから…2人っきりで何するの!?」
「ふ、ふたり…きりでご褒美?」
「とうまのばか!」
「やめて、ホントッスミマセン、ユルシテ…痛えっ、痛えってば、やめ…ごふぉあっ!!?」
 今度は往復ビンタだけでは済まず、騒ぎ声に怒りを爆発させたエリザベートのチョークを額がヒットする。
「罰として私も肩揉んでっ」
「う、はい…。(もう、最近の俺の扱いが家政夫のようになってないか?いや、もっと酷くなっている気がする)」
 ご褒美も結局もらえないだろうし、もらおうものならキツイお仕置きをもらうことになる。
 女の子に使われてばかりの家政夫状態だ。
 味方になってくれそうな人はいないだろうし、他の男子は“触らぬ神に祟りなし”と見て見ぬふりしそうだ。
 もはや女の子の力、女子力には勝てないと思い、どんよりとへこむ。



「章の力を引き出すためには、もっと経験を積まなければならないわ…」
 実技の結果に満足いくはずもなく、グラルダは強化した章を眺めながら呟いた。
「―…それは、補助の行使や魔法を封じることがあるというものでしたか。今のグラルダでは、使えない能力ですけど…」
「強力な力ほど、より実力のある者でないと使えないのは当たり前。アタシ自身を高めていけばいいことよ」
 シィシャの言葉に今の段階で使えない力もあって当然だと言い放つ。
「騒いだところで身につくことは何も無い。そんな暇があるのなら、修練を積むことに費やすべきだわ。そうでしょう?」
「…えぇ、当然です」
 彼女のパートナーであるシィシャは、幼い頃からグラルダを知っている。
 まだ幼かった彼女の存在を表現する言葉は“無知”の2文字だけだった。
 そんなグラルダを手元に置き、彼女に生きる術と魔術を教えた。
 おそらく、知識であれば何でも良かったのだろう。
 魔女のシィシャにとっては与えやすい知識だったということもある。
 それが魔術であったのは、他に教えるべき事柄を持ち合わせていなかったからだ。
 彼女がイルミンスールへ編入すると言い出したのには流石に驚いた。
 シィシャは子を成したこともなく、これから作る予定もない。
 幼い頃からずっと見てきたためか、我が子を持つというのはこういう感覚なのだろうかとシィシャはふと考えた。
 きっと、子供が成長していくとはこういうものなのだろう。
「(グラルダが聞けば、さぞ憤慨することでしょう)」
 だからこそシィシャは絶対に、口にすることは出来ない。
 彼女は“趣味の悪い冗談だ”と言うに決まっている。
 しかし、そういう彼女の反応を見るのも悪くないと、シィシャは思った。
 シィシャが観測する世界は、大きく3つに分けられた。
 無機物と有機物、そしてグラルダである。
 コレットのほうは、席に戻ると一輝に労いの言葉をかけてもらっている。
「お疲れ様。コレット、かなり大変そうだったみたいだけどよく頑張ったな」
「んー。ちょっと厳しかったから、サポートを担当してみたよ」
「そうか…。章の術って強化してなくっても何度でも使えるんだな?」
「そうみたい。精神力の消耗量は減ったけど、形状を維持し続けて使ったりするのはまだ大変だね。使い方はその場の様子で考えたようかな」
 祓魔術として行使するものだし、状況を考えて使ったほうがいいかも…とコレットが言う。
「でもさ。普段使えるスキルと違って、ほとんど一瞬だけってことじゃないからな」
「うん、そこも覚えておかなきゃいけないポイントだね」
 術を使う能力も高めなければならないが、まだまだ知識として覚えることもたくさんある。



「他に実技を行ってみたい方はいませんかぁ〜?」
「はーい、はい!」
 エリザベートの声にクマラがビシッと手を挙げる。
「オイラも本の実技をやるから。オメガちゃん、見ててね」
「はい。実技、頑張ってくださいね」
「うん、オイラ頑張るっ」
「…クマラは相変わらず賑やかですね」
「元気が一番だよ、メシエ!」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)のセリフを褒め言葉として、ガッチリ受け取ったクマラは本を抱えて教壇へ走る。
「魔性さんに実技の相手を頼みますかぁ?」
「俺のほうは初めて使い魔を呼び出すから、相手はいないほうがいいな」
「えぇ〜…」
「ごめんな。席に戻ったらお菓子食べていいからさ」
「分かったー!!」
 おやつ♪おやつ♪とすっかりそっちへ意識がいってしまった。
「魔方陣はとりあえず紙に描いてっと…。(それで心を沈めて、木の聖杯に…祈りの言葉を捧げるんだったよな)」
 エースは実戦で仲間が行っていた手順を思い出しつつ、魔方陣を描いた紙を床に置きニュンフェグラールを掲げる。
 祈りを捧げると何もない虚空から、木の聖杯へ涙がぽたりと落ちる。
 指を噛み自分の血1滴と涙を混ぜ、魔方陣を描いた紙へ落とす。
 すると、陣の中心から緑色の茎が…にゅーっと伸び、大きなつぼみをつける。
 つぼみは人の形へと変わっていき、17歳くらいの女の子の姿になった。
 彼女は茎を椅子状にくねらせて座り、じっとエースを見つめる。
「初めまして。えっと…」
「言わなくても分かってるからいい。血の情報で、分かっちゃってるからね」
 名前を言おうとするエースの言葉を遮り、全て知ってるわという態度を取る。
「―…あ、そうか」
「あなたがわたしのマイマスターなのね」
 軽くウェーブがかかったふんわりとしたピンク色の髪を、指にくるくると巻きつけながら言う。
「ふぅ〜ん…まぁ合格ってことにしてあげる」
 呼び出された使い魔は本来、主に対して忠実なはずだが…。
 主であるはずのエースに対して、かなり上から目線で評価したではないか。
 ちょっと大きな空色の瞳に彼を映し、床に下りると肩の下あたりまで伸びた髪がふわりと揺れた。
 背はクマラよりも高い158cmほどだった。
「(あ…なんか、どこかで…)」
 最近、エリドゥで見たような光景だなぁと、クリスティーはクリストファーを見る。
「いいわ、わたしが気に入ったから手助けしてあげる。その変わり、わたしを一番大事にしてよね?」
 やっと笑顔を見せたかと思うと、クローリスはエースの腕に抱きつく。
「アーリアって呼んでもいいかな?」
「マイマスターからつけてくれた名前なら歓迎よ」
「(人目をあまり気にしないのは彼女たち特有…?うーん、人と感覚が違う部分があるだろうし、仕方ないよね…)」
 考えてることが分かるなら、血の情報で察してくれると思いたいが、必ずそうしてくれるかどうか微妙だ。
「やっぱり違ったかも」
「―…何がかな?」
 クリストファーは自分のクローリスとの態度の差について言っているのだと気づいた。
「特に問題ないな、可愛いからね」
 ツンデレ少女でも何も問題ないと爽やかな笑顔で言い放つ。
 しかし、アーリアのほうはエースに対してべたべただ。
「マイマスター以外は助けてあげるの面倒かも。お願いを聞いてあげる度に、マイマスターの精神力が減っちゃうもの」
「でもね、それは仕方がないことなんだよ。他の人とも仲良くすることが大切だよ。皆のことも尊重してね。アーリアはいい子だから、ちゃんと出来るよね」
「えー…。マイマスターのお願いで手助けしてあげるならいいけど、他の人からのことは聞けないわ。わたしの力を使う権利を、他の人に頼むものイヤ」
 他人から助力を頼まれたり、権利を委ねることも却下よ!と女王様のようにツンとした態度で言う。
「あぁ、うん。そういうことはしないよ」
「わたしって可愛いから、皆に愛されちゃうかもなの。だから、委ねたりなんかしたらマイマスターに返したくなくなっちゃうわ」
「そ、それは困るな…」
「でしょ?だからね、わたしとの約束事をちゃんと守りなさいよ」
「分かった。ちゃんと約束守るよ」
 離れようとしないアーリアの髪を撫でてやる。
「アーリアの花の香りはどんな感じかな」
「すごく貴重なんだから、ちゃーんと堪能してよね」
 エースの頼みをすぐに聞き入れ、アーリアは花びらを舞い散らせて香りを広げる。
「とても上品な香りだね」
「当たり前でしょ。わたしの花の香りなのよ?」
 女王様な態度は変わらないが、エースに可愛らしい笑顔を向けた。
「(オイラも章の効力をオメガちゃんに見せるんだいっ)」
 スペルブックを開いたクマラは詠唱し、消しゴムをポイントに酸の雨を降らせる。
 オメガのほうをちらりと見ると、実技の様子を熱心にノートへ書き込んでいる。
「消しゴムの位置を変えながらやろうかにゃ♪へっ、あわ!?」
 床に置いた消しゴムを取りに行こうとした瞬間、突然走るスピードが速くなった。
「この宝石を使うと、本当に走る速度が速くなるんですね」
「いきなり使わないでよ、メシエ!!」
「適当な対象を探してたんですけど、よく動く相手がよいかなぁと思いましてね」
 元気に動き回るクマラならサンプル対象にしやすいかと試してみたようだ。



「次回の授業の予定ですがぁ、自習ということにしましたぁ〜。息抜きしても構いませんよぉ。そろそろ時間ですので〜、1時間目の授業は以上ですぅ!!」
「2時間目の授業を受ける人は、教室に残ってね」
「それでは、お疲れ様でしたぁ〜」
 エリザベートがそう言うと1時間目の授業終了を告げるベルが鳴った。
「帰るわよ、セシル」
「待ってパパーイからメールが来たの」

 -授業お疲れ様-

『…やっと終わりました、夕飯をお願いいたします。Alt』

「タイチも帰るのよね?」
「あー、親父が温泉行きたいとか言い出してさ。先に帰っていいぞ」
「そう?じゃ、お疲れ様」
 セシリアは片手をふりふりと振って教室から出た。