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【ですわ!】パラミタ内海に浮かぶ霧の古城

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第5章 最後の塔へ

 三つ目の塔の攻略に向かった生徒達。
 塔は左右二つの支柱から放たれる魔力によって、強固な結界が覆っていた。

「やはり私にこういった服は……」
 魔法少女衣装のフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、片手で胸元を隠し、恥ずかしそうにスカートの裾を掴む。
 露出が控えめとはいえ、普段着なれない可愛らしい服装にフレンディスはモジモジしていた。
 すると、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が肩を掴み、優しく微笑みかける。
「そんなことないさ。とても似合っていて可愛いよ。フレンディスはもっと自信を持つといい。そう思うだろう、グラキエス」
「ああ、似合ってるよ、フレンディス……」
 続けてグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はハニカミながら小さい声で「姉さん」と口にした。フレンディスがぱっと笑顔になる。
 今、彼女はベルテ一家の長女という形で行動中。こうやって家族団欒な雰囲気を味わっていると、暖かい気持ちになれた。
 すると、フレンディスの足元に、マスコットとしてレッサーパンダになったアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)がやってきた。
「そうだよ、おねーさまは可愛いんだからオシャレしないと♪ 最近の女の子はもっと大胆な服だって、普通に着れちゃうんだからっ」
「そ、そうなんですか!?」
「そうそう。流行なんだよ……ねっ、ポチちゃん★」
「ハッ、アリッサさんの言う通りです!」
 ギラリとしたアリッサの目に睨まれ、豆柴姿の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はビクッと身体を震わせ『お座り』していた。
「そうなんですか……」
 強引に押し切られ、納得するフレンディス。
 アリッサはそんなフレンディスを見上げながら――
『おねーさまには、もっとセクシーな下着をつけてもらいたいなぁ♪』
 なんて思っていたりした。
 そんな和やか雰囲気に、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の叫び声が響く。
「おーい! いいから早くこっちを手伝えっ!」
 フレンディス達が和気あいあいと談笑している間も、マスコットとして蝙蝠の姿になったベルクは火球を避けながら必死に反撃をしていた。
「す、すいません。マスター、すぐに手伝います」
 仲間達が談笑をやめて、戦闘に参加する。
 そんな中、アリッサがとても残念そうに舌打ちした。
「ちょろちょろ避けてないで、男だったら正面から受け止ればいいんだよ」
「んなことしたら、燃えちまうだろうが!」
「あ、その時は翼だけ千切って残してね。調合に使ってあげるから★」
 アリッサが黒い笑顔をベルクに向けていた。
 そんな時、グラキエスが思い出し、フレンディスに尋ねる。
「そうだ。あれ、やるんだったか?」
「あれ? ……ああ、あれですね」
「いいね。やろうか」
 意思疎通を行うと、ベルテハイトとグラキエスはフレンディスの両脇に立つ。
「我らは審判を下す者」
 グラキエスが敵を睨みつけ、後方で炎があがる。
「悪に制裁を」
 ベルテハイトが薔薇のショールを広げ、周囲に花びらが舞い散る。
「人々に救いの手を」
 フレンディスが高らかと忍刀を掲げた。
 そして――

「「「魔法少女ベルテ一家、参上!!」」」

 三人は息の合った名乗りをあげた。
「……」
 ベルクが呆然の見つめる中、三人は成功を喜び、次は配置を変えてみようかなどと話していた。
「俺が変なのか……?」
 頭を抱えたくなるベルク。仲間のテンションに乗り切れていない。
 一人取り残されたような感覚だった。
「全然いいんだけどよ。えっと、こういうのってなんて言うんだっけ……」
「疎外感じゃないですか?」
 ベルクがブツブツぼやいていると、横から源 鉄心(みなもと・てっしん)が答えてくれる。
 マスコットとして狼の姿になった鉄心は、攻撃を氷の壁で塞ぎつつ、軽やかな身のこなしで反撃を行っていた。
「いや、別に寂しいとか思ってないんだわ。でも、皆もうちょっと真剣にやってもいいと思ってただけなんだよ」
「そうですか? 俺からみればかなり真剣にやっているように見えますよ。真剣に楽しんで、真剣に戦って……」
 鉄心の向けた視線の先では、グラキエス達が襲いかかる狩人と魔法使い相手に善戦していた。
「こっちだ!」
 狩人達の頭上を飛び越えるグラキエスは、身体を捻りながら【しびれ粉】を撒き散らす。
 武器を取りこぼし、膝をつく狩人達。
「隙ありです」
 そこへ走り込んだフレンディスが、死角から討ち取っていく。
 すると、狩人ごとフレンディスを呑みこもうとした火球から、ベルテハイトが盾を手に守り抜く。
「あ、ありがとうございます!」
「兄として妹を守るのは当然のことだよ」
 ベルテハイトは盾に残った火の粉を振り払いながら、フレンディスに優しい笑みを向けていた。
 彼らの前に数をなして立ち塞がる敵。
 フレンディスは腰を低くして、忍刀を構える。
「ベルテ兄様、グラキエスさん、行きますよ!」
「いつでも」
「こっちも準備できてる」
 フレンディスの体から闘志があふれ出る。
「長女、フレンディス参ります!」
 フレンディスが分身を作って敵の集団に突撃する。
 素早い動きで翻弄しながら、高速の斬撃を叩きつけ、敵を空中に舞い上がらせる。
「兄さん!」
「任せたまえ」
 宙に舞った敵を風の力で一箇所にまとめると、ベルテハイトは忘却の槍で狙いを定める。
「一番上として、ここはビシッと決めなくてはね!」
 ベルテハイトは地面を蹴りつけると、その強烈な一撃で貫いた。
 さらに、崩れるように落下した敵をグラキエスの炎が覆い尽くす。
「こいつでトドメだ!」
 グラキエスが光輝くアクティースで放った一撃は、燃え盛る炎ごと中にいた敵達も切り裂いた。
 三人の連撃をくらった後には、誰一人立つことはできなかった。
「よし、うっ――」
「グラキエスあまり無理をするな」
 口元を抑えてふらつくグラキエスを、デフォルメされたぷちドラゴンのマスコットになったゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が必死に支えようとしていた。
 指の隙間から滴り落ちる血液。グラキエスは狂った魔力によって、常に身体が衰弱した状態になっているのだった。
「楽しむのもいいが、家族に心配させないことだ。それでは本末転倒になるぞ」
 ゴルガイスが諭すように説得する。
「この後、ピクニックだってあるのだろう? だったら体力は残しておいた方がいい」
 グラキエスはゴルガイスの言葉に暫し逡巡し、小さく頷いた。
「悪い! 少し下がらせてくれ!」
「はい。後は任せてください」
「これくらい私達だけでも余裕ですよ」
 フレンディスとベルテハイトの返事に、安心してグラキエスは後方で休ませてもらうことにした。
 そんな彼らの戦いっぷりを見て、鉄心は嘆息を漏らした。
「戦ってもらえるだけいいもんですよ。こっちなんて……」
「えいっ!」
 突如、背後から抱きつこうとしてきたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。それを鉄心は飛び上がって軽々と躱した。
 再び肩を落とす鉄心。
「これですからね」
「あー……ま、頑張れ」
 ベルクはうまい励ましの言葉が見つからなかった。
 鉄心は後方のティー・ティー(てぃー・てぃー)を振り返る。
「ちゃんと見ていろと言っただろ」
「だ、だってイコナちゃんがですね……」
 イコナを護ろうと、向かってきた狩人と対峙していたティー。
 どうにか拘束することに成功して一安心してみれば、イコナは鉄心を抱きしめようと駆け出していたのだ。
 怒られていると感じたティーは、若干涙目だった。
「まったく……」
 呆れかえる鉄心。
 その時――
「危ないっ!」
「きゃっ!?」
 ティーに首根っこを引っ張られたイコナの目の前に、狩人の矢が突き刺さる。
「ほら、危ないから下がりましょう」
「て、鉄心、助けて〜」
 ティーに引きずられながら、イコナが手を伸ばして助けを求めていた。
「……仕方ない。いくか」
 鉄心は弓を引いた狩人を睨みつけると、限定解除を発動した。
 体から湧き出た黒いオーラが全身を包み込む。中から獰猛な獣の唸り声が響き、黒い包みが大きくなる。
 そして、変身が完了して出てきたのは、刃物のような鋭い牙と爪を持った漆黒の狼。
「悪いが急いでるんでな」
 狼の口から鉄心の声が聞えてくる。
「うさ! うさうさ〜!」
 ティーが声援(?)を送ってくれる。
「もう駄目ですわ」
「?」
 イコナがうるうると涙を流しながら、地べたに仰向けになって祈りを捧げていた。
「まだ死にたくありませんわ。でも、やるならせめて一瞬で、あ、でもぐちゃぐちゃは……」
 わけわからないことを口走っている。
 鉄心は脅えるイコナに近づくと、服の端を咥え――
「うぎゃあ!? や、やっぱり食べないで!?」
「ティー頼んだぞ」
 ティーの方へと向かって投げつけた。
 叫び声は聞こえなかったことにして、鉄心は敵と向かい合う。
「ここを抜けると思うなよ!」
 狼となった鉄心は、敵の攻撃の間を抜けて懐に飛び込むと、その牙と爪で喰らいつく。
 突如出現した黒狼に敵は慌て、戦場がかき乱れる。
「ぼ、僕だって!」
 戦場を駆け回る狼の姿に、ポチの助も負けじと限定解除を行う。
 どことなく凛々しくなった気がする、小狼姿のポチの助。
「ご主人様、見ててください! ハイテク忍犬の僕が活躍してみせます!」
 ポチの助は自信満々でフレンディスに宣言する。
 すると、背後でアリッサが吹きだした。
「ぷっぷっ、周囲に機械なんて一つもないのに、ハイテク(笑)駄犬が活躍とかちゃんちゃら可笑しいよね♪」
「うぅ〜」
 周囲あるのは塔と支柱が二本。それらを囲む森くらいだ。
「それに比べてなんてお役立ちなんでしょう! さすがマジカルアーマーアリッサちゃん!」
 魔鎧であるアリッサは、マスコットキャラになってもフレンディスを護るために身体を張っていた。
 敵の攻撃がくるたびにぶつかっていくアリッサ。その頑丈さはレッサーパンダの見た目からは考えられない。
「そろそろ本気を出しちゃおうよ〜」
 そう言って、アリッサはレッサーパンダの尻尾と耳がついた、フレンディス顔負けの美女に化けた
 変貌ぶりに驚いたフレンディスがアリッサを褒める。
 その様子にポチの助が頬を膨らませる。
「ぼ、僕だってこれで頑張るんだ!」
 褒められたいポチの助は、機晶爆弾を取り出し敵に投げつけた。
「よし、俺も――」
「待ちたまえ!」
 周囲が次々と限定解除する中、自分も続こうしたベルクを、ベルテハイトが止めてきた。
 ベルテハイトは神妙な面持ちでベルクを見つめる。
「ベルク、貴公は私達一家の執事だ。それが、こんな所で限定解除を使っていいと思っているのかい? 後で使うべきタイミングというものがあるだろう?」
 ベルテハイトの言葉に、ベルクは冷静になって考えてみた。
 確かに限定解除は時間制限があり、ある意味切り札的な手段だ。
 それをここで、しかも全員一斉に使っていい物だろうか。
「使うタイミングは私に任せてくれないか? 必要な時には必ず合図を出そう」
「……わかった」
 ベルクはベルテハイトを信じて、限定解除をとっておくことにした。
 前線で戦うフレンディスに、グラキエスが魔法で援護を行う。
「助かった。もう大丈夫だ」
 ゴルガイスは、少しは楽になったようだが、まだ休んでいた方がいいと勧める。
 しかし、グラキエスは自分だけ見ているのは耐えられなかったようだ。
「いけ、バハムート! 存分にお前の力を見せてやれ!」
 召喚獣を出して支柱に向かわせると、自分は後方から仲間の援護に向かう。
「後ろから少し援護するだけだ。いいだろ?」
 グラキエスにそこまでお願されては、ゴルガイスには断ることはできなかった。
 少しでも、グラキエスの疲労を減らそう。
 ゴルガイスは【神速】で一気に距離を詰めると、岩をも砕く一撃で魔法使いを吹き飛ばした。
「グラキエスには一歩も触れさせん。全て我が薙ぎ払ってくれる!」

「ところで今は『魔法少女』なのか?」
 ベルクがグラキエスに尋ねる。
 すると、グラキエスはきょとんとしていた。
「その通りだが。なんでベルクは蝙蝠なんだ? 魔法得意だろう?」
「まぁ、そうだけど……」
 グラキエスの服装は全体的にゴシック風味だった。
 魔鎧をまとった時のイメージがそのまま引き継がれ、裾のスリットがスカートへ、グリーブがニーハイロングブーツのようになっていた。それにネロアンジェロが加わると、どこか恐ろしい感じになる。
 同じく男性でありながら魔法少女になったベルテハイト。頭には花嫁と占い師が合体したような白いヴェール。それに光沢のある白い布が折り重なった、ドレスにも裾の長いジャケットにも見える魔法少女服だった。
「似合ってるからまだいいけど……」
 ベルクはもし自分だったらと考え、軽く身震いした。