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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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6、宿泊旅館 〜二次会宴〜

 

「ふっふっふ、これは楽しいことになりそうでありますよ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はまだ、誰もいない廊下で口元に手を当てながら微笑んでいた。
 始終を見てコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が、ため息をついた。
「……どうなっても知らないわよ?」
 〜数分後〜
 突如、大きな振動と爆音によって、旅館全体がピリピリとした空気に包まれた。。
 生徒たちも、爆発はどこからだー! どこからくるだー! などと慌てふためくなか、当の被害者は冷静だった。

「な、なんですかこの、煙は!」
 生ごみのようなごはんを仕掛け人に食べさせてやろうとたくらんで、ごはんを運んでいた高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)
 たまたま、その通り道で強い煙に襲われたのだった。
「やった!?」
 もう一人女性の声が煙の中から聞こえてきた。
 吹雪である。
 もちろん、この煙はすべて吹雪の仕業だ。
 煙が薄れていくことで一番初め玄秀に見えたのは、に馬場 馬場校長と書かれた紙がぶら下げられたドアだった。
「ふむ、わしも座して皆の鍛錬を待つばかりでは不遜ということだな。おぬしらの心、しかと受け止めた」
 玄秀と吹雪はとたん背筋がぞくりとした。
 煙の中から赤い光のようなものが見えてきたと思えば、それはあまりにも真面目に“空気を読んだ”馬場校長の目だった。
 さながらその風景は、某映画のロボットが煙の中から登場するようなシーンにさえめいた。
「わしも、生徒たちとともに強くならねばならないな。特訓につきあってもらおう!」
「に、逃げるであります!!」
「僕もですか!?」
 先になって吹雪は走り出す。玄秀もそれにならってあわてて、逃げだした。
 馬場校長はそれを全力で追いかけはじめた。
 複数の床がきしむ音が強く廊下に響き渡る。
「任せたまえ! 皆を守るべくハーティオン参上!」
「おおっ!」 
 吹雪と玄秀は立ち止まり、突然あらわれた救世主、コア・ハーティオンへと振り向いた。
 向かってくる馬場校長に立ち向かうコアは手を前に差出し馬場校長の拳を止める準備を始める。
「馬場校長のおもてなし、感服いたした。その恩を特訓返しとさせていただく!」
 コアの体が馬場校長へとゆっくり向かっていく。
「頑張るのであります!! って……あれ?」
 突然コアの動きが止まった。かすかに鉄がかすれるような音が廊下を響く。
「……あ」
 コアの足元から水が染み出てくる。どうやら、先刻の宴会で飲んだお酒が出てきてるようだった。
「どうやら、内部でさびてしまったようだ」
 照れ笑いをしながらコアは動けない理由を教えてくれた。
「ばかですかっ!!」
 再び玄秀と吹雪たちは錆びついたコアを置いて走り出した。

「なにごと?」
 こちらに全速力で向かってくる馬場校長たちに仁科 姫月(にしな・ひめき)は音のするほうをみた。
 その隣、成田 樹彦(なりた・たつひこ)は姫月に腕を組まれ、眠い目をこすっていた。
 というのも、つい先ほど寝かけていたところを、姫月に誘われ起こされたばかりだった。
「わしから逃げられるとは思わぬのだ!」 
 うおおおっと声をあげながら向かってくる馬場校長に、樹彦は目を見開き姫月の手を引っ張って走り出した。
「な、なんだっ! 何事なんだ!?」
 よく状況も理解せぬまま樹彦は走り続ける。
 が、無理やり手を引かれる姫月は、驚くことも怖がることもせずにやりと笑みを浮かべた。
「兄貴、いくわよ!」
「えっ、おいっ!?」
 姫月は逃げようとする樹彦を無理やりひっぱり、馬場校長のほうへと向かって走り出した。
「このチャンス逃すわけにはいかないわっ!!」
 姫月はこの時のために研いでおいた剣を取り出すと、向かってくる馬場校長に勢いよく振り下ろす。
 が、剣は馬場校長の真剣白刃取りによって、阻止される。
「しょうがないな……」
 樹彦がため息交じりに言いながら、杖を構えるとまばゆい光が馬場校長を襲う。
「やった!?」
 姫月が嬉しそうに声を上げる。が、馬場校長は倒れず、それどころかまっすぐと姫月を見てきた。
「ぬるい……まだ、こんなものではわしは負けん!」
 馬場校長は時速100km近くの速度で拳を姫月へと突き出してきた。
「ぐっ!!」
 飛んでくる姫月を樹彦はかろうじて、自らの体をクッションにして守った。
 が、姫月の風船は衝撃で最後のひとつも割れてしまった……。

         §

「に、逃げ切りましたか?」
 気がつけば玄秀は吹雪たちと別れ、一人廊下を逃げていた。
 というのも、分散して逃げることで事なきを得ようという作戦によるものだった。
 あとすこしで突き当りというころ玄秀は、突然足を止めた。
「なんだこれは……」
 壁にはいたるところに人が入れるようなスリットがいかにも怪しい廊下だった。
 同時に足元でカチッという音とともに、スイッチを踏んだような感覚に襲われる。
 温泉直後で見た鉄球の罠を思い出し、あわてて玄秀はスリットへと体を滑り込ませる。
「へ? くっ――まさか落とし穴!」
 突然の浮遊感が玄秀を襲った。
 玄秀は足元に開かれた暗闇へとまっさかさまとなる。

「はっはっは! 引っかかったな!」
 高らかにそして楽しそうに夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は穴を覗き込んだ。
「ぐぐぐっ……」
 だが、玄秀は落ちていなかった。
 玄秀はかろうじて廊下にひっかけていた指に力をかけ、穴からなんとか這いもどろうとした。
「しつこいやつだ……」
 ジト目で穴から這い上がろうとする玄秀を見た。
 そして、這い上がろうとする玄秀を無理やり穴の底へと突き落とそうと押し込もうとする。
「なにをするんですか! 落ちてしまいます!」
「落とそうとしてるんだぜ!」
 汗を頬に立つ併せながら玄秀と甚五郎は押し合いがはじまった。
「そろそろあきらめ……ませ……んか?」
「ぬぅうっ、そっちこそ!!」
 一歩も引かない二人、そのなかで体力の限界を玄秀は感じていた。
 甚五郎は体力がなくなっても、穴に落ちることは無いが玄秀は落ちる。
 そんな危機感に襲われ厳守は次の手を打った。
「ん?」
 甚五郎は突然の杯の気配に、玄秀を抑える手を止めないまま振り返った。
 と同時に甚五郎は何者かによって背中を突き落とされた。
「ぐおおおおおおおっ!?」
 一転して穴へ落っこちる甚五郎。
 しかし、かろうじてのところで玄秀の足をつかんだ。
 のしかかる甚五郎の重さに玄秀は体力が極限まで達しかけ……。
「離すなよ!? 下にはパンジステークを仕掛けてんだ!」
「む……なっ、なんてものを仕掛けてるんですか!!」
 甚五郎の離すなよ何度も言い放つ。その回数13回。
 そして……叫ぶごえは絶叫へと変わり。穴の中を悲鳴が木霊していった。
 結果、玄秀は最後の風船を失ってしまった。
 そして、しばし甚五郎と玄秀はパンジステークの餌食となったのだった。

         §

さて、その後別のほうへ逃げた吹雪はというと。
「あ〜あ、やっぱりこうなったんですね」
「そんなことより、たすけて〜」
 コルセアが深いため息をついた。
 吹雪の体は見事に外で、蓑虫のようにロープを括り付けられ木にぶら下げられていた。
 あの後、いとも簡単に馬場校長につかまってしまった吹雪は、降参する代わりとして、一晩木にぶら下げられることになってしまったのだった。