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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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死んではいけない温泉旅館一泊二日

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8、宿泊旅館 〜暗殺と最後の余韻〜


 一方、変わってすでに静かに寝静まった客室304。
 ここに仕掛け人の一人が寝息を狙って、暗い中、忍んでいた。
「覚悟!」 
 掛け声とともに紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は雷術を布団で寝ている主へと放った。
 とたん、ぱあっと部屋が明るくなる。そこで唯斗は気が付いた。
「なっ……謀られましたか」
「引っかかったな〜!!」
 部屋中に高らかな声が響くとともに、暗い部屋に電燈がともった。
 明るくなった部屋に現れたのは、布団に横たわり黒焦げになった全長30センチ程度人形。
 そして、その枕元には本来やられるはずだった永井 託(ながい・たく)がにやり顔で立っていた。
「まさか仕掛け人に仕掛けをしてくるとはおもいませんでした……」
 唯斗が小さくため息をつきながら動き出そうとするが、足がまったく動かなくなっていることに気が付いた。
 というよりも、足の裏と部屋の床が完全にくっついているような感覚だった。
「動けないだろ〜なにせ、そこには強力粘着剤を塗っておいたからねえ!」
 無駄に高いテンションで託が高笑いした。
「ならばこれをもう一度放つまでです!」
 唯斗は再び雷術を託へと放とうとするが、軽くよけられてしまった。
「動けない人に打たれても、普通ならよけられるねぇ」
「くっ……」
「じゃあ、僕はロビーでも寝るので失礼するよ〜」
 そういって、託は部屋を出て行ってしまった。
 しかし、唯斗にはこれで失敗ではなかった。次の手が実はすでに用意されていたのだった。

         §

「あれ……もう起床……ですか……?」
 託が部屋から出ると、菊花 みのりが縁側に座ったまま振り返ってきた。
 通路の縁側でみのりのほかに、保名、時尾がお酒を飲んでいるようだった。
「おぬしも飲み比べでもどうじゃ!!」
「おお、参加するか!」
 お酒を進めてくる保名の横に、託はどっすりと腰を据えた。
 どうやら、今いるこのメンバーは現在時点で数少ない生き残りらしかった。
 その証拠に全員ひとつずつ風船がのこっていた。
「今日は満月かい、趣あるねえ」
「月……は心を映します……だから満月の日は……影がたくさんできて……魂たちが……」
「へえ、そ、そうなんだねぇ?」
 みのりの意味深げな言葉に託は背筋がぞっとするのを感じた。
 まるで、何かに見られているような。
「あ……こんばんは…………ええ。そうですね……え、いえけっしてみなさんを……追い出そうとしたわけでは……ええ、なので殺さないでください……」
「だっ、誰とはなしてるのかなあ?」
 誰もいない方向へとしゃべりかけるみのりに、託は思わず一歩距離をあけてしまっていた。
 その後、みのりの話によると、女将さんらしき人と言うが、この日は女将はいないはずだった。

 そんなこといざしらず時尾と保名は相変わらずお酒を飲み続けていた。
「にしても……ハツネがここまで親孝行娘だったのは意外だったのぉ」
「自慢の娘さね……」
 2人はしばらく、盃に満月を浮かべながらお酒を楽しんだのだった。

 数時間後、お酒を飲んだせいか託やみのり、保名たちは静かに部屋に帰り眠りについたのだった。
 ようやく、地獄の旅館宿泊生活は終わりを迎えようと……
 は、しませんでした。