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蒼空ヒーロー大戦・歌姫アイドルRimix☆

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蒼空ヒーロー大戦・歌姫アイドルRimix☆

リアクション

 
〜  段取り2・ステージやろうよ! 〜
 
 
 「うぇくしょいっ!!……ふぃ〜」
 
派手にしてしまったクシャミを誤魔化すように小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は制服の袖で鼻先をこする
さりげなく誤魔化したつもりだが、何せキャラ崩壊ギリギリの大音響はすでに聞かれた後だ
案の定、隣で歩いていたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が即座に顔への被害を防いでいた手を下ろしながら抗議をはじめた
 
 「派手にやったわね〜。大丈夫?そんな短すぎるスカートはいてるから冷えるのよ」
 「……万年常夏の格好してる人に言われたくありませんよ〜だ」
 「ちょっ!?だから今日はTPO考えて自分なりの普段着を……」
 「どんなに頑張っても絵師さんが頑張らないといつもの印象しか残んないんだって、世知辛いね〜♪」

眺めのツインテールをふいんふいんと揺らしながら、トゲ込みの返答を返す美羽に言葉をつまらせるリネン
道中何度目かのやり取りに、流石に傍らにいたヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)はやれやれと溜息をつく

外見的にはリネンの方が遥かに大人びているのだが、実際はそう二人とも差が無いので言い合いにも容赦が無い
普段は問題無い仲の二人だが【ロータス・ルイン】からの一件以来、ヤクモ絡みとなると時折こうなる
まぁ大概がお互いの身形(みなり)に関する舌戦なので、よっぽどあのコーディネイト対決に禍根があるに違いない

大概はそれを見抜いているコハクの緩衝材的立ち回りがあるのだが、残念ながら今は不在なので歯止め役がいない
生憎そこまで立ち回れる器量をヘイリーことヘリワードは持ち合わせてはいないので、ただ見守るのみである
……まぁ、目下お互い置かれている状況を思い返し、流石に不毛さに気がついたらしい
二人ともお互い切り上げ目の前の廊下を進む事にしたようで、一安心の空賊団長様である

少し進んだ角を曲がった先にある部屋の扉の前まで来ると
部屋の前にいた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が3人の姿を見つけ声を掛けてきた
 
 「美羽!リネンにヘイリーも来てくれたんだ」
 「そりゃ、いきなり用事があるのでってカフェテラスから消えれば心配にもなるわよ……で、どうなのヤクモ?」
 
リネンの質問に無言のまま、【YAKUMO】と書かれたドアの横のパネルの呼び出しボタンを押す雅羅
ぴんぽろり〜んと軽快な音が扉の奥から聞こえてきたが、どうやら何かが動いた気配は感じられない
その様子に、あちゃーと美羽も苦笑込みで額を掻くしかない
 
 
 
事の起こりは1時間前に遡る
故あって目覚めからずっと付き合って来た古代の機晶姫・瀬織津 ヤクモ(せおりつ・やくも)が正式に蒼空学園の生徒となり
更なる学園デビューの手助けをしてやろうと静香が持ってきた今回の件
……つまりヒーローショーの話に雅羅が半ば強引に彼女を参加させてから数日
 
文句を言うヤクモをまぁまぁとなだめ
どうせ新入生に共演を求める者など少ないだろうからと本音を言ってタカを括っていたのだが
いざ蓋を開けてみると、これが以外に多く『是非パートナー役で共演を!』という声が多かったわけである
それがまぁ端役ポジションだったら、学校のマラソン授業のように集団にまぎれてのんびりと……的な穏やかさなのだが
結構、メインどころも出来る連中がこれまた結構なポジションを設定して希望してくれたわけで

とりあえず、本人を中心にどうするか話し合おう……とカフェテリアでの談合があーでもないこーでもないと行われるうち
肝心な御本人様がキャパオーバーに陥り、そそくさと逃げ出し寮の自室に篭ってしまった……というわけである
 
 「そりゃいきなり【大空賊団期待のルーキー】なんて無理だよヤクモには……目立っていいとは思うけどさ」
 「だからやんわり説得してたんじゃない、それより美羽の【一般人だけどパートナー】だっけ
  熱心を通り越した誘いっぷりでこっちがあせったわよ?」
 「え〜、一般人だから負担かけなくていいと思ったんだもん!最後に子供たちと一緒に歌ってもらうってだけじゃん」
 「……あのね、そういう子供相手が一番ハードル高くてプレッシャーなのよ普通
  外見までお子様なあなたなら平気で子供と馴染んじゃうんでしょうけど?」
 「何を〜!この年下万年片思い空賊がぁ!」
 「ムキィィィィィ!いま勢いにかまけて何て言いやがったのかしら!このツインテールの小悪魔はっ!?」
 
この前の【コーディネート合戦】再来の如き、竜虎の激気をバチバチとぶつけ合うリネンと美羽
そんな仲間の剣幕を他所に、ヘリワードは雅羅に質問をする事にする
 
 「ねぇ、あたしさっきアレに呼ばれて来たばっかりで簡単にしか経緯を聞いてないんだけど……他にどんなのがあったの?」
 「えっとね……【光を司る双子のプリンセスの片割れ】とか【歌でヒーローを元気にする女神】とかかな?」
 「うわぁ……そりゃ役者志望とかなら嬉しいけど、舞台初心者には針のムシロだわ、うん」
 
ナカナカに高いハードルに流石の空賊団長も、事の顛末を納得せざるを得ない
……とはいえ、ここでやる事は扉の奥にいる引きこもりに同情することではなく、説得して出て来てもらう事なのだ
とはいえ、中々進展しない事態に今まで雅羅の後ろで黙っていた人物が、我慢の限界といった風情で雄叫びをあげ始めた
 
 「あああああああああもう、折角のヒロインを棒に振るなんてホントもったいないですわよ、そこの機晶撫子さんはっ!
  何だかんだ言ったって歌ってナンボの【歌姫(ディーヴァ)】でございましょう?
  いやよいやよも好きのうちですっ、そこからワタシが今すぐ引きずり出してステージに立たずにはいられない体にっ!」
 「あ〜!ダメだってばジーナ!そんなとこで扉壊したらエライ騒ぎどころかイベントが中止になるっ!」
 
【マジッチェパンツァー】で強化した魔力で扉をぶち壊さんとする彼女……ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)の姿に
慌てて雅羅だけでなく、火花を散らしていた美羽とリネンも慌てて飛びついて阻止する
流石のパワフル機晶少女も、歴戦の人物に抑えられては満足に抵抗する事もできないようで
それでも頑張ってジタバタと足掻いていたが、やがて観念して力を抜いたようだ
不意の嵐を凌いで一安心の一同だったが、一変してしおらしくなった彼女の様子を怪訝に思い、協議の結果
一同を代表して、雅羅が顔色を伺う事になったのだが、ジーナの顔を覗き込んだ途端、ギョッと驚きの声をあげた
 
 「ちょっと……今度は何でいきなり泣いてるのよ!?」
 「だって……だって折角素敵なステージをご一緒できるって思ったのに……
  前のステージ……色々ありましたけどとても楽しくてっ……今でも思い出すだけでワクワクして
  そんな舞台を……ヤクモさんや新しく参加するみなさんにも感じて欲しいんです
  確かにヤクモさんには恥ずかしいかもしれないけどっ……でも本当に楽しかったんですわっ……」

スカートの裾をぎゅっと握って涙をポロポロこぼすジーナの姿に、騒がしかった空気が静まり返る
それでも頑なに反応の無い扉の奥に、こんどは雅羅の堪忍袋が……となってもおかしくは無かったのだが
よく見ると、扉横のパネルに内蔵されているインターフォンカメラの機能サイン……それがさっきからずっと
ONを示す赤色のまま続いている事に気がついた
 
(どうやら完全拒否ってわけでもないのね、人がいいんだか人好きなんだかまったく……)
 
折角だからその事に気がつかないフリをする事にして、ジーナの頭をぽんぽんと撫でる雅羅
 
 「そうよね、まぁ色々奪い合いっぽくなっちゃったけど
  結局のところ、ヤクモと一緒に参加したいって事なのよ……それはみんな同じなのよね」
 「……参加だけじゃないよ」
 
不意に後方から聞こえた新たな声に全員が振り向く
そこにはルカルカ・ルー(るかるか・るー)に連れられた声の主……川村 詩亜(かわむら・しあ)の姿があった
 
 「詩亜?どうしてここに?」

雅羅の問いに、はにかんだ笑みで答える詩亜
 
 「こんどのイベントにヤクモさんが出るって聞いて、頑張ってねって言ってあげたくて
  本当は玲亜の方が私よりずっと心配してて、とても来たがっていたんだけど
  今日は私だけ来る事にして、ちょっと迷ってたところでルカルカさんに会って案内してもらって」
 「あ〜、確かに寮内って景観同じだし広いから、初めての人は迷うのよね……」
 
折り紙つきの方向音痴である彼女の妹……川村 玲亜(かわむら・れあ)を来させなかったのは英断だと内心思う雅羅
そのまま、変わらず扉のカメラが作動してるのをそっと確かめると、さりげなく会話を続ける事にした
 
 「玲亜、心配してたっていうのは?」
 「うん、やっぱりヤクモさんの性格知ってるから、ああいうショーみたいな派手なのは大丈夫なのかなって
  まぁあの子は『悪役さんをヒーローさん達がボコボコにする劇』なんか出られるのかって心配みたいだったけど」
 
若干【ショー】というものの認識に偏りのある事に苦笑してしまう雅羅やリネン達
それに気づかず、詩亜は話を続ける
 
 「でも、やっぱり二人で話していたのは、そういう素敵な舞台にヤクモさんが出るのなら、とっても嬉しいねって事で……
  心配だけど、もし頑張って出ようって事なら頑張ってって応援してあげようって、頑張ってねって伝えたかったの」
 「……そうだったのね」
 
姉妹の想いを聞きながら、雅羅は扉の奥の気配が揺らいだのを感じる
気配など感じるのは朝飯前の歴戦の面々ゆえ、美羽達も当然それに気がついて動こうとしたのだが、さりげなくそれを静止し
あえて気づいてないと言った体を装い、やれやれと大げさに手を広げて言葉を続ける雅羅
 
 「ヤクモってばこんなに友達想いの友人を持ってシアワセよね〜
  ま、それもいろんな人を大切にするあの子あっての事なんだろうけど……おかしいわね、今回はそうもいかないみたい
  残念だけど、諦めてもらう事になるかな……本当にゴメンね、せっかく来てもらったのに」
 「い、いいえ別に私は雅羅さんに謝られるようなことは何も!こっちこそスミマセン!」
 「ううん、私もみんなが楽しむのを見たかったから……逆にヤクモをこうさせちゃってゴメンね」
 「美羽の言う通りね、私も謝るわ」
 
非常に申し訳なさそうに丁寧に頭を下げて謝る雅羅、それに慌てて手を振って返答する詩亜だが
意図を察した同様に頭を下げる美羽とリネンも頭を下げ、盛大な謝罪合戦が繰り広げられる
もわかる人にはわかる、そんなあざとさ全開の微妙な空気なのだが……

それでも目的の約一名には効果テキメンだったのようで
最新の注意を払うように、謝り合う面々を背に扉が動き、数センチの隙間ができる
それを見逃さないように、扉の前にいたルカルカが扉のパネルのスイッチをすかさず押し
容赦なく扉が電動で勢い良く開かれ、動揺で赤面しているヤクモの姿が全員の前にさらけ出された
 
 「え……いや、あのっ……その………え〜と、はぁうっ!?」
 
咄嗟の事にどうしたらいいかわからないまま、手をわたわたと動かしていたヤクモ
そんな彼女にジーナがタックルのごとき勢いで突っ込みその体に抱きついたので、柄にも無い声を出した
 
 「もう逃がしませんわよっ!自分には無理なんてバカな言葉も休み休みいいやがれでございます!」

顔を埋めるには少々心もとない胸元が申し訳ないが、そんなヤクモの胸に中途半端な泣き顔を見せないよう
そのままジーナが文句を言う……もちろん、今更怯える場ではない事はヤクモ自信がわかってる
そっと彼女の頭に手を置く姿を見ながら、ルカルカがニッコリ笑いながら口を開いた
 
 「ここまできたらもうやるしかないって。大丈夫、皆いるしルカも手伝うから安心よ
  出番に関しては静香さんが上手く台本を纏める事になったから」
 (……もちろん、それで終わらせる気はないけどね)
 
心の内で、更なるイタズラ心と共にニヤリと笑うルカルカ・ルー
そんな彼女の言葉に軽く驚いた風情で雅羅が話しかける
 
 「え?うそ……静香、脚本やるの?」
 「裏方があんまりに少ないから、主催としての責任を取れって話になってねぇ〜
  もちろん、それは百合園だけの事じゃないから☆わかりる?」
 「………は、えっと?」
 「あっちの責任者が脚本やるなら、こっちの責任者は演出と舞監をやってもらおうてことになったから♪」
 「え、ちょっとナニそれ!?本人の断りも無しに決定!?無理無理無理、やれないって!イヤホントにっ!」
 
ぶんぶんと首と手の横軸回転運動を高速で行いながら立ち去る……もとい、逃走を図る雅羅さん
しかし、その手をしっかり握る感触があり、その感触の元を見ると……満面の笑みのヤクモがいた
 
 「覚悟決めましょうよ、あたしもやる事にしたんです……もう逃げられませんよ、雅羅さん」
 「……本当にあなた、時々見違えるように逞しくなったわねぇ……」
 
溜息と共に、逃げられ無い事を理解する雅羅
軽く息を吐くと、素早く通信端末を取り出し、会議室への内線通信にアクセスし始めるのだった
 
 「じゃ、とにかく会議に合流しないと
  前の資料は一応目を通しといたから、一気に色々決めるわよ」