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第2章 おもち料理

 時は少し遡り、舞台は厨房。
「ふふふふふっ、生クリームは黒糖仕立てにして、それを包んで……っと」
 美羽は、ついたばかりの餅を使って餅スイーツを作っていた。
「へええ、やるね」
 そこに通りがかったのは、エース。
「黒糖は、お餅に入れてもいいよね。少し炙ると美味しいんだよ」
「わあ、それもいいなっ。じゃあこっちのは中身をクリームじゃなくてあんこにして……」
 ぱたぱたと準備を進める美羽を微笑んで見送ると、エースは再び自分の仕事に専念する。
 エースが作っているのは、雑煮。
 それも洋風。
「コンソメベースで野菜多め。肉は、ベーコンにしようかな。こっちはシーフードを入れてみてもいいな」
「欲張るのもいいけど、一人でそれだけ沢山の料理が出来るのかい」
 エースの肩に、手が置かれた。
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が軽くもたれかかるようにして鍋を覗き込んできた。
「一人でって……お前は食べるだけか」
「その通りだよ。ま、エース君が作ったものは美味しく食べてあげるよ」
 悪びれもせず答えるメシエに、エースは軽くため息をつく。
(まあ、そんなメシエのためにわざわざ食べやすいスープ系雑煮を作ってあげている俺も俺なんだけどな……)
 そんな事はおくびにも出さず、料理を続けるエース。
「あとは、甘味かな。三色団子っぽく……」
「……さん。エースさん」
 集中しているので、少し反応が遅れた。
 名前を呼ばれた気がして顔を上げると、そこにいたのは神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)
 つい先程まで、ピザだのデザートだのと各種料理を調理中だった筈だ。
「どうしたの?」
 怪訝そうな様子で答えるエースに、翡翠は満面の笑みで話しかけた。
「ちょっと提案があるんですけど……」
 翡翠の話を聞いたエースの顔にも、笑顔が浮かぶ。
「いいね!」
「ですよね。二人で力を合わせれば、きっと出来ると思うんです」
 意気投合する二人。
「好きにやっててよ。後で食べさせてもらうから」
 そんな二人を、メシエは冷めた表情で見ている。

「ちょっと! ちょっとちょっとちょっとちょっと! 厨房楽しそうじゃない! ここはあたしの腕を見せる番ね!」
「あ、ちょっとセレン……」
 そんな楽しげな様子を嗅ぎつけてきたのはセレンフィリティ。
 しかし厨房に入ろうとする彼女を見て、セレアナは青ざめる。
 セレンフィリティ厨房に入るべからず。
 あくまでもセレアナの欲目だが、非の打ち所のない彼女の唯一の欠点、それは料理なのだ。
「どしたの? あたしが料理しちゃまずい?」
 てきぱきと手際だけは良く料理をはじめるセレンフィリティに、まずい、とは言い切れず誤魔化す言葉を探す。
「せ、セレンの料理は私だけのものなの」
 苦し紛れの言葉が、セレアナから飛び出す。
「だからセレンは、皆に料理しちゃ駄目よ」
 なんとゆう自己犠牲。
 なんとゆう蛮勇。
 ここに、たくさんの命が救われたわけだがそんな事当の本人は知る由もなくて。
「セレアナ……もう、我が儘さんなんだからあっ」
 調理中の鍋を放り出し、恋人に飛びついて腕を回すセレンフィリティ。
 ひしと抱き合う恋人たちの後ろに……何かが忍び寄る。
 ぐにゃり、ぴと。
「え……」
「あ……」
 それは、咲耶が作り、そして完成直後に生みの親を凌辱し尽したチョコスライム餅の一匹だった。
 ぐにょにょにょにょ。
 変形したチョコスライム餅は、二人の脚に絡みつく!
「きゃっ」
「あっ」
 バランスを崩し倒れる二人。
 そのまま伸し掛かる様に浸蝕してくるチョコスライム餅。
「あぁあっ!」
 しかし。
 チョコスライム餅がそれ以上動くことは、なかった。
 セレンフィリティが調理中だった鍋。
 味見でもしてしまったのだろうか。
 その中身に触れたチョコスライム餅は、その遅行性の毒もとい味で永遠に活動を停止した。
 
 殺人的料理で生まれた命は、殺人的料理によって葬られたのだった。