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第6章 赤いアレを捕まえて

「そーれ、おっぱい! おっぱい!」
 ぺったんぺったん。
「おっぱい! おっぱい!」
 ぺったんぺったん。
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)の掛け声と共に杵が上下し餅をつく。
「ひゃはははは! この餅はまだまだだ。雅羅おっぱいと同じモチモチ感が出るまで、突く!」
「……いい加減にして!」
 調子に乗りまくるゲブーを怒鳴りつけたのは、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)
 彼女は指名され、仕方なくゲブーの餅つきの相手をしていた。
 しかし返す時には胸を凝視され、更には延々とおっぱい談義のセクハラ三昧。
 今まで我慢していたのが奇跡な程だった。
「おっと、これだ! これくらいのモチモチ感が雅羅おっぱい!」
 雅羅の叱責などどこ吹く風と、ゲブーは早速つきあがった餅に偏った感想を述べる。
「そうそう、この揉みごこち! やはり餅もおっぱいも生に限る!」
 卑猥な感想を口にしながら、厨房に持っていき再びおっぱ……ではなく餅を揉む。

 もみ。
 もみもみもみもみもみもみもみもみ……

「ん?」
 そこまで揉みまくって、やっとゲブーは気が付いた。
 今揉んでいるのは厨房にあったピンク色の餅。
 おっぱいの円錐形に形作ったそれを、揉みまくっていた。
 しかしその感触は、いつものとは少し違う様な……

「スイッチが入らないとくすぐったくないんだよ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)は自分の胸を愛撫するピンクの餅をそっと机に戻す。
 まるで誰かの手を嗜めているかのように。
 そして、その餅の表面をそっと撫でる。
「……すべすべで、モチモチだね」
 ふるりと、餅が震えたような気がした。
 天音は更に指の動きを早める。
 悪戯を咎め、お仕置きするかのように。
 なでなでなで……
 柔らかいラインを崩す事のない優しい力で。
 時に指先でつまんで、時に手の平で撫で下ろして。
「おい、おい……それって、いいの?」
 天音の、餅ではない何かを触っているかのような手つきをブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は直視できず、赤くなって目を逸らす。
「んー?」
(ん……)
 うっかりしていたら聞き逃す程の、小さな小さな声が聞こえた。
(あ……)
 その声は、天音の愛撫と連動しているように聞こえる。
「ここ? それともこっち?」
(あっ……ぁあ……)
 くすりと笑いながら、天音は指を動かす。
 ピンク色の餅が、ふるふると震えた。
 天音の手が触れている餅が、腰の形に変形していく。
 ゲブーの手が揉んでいる餅が、女の子の胸へと変貌していく。
(あ……ぁあああっ」

「いた!」
「ありました!」
「見つけた!」

 ルカルカ、歌菜、リースが厨房に飛び込んでくる。
 そして硬直する。
 赤い少女が、いた。
 天野に腰を、ゲブーに胸を揉みしだかれて。
「はぁ……んっ」
 ぽろり。
 少女が小さな口を開けたその瞬間、天音は彼女の口に何かを放り込んだ。
 それは小さなチョコレート。
「んん……っ」
 口の中の違和感に気付き、慌てて少女は口を閉じる。
「ほら、チョコ餅の出来上がり」
「……って何やってんのー!」
 がしげしどかっ。
「ぎゃー」
「げふっ」
「ぐっ」
 ルカルカと歌菜がダッシュ。
 運悪く間にいたブルーズを突き飛ばし、ゲブーと天音にキック&パンチ!
 赤い少女を救出する。
「だ、大丈夫だった!?」
 少女は赤い瞳をルカルカに向ける。
 ルカルカは少女を落ち着かせようと、ひとまずコミュニケーションをとってみる。
「ね、あなたのお名前なんていうのかな?」
「……」
「もし、名前がないんだったら、笑いを振りまくから……ラフィ―とか、どう?」
「……るど」
「ルド?」
「……ん、じゃあラフィ……ルドで」
「そんなんでいいの!?」
「へん?」
「う、ううん。ラフィルド、とってもいい名前だよ!」
 小首を傾げる赤い少女……ラフィルドに、満面の笑みを向けるルカルカ。
「俺からも質問いいだろうか」
 ルカルカとの会話が終わったのを見計らって、ダリルが口を開く。
「君はどこから来たんだ? 君のマスターは誰?」
「……」
 ダリルの問いに、ラフィルドは茫然と質問者を見返す。
「……おぼえて、ない」
 ラフィルドの瞳に僅かに困惑が浮かんだのに気が付いたコハクが、慌てて話題を変える。
「あのね、人を笑顔にする方法は、くすぐって笑わせるほかにも色々あるんだよ」
 そう言うと、コハクは美羽の方を見る。
「例えば、美羽みたいに美味しい料理を作ってそれを食べてもらうとか」
「俺は、お前自身が笑顔になる事をお勧めするよ」
 羽純の顔に、笑顔が浮かぶ。
「お前が笑顔を振りまけば、皆も笑顔になる。……俺もそうやって歌菜に笑顔を貰ってる」
「二人とも、さりげなく恋人自慢かい?」
「え?」
「いや、そういうわけじゃ……」
 苦笑しながらラフィルドの前に割って入ったのは、天音だった。
「さっき、食べたよね、チョコを。おいしかった?」
 天音に問われ、ラフィルドは暫し目を瞬かせ、そして頷く。
「そういうとき、笑えばいいと思うよ」
 と、天音の横から腕が伸びる。
 ゲブーがラフィルドの胸をわし掴む! そして揉む。
「こういう時とかな!」
「ええい止めんか!」
 げしっ×2
 再びルカルカと歌菜の鉄拳がゲブーに入る。
「ぐぶうっ」
 ……くす。
「あ」
「あっ」
 全員が、その場の空気が変わったのを感じた。
 ラフィルドが、笑ったのだ。
「ここには多くの契約者が訪れる。それだけ沢山の者を笑わせることができる。暫くここに留まってはどうだろう?」
「いい考えね!」
 ダリルの提案に一番に同意したのは、丁度その場に現れたサニーだった。
「話は聞かせてもらったわ。最近お店が忙しくなって人手が欲しかったし、居候大歓迎よ!」