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第2章 「恐怖! 触手責めのグリーン」の恐怖

 B棟は、縦が100メートル、横が200メートル以上あるプラントだった。このプラントの特徴は、改築された天井で、70メートル近くある。
 日本の後楽園にあるドーム型球場と比べると、面積は半分ほど、体積はちょうど同じくらいの大きさだった。
「うおー。すげーなぁ〜」
 ジャイアントピヨのメインパイロット、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)がジャングル化したプラント内を見回しながら感嘆した。
「ここまでやる、熱意と行動力はすごいと思うよ。……でも、ここの工場の人たちは止めなかったのだろうか」
「ホント。どうして、こんなになるまで放っておいたのヨ」
 パートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、やれやれというふうに言った。

 室内には、鬱蒼とした草木が茂っており、地面のあちらこちらに木の根が隆起している。プラントの奥では、天井付近まで伸びた粘獣テンタクルが、様子をうかがうように屹立していた。
 テンタクルの根により、地上での移動は困難。そう予想したメルヴィアの指揮もあり、このB棟には、ジャイアントピヨを含め空中移動のできるイコンが三体集まっていた。
 {ICN0004048#ヴェルトラウム?}に乗ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、呆れたように言う。
「ったく。特撮の真似事なら、正義の味方だけにしろっつーの」
 吐き捨てた彼のとなりでは、サブパイロットのベルトラム・アイゼン(べるとらむ・あいぜん)も同意する。
「そのとおりだぜ。待ってろよグリーン! 今助けるからなー!」
「……言っとくけど、あれはあくまでも役だからな」
 パートナーの天然ぶりに、エヴァルトが力なく突っ込んだ。

 三体目のイコン、シヴァを操縦するのは風馬 弾(ふうま・だん)だ。
「なんとしても人質を助けなきゃ!」
 彼の視線の先には、触手にからめとられたグリーンの姿がある。
「ところで。触手責めってエロいわよね」
 事も無げに言ったのは、エイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)だった。
「ちょ、エイカ……。今はそれどころじゃ……」
 などといいながら、弾の脳内には、ぬるぬるした触手が女体を這いまわる隠微な妄想に満たされいった。
「弾。エロスもほどほどにしなさいよ。しっかりシヴァを操って頑張りなさい!」 
 すました顔のエイカが、ピシャリと言い放った。


「樹木ってことは、おそらく再生能力を持ってるだろうな」
 エヴァルトが戦場を見回しながらつぶやく。
「だとすれば。エネルギーを取り込んでいるのは、あちこちに生えている根である可能性が高い」
「これらの根は、大部分がダミー。そうは考えられない?」
 質問したのはアキラだった。
 彼の問いかけに、エヴァルトはパイロット席で頷く。
「俺もそう考えていたところだ。それを確かめるには、やつを再生させる必要があるな」
「なら、エヴァルト殿。俺に任せて!」
 アキラは勢いよく、ジャイアントピヨを発進させた。
 サブパイロットのアリスが、【殺気看破】と【行動予測】を使って、相手の動きを読む。
「右からくるワ!」
「オーケイ」
 すぐにピヨを旋回させ、テンタクルの攻撃をかわす。適度に距離を保ちながら、【レーザーマシンガン】を放った。口から吐き出されたレーザーが、テンタクルの枝を焼き落とす。
 つづけざま、アキラは【ビームアイ】を発動。ピヨのつぶらな瞳から放射されるビームで、枝がみるみる剪定されていく。

「ねえ、あそこの根っこ。動きがおかしいよ!」
 ベルトラムが示した先には、激しく躍動する一本の根があった。
「あれが本体だ。行くぞ!」
 エヴァルトは間髪入れずにヴェルトラウム?を突っ込ませる。徒手空拳に特化したボディで接近すると、無数のパンチを叩きこんだ。
 瞬く間に、テンタクルの根は粉砕される。
「思い知ったかー! こいつの拳に、砕けないものなんかない!」
 渦巻きほっぺを上気させて、ベルトラムが勝ち誇る。
 断絶されたテンタクルの根は、しなびたタクアンのように横たわっていた。
「油断するな。上からくるぞ!」
 テンタクルが残りの触手を振り回す。エヴァルトはブースターを全開にして、敵の攻撃をかわしていく。
 あえて反撃しないのは、理由があった。無軌道に暴れまわるテンタクルをうまく誘導することで、エヴァルトは触手を絡ませていたのだ。
「ここまでやれば大丈夫だろう。ベルトラム、俺達は人質の救助へむかうぞ!」
「りょーかい!」
 ヴェルトラウム?は、捕らわれたグリーンのもとへ滑空していった。