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真・パラミタレンジャー結成!

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真・パラミタレンジャー結成!

リアクション

「まったく困った人ね。ひとりで死ねないなんて、ほんと迷惑なんだから」
 ため息をつきながら部屋に入ってきたのは、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)。彼女の手には、複数の写真が握られている。
「はい、そこのアナタ。パラミタレンジャー、子供向け、作りごと。実際死んだら、後始末大変ネ」
 なぜか堅牢な金庫を背負ったロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)も、顔をしかめながら入室した。

 いたいけな機晶姫を人質にとる凶行に、嫌悪感を露わにしつつ、ロレンツォが告げた。
「死ぬ、構わない。勝手にドウゾ。……けど、後汚さないで」
 そしてロレンツォは、抱えていた金庫をどさりと置いた。
「というので持てきたね、防爆金庫!」
「……なんの真似だ」
「この中でドカンする、後片付けかんたん。アナタ、ハッピー。ワタシ、楽。……GO!」
「ふざけるなぁぁぁ!」
 工場長は、部屋が崩れるほどの大声を上げた。


「我々の愛を、こんな狭苦しい空間で遂げてたまるか!」
 目を血走らせ、絶叫しながら、彼は金庫を蹴り倒した。
 その様子を見ていたアリアンナは、うんざりしたように肩をすくめる。
「あなた、死を美化してるみたいだけどね。実際はそんな美しいものじゃないのよ」
 ため息をひとつ吐き、持っていた写真の束を工場長へばら撒く。
 そこには、交通事故や、事件、自殺などにより、命を落とした者たちの姿が写されている。どれも正視するに忍びない姿だった。
「どう? 悲惨でしょう。だからいい加減、無理心中なんてバカな真似……」
「素敵じゃないか!」
 工場長は、死体写真に目を輝かせながら叫んだ。

「見てご覧よウリエル! 血も骨も内臓も、ぐちゃぐちゃに絡まり合っているよ!」
 歓喜に満ちた表情で、プリン・スクォーツに写真を押し付ける。
「私たちはこうして一つになりたいんだ。ウリエルもそう思うだろう!」
「んー! んー!」
「さあ、この世界に振りまこうじゃないか! 私たち、悪の華の種子を!」
「んんぅぅ、んんんぅぅぅぅ!」
 可哀相な機晶姫は、涙をにじませながら必死に首を振り続けた。

                                          ☆ ☆ ☆

「思いのほか変態で困っちゃったもんだね!」
 重苦しくなったE棟に、颯爽と現れたのは、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)。そしてパートナーのクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)
 の、はずであった。

 しかしレオーナはなにを思ったか、頭にゴボウを縛り付けていた。体には段ボールを羽織り、マジックで手書きされた文字は『ゴボウ』。
「あなたは確か……レオーナのはずよね?」
 そう問いかける梅琳の頭には、ゴボウのかわりに、たくさんのクエスリョンマークが縛り付けられている。

「レオーナ? いいえ、私はゴボウジャスティスよ。レオーナなんて美しくて高貴で可憐で妖艶で小悪魔でセクシャルでラグジュアリーでときに匂い立つフェロモン全開の素敵すぎる子なんて知ら……」
「おだまりなさい。ゴボウジャスティス」
 クレアがぴしゃりと遮った。あろうことか、こちらもまた、レオーナと同じ格好をしている。
「今は、無駄話してるときではなくってよ!」
「え? クレア、いったいどう……」
「クレアではありません。わたくしの名は、夢と希望の戦士・ゴボウレインボーです!」

 パートナーの決めポーズを見て、レオーナは感慨深げにつぶやいた。
「そうかぁ。クレアってば、ヒーロー物大好きだったのね。パラミタレンジャーも、毎回かかさず録画してたもんね」
「もちろんです。『このあとすぐ』の部分から、しっかり撮っていました」
「立体物はお金吸われるから手を出すなというアドバイスも、振り切ってたもんね」
「ええ。フィギュアは全種類、制覇しました」
 ゴボウジャスティスは、パートナーの熱意に胸を打たれたようだ。
「いいわ……。ここはあなたに任せる。思いの丈、ぶつけてみなさい……」
 小さくうなずくと、ゴボウレインボーは前に踏み出し演説をはじめた。


「いいですか! あなたはヒーロー物の妙味をわかっていない! ヒーロー物は最終回を迎えて終わり……そんな易しいものではございません! 製作費を回収するため、本放送終了後もたくさんの展開が待っているのです!それがシリーズ物の伝統美というものです! 宿命です! ラスボスに安易な死は許されず、新たなファンの獲得のため、何としても生き延びなくてはいけない! 次の展開に備えるために……!」

 ゴボウレインボーは、夢と希望といいながら、ずいぶん世知辛い話をしていた。

                                          ☆ ☆ ☆

「いっひっひ。説得なんてまどろっこしい真似、する必要ないって」
 三船 甲斐(みふね・かい)が、小さく笑い声をあげた。
「爆弾なんざ、ナノサイズで分解しちまえば無力化できるだろ。ちょろいもんだ。にっしっし」
「君たちも来てくれたのね。頼りにしてるわ」
 話しかける梅琳を見るなり、甲斐は姿勢をただした。
「はい。ここは、俺達に任せてください」


「ふむり、これは厄介ですね」
 一向に心中の意志を曲げない工場長をみて、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)がうなった。
「ちょっとここは、あの手でいってみましょうか。番組の知識なら、【博識】でなんとかなるし……」
 剛利がなにやら作戦を立てていた。


「へへっ。ナノサイズで内部から分解すりゃ、面倒な手順は省略できる。ポタ人の身体は便利でいいねぇ」
 ふたたび素に戻った甲斐が、エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)にテレパシーで指示を送る。
 ナノマシン拡散状態のエメラダは、プリン・スクォーツの内部に侵入。蓄積された知識と、得意の医術で、機体内をくまなく調べ上げた。
「こちらエメラダ。爆弾を発見したよ」
「よぉし。それじゃあ、いっちょバラしてみようか!」
 笑いを噛み殺す甲斐だったが、エメラダの声は重い。
「駄目みたい。完全に一体化しちゃってる」
「あぁん? だったら、信管だけでも分解しとけ。信管さえ駄目になりゃ、爆弾なんざガラクタ同然。ただのゴミクズだよ」


「ルシファーさん。あなたの望み、叶えてあげようか」
 とつぜん、剛利が切り出した。
 彼の不穏な発言に、梅琳は怪訝な表情を浮かべる。眉間に皺を寄せて剛利を観察した。
――なにか考えがありそうね。
 そう判断した彼女は、ひとまず剛利に委ねることに決めた。
「どうせなら、ドラマを完璧に再現した上で死にたいでしょう。俺が協力するよ。まずは、レッドとルシファーが向かい合うところから……」
 そして剛利は、パラミタレンジャーの最終回を再現しはじめる。


「おい、まだなのか。信管くらいすぐに壊せるだろ」
 少し苛立ちながら甲斐が言った。
「それがね、心臓部に埋め込まれてて……。うまくいかないの」
 先端テクノロジーを駆使するエメラダが、テレパシーで応じる。ゆっくりと、だが着実に、作業は進んでいる。
「ったく。じれってぇなぁ」
 甲斐は腕を組み、つま先で地面を小刻みに蹴り始めた。甲斐とプリン・スクォーツの爆弾。どちらが先に爆発するかが勝負だなと、エメラダは思った。
「あと少し……あと少し……」


「なんど言えばわかるんだ! 手の向きが違うだろう!」
 工場長の怒鳴り声が響いた。
「あっ、そっか。ごめんごめん」
 剛利が平謝りする。
 彼の様子をみていて、梅琳は合点がいったように微笑んだ。
(なるほどね。再現ドラマをわざと間違え、時間をかせぐ作戦か)
 しかし同時に、彼女には不安も湧いていた。この時間稼ぎがいつまで持つのだろうかと。
「おい。貴様……わざとやってないか」
 工場長が、じろりと剛利をにらむ。さすがにここいらが限界のようだ。よく保った方だと、剛利は自賛する。
 あとは、エメラダの解体作業が間に合えばいいが……。
「どいつもこいつも、馬鹿にしやがってぇ!」
 ついにキレた工場長が、剛利へ襲いかかった。


「畜生っ。あいつ、ルシファーじゃねえじゃねぇか!」
 不機嫌に吐き捨てながら、ジェイコブが戻ってきた。
 その彼が見たものは。
 血相を変えて飛びかかる、工場長の姿だった。
「させるかっ!」
 すかさず、ジェイコブはクナイを投擲する。【光条兵器】で精製した魔法の武器が、相手の肩を射抜いた。
 痛みにもがく間すら与えず、ジェイコブは一気に組み伏せる。
 大立ち回りは一瞬だった。
 静まり返った室内には、ただ、工場長のうめき声だけが聞こえていた。

                                          ☆ ☆ ☆

「やったぁ! ついに信管をはずしたよ!」
 甲斐の脳内に、エメラダによる通信が届く。
「――ミッションコンプリート、だな」
 ふてぶてしく、甲斐は満足気な笑みを浮かべていた。