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リアクション
ようこそニルヴァーナへ!
シャンバラから、ニルヴァーナのゲート港に降り立つ。
最寄の創世学園都市に向かうと、彼等の姿を、黒崎 天音(くろさき・あまね)が見つけた。
「ハルカ?」
「あっ、くろさん!」
笑顔で走り寄るハルカに、
「一人で来たのかい?」
と驚くと、
「俺もいる」
と、続いてトオルが来る。
他にも、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)達も、後に続いて来ているようだ。
天音は、胸ポケットから取り出した眼鏡をかけながら笑う。
「お揃いで観光かい? ニルヴァーナへようこそ」
「くろさんはどうしてここにいるのですか?」
「僕は旅行者相手のガイドのボランティア。よかったら、ガイドしようか?」
【ニルヴァーナの歩き方】最新データのダウンロードを勧めると、
「なるほど、これはいいな」
とトオルが礼を言う。
「地図と施設データも充実してるから便利だと思うよ」
「ハルカ、どうする? クロと行くか?」
「くろさんと一緒がいいのです」
「んじゃ、頼むわ」
予定があるというトオルは、ハルカを天音に預けた。
一方キロスは、きゅいきゅいと鳴く涅槃イルカ達に周囲を取り囲まれていた。
「何なんだこいつらはっ」
「涅槃イルカタクシーだが。
お前もどうだ? 龍騎士なら乗りこなすなど造作もなさそうだが」
からかうようにキュウキュウと囃し立てるイルカ達の様子に、少し笑い含みながらブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が言うと、キロスは胡散臭そうに見返した。
「はあ? タクシーなのに乗り手の技術を要するって何なんだそりゃあ。調教が足りないんじゃねえのか」
「体験サービスも兼ねているからね」
そう天音が言い、天音の方を振り返ったブルーズは顔色を変える。
「ハルカは?」
「え?」
と天音も後ろを振り返った。
天音に誘われて、鞍付きのイルカに乗っていたハルカの姿が無い。
「まさか迷子になったとか」
「はあ? お前等のタクシーは客を連れ去って迷子にするのかよ」
キロスはすっかり呆れている。
むしろハルカの特殊能力にイルカの方が巻き込まれたのではと思ったが、今はそんなことを言っている場合ではないので、手分けして探すことにした。
ハルカは見つからなかった。
「まさか学園都市の外に出てしまったのでは」
ニルヴァーナ各都市の外は、まだまだ危険だ。
イレイザースポーンなどのモンスターの襲撃がないとも限らない。
「ったく、面倒くせえ」
ブルーズの言葉に、ぶつぶつ言いながら、キロスはダウンロードした【ニルヴァーナの歩き方】を見る。
「俺はアイールに行く」
そしてそう言い残すと、さっさと立ち去って行った。
それを見送った天音達は、中継基地に向かうことにする。
ハルカが発見されたのは、数日後だった。
水上の町アイールで、涅槃イルカに乗って漂っていたハルカを見つけたのは、叶 白竜(よう・ぱいろん)だった。
「一人ですか? 一体どうしたんです」
創世学園都市から来たと聞いて、白竜は驚く。
「学園都市からアイールまで? 何日かけているんです」
「イルカさんと大冒険だったのです」
ハルカの言葉に、きゅいきゅいとイルカが鳴く。
「ハルカ!」
「てめ、見つけたぞこら! 何やってんだっ」
アイールに来たキロスは、同じくアイールに来ていたトオル達と合流してハルカを探していた。
「あっ、キロさん達なのです」
手を振ったハルカの頭に、ごんと拳を入れて、キロスは溜息を吐いてイルカを見た。
ここは、此処までハルカを見失わずに一緒にいたイルカを褒めるべきか。
天音に発見の連絡を入れると、返信が返る。
『合流場所:中継基地【お針子の店フィーロ】』
◇ ◇ ◇
折角来たのだから、ついでに見学して行きませんか、と、白竜はキロス達を自分達の運営する施設に誘った。
元々アイールの観光に来ていたトオルとラクシュミ(
空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん))は二つ返事でそれに応え、期待を込めた目でキロスを見るハルカに、キロスも、別にいいけどよ、と言う。
「はっきり言って地味ですが……」
【湖上水棲生物研究所】は、水族館ではあるが、メインは湖中を研究する為の施設なので、華やかな魚が多いわけではない。
「アクアリウムでは水草や藻、その周辺に生息する虫などの育成を先に行っています。
正直暗中模索ですが、珍しい生き物や植物はこれからどんどん見つかって行くと思います」
「本当に地味だな」
ハルカは興味深く白竜の話を聞いているが、キロスは退屈そうだ。
「もっとデートコースに使えるようにしろよ」
ちらりとトオル達を見れば、トオルとラクシュミはそれなりに楽しそうだった。
「説明は難しくてよく解んねえけど、アクアリウムは綺麗だな」
「嬉しいな……。ニルヴァーナの綺麗なところを、見つけてくれて」
ラクシュミは特に、アクアリウムの魚に見入っている。
つまんねえのは俺だけかよ、とキロスは肩を竦めた。
世 羅儀(せい・らぎ)は、そんな白竜達の様子を、密かに微笑ましく見ていた。
「おーおー、嬉しそうに自慢しちゃって……」
普段と変わりなく淡々と施設を案内している白竜だが、羅儀には彼が“嬉々として”いるのが解るのだ。
しかしキロスが、白熱する白竜の説明が堅苦しくなるにつれ、つまらなそうにしているのを見て、
「そろそろ次の展示に行かない?」
と促す。
羅儀の指差す方を見て、白竜も頷いた。
「湖底調査の為の『アクアバイオロボット』を、湖底を模した水槽内にも設置しています。
操作してモニターすることができますが、どうですか」
「やるやる、俺やる」
真っ先に手を上げたのはトオルだ。
ハルカも私もと白竜に続く三人の後ろから、キロスに羅儀がそっと囁く。
「まあ、ぶっちゃけ白竜の趣味の施設だから、つき合わせて申し訳ないけど」
「次は女連れで来る」
キロスは肩を竦めた。
「デートコース向きにしとけよ」
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