First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last
リアクション
合宿最後の夜。
この日の訓練は夕方に終了し、屋外で行われるバーベキューと、キャンプファイヤーの準備が進められた。
ここには豪華なテーブルも、テーブルクロスも、高級食材もない。
だけれどバーベキューとキャンプファイヤーに必要な、樹木や食材は、大地と川から得ることができた。
「何作ってるんですか?」
アレナがボウルの中を覗きこむ。
「ネギ焼き」
答えたのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
彼は大きなボウルの中に、持ってきた薄力粉と水を入れて、かき回していた。
「お好み焼きとは違うんですか?」
「似てるけど違うな。お好み焼きにはキャベツを入れるが、ネギ焼きにはキャベツの代わりにネギを入れるんだ」
「そうですか……すごい量のネギですね」
テーブルの上には、小口切りしたネギが大量に置かれていた。
「吉永番長や若葉分校生は良く食うからな。肉ばかり食わせないためにも、大量に作っておかねーとな」
「ふふ、そうですね」
かしゃかしゃ、アレナは卵をかき混ぜながら微笑んだ。
「焼くのは……フライパンじゃ1枚ずつしか焼けないし、鉄板がいいか」
生地を完成させると、小分けしてトレーに乗せて。
ネギやテキトーに角切りした具材を袋に入れて担ぎ、武尊は外へ出る。
「手伝おうか」
「何かできることある?」
入れ替わりに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が入ってきた。
「大丈夫です、待っていてください。皆さんへのお礼、私にできるのはこれくらいのこと、ですから」
「ご馳走してもらえるのは嬉しいが、手伝いたい希望もあってだな」
そう言うダリルの後から。
「手伝いますー!」
元気な笑顔と共に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)のパートナーのノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が現れた。
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と、ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)もキッチンに顔を出す。
「ええっと、それじゃ……」
「そうだな。メインの料理は任せるとして、サイドメニューは俺達に任せてくれないか」
「果物切ったり、並べたり、何でもやるよー。料理だって大丈夫。一応人並になったんだから」
ダリルとルカルカが野菜や果物を取り出していく。
「一応な」
ダリルの言葉に、ルカルカはむっとした表情を向けた。
「調理は化学反応でもあるから、まあ得意だ」
言いながら、ダリルは鍋や調理具を選んでいく。
「味気ないなあ。最高のスパイスが欠けてるよソレ」
「?」
ダリルが怪訝そうな顔をする。
ルカルカは得意げに微笑む。
「アレナに聞いてごらん」
ダリルは少し迷った後。
「最高のスパイスとは何のことだ? 持ってきているのなら見せてくれ」
「ええっと……」
戸惑いの目でアレナがルカルカを見る。
ルカルカは、思いのまま言ってごらんと目でアレナに話し、頷いてみせる。
「今回は、皆さんへのお礼の気持ち、です。レシピ通りに上手に作ること、よりも。食べてくれる皆さんが、美味しくて、幸せになれるような、味を目指します……そして」
「そして?」
「最高のスパイスは……愛情です」
少し照れたような笑みを見せるアレナに、ルカルカはグッドサインをしてみせる。
アレナは嬉しそうに微笑んで、ルカルカと並んで料理を始めた。
「得意料理教えて貰えたら彼に作ってあげたいの。喜んでくれること、したいから……」
少し恥ずかしげに言うルカルカ。
「凝った料理より、シンプルな料理がいいと思います。一緒にご飯食べたり、観察してどんな味付けが好きか覚えておいて……」
好きな人に作る料理について、アレナとルカルカは話していく。
ダリルは眉を顰める。
そのスパイスは、ダリルには入手不可能だった。今回の仕上げはアレナに任せた方がいいのだろうかと。
不可解に思いながらも、下ごしらえに勤しむことにする。
「実はレンさんが料理好きなんで私達が厨房に立つことってあまりないんですよね」
ノアはキッチンを見回した後、流しの前に立ち、包丁に手を伸ばした。
「包丁を握るのも今日が初めてだったり」
そんな彼女の言葉に、その場にいた者達が一斉に不安そうな目を向ける。
ノアは包丁を右手でつかんだ。
そして、緊張しながら食材を探す。
「逆手で持ってどうする。というより、包丁を持つ前に、材料の皮をむいて、まな板の上に乗せるのが先だろ」
「あっ」
ものすごく当然のことを言いながら、ザミエルがノアの手から包丁を取り上げた。
「ううっ」
恨めしそうな目でノアがザミエルを見る。
「包丁は私が担当する。お前達は、まずはその玉葱の皮を剥いて洗え」
ザミエルはノアとメティスにそう指示を出す。
「うー何でしょうこの敗北感」
ノアは軽く落ち込みながらも指示に従って、玉葱の皮むきから始めた。
「得手不得手がありますから」
ノアに励ますように言いながら、メティスも玉葱の皮をむき始める。
テーブルに向かって、皮をむく自分達――。
携帯コンロを使い、材料を炒めたり煮込んだりしている、アレナとルカルカ。
湯通しをしているダリル。
そして、食材を刻み始めたザミエル。
集まった皆の姿に、メティスは目を細めた。
ほっとするような、空間がそこには在った。
「こうして仕事抜きで皆が集まれるのって素敵なことだと思います」
メティスは以前レンに『何もない日常にこそ大切にしなきゃいけないものがある』と言われたことを思い浮かべていた。
「多分こうしてアレナさんや皆さんと一緒に過ごす時間は、私達にとって大切な思い出になると思うんです。
合宿が終わったら皆で写真を撮りたいですね」
合宿中も各々沢山撮るだろうけれど。
皆で集まって撮る特別な写真を撮りたいとメティスは思った。
「今日この日のことを、思い出に残したいです」
「そうですね。私も写真欲しいです」
アレナが微笑みを見せた。
「撮りたいです……でも、今は駄目です……っ。うー、うーっ」
顔を上げたノアの目に、涙が浮かんでいた。
「剥いても剥いても剥き終わりません……目が痛いですーっ」
「ノ、ノアさん。玉ねぎは茶色い部分だけが皮なんですよ。目は綺麗なお水であらって……えっと、お水が足りなくなってきましたね」
「それじゃ、汲んできます」
メティスはドンマイというように、ノアの頭をぽんと叩いた後、バケツを持って勝手口から出て行った。
「うー……お願いします。痛いですー」
ぐしぐし目を擦れば擦るほど痛みは増していく。
そんなノアの様子に大きくため息をついた後。
ザミエルはアレナに話しかける。
「写真のことだが」
「はい」
濡れタオルをノアに渡しながら、アレナがザミエルに目を向けた。
ザミエルはまず、アレナにメティスが機晶姫であることと、彼女が写真に思い入れがることを話した。
「歳を取らずに存在し続ける自分が、大切な人達と確かに同じ時間を共有していたことを記憶に留めておきたいという想いからなのだ」
機晶姫の寿命は長くはないが、メンテナンスを欠かさなければ、今の姿のまま100年以上存在し続ける事が出来る。
今、変わらぬ姿のまま一緒に生きている人間より、長生きする可能性が高い。
ザミエルはちらりとだけアレナを見たが。
それ以上何か問いかけたりはしない。
ただ、別れが必然であっても、あのように今を大切に生きる者も居るということを、アレナに伝えたかった。
「私も写真欲しいです。でも……10年後に皆でまた写真をとったとしたら。並べてみた時、どんな気持ちになる、んでしょうね」
複雑そうな顔で、アレナはそう言った。
First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last