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カルディノスの角

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カルディノスの角

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第四章 不良と傭兵と子どもたち

 白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は目の前の光景に頭をかかえた。
 目の前には、二人の子どもがいた。シャディとビクルとかいう、町で騒ぎになっていたガキたちだった。
 二人の子どもは見知らぬ大人を前におびえている。特に、女の子のほうが。ビクルとかいう男の子は、女の子を守るために、彼女を背中でかばっていた。
 竜造の隣では、松岡 徹雄(まつおか・てつお)がのんびりと煙草を吸っている。
 吸い殻を地面に落とした徹雄は、足の裏でそれを踏みつける。あくびをして、ポケットに手を突っ込みながらやる気なさげに言った
「まさか、カルディノスより先に、こっちに当たっちゃうとはねぇ」
 竜造はぎろりと徹雄を睨んだ。
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ。どうすんだよ、この状況」
「どうするもこうするもないよ。放っておくわけにはいかないだろう?」
 徹雄の言うことはもっともだった。
 だけど竜造は、正直に言えば放っておいても良いとさえ思っていた。目的はカルディノスの角だ。子どもたちなど、他にも探している連中がたくさんいるだろう。それに、どうだ? このガキたちは、俺のことを明らかに敵だと思っている。「お、おじさんたちも……俺らを連れ戻しにきたのかよ」と、女の子を必死に守ろうとする男の子が言った。
 勇敢なものだ。竜造は男の子を鼻で笑った。質問には答えようとしなかった。
 そのとき、奇妙な声があたりに響いた。うす暗い洞窟の奥から、小さな獣たちが三匹ほど姿をあらわした。まだ、角が硬く鱗が全身を覆うまで成長もしていない。
「カルディノスだ……」
 徹雄がつぶやいた。竜造は舌打ちした。
「つっても、使えそうな角も持ってない子どもだな。言ってみりゃあ幼生カルディノスか」
「上手いこというね」
「くそっ……ようやく見つけたと思っても、この程度かよ。つくづく運が悪いぜ」
 竜造は剣を抜きながら、自分自身に悪態をついた。
 運が悪いのは、それだけではなかった。うぃーん、がしゃん。うぃーん、がしゃん。と、洞窟の奥から、機械音らしきものがどんどん近づいてきた。
「そこにいるは何者でありますか!」
 竜造たちにそう告げたのは、先頭でライフルをかまえる葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だった。隣に、パートナーのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の姿。それから、背後からロボットみたいな強化外骨格に搭乗する柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が姿をあらわした。
「おや? そこにいるは白津さんじゃないか」
「柊か。てめぇら、ここに何しにきやがった」
 竜造ににらみつけられて、恭也は後ずさった。
「とと……。別に俺たちはあんたとどうこうするってわけじゃないさ。ちょいとそこのアグレッシブなお子様方に用があってね。悪いお子さんたちは連れ戻さないといけないってこと――だよ!」
 『狭霧』と呼ばれる戦術骨格のマニピュレータ(腕のこと)が、いきなり火を噴いた。人間でいえば手のひらに当たる五本指の中心からふき出た機関砲が、いつの間にか近づいていた幼生カルディノスを撃ちぬく。シャディを守っていたビクル少年は、「すげー……!」と、その姿に目を輝かせた。
 どうやら幼生カルディノスたちは仲間を呼んだらしい。三匹どころか、まるで湧き出る虫みたいにぞくぞくと増えつつあった。
 恭也たちは竜造のもとにくると、自分たちが元来た道にむけて身体を向き直した。
「こっちに行ったら、他の仲間もいる。さっさとこんな場所からは逃げ出そうぜ」
「てめぇの偉そうな態度はムカつくが、そいつは同感だ」
 竜造は、襲ってきた幼生カルディノスを一撃で斬り倒した。


 幼生カルディノスたちを蹴散らして、洞窟の外に出たとき、竜造たちが見たのは信じられない光景だった。
「なんだ、こりゃ……」
 洞窟の外には無数の幼生カルディノスたちがいた。
 洞窟にいたものとはまた別のものだ。彼らは殺気立っているようで、しきりにかん高い鳴き声をあげている。
 その中に紛れて、なぜか人間の姿もあった。ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)という契約者だ。まるで誰かに操られでもしているように、真っ赤に光る血の色の目をかがやかせて、よだれをしたたらせながら、ぐるるるとうなっていた。
 ローグの手には、アールナーガ・スネークアヴァターラ(あーるなーが・すねーくあう゛ぁたーら)エルナーガ・スネークアヴァターラ(えるなーが・すねーくあう゛ぁたーら)という二つのギフトが、武器状態で装備されていた。アールナーガは右手用の手甲。エルナーガは左手用の手甲だ。燃え立つ炎を思わせる不思議な紋様が刻まれた手甲が、太陽の光をあげて淡くかがやいていた。
「いったい、なんだってんだよ」と、恭也はぼやく。
 すると、幼生カルディノスの群れに囲まれていた女の子が手を振った。
「あ、恭也兄ちゃーん!」
「翠!? そんなとこでなにしてんだ! 大人しくしとけって言っただろ!」
 恭也はそう言ったが、及川 翠(おいかわ・みどり)は「えー、そんなこと言ったっけなぁ」とつぶやいて首をかしげた。
 すると、翠のパートナー(というより、お目付役?)の、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)も、群れの中から顔を出した。
「恭也さん。翠にそんなこと言っても無駄よ。眠っているカルディノスに手を出して、ほら、この通り」
 ミリアが、襲いかかってくる幼生カルディノスを魔法の光で蹴散らしながら言った。
 どうやら、翠が勝手に動き回って、カルディノスの巣に手を出したようだ。すこし大きめなのは、幼生カルディノスを守るお兄ちゃんかお姉ちゃんカルディノスだろうか。翠の他のパートナー、徳永 瑠璃(とくなが・るり)サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)も必死に応戦していた。
「カルディノスはわかったが……あれはなんだ」
 竜造はローグを見ながらたずねる。
 そのとき、群れの中心地からどおんっと爆発音が鳴る。爆発の衝撃で、瀬乃 和深(せの・かずみ)がくるくるっと回転しながら飛び退いてきた。そして、和深はバツが悪そうに言った。
「いや、あれはこっちの責任でして……」
 話によれば、和深のパートナーの春夏秋冬 刹那(ひととせ・せつな)が獣寄せの笛を吹いたせいで、これだけの数の幼生カルディノスが集まってきたらしい。刹那も悪気はなかったのだ。魔鎧になって和深に装着されている刹那は、こっぴどくみんなに怒られたのだろう。しゅーんとなっているように見えた。
「で、でもでもっ……これで角には困らないよね!」
 魔鎧姿の刹那が言う。和深の手の中で槍の姿になっているエリー・モリオン(えりー・もりおん)が、呆れたように言った。
「刹那。幼生カルディノスの角は、まだ成長段階であまり栄養がないのですよ。エキスもほんの少ししかとれません。ですから、幼生段階ではカルディノスに手を出さないのが、鉄則なのですよ」
 ますます、魔鎧姿の刹那はしゅーんとなったようだった。
「まあ、どうせ何頭かは倒さないといけねえんだしよ。カルディノスには悪いが、食料調達させてもらおうぜ」
 竜造は容赦なく言った。
 すでに、吹雪やコルセアはカルディノスの掃討にかかっていた。吹雪はライフルを。コルセアはバズーカを片手に、次々とカルディノスたちを倒していく。
 和深は、パートナーのリオナ・フェトラント(りおな・ふぇとらんと)とともに、暴走するローグを止めるため戦った。
 ツインファングという二挺拳銃を手に、リオナが援護射撃をし、和深が前に出て槍を振るう。ローグはまるで獣のように襲いかかってくる。牙みたいになった歯を剥き出しにして、アールナーガとエルナーガの二つの手甲をつけた拳を振るってきた。
 大地に大きな穴が空き、石つぶてが辺りに散る。
 そうしてすこしずつローグの体力を削り、幼生カルディノスたちを撃破していくうち――。
「しまった!」
 シャディとビクルの二人が、谷間の崖に近づいているのを見て、恭也がさけんだ。
 だけど、遅かった。幼生カルディノスが二人に襲いかかってきて、足を踏み外したシャディとビクルは谷間へと落ちていった。
 サリアがそれを見逃さなかった。「空飛ぶ箒シーニュ」に乗ったサリアと翠は、落下していく二人を追って、谷間の間へと急降下していった。