リアクション
10.みんな大好きアンダーグラウンドor2
その日のアンダーグラウンドはやけに薄暗かった。
もともとそうだったのが、男は更に陰鬱な仄暗さを感じていた。まるで汚水の中を泳いでいるような粘りつく不快な湿気が彼をそう思わせるのだろう。
歩けば足音は響き、まるで後ろを誰かにつけられているのではと錯覚すら覚える。だが、足音ならまだいい。反響する足音に混ざり、ズリズリと地面を何匹もの蛇が這う音がする。少しずつ、少しずつ近づいてくる。
男は息を呑み、立ち止まる。足音は消え、後ろにいる何かを確認するべく振り返った。
振り返った先にはいつもの配管とゴミの散らばるいつもの薄暗い光景。
男は胸をなでおろし、息を吐いた。
背中に冷たいものが当たる。
「動くな」
背中越しにわかる穴と突起の形。押し付けられているのは銃口。
「持っているものを全部落して手を上げろ」
言われるまま、男は持っているものを路地に落とした。財布、端末、身分証、ハンカチ、食べかけのチョコ……
落として手を上げていると、ズボンの中を弄られ、残していたポケットマネーも奪われた。
「こんなものか……イングラハム拾うであります」
後ろの声がそう言うと、正面にぼとりと、大きな塊が落ちてきた。軟体でぶよぶよしたそいつが無数の触手をうねらせて、路地に落ちたものを取っていく。
名状しがたい吐き気を催すような生物の暗闇で光る2つの目を見た時、男の自我は意識の彼方へと消えた。
同様の光景を目撃したあなた。2/2D3のSANチェックです。
「しけた持ち金の割に、出すのを渋るとはいい度胸であります」
銃を仕舞い葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が気絶した男の身ぐるみを更に剥がす。
「我を見て気絶するとは全く失礼だ」
と、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)にコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が一言。
「あなたどう見ても神話生物よ。早くルルイエに帰れ。それはそうと、吹雪そろそろ移動しない? 大分資金も溜まったでしょ」
「ここが落ち着くでありますが……そうでありますね。もっと奥のほうに行くでありますか」
吹雪たちは新たな獲物を求めてアンダーグラウンドの闇に飲まれていく。
その闇の中には白痴の王エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の姿が――
いや、いませんけどね。