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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 吹雪が捕まえたダオレンは教導団が身柄を拘束し、すぐさま本校に連行された。
 保護されたシエロは小暮から全てを聞いて、あまりの事実に驚き、声を失っていた。

「そ、んな。なんてことを……」

 ウィルコは六人も人を殺した。
 自分のために。
 その事実が、シエロの心を無茶苦茶に掻き乱す。
 ティーは問いかける。

「貴女は……弟さんのお仕事のこと、知らなかったんですね?」
「当たり前じゃないですかっ。こんなこと、知っていたら、私は……!」

 心が乱れ、声の震えを抑えることが出来ない。
 シエロの両目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「こんなことになるなら、私は、もっとはやく死んでおけば良かった……!」
「シエロさん……」
「だってそうでしょう! 私は、私は……どうせ死ぬんだから。なら、ウィルコに迷惑をかける前に……!」

 自暴自棄になりかけているシエロに、ティーは悲しそうに目を伏せ、言った。

「生きたいと願うのは、悪いことではありません。
 大切な人に、生きていて欲しいって願うことだって……」
「でも……!」

 シエロの反論を封じるように、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は彼女の手を両手で包んだ。

「シエロさん。お願い、死ぬなんて言わないで」

 触覚のないシエロには手を握られたなんて分からないはずだ。
 けれど、どうしてか、シエロは自分の手に人肌の温もりを覚えた。
 ローズがにっこりと笑う。

「ちょっとだけ、私の話を聞いてくれるかな?」
「え……?」
「これはね、とある患者さんのお話なんだ」

 ローズは優しい声で語り出した。

「その患者さんは骨髄異形成症候群っていう治療がとっても難しい病気にかかってたの。
 でも、旦那さんと一緒に頑張ってたんだ……けど、合併症で、白血病になってしまった」

 骨髄異形成症候群に、合併症で白血病。
 ほとんど治る見込みなんて存在しない。
 まるで自分と同じではないか、とシエロは思った。

「患者さんは子供を身籠ってたけど、出産前に死ぬ可能性が高いと宣言された。
 でも、患者さんは子供を産みたいと言って中絶しなかった。誰もが無理だと思っていた……けど」

 心臓が、とくん、と震えた。

「……それで、どうなったんですか?」
「……患者さんは子供を出産したの。
 出産後に体力が尽きて息を引き取ってしまったけど……その子供は、今でも元気に生きてる」

 シエロはなんと言っていいかわからずに、ただ、ローズの言葉に耳を傾けた。

「シエロさん。
 医学は……完璧じゃない」

 でもね、とローズが続ける。

「それが未知のものであっても……心次第で奇跡が起きる、それは事実なんだよ」
「……っ」
「ウィルコさんと笑いあえる時が続く事を強く信じて、疑わないで」

 シエロは目を閉じ、ローズの言葉を静かに受け止めた。
 まぶたのふちから、涙があふれ出て止まらなかった。

「……はい!」

 生きよう。病気にかかってからはじめて、シエロはそう思った。
 最愛の弟のためにも、自分のためにも、精一杯生きていこう、と心から決意した。
 ローズはシエロの返事を聞き、ぱぁっと顔を輝かせる。

「あー、あのさ、ちょっといいかな?」

 ローズの話を神妙な面持ちで聞いていた斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は、シエロに声をかけた。

「出来る限りあたしがサポートするよ。その……これでも、未来のことには詳しいんだ。
 だから、ローズの言うとおり。医学の奇跡ってやつを信じて欲しいんだ。うんっ、証明してみせる」

 カンナは話が逸れたことに気づき、慌てて軌道を修正する。

「ごめん、話が逸れた。
 それで、あたしが言いたかったのは、シエロさんにはやるべきことがあるってこと」
「私に、やるべきことですか……?」
「うん。小暮さん、お願い」

 小暮は振られ、コホンと咳払いをしてから、話出した。
 それはいたって簡単な事。
 けれど、シエロにしか出来ない大事な事だ。

「シエロ殿。これは、あなたにとって辛い事かもしれません。
 ですが、自分にはこの方法でしか、ウィルコ殿が止まるとは思えない」

 だから、と小暮が続ける。

「あなたがウィルコ殿を説得してください」

 その言葉を耳にして、シエロは口を固く結んだ。

「出来ますか?」
「……ええ、やってみせます」

 シエロは力強く頷き、左腕で涙を拭った。
 小暮は口元に笑みを浮かべ、エドワードを呼ぶ。
 すでにエドワードは軍用バイクに跨り、準備万端と答えるようにエンジンを噴かせた。

「失礼します、お姉さま」

 カーターがシエロをお姫様抱っこして、サイドカーに丁寧に乗せた。
 小暮は教導団の人に持ってきてもらった折り畳みの車椅子を荷台にくくりつける。

「お願いだ。シエロ殿を間に合わせてくれ」
「ああ、承った」

 シエロがヘルムを装着するのと共に、エドワードはアクセルを回した。
 けたたましいエンジン音。
 タイヤが地面を擦る音を上げながら、軍用バイクは疾走する。
 法定速度を無視し、華麗なバイクテクニックで進みながら、エドワードは問いかけた。

「おまえは弟……ウィルコのことが大切か?」
「はい。他の誰よりも」

 即答されたその答えを聞いて、エドワードは力強く言った。

「なら任せろ。必ず、間に合わせてやる」