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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 第十章

 事件が収束し、あれから数日経った後。
 シャンバラ教導団のとある部屋で、上層部がウィルコに対する処罰を決定した。

「ウィルコ・フィロは六人の市民を殺した。その罪に酌量の余地はない。よって死刑とする」

 上層部の決定。
 その事務的な口調に対して、ルカルカは意を唱えた。

「待ってください!」

 ルカルカは大きな声をあげて、反論した。
 証言と証拠からダオレンの秘密を明らかにし、姉の延命を条件に命じられてた事と無理矢理させられていたことをとことん説明。

「……以上のことから、ウィルコには酌量の余地があると考えられます」

 しかし、ルカルカが懸命に説得しても、上層部の者たちは罰を軽くしようとはしなかった。
 教導団としての建前もあるのだろう。
 仕方無かったとはいえ、ヒラニプラの市民を六人も殺害したウィルコに死刑以外の罰を与えるのは難しい。

「考慮する価値なし」

 それが、上層部の出した答えだった。
 ルカルカは悔しさのあまり唇を強く噛む。
 そうして室内に静寂が舞い降りたとき――マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)が声をあげた。

「たしかにウィルコは、多くを殺し過ぎました。死刑は妥当でしょう」

 『共産党宣言』は上層部の者たちを見上げる。

「しかし、彼だけの責任ですか? 
 姉を助ける為になにをすべきか。若い彼は誰からも適切な助言を受けることも出来ない中で、自分のできることを精一杯やったのです」

 上層部の者たちは、『共産党宣言』に目を落とした。
 『共産党宣言』は真っ向から見つめ返し、言葉を続ける。

「ここまで被害が拡大するまで事件を解決できなかった。
 教導団の責任も問われてしかるべきです。
 せめて姉の最期を看取るまで死刑執行を待つようにしては?」
「しかし……」

 上層部の一人が苦渋に顔を歪めた。
 畳み掛けるように、『共産党宣言』は言い放つ。

「それを考えればこの程度の酌量の余地はあってしかるべきです」

 ――――――――――

 死刑の刑期が引き伸ばされたウィルコは、教導団が持つ医療施設の廊下を歩いていた。
 どうやら噂では、ルカルカや小暮やなななたちが、相変わらず処罰を軽くしようと動いてくれているらしい。
 自分のためになぜそこまでしてくれるのか……と、ウィルコは不思議に思う。
 それは、目の前で自分を案内してくれているローズにも適用される。
 彼女はカンナと教導団と共に薬の成分を調べ、今日、一つの手術をシエロに対して行ってくれたのだ。シエロの視覚を取り戻すための手術を。

「ここだよ、ウィルコさん」

 ローズはとある部屋の前で立ち止まり、ウィルコに言った。
 ウィルコは息を呑み、覚悟を決めながら、部屋の扉を開ける。
 清潔なベッドの上で、シエロが上半身を起こしていた。両目にはぐるぐると包帯が巻かれている。
 あの事件以来の再会だった。

「ウィルコ……かな?」
「うん。そうだよ、姉さん」

 返事を耳にして、シエロが顔をぱっと明るくさせた。
 彼女の傍らにいるカンナが、優しく声をかける。

「それじゃあ準備はいいかな?」

 シエロが頷いた。
 カンナは彼女の包帯を掴み、ゆっくりと解いていく。
 晒された青い双眸は、室内を見回し、そしてウィルコを捉えた。

「……どう、かな? 姉さん」

 恐る恐るといった風に、ウィルコが問いかけた。
 両目にうっすらと涙を滲ませたシエロは答える。

「可笑しいな。見えるはずなのに、なんだかぼやけてるよ」
「姉さん……!」

 ウィルコは感動のあまり、シエロに抱きついた。
 彼女の肩に顔をうずめ、震えた声で「良かった、本当に良かった」と呟く。
 シエロは子供をあやすように、彼の頭をポンポンと叩いた。

「良かったぁ。本当に、良かったぁ」

 ウィルコと同じ台詞を吐き涙を流すローズの頭を、カンナはカルテで軽くはたいた。

「あんたも、あの姉弟に負けず劣らず涙もろいな」

 その目には、つられたように涙が滲んでいた。