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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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第3章 大きな侵略者・みーんなワレらのモノッ story2

「ところで真宵。魔導書はどうしました?」
「あんなの、家の机に放置したわ」
 重い本を常に持ち歩くなんて出来ない。
 荷物になるからと置いてきてしまったのだった。
「本を粗末に扱ってはいけませんっ」
「ふぅ〜ん、あっそ。そんなことより、けどあれオスよね!蛙の世界も同性愛が流行ってるなんて知らなかったわー」
「本当の性別を知らないだけでは?」
「ありえるわね…」
 異性だと思い込んでいる可能性もあるかと頷く。
「かといって、相手は1匹…?だし。取り合いにならないかしら」
「さっき捕まえていたカエルが役立つのでは?」
「そのつもりよ」
 袋の紐を解いた真宵は、捕まえた普通のカエルをベールゼブフォに見せる。
「どれでも好みの嫁を選ぶといいわ。1匹と言わず、ハーレムでもOKよ。あなたむしろわたくしのものになりなさい」
 カエルの魔性を自分の使い魔にするつもりだろうか。
 彼女の使い魔であるむるんとふぎむには呆れ顔をした。
 “先生が飼いならすのは無理だとおっしゃっていましたよ?”というテスタメントの声は、もちろんガン無視。
「ワレらは、誰かに飼われたりするのはイヤゲコ」
「そう…好みの嫁がいなかったのね。別のカエルを探したほうがよいかしら」
「なら、真宵がカエルになったらよいのでは。真宵ならどこでも生きていけそうですし、共に暮らしてみるのもよいかもしれません。だってカエル好きなのでしょう?」
「はぁ!?好きとなってもいいってことと全然違うわよっ。失礼なこと言ってるとあなたもカエルにして貰うわよ。カエルの姿なら大切に可愛がってあげるわ」
「オマエ、カワイイ。カエルにして嫁にするゲコッ」
「冗談じゃないわ、わたくしはイヤよっ」
 “嫁にもカエルにもなりたくない!”と全力で拒否し、かぶりを振った。
「テスタメントは皆さんのところへ戻ります。寂しくなりますが、どうかお元気で」
 パートナーの旅立ちを悲しむように、瞳を潤ませて棒読みで告げた。
「あなた、わたくしを置き去りにする気?そうはいかないわ」
「イヤです、離してください真宵。テスタメントにも選ぶ権利があります!イヤァアアなのですーーーっ」
 しがみつく真宵から逃れられず、カエルソングでカエルにされてしまった。
 彼女の悲鳴は弥十郎やエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)たちの耳にも届いた。
「何があったんだろう?…あっ、エースくんーっ!」
 テスタメントの声を聞きつけた彼らを見つけ、大きな声で呼び止める。
「今…悲鳴が聞こえなかったか?」
「うん。ワタシたちもそこに行ってみようとね」
「あの水路のほうに赤いカエルがいるわ!」
 ぴょんぴょん跳ねている大きなカエルを発見した斉民が声を上げた。
「俺からは見えないから本体のほうだな。祓える者はいるか?」
 対処出来る者がいるか確認しようと聞いたのだが、全員かぶりを振った。
「そうか…。だからといって、放っておくわけにもな」
 女の子の声だったし、カエルにされてしまった可能性もある。
 ここで救助を待っている暇はない。
「アーリア、君の香りで皆を護っておくれ。素敵な香りを周りにも分け与えてくれないか」
 呼び出したアーリアに、花の香りで呪いから護ってくれないかと頼む。
「マイマスターがカエルにされちゃうのイヤだけど。…まぁ、他はついでってことならね」
「オイラたち、ついでなの?」
「召喚者の頼みが中心だからな、仕方ないって」
 悲しそうな顔をするクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)に小声で言う。
「今日も素敵な香りをありがとう、アーリア」
「かかりにくくするだけで、絶対ってわけじゃないのよ。その辺は簡便してね」
「俺の精神力がきれるぎりぎりまで使って。皆もカエルにするわけにいからないからさ」
「んー…。あまり負担がかかることしたくないけど。マイマスターがそこまで言うなら…」
 気乗りしない声音で言い、アーリアは香りの力を強める。
「オメガちゃん、なるべく前に出ないでね。オイラが護ってあげるにゃんっ」
「え、でも…わたくしも皆さんの力になりたいんです。使い魔を呼べるようになりましたし…」
「んっと、じゃあ支援をお願い!」
「分かりましたわ。…ニクシーさん、皆さんを護ってください」
 オメガに召喚された水の魔性は小さく頷いた。



 カエルにされたテスタメントと真宵は…。
 ベールゼブフォから必死に逃げようとするが、青と緑の泡に阻まれてしまった。
 “ゲコゲコォオ!(嫁にしたいなら、傷つけるようなことするのやめなさいよ!)”と騒ぐ真宵だったが、“逃げるからだゲコ”と言われてしまう。
「ゲー、ゲコォ〜。(このまま、嫁にされてしまうのでしょうか)」
 テスタメントはぼろぼろと涙を流す。
「ゲコゲコ、ゲココー!ゲゲーコッ。(それもこれも、真宵がテスタメントを巻き込むからです!ハイリヒ・バイベルさえ使えれば退かせてやれたのですよっ)」
「―…ゲ、ゲコォッ。(―…あ、あなたがわたくしに、嫁になればいいなんて言ったからよ)」
「ゲゲコ?ゲコゲーコ。(人のせいにする気ですか?カエルが大好きなら真宵だけが嫁に行って、侵略をとめればよかったのですよ)」
「ゲ、ゲコォ?ゲゲコォオ。(は、はぁ?嫁なってもいいなんて言ってないわ)」
 使い魔にしたいとは思っているが、カエルにされて亭主関白の魔性の元へ嫁ぐ気はない。
 カエルにされた2人は、ゲコゲコと激しく怒りをぶつけ合う。
「見つけた!そこの小さいのは…あの2人かな?」
 弥十郎が大声で騒いでいる2匹のカエルを見つけた。
「助けに来たよ、こっちに早く来て!」
「ゲコゲコッ。(わたくしが先よっ)」
「ゲーゲコォーッ。(テスタメントが先なのですっ)」
 相手よりも自分が先に助かろうと、真宵とテスタメントはぴょんぴょん跳ねながら来る。
「嫁ーっ、ワレの嫁逃げちゃいけない」
「ポイズンブレスを使ってきたよ。急いで、弥十郎」
 2人を救助させようと、エターナルソウルでパートナーの走行を加速させた。
「わー、速い〜。回収完了っと♪」
 彼女たちを抱えた弥十郎は魔性から離れ、斉民の元へ走る。
「ここで治療は無理ね」
「そこに隠れよう」
 ひとまず避難しようとセレンフィリティがパーキングを指差す。
 暗がりに隠れて息を潜めていると、“嫁、逃がさない!”などと言いながらベールゼブフォが侵入してきた。
 分身に“嫁”を探せと命令したカエルの魔性は、パーキングから離れていった。
「セレアナ、治療してあげて」
「ええ…」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はカエルにされた2人の傍に屈み、ホーリーソウルの淡い輝きを指先に集中させる。
「時間かかりそうね。もう1人は誰かやってくれない?」
「宝石使いすぎちゃったから今は無理かな…」
 逃走の際、速度上昇の効果を使いすぎた斉民の精神力は尽きかけていた。
「私が手伝うよ。(祈りで力を引き出すんだったかな)」
 “嫁”を探している者たちに居場所がばれないように、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は小さな声音で紡ぐ。
 カエルのような影が、小さな身体から顔を覗かせた。
 影は小ばかにするようにニタリと笑い、中へ沈んでしまった。
「(あれが進入した呪いの形なのかね?もっと強く祈らなければ…)」
 聖なる光を強めていくと影はゲコゲコ鳴き声を上げ、再び真宵の身体から顔を出した。
「騒がれると分身が来ちゃうよ。どうしよう、エース」
 やつらが来ないかクマラは回りを警戒する。
「こればっかりは仕方ないって。解除を急がせるわけにもいかないしな。今のうちに、こっちも治しておくか。…アーリア、お願いできるかい?」
 エースはアーリアに頼んで解毒薬を作ってもらう。
「やっぱり全部言わなくても分かるんだね」
「マイマスターの血の情報で、考えてることが分かっちゃうの。それで、聞いてあげられるものか判断しているのよ」
「なるほどね。ありがとう、アーリア」
 葉のグラスに注がれたシロップを受け取り、にっこりと微笑んで礼を言う。
「ほら、飲んでおいたほうがいいぞ」
「え…ワタシに?」
「それって蓄積していくんじゃないのか?」
「あはは…バレちゃったか。うん、もらうね」
 アークソウルの効果で抵抗力を得えても、何度も攻撃を受けてしまうとだんだんと蓄積していく。
 何事もないように装っていたが、仲間に異変がないか気を配っていたエースに知られてしまった。
「予想はしていたけど、ただの花の蜜っていう感じじゃないね」
 初めて口にする甘い花のシロップを味わいながら飲む。
「少し休んだほうがいいな」
「えー、まだまだいけるよ?」
「ソーマ、お願いね」
 回復に専念させてあげたほうがよいかと考えた清泉 北都(いずみ・ほくと)は、ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)に守り役を頼む。
「そうだな、俺が代わってやるか。(っと…来たようだな)」
 鳴き声を耳にしたソーマは、エレメンタルケイジに祈りを込めた。
「気配がないわ、分身のほうみたいね」
「本体まで加わったら最悪だな。…治療中に悪いんだが、ここはもうやばい。離れるぞ」
 ソーマはセレンフィリティと共に、仲間を外へ誘導する。
 治療中の2人はメシエとセレアナに抱えられている。
「影が…中から出て行ったよ。あ……っ」
 元に戻った真宵は、彼の手から転げ落ちてしまった。
「ごめんよ、怪我はないかい?」
「痛いわねっ。もっと優しく扱ってちょうだい!」
 尻餅をついてしまった彼女はギャアギャアと怒鳴り散らす。
「普段の行いのせいじゃないのですか?」
 セレアナに抱きかかえられた状態で戻ったテスタメントが言う。
「―…下におろしていいかしら?」
「あ、はい。ありがとうございました!」
「ん〜〜。納得いかないわ」
「そんなに騒ぐと気づかれてしまいますよ。ほら…」
「次から次へと…何なのよもうっ」
「嫁がどうのとか言っていたような?」
 赤いカエルたちが真宵とテスタメントを見ている。
 本体がそのために放ったのだろうとメシエが状況分析をする。
「略奪者同士、お似合いな気がします」
「冗談じゃないわ、わたくしは嫁がないわよ。ていうか何よ、わたくしがいつ略奪しようとしたの?」
 テスタメントから見れば言動にその単語が含まれているのだが、真宵にはその認識がまったくない。
「嫁ぎたくなかったら戦ってください。テスタメントが作るのに、協力したアレをちゃんと活用するのですよ」
「わたくしに頼みごとをするなら、貢物をよこしなさいよね」
 “その言動が…ですよ”と言いかけたが、彼女と言い合いしている暇はなかった。
「さっさとやっちゃいなさい」
 真宵は分身を囲むように神籬の境界線を引き、“倒しなさい”とテスタメントに命令した。
「きりきり働きなさいね」
 線を出てブレスを吐きながら迫ってくる者から、エターナルソウルで回避させてやる。
「テスタメントの清き力で、片付けてやるのです」
 哀切の章の術をくらった分身は光の中で蒸発していく。
「ちゃんとしたサポートとして使えば、なかなかよい効果ですね!」
 宝石の力に感動しているテスタメントの傍ら、精神力を使いすぎた真宵は疲れきった表情になっていた。
 働かせようと思ったのに、自分のほうがきりきり働いていたというオチだった。



 分身を倒し終わったテスタメントは、引き続き救助班の護衛することにした。
 それが目的というわけでなかった真宵のほうは、ふてくされ気味だった。
「本体とまた遭遇してしまうかもしれませんからね。テスタメントにお任せなのです」
「あなた…充実しているって顔ね」
「もちろんです。悪しき者から皆さんや町の人々を守るのが、テスタメントの役目なのですから」
 聖女のような神々しい笑みを向けた。
「真宵もちゃんと働いてくださいね?」
「あー……はいはい」
 やる気満々のテスタメントに、ウザそうにそっけない返事をした。
「カエルにされた町の者は、茶色いやつってことだったよな?」
「ええ、そのはずですよ、ソーマさん」
「呪われると人の言葉すら話せなくなるようだな…」
 ゲコゲコしか言えなかった2人のことを思い出すと、自分も呪われたらそうなるのだろうか…と考える。
「排水溝のほうに気配があるな」
 屈んで覗き込むと、そこには小さなカエルがぶるぶると震えながら隠れていた。
「おーい、助けに来たぞ。人…だよな?」
 ソーマの声に茶色いカエルたちは排水溝から顔を出す。
「出てくれば元の姿に戻れるぞ」
「ゲコ?…ゲゲゲコォッ」
 彼に手招きされて出ようか考えていたカエルは、刀真に頭を捕まれて引きずり出される。
 容赦なく麻袋に入れられた彼らは、ばたばたと暴れる。
「その中に入れておくのか?」
「呪いの解除は、ある程度集めてからのほうがいいだろ。またカエルにされるかもしれないしな」
「ワタシも見つけたよ。カワイイね、カエル♪あ…っ」
 弥十郎は手の平に乗せた変身させれた人を眺めていた。
 ぎゅむっと刀真に鷲掴みにさて麻袋へ放り込まれた。
「カエル……」
 それがいた手をじっと見つめ、残念そうに呟く。
「屋根のほうにもいるね。斉民、お願い」
「可哀想に、修理中にやられたみたいね」
 フレアソウルの炎を纏って飛んだ斉民は、散らばった道具をちらりと見て、変身させられた者を手に乗せる。
「この子たちもそこに?下敷きになっちゃわないかしら」
 回収する数が増えると、先に入れた者が潰れるんじゃ?と言う。
「途中で何人か、戻せばよいかって思ってな」
 しかし、麻袋にいる者たちは暴れまくり、その中はカオスになりつつあった。