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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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第4章 大きな侵略者・みーんなワレらのモノッ story3

 麻袋の中が渋滞し、カエルにされた者たちの抵抗が激しくなってきた。
 そろそろ元に戻したほうがよいか。
 刀真は1人ずつ掴んで袋から出す。
「大人しくしてくれって。…早く治療を!」
「やれやれ…、予想以上に騒々しいね」
「慣れてくれ」
 ぼやくメシエにエースが苦笑する。
「赤カエルが増えたみたいよ、セレアナ」
 はしゃいで跳んでいる姿を、建物の間から目撃したセレンフィリティが恋人に小声で言う。
「移動した方よいってこと?」
「テスタメントと真宵の呪いが解けたから。逃げ回るより、ここで治療したほうがよいわ。あいつらのことは私たちに任せて、セレアナたちは町の人を元に戻してあげて」
「頼んだわよ」
「後で、お菓子でも食べに行こうね」
 恋人にニッと微笑み、のんきなことを言ってみせた。
「これでなんとか、持ちこたえてくれ」
 エースはアーリアからもらった解毒シロップを仲間に配る。
「わっ、こっち見たよ」
 ギョロリと大きな目が北都へ向けられた。
「外だと見つかりやすいようですね」
「かといって建物の中にいるわけにはいかないよ、リオン。…ねぇ、弥十郎さん。あれは本体のほう?」
「残念ことに気配があるね。わわっ、増えた!」
 大カエルが跳ねる度に、分身が増えていく。
「さっさと境界線を引くのです」
「一々言われなくたって分かっているわ」
 テスタメントに指示しているようで、実は真宵が指示されていて不本意すぎることばかりだった。
「私と玉ちゃんは、こっちの線にいるね」
「僕らは2人と行くよ。囲まれたりしたら大変だからね」
 呪いの解除を行っている者を護衛している月夜たちを残し、北都たちは2人についていく。
「あわわ、歌ってきましたよ!」
「慌てないで、リオン。アーリアさんの香りの効果がまだあると思う」
「は…はいっ。裁きの章、お願いします」
「うん。(まずは弱らせなきゃ…)」
 リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)の空飛ぶ箒シュヴァルベに飛び乗った北都は本を開いて唱える。
 赤紫色の雨を降らせて分身を溶かすとリオンが唱えている間、祓魔術で後退させようと試みる。
 意思のない者たちは光のミストを受けながら無表情で迫ってくる。
「(全然怯まないね。1つの存在としての考えすらもないせいかな)」
 本体に“倒せ”と命令されているのか、どれだけ傷つこうとも固体といての魂や意思のない彼らは、北都たちにブレスを吐き続ける。
「口を狙って、ソーマ」
 小型飛空艇じゃ囲まれてしまった時、逃げにくいかと考えてソーマに空飛ぶ魔法をかけた。
「痛みの感覚もないってことか?」
 ソーマはエレメンタルリングにアークソウルの大地の気を込め、わさわさと集ってくる赤カエルの口を殴る。
 彼らはブレスが吐き出せず、口をもごもごさせる。
「泡が溜まっていきそうだな、いっきに吐き出されたら最悪だ。皆、離れろ!」
 口から溢れ出る泡を目にしたソーマは退くように声を上げた。
 青と緑の泡がブクブクと路地や空へ広まっていく。
「のぉお〜〜、分身増やすゲコー」
「うわ、また増やす気かよ」
「カエルになってしまぇ〜。ワ・レ・らはうーたーう〜♪ゲコー、ゲココ〜♪」
「音符を飛ばしてきましたよ」
「あれに当たったら変身させられるってことだね。花の魔性の香りで守られてなきゃ、僕たちもカエルになっちゃう」
 歌声を聴いたエースがアーリアに頼んだのか、甘い香りが北都たちの鼻をくすぐる。
「これが香りの効果ですか、あれにぶつかっても変身しませんね!」
「100%ってわけじゃないけどね。効果を強めると術者の負担が増えちゃうはずだよ」
「私たちの対応が早ければ、その分軽くすむってことですか。(なるべく皆さんの負担を減らしたいのですが。急ぎ過ぎたり、焦ったりするのは禁物ですよね…)」
 リオンは祓魔の光で暖かい場所へ導くように唱え、ソーマと北都が弱らせた分身を光のヴェールで包み込む。
「はわわ…また増えましたよ」
「本来は逃走したようです。テスタメントにかなわないと思ったのでしょう!」
「こんなに残していくなんてイヤなヤツだわ」
「おや、カエル…好きだったのでは?」
 ぶつぶつ文句を言う真宵に、にこっと微笑む。
「境界線に残っているやつが危ない。急いで戻るぞ」
 ソーマが首から下げているペンダントの中のアークソウルが忙しなく輝く。
 待機している者たちの身の危機を知らせているようだ。
 神籬の境界線には分身が集まり、1匹が結界へ足を踏み入れている。
「ほんと、的だよねワタシって」
 エターナルソウルで加速してもらいながら弥十郎がポイズンブレスを防いでいるようだ。
 彼の腹の中はシロップ漬けになりそうだった。
「青い泡を吐いてきたよっ」
「ニクシーさん、水のバリアーを…」
 オメガの声に反応したニクシーは彼らを水球で包む。
 弾かれた泡は空へ舞い、破裂してしまった。
「ねぇ、分身しかしないの?」
「ここにいるのはそうだね、月夜さん」
「分かった。…玉ちゃん、倒せるやつみたい」
「我が狙ったやつに命中させるのだ」
 絶え間なく泡を吐く分身たちを、酸の雨で弱体化させようと玉藻が奮闘する。
「(むぅ、数が多いよ…。皆、協力してくれてるんだから、頑張らなきゃ!)」
 月夜は裁きの章の効果を受けた者を狙い、哀切の章で消し去る。
「すまぬ、月夜。我の精神力が…」
「えぇ!?ど、どうしよう〜っ。まだいるのに…」
「オイラがやるにゃん!女の子ばっかり働かせられないからね」
 クマラは強化した裁きの章を唱え、“的”になっている彼を目印に雨を降らせる。
 赤紫色の雨を受けた分身は、溶かされずに魔法防御力を削がれた。
「ドロドロは怖いんだよねっ」
「私もやばいかも…」
「キャットシーが癒してくれるにゃ!」
 疲れてへとへとになっている月夜をキャットシーで癒す。
「かわいいーっ、もふもふー。ちょっとだけ、元気になったかも」
 月夜は残る精神力を使い切り、クマラが術をかけた者を光の嵐で消し飛ばした。
「もぅー、限界〜。やっぱり声をかけてもらうより、私たちから言うのも大事だと思うの、玉ちゃん。あれだけいると、ブレス回避しきれるか分からなかったし」
「なんとも面倒な……。む、その顔をされると困るのだが」
 ため息をつく自分を見た月夜が悲しそうな顔になる。
「むしろ、勝手についていっちゃうとか。だから、ここまで戦えたんじゃないかな」
「よく頑張ったな、月夜。いろいろと、考えて動いていたようだしな」
 疲労しきっているのに、一生懸命に主張する彼女の頭を撫でる。
「にゃ〜、頭撫でないで、子供扱いしないの〜!」
「何、我からすればお前も刀真も子供だ…。(時々、違うと気付かされるけど、な)」
 地面に座り込んで頬を膨らませる月夜を見下ろし、子供のようでも日々成長しているのだろう…と考える。
「無事だったようだな」
「うん…。分身がいっぱいいたけど、全部倒せたわ」
「さすがに動きっぱなしはきつい…。呪いの解除が終わるまでここにいるか」
 ソーマたちは精神力が尽きてしまわないように、結界の中に座り休憩する。



「パパーイからメール?何かしら…」
 セシリアは実戦中に届いたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)のメールを開いた。

 -日帰り任務、頑張ってください-

『卒業式典用の会議がありますので、遅くなります。
夕飯用に、カンパーニュとポトフの作り置きがあるというメールは確認しました。
ヴェルを連れての実戦だそうですが、無茶はしないでくださいね。
Alt』

「無茶って…。アタシの能力をどれくらいだと思っているのよ」
「だって、習ってからそんなに時間経ってないでしょ」
「うっさいわね!ほら、またメール着てるわよ」
「んもー、何よ…。―…むっ!?」
 よっぽど気に障ることが書かれていたのか、携帯の電源を切ってしまった。
「あら、アタシのほうに」

 -シシィから返信がないのですが…-

『ヴェル、シシィがこの頃考え無しに行動しているように思えます。
何を急いでいるのかはわかりませんが、もしもの時は…よろしくお願いしますね。
Alt』

「くすくすっ。いつものことじゃないの」
「もー絶対汚名挽回、名誉返上してやるんだからぁ〜!…っと、ごめんなさいタイチ、平常心で石を扱わなきゃいけないのよね」
「先ほどから、セシリア君の四字熟語が混乱し放題なんですが」
「ツェツェお前…その日本語間違ってんぜ」
「え、どこが?」
 どの辺が違うのかすら分かっていないようだった。
「確か宝石に向かって意識を集中するのよね。それとセシルの日本語間違い、何とかならないのかしらん?ちょっと筋肉ダルマ、アンタからつっこんどいて貰える?」
「…何か食べているときにでも、やんわりと訂正してあげなさい。それがあなたの仕事ですよ、太壱君」
「あー、言われなくてもつっこんどくよ親父、オカ魔道書さん。あのさツェツェ、汚名は返上するもの、名誉が挽回するものなんだよ」
「は?え、え…?」
「汚名挽回って汚名を取り戻すことだぞ?名誉返上は、名誉を手放すってことだ」
「わ…分からない〜〜っ」
 セシリアはパニックになり、ぐるぐると目を回す。
「―…汚名名誉返上。…名誉汚名挽回?」
「ごちゃごちゃになってんぞ」
「もういい、後にしろ。小娘、そんなものを考えている場合か?」
 正しい言葉がそんなもの扱いされてしまい、3人はどよめいた。
「うう、はい…タイチのお母さん」
 考えるのをやめたセシリアは思考をリセットした。
 そのせいで、教えてもらった言葉も消去されてしまう。
「何か…聞こえてこないか?」
「歌っぽいね」
「おい、それって呪いの歌じゃねぇ!?」
 のんきに言う章の傍ら、太壱が騒ぎ声を上げた。
「サボテン、私たちに呪いの抵抗力を」
「かなり強い呪いようで〜。かか様の精神力を、たくさんちょうだいすることになりますぇ〜」
「それも止むを得んな」
 渋っていては遂行出来ないだろうと判断し、いくらでももっていけと告げた。
「タイチのお母さん。アークソウルでの抵抗力は、ダメージが通らないってわけじゃないんです。解毒薬をもらえると嬉しいです」
「完全にゼロというわけにはいかんのか」
「ええ。特に、普通のスキルとは違うようですからね」
「ふむ…。サボテン、頼めるか?」
「はいな、お任せを〜」
 エキノはトゲトゲのサボテンカップに、水のような透明の液体を注ぐ。
「ほら小娘、持っておけ」
「持ち手がないように見えるんですけど?」
「(樹ちゃん平気なんだね…)」
 柔らかそうに見えて、実はかなり鍛えられているのかなぁ…と見つめた。



 作り置きの解毒薬は誰も持っていられないということで結局、樹が抱えることになった。
 アウレウスもこれに習い、ウィオラに薬を準備させた。
 薬は紫色のキレイなカップに注がれ、誰でも手に持てる状態だ。
「一般人の住まいだろうか?室内が暗いようだが…」
 人がいるか確認しようとグラキエスは窓から部屋の様子を覗く。
 中は真っ暗で明かりがついていない。
 ドアノブを回してみると鍵がかかっている。
 単に留守なのか、それとも家の者は中にいるのか、入ってみないと分からない。
 それを確かめようとノックしてみた。
 ―…が、いくら待っても返事はなかった。
 本当に不在かどうか戸に耳をあててみると…。
 “ゲコゲコッ”とカエルの鳴き声が聞こえてきた。
 ベルクに頼んだグラキエスは、それが魔性なのか分身か…それとも変身させられた者の声か、アークソウルで探ってもらう。
「気配はあるな」
「どっちだ?」
「魔性の気配じゃない。…たぶん人かもな」
「鍵がかかっているな蹴って入りましょう!」
 セシリアがドアを蹴破り、家の中へ入った。
「ツェツェ、人の家を壊すなよ」
「開けられないなら仕方ないでしょ。町に鍵屋さんがいるかもしれないけど、探している時間がもったいないもん」
「えー…」
「な、何よその顔はっ。パパーイが費用を払ってくれるから大丈夫」
 始めからアルテッツァに修理費を払ってもらう考えだったようだ。
 今後はメールに、“状況にもよりますが、やたらと物を破壊しないようにお願いします…”と書かれるだろう。
「鳴き声が聞こえなくなったな。怖くなって隠れたんじゃねぇ?」
「うっ。……あ、あのー、誰かいない?怪しい者じゃないの、あなたたちを助けにきたのよ」
「おーい。グラキエスの頭に何かいるぞ」
 彼の頭の上に生き物らしきものがいるとベルクが感知した。
「―…?」
 指で触れると、ぐにっという感触があった。
 それを掴み目を凝らして見る。
 暗がりにだんだん目が慣れてきたグラキエスの視界に、茶色のカエルがいた。
「カエル…」
「変身させられた人でしょうか。グラキエス様、ホーリーソウルを使ってみます。そのカエルをこちらへ」
 手の平サイズのカエルを受け取ったエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は、ホーリーソウルの光で照らし聖なる気を送ってみる。
「何やら影が現れましたね」
「呪いにかけられているということか」
「おそらくそうでしょう」
「結界石の神籬で境界線を引いておく。そこで治してやるといい」
「ありがとうございます、グラキエス様」
 エルデネストはフローリングの床に屈み、呪いの解除に集中する。
「どっかから鳴き声が聞こえねぇか、ツェツェ」
「明かりつける?分身のほうは気配がないっていうから」
 薄暗い状態では見えづらいからとセシリアが手探りでスイッチを探す。
「どこかしら…あった!」
「これって、どうでもいいものまで探知しちゃうわけ?」
 アークソウルで調べようとしたヴェルディーは顔を顰めた。
 小さな無害な生き物までひっかかってしまうからだ。
「それの勘定は省いて探さなきゃいけないのよ、ヴェルレク」
「習うより慣れろっていう部類なのね」
 セシリアと範囲が被らないように、離れて鳴き声がした場所を探し歩く。
「閉じたドアを開けなきゃいけないってイヤよね」
「でも、開かないと分からないし?」
「アンタ、いい度胸してるわ」
 何がいてもお構いなしという態度で、進入しようとするセシリアの堂々とした姿に嘆息した。
 だが、すぐに閉じてしまった。
「あら、何もいなかったわけ?」
「ううん。気配がないのがいたわ」
「それってアンタ…」
「分身がステイいてたみたい」
「もっと慎重になりなさいよね」
 てへっと笑うセシリアに呆れ顔をする。
「ていうか気づかれているし!」
「筋肉ダルマ、早くなんとかしなさいよっ」
「結局、ツェツェのフォローかよ」
「緑の泡…?ポイズンブレスだわっ。タイチ、わたしから離れないでね」
 毒に対する抵抗力を高め、詠唱中の太壱を守る。
「…唸れ、裁きの嵐!」
 太壱は雨粒を竜巻のように暴れさせ、気配のない分身の真下に発生させる。
 僅かに掠めた程度で、すばしっこいカエルは後ろへ跳躍して直撃をくらわなかった。
「くそ、外したか」
「必中じゃないからね。上手く追い込まなきゃだよ、太壱君」
「何やってんだ、まったく」
 ベルクは炎の翼で分身の周りを飛び周り、分身の行動範囲を縮める。
 本体から邪魔者は倒せと命令されている分身が、ポイズンブレスを吐き出す。
 ラバーソウルの灼熱の炎で、猛毒の泡はパチパチと弾けて消える。
 ほとんど身動きが出来なくなった分身に、太壱はもう一度裁きの章を唱えて相手の真下に雨粒の嵐を巻き起こす。
「命中させてやったぜ親父!」
「よく出来ましたって、二重丸あげるよ」
 哀切の章の祓魔の光を、光の筋を鞭状に変化させて振る。
「ふぃー、なんとかやっつけたな。つーか、鞭とかってこぇーな親父」
「そうかなー?刺したりするもんじゃないし、試してみたかったんだよね。これで捕まえたりっていうのは無理だけどさ」
「ああ、まぁそうだけどな?」
 効果の対象的に自分のお仕置き用…にはならないものの、余計な助言するとこえーこと実現させられるかも、と思って言わないでおいた。
 太壱たちがリビングに戻ると、呪いの解除がすでに終わっていた。
「お帰り、皆…。魔性がいたのか?」
「分身のほうが1匹な。他の部屋を俺らで見てきたけど、そいつの他にはいなかったな」
「ここはこれで終わりか」
「他の建物も見回ったほうがよさそうですが。いかがいたしましょう、グラキエス様」
「境界線はどこまで距離が離れても使えるか…、まだ分からない」
 初めて使う宝石だし、消耗度合いも不明。
 町の人を置いていっても大丈夫か判断が難しい。
「では、こうしましょう。また、変身させられてしまったら、町の出入り口辺りに来てもらっては?」
「そうしよう。治療を行える者を集めて解除すれば、早く元の姿に戻せそうだ」
 グラキエスはエルデネストの提案に頷いた。
 カエルにされたら指定の場所へ向かうように告げ、彼らは一軒屋を跡にした。



 ショップに入る直前、和輝からの定期連絡がグラキエスに入った。
 治療した者が、再びカエルになってしまったら、指定の入り口まで向かうように伝えてくれと和輝に告げた。
 彼はテレパシーで実戦に参加している者たちに伝達する。
 “緊急事態の場合、応援要請はこちらで行う”と告げ、グラキエスとのテレパシーを切った。
「今…和輝にさっきのことを、皆に伝えてもらうように言っておいた」
「テレパシーを使える者がいると、情報の伝達が早いですね」
「それと応援にこれそうな者は、向こうで探してくれるらしい」
「ほう…。それはありがたいですが、あちらも大変でしょうからあまり呼ばないように善処しましょう」
「逆に、呼ばれることもありそうだ」
「グラキエス様がお望みとあれば参ります」
 望むままに承ります、と笑みを浮かべた。
「さて、調べてしまいましょう」
「ここも暗いな。…ドアは開いてるようだが?」
 先ほどの民家同様、店内は明かりがつけられていない。
 アークソウルで気配を探り、カウンターや商品棚の隙間に隠れている茶色のカエルを見つけた。
「念のため、境界線を引いておこう」
「治療に集中させていただきます」
 エルデネストはそう告げるとエレメンタルケイジに触れて静かに祈る。
「本体が近づいてきているようだな。フレイ、準備しておけ」
「はい、マスター」
 フレンディスはハイリヒ・バイベルを開いて待ち構える。
「壁から進入してきたぞ」
 不可視化しているベールゼブフォが壁を通り抜け、ショップへ進入してきた。
「か、かわいい嫁、いっぱい。皆、ワレのモノッ」
 娘3人のうち誰かだけ…と選ぶことをせず、全て自分のものにすると宣言した。
 呪いの音符で彼女たちをカエルに変えてしまおうとカエルソングを歌う。
 アウレウスはウィオラに命じ、呪いに対抗する香りを使わせる。
「なななぁぜ、カエルにならないゲコー?その、花のやつのせいかゲコォ!ワレの嫁を奪うの許さないっ」
「ここにおまえの嫁になるものはいない。立ち去るがいい」
「わたしたち、あなたの嫁になったことなんてないけど?言葉は正しく使いなさいよ」
 “ツェツェは四字熟語を間違えるけどな”と太壱につっこまれたが無視した。
「もう一匹いたゲコー。…おまえ、女ゲコ?」
「失礼ね、アタシは男よ!」
「人間界でいうオカマかゲコォ」
「ア…アンタ、禁句を言ったわねっ」
 オカマ呼ばわりされたヴェルディーは、殺気に満ちた目つきでベールゼブフォを睨んだ。
「ヴェルク、怒らないの。宝石の能力が低下しちゃうわよ」
「うぅー…。こんなことまで我慢しなくちゃいけないなんてっ」
 セシリアに注意された彼は怒りを静める。
「気分悪いゲコ、ワレを騙した罰を与えるゲコッ」
「はぁあ?騙してないし、勝手に勘違いしたんでしょうが」
 わがままほうだいの魔性はヴェルディーの話を理解しようとしなかった。
 逆ギレした彼は分身を発生させ、ポイズンブレスで襲わせる。
「2人はアタシの後ろにいなさい。(抵抗力を上げても、受け続けるのはまずいわね)」
 猛毒の泡がヴェルディーに触れて破裂する度に、徐々に侵食していく。
「魔道書、飲んでおけ」
「ありがと…って、いやぁああっ痛いんだけど!」
 サボテンカップのトゲが刺さり悲鳴を上げる。
「仕方がない、飲ませてやろう」
「んんぐ…何も味がしないわね。花の魔性の薬って、甘いものだとセシルに聞いたのに」
 花の蜜風味でなく水に近い味しかしなかった。
「セシルは大丈夫かしら?」
「小娘は金色の鎧からもらっているようだ」
 問題ないというふうに、樹は2人のいるほうを指差す。
 ウィオラが作った薬をもらったセシリアは美味しそうに飲んでいた。
「これじゃきりがないよ」
 太壱が弱体化させた分身へ光の鞭を振るっている章が言う。
「主、お飲みください」
「ありがとう、アウレウス」
 薬を飲み干したグラキエスは“甘いな”と小さく微笑んだ。
「なんだか辛そうだ…大丈夫か?」
「はい…っ。主をお守りするのが、私の使命ですから!」
 口ではそう言いつつも精神力を供給量する負担が大きく尽きかけていた。
「な、なんだ…?力が…っ」
「カカ様はウチの能力を使い過ぎてしまったんです。ウチとしては、休んだほうがよいかと思いますぇ」
「いや、続けろ。本体への突破口を作らなくてはっ。小娘、香水はまだ持っているか?」
「まだ使っていませんけど、タイチのお母さん」
「忍び娘に使わせろ」
「あ、はいっ。…受け取って!」
 セシリアは香水をフレンディスへ放り投げる。
「え…えっと?」
「それ使って、本体をとめて」
「了解いたしました」
 フレンディスは自分とベルクに香水をかけた。
「行くぞ、フレイ」
 彼女を抱えてエターナルソウルの加速でブレスをかわし、本体のほうへ突っ込む。
 白の衝撃の白魔術の気を纏ったフレンディスは、贖罪の章を唱えて裁きの章の雨を放つ。
 完成した試作品の章の力で命中距離が広がり、かわそうとする本体を逃さなかった。
 なんとしてでも3人を嫁にしようとする魔性がカエルソングを歌う。
 樹とアウレウスの精神力が尽きてしまい、使い魔が帰還して香りの効果も消えてしまった。
 セシリア、太壱、樹、章、ヴェルディー、グラキエスを庇ったアウレウスがカエルにされた。
「フレイ、哀切の章だ」
「はいマスター」
 1度目の術は外してしまうものの、連続で放った2撃目の祓魔術を命中させた。
「うぐぐ、力が入らないゲコォ〜」
 ベールゼブフォは抵抗力を失い、へたばってしまった。



 カエルソングの呪いの解除を行っている間、フレンディスは逃走しようとするベールゼブフォを、悔悟の章の重力の術で体力を減退させてベルクに見張ってもらっている。
「―…ふぅ。これだけいますと、かなり時間がかかりますね」
「お疲れ様、エルデネスト。それとアウレウス…すまない。俺を守ってカエルにされてしまったな」
「いえ、主が無事ならばそれでよいのです!」
「ありがとう…」
 守ってくれたパートナーにグラキエスは感謝の言葉を告げた。
「はー、やっと戻れたわ。さぁてと、あいつに言ってやらなきゃ気がすまないわ」
 セシリアはカエルの魔性がいるであろう場所へ、ずんずんと詰め寄る。
「やいこのボケガエル!あんたこんな所に陣取って何をしようとしているのよ!そもそも、あんた何がしたいわけ?ご飯のため?寝床のため?それともお嫁さんが欲しいの?」
「…ちょっとセシル、そんな言い方だと要らない怒りを買うわよ。全く、全然考え無しのチンクシャ娘なんだから」
 まだ怒り足りないセシリアの口をヴェルディーが片手で塞いで黙らせる。
「で、改めて聞くけど、アンタたちって色々と欲深いって聞いたわ。色々欲しいものが有るみたいだけど…。この地を足がかりにして、何かを得ようとしているようにも見えるわよねぇ」
「欲しいものは力ずくで奪えば、自分のモノになるゲコ。だから、ここもワレらのモノゲコ」
「―…それって正当な理由なの?その様に貴方が言う根拠は?念書とか石版とかってあるのかしら?」
 普通の言葉が通じない相手に、細かく説明しても無駄だと理由を聞く。
「これを見なさい。ここは、ある家の者が管理してるのよ」
 ラズィーヤから預かったコピーの書類を見せ付けるが…。
 アクアブレスでぐちゃぐちゃにされてしまった。
「あららコピーでよかったわ」
「イヤだ、ワレのモノゲコォー。奪い取れば、ワレのモノになると、言っていた!」
「うそくさいわね、誰が言ったのよ?」
「黒いフードを着たやつらゲコー。おかしな術を使うゲコォー」
「え、おかしな術って?」
 どうやら空想の者のことではないようだ。
 それがいったい何者なのか分からず、ヴェルディーは首を捻る。
「おまえらの術と反対なエネルギーだゲコー」
「邪悪な力を使うってこと?おかしなっていうことは、アタシたちが普段使っていたスキルとかじゃなさそうね」
「あんたに奪えばいいって吹き込んだのはどんなやつ?」
「ワレは知らんゲコ。他のやつが知っているかもだが…」
「隠すとためにならないわよ!」
「チンクシャ、他のやつに聞けばいいじゃないの。先生たちのほうも、何か調べているみたいよ。まだカエルになりっぱなしの人がいるでしょうから。探しに行くわよ!」
 怒って暴れ出される前にセシリアを止めた。
 けしかけた者の情報を探すよりも救助を優先させた。