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この中に多分一人はリア充がいる!

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この中に多分一人はリア充がいる!

リアクション

「っつーわけで、これ以上手を出す奴が居たら犯人とか関係なく問答無用ではっ倒すからな」
 そう言ってキロスが正座した一同を睨み付ける。気づいたら随分と人数が減ったものだ。どれもこれもリア充とは関係ない気がしてならないが、きっと気のせいではないはず。
「で、本題に戻る。どこのどいつが俺を殴った犯人のリア充なのかだ」
 キロスがそう言うと、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)がゆっくりと手を挙げた。
「あ? お前が犯人のリア充か!?」
「あん? いや俺は別にリア充ってわけじゃねぇよ。ただ今の醜いチクリ合いを見て思いついた……じゃなくて思い出したんだがよ」
 恭也はそう言うと、何かを探す様に辺りを見回し、小さく「ああ、丁度いいのが居たわ」と呟くと指さした。
「あいつ、確か色んな女に手出してたわ。リア充に違いないだろ」
 恭也が指さした方向にいたのは、
「……は? 俺?」
意外そうな顔をした紫月 唯斗(しづき・ゆいと)であった。「そーそー」と恭也が頷く。
「あの忍者、嫁いるのに仲間やら某葦原の総奉行やらその他諸々、手広く手を出しているようで」
「い、いやいやいやいやいや! 俺がリア充なわけねぇって! 何言ってるんだよ!?」
 恭也に言われ、唯斗が慌てて首を横に振り否定する。
「いえ、私も同意見です」
 アルマーがゆっくりと立ち上がった。
「貴方、葦原の総奉行に仕える立場よね? さっきグレンも言っていたけど、それはヴァルキリーにとってリア充に相当する事……」
「それはヴァルキリーの話だろ!? 俺は違うだろ!?」
 唯斗の言葉に、アルマーは「まだある」と首を横に振る。
「さっき言われたように貴方は奥さんもお子さんもいるじゃない! いいえそれだけじゃないわ! 【狙われたリア充】の二つ名で呼ばれた事もあるじゃない! これ以上ないリア充の証拠よ!」
「ほぉ、中々面白そうな話じゃねぇか……」
 ゆらりとキロスが動く。それを見て、唯斗が立ち上がり、身振りを加えて否定する。
「いやいやいやいや! リア充じゃねぇっての! 大体『仕えてる』とか言うけどな、大変なんだぞ実際!」
 そう言うと唯斗は腕を組み、語りだす。
「大体明倫館じゃ大概無茶振りでハードな徹夜コースもあるし、思い付き行事では準備から片付けまでさせられるし、下僕扱いで雑用からガチ任務まで四六時中こき使われるし」
 うんうん、と一人納得したように唯斗は頷き、更に続ける。
「それにな、紫月家内では俺は権力ピラミッドでは底辺だぞ? 見た目は良いが中身が残念な阿呆魔鎧は襲撃して来るし、タイミング悪く脱衣場で鉢合わせて、全員から追い掛けられたりするし……肩身の狭いこの身分で何処をリア充っていうんだよ!?」
 そう力説する唯斗であったが、その場にいる者達の視線はそれはそれは冷たい物であった。
「あー、ちょっと質問。その阿呆魔鎧の襲撃って、どんな感じ?」
 恭也が問うと、唯斗が顎に手を当て考える仕草を見せる。
「え? そうだな……大体真夜中だな。俺が寝床に入っている時に襲い掛かってくることが多い……というかそれしか来ないな。襲撃かけるくせにやけに薄着だったり顔赤くしてたり、一体なんだってんだよ」
「あーうん、よく解った」
 恭也がうんうんと頷いて、こう言った。
「紫月君、ダウトー」
 その場にいた唯斗以外の全員が頷いた。どう考えても夜這いでダウトです。
「は!? 何でだよ!?」
「よしよくわかった。ちょっとこっち来い」
 キロスが唯斗の首根っこを掴む。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はリア充でもないし犯人でもな――」
「いや、犯人とか関係なしに死んだ方がマシ、と思わせてやる。なに、最悪死ぬだけだ。安心しろ
 そう言ってキロスは唯斗を引き摺って行く。その後を何人かが着いて行った。

――そこから行われた行為は、一部の業界でも拷問としか言いようのない物であった。
 何が行われたのか、詳細を述べると年齢指定がついてしまうため割愛させてもらう。
 ただ言えるのは、時折『指って10本もいらないよな』とか、『道具持って来い。忍なんだから耐え忍ぶのは得意だろ』とか、『何、人は簡単に死なないから』とか、『そういやさっき【淫獣】いたな。あれ使おうぜ』とか、そんな言葉が聞こえてきたという。
 最初は唯斗の悲鳴が聞こえていたが、やがてその悲鳴も呻き声に近い物となり、終盤では呼吸音すら聞こえるかどうか、となっていたという。
 ミンチよりも酷い状態になりながらも虫の息となった唯斗は放り捨てられた。放っておけば地面の養分になるだろう。
 
 さて、話は戻る。
「ふぅ、大分すっきりしたがアレにやられたとは思えないな……ん?」
 キロスが目にしたのは、先程フルボッコにされた裁であった。地面にひれ伏した状態で手を挙げている。
「なんだ、まだ何かあるのか?」
 キロスがそう言うと、「へへ」と裁が力ない笑みを浮かべる。
「け、拳友……あの人、アリスのペットらしいですぜ……な、なんでも……色々と『遊んでる』とか……ねぇ、オチラギさん?」
 そう言って裁が指さしたのは、恭也であった。
「なん……だ……と……!?」
 驚愕する恭也の顔を見て、裁は満足げに笑みを浮かべる。
(な、何だってあいつ俺を巻き込んだ!? ていうかペットって何だペットって!?)
 そのような事実があるのかは定かではないが、一つだけ確かな事がある。
(ふふふふふ……地獄に行くのは一人でも多い方がいいのだよ、オチラギさん
 このチクリがただの裁の八つ当たりであるということだ。
(くっ……どうする……!? キロスの目は完全に俺をリア充と疑っている目だ……こうなったら奥の手を使うか……!)
 恭也は覚悟を決めた様に一度頷くと、キロスに向き直る。
「そういやさっき散々言われてたけどよ、キロスもリア中の一人だよな。見たぞ? ハデスの所のアルテミスとデートしてたところ
 恭也の言葉に、キロスの目が見開く。
(お、これは効果あるか!?)
 キロスのリアクションに手ごたえを感じた恭也は口の端を上げ、笑みを浮かべる。
 このまま暴露して周囲の目をキロスに向ければ誤魔化せる。そう恭也は確信していた。
「いやー随分と仲がよさそうだったなぁそういや。あれはいつの話だったっけ――え?」
 気づいた時には、恭也の目前に爆弾があった。

――恭也は考えていなかった。キロスが口封じに走る、という行動に出る事を。

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 爆音と共に、恭也の悲鳴が上がる。
 爆風の後に残ったのは、ゴミの様になった恭也だった。

「……最後の最後で余計なことを」
 キロスが小さく呟く。
 その背中には、冷たい視線が突き刺さっていた。