天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

水宝玉は深海へ溶ける

リアクション公開中!

水宝玉は深海へ溶ける
水宝玉は深海へ溶ける 水宝玉は深海へ溶ける

リアクション

 入り口の扉を適当な術で爆破すると、巻き上った粉塵の影に隠れて、雅羅達は突入していく。
 ホールに待ち構えていたのは、一般隊士達のようだ。
「ここは俺が! 皆は先に行ってくれ!」
「僕達も残るよ、ジゼルさんをお願い!」
 湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)清泉 北都(いずみ・ほくと)の声に押されて、皆はそれぞれ目的に向かって散開していく。
 北都は地面に指先を付けると、ジゼル救出へ向かう仲間を追いかけようと走る兵士の足下に向かって、
集中的な吹雪の力を流し込む。
 それは兵士達の立つ地面を凍らせ、彼らの足を取った。
「悪いけど、少しの間そのまま我慢してね。

 ――リオン、もういいよ!」
「任せて下さい」
 仲間があらかたその場を離れた事を確認した北都の合図に、
彼の傍らに立つリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は身体の中に貯めていた光りを刃と化して発散した。


「例の子は直接知らないけど、友達の友達は皆友達だしな!」
 忍は光術による目眩ましを放った。
 リオンの矢を受けた兵士のうめき声と混乱と走る足音とで滅茶苦茶になったホールの中で、
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は忍び装束の袖に腕を突っ込んだまま、マイペースに後ろの後輩に向かって声を投げた。 
「なあ、耀助。ジゼルって可愛いよな」
「あー見た見た? 可愛いよねぇ。しかも近くに行くとふんわりお花畑みたいないい香りがするんだよ。
あれがこの人らが言う『兵器セイレーンの力』ってやつかな」
「ははっ。
 そんな可愛い子は護らないといけないよな」
「そうだねぇ、女の子は皆護ってあげなくちゃな」
「そんじゃ、行こうぜ後輩、
 ちと格好良く――ジゼルを助けによ」
「おし、行こうぜ先輩」


「「先陣貰った!」」
 重なる声は二つに分かれ、耀助は上へ消え、唯斗は下へと走る。
 大理石の床に、壁紙の剥がれかけた壁にすら縦横無尽に走り回る唯斗のスピードは早く、一般兵士程度では捉える事は適わない。
 そうする間に張り巡らせていた糸が彼らを気づかれないうちに拘束していた。
「糞っ! 何だこの糸は!!」
 悪態をつきながらナイフでそれから逃れようとする兵士らの上に消えていた一つの影が掛かった。
 上半身をしならせてバネのように戻すと、耀助の手から無数のクナイが放たれる。
「必中!」
 言葉通り敵の肉体の要の部分にクナイを正確に当て音も無く降り立った耀助に背中を預けて、
唯斗はグラブに包まれた手を顔顎の前近くに置き脇を閉める。
「カッコいいじゃねーか後輩」
「そっちもな先輩」
 二人を囲む新たな陣形を組み出した敵に目線を向け、唯斗は不敵に笑う。
「明倫館の馬鹿二人、だけどな」
「でもな……馬鹿の本気、甘く見てると後悔するぜ!?」


 同じ頃、リオンはホールに続いていた小部屋の扉をピッキングで開き、その中へ飛び込んでいた。
「ええっと……」
 目に留まった扉付近の棒を拾い上げ、リオンは指先でつっついて強度を確認する。
「この突っ張り棒で、丁度いいですね」
 そして準備していた『袋』を取り出すと、空気を掻き回すようにワサワサーっと振り回して突っ張り棒にそれをひっかけていく。
 それは北都が予め用意していたもので、中には彼が唯斗と耀助の暴れ回る隅でこっそり集めたビルの脆い部分が入っていた。
「さあ、準備OKです」
 その場に居ない北都に向かってリオンは微笑み呟くと、
北都のハンドコンピューターへ自分の位置を送信し、そこから逃げ出した。


 その頃一部の隊士達は、唯斗と耀助を狙う隊士ら邪魔する為の矢を放っていた北都に目をつけたようだ。
「キリがない! 奴を先に仕留めろ!」
 一人の声に、他の兵士達は続いて行く。
「そうそう、こっちだよ兵隊サン」
 思わず笑顔が出てしまいつつも、北都はハンドコンピューターに表示された場所へ向かって一直線に走って行く。
 追いかけてくる兵士達の数は十分だ。
 開いたままの扉から部屋に入ると、北都はわざと壁に張り付き、周囲を落ち着き無く見回す『演技』をした。
「はは、野郎、追いつめたぞ」
「観念して投降しろ!」
 10を越えるサブマシンガンの銃口を目の前に、北都は何か技を使う様な派手目のモーションを見せ、
そしてそれに反応した兵士達の間をすり抜けて、扉を背中ごと思いきり閉めた。
 すかさず扉と背中と間へ腕で割って入るリオンが扉に鍵を掛けると、二人は何メートルか離れた所迄飛ぶ様に走り去る。

 そしてリオンは件の部屋の扉に向かってマッドサイエンティストが作った無駄にごちゃごちゃした銃を正確に構え、
銃弾を発射した。


 突如起こった揺れと冗談の様な爆発音に、ホールに居た兵士と唯斗達は動きを止めてしまった。
「なんだなんだぁ!?」
 敵の懐に飛び込んで肘を喰らわせている唯斗に、耀助は若干引き気味の笑顔で答える。
「粉塵爆発だろアレ」
「ふんじん……何?」
「空気中の粉塵と、火と酸素を全部合わせて――ドカーン。
 二人して何か集めてたし」
 耀助が視線を爆発現場へ戻すと、そこからギリギリ無事な場所に忍が尻餅をついて口を開いたり閉じたりしている。
 言葉はまだないが、爆発を目にした瞳は未知の恐怖に戦いていた。

「皆は先に……って言ったけど…………あ、あ……

 やっぱ無理かも!!」