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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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悲劇がおそった町とテンプルナイツの願い

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第1章 弱者に這い寄る物達

「……クケケケ」
 黒い羽を生やしたショートデーモンが、空から薄気味悪い笑い声を上げながら、町人達を追いかける。
 グランディス町の商店街で、若い子供と大人達が30人ほど、群れとなって逃げ惑っていた。
 しかし、その中の若い10歳くらい女の子が突然走ることをやめ、しゃがみ込んだ。
「ちっ……何をやっている!」
「足をくじいちゃって走れないよぉ……なんでこんな目に遭わないといけないの」
 一緒に走っていた50歳くらいの男が声を荒げると、しゃがみこんでしまった女の子は涙声で答える。
 その間も、ショートデーモンだけではなくゴブリンまでもが後ろから追い上げてきていた。
「言ってる場合か!!! 逃げるぞ!!」
「クケケケッ!! コドモトオトナミツケタゾッ!」
「もうやだあああっ!!」
 かんらかんらとした声が突然背後から響いた。
 背中に寒気を感じながらも男は後ろを振り返ると、ゴブリンが剣をまさに男達へと振り下ろされようとしていた。
「ぐっ、だめか……」
「っ!!」
 男がまさに目をつむり覚悟したときだった、別の若い声が背後からする。
 そこには振り下ろされた剣を自身の肩に受けた清泉 北都(いずみ・ほくと)の姿があった、

 幸いにも剣は、深くは刺さらず。血がにじむ程度の浅い傷となっていた。
「……クナイっ!」
 北都は肩の痛みをこらえながらも剣の先をつかむとクナイ・アヤシ(くない・あやし)の名を呼んだ。
 遅れて建物の影からクナイは出てくると、北都に剣を振り下ろしたままでいるゴブリンを睨み付けた。
「やってくれましたね!」
 クナイはすばやく剣を構えると、ゴブリンに向けて突き進む。
 ゴブリンも回避行動を取ろうとするが、剣を北都に握られておりとっさに避けることが出来なかった。
「ガアアアアアアッ」
 ゴブリンは悲鳴を上げるとその場に倒れた。

「あ……ありがとう」
 男が、2人に向けてお礼を言う。
「いえいえ〜無事でなにより」
「まったく、子供の悲鳴を聴くなり突然居なくなるのはやめてほしいものですよ……」
 クナイがため息をつきながら、女の子のくじいた足にヒールをかける。
「……まあ、善処したいところだけど。それどころじゃないみたいだねぇ」
 北都は軽く苦笑を浮かべながら言った。
 気がつけば、先に群れとなって逃げていた町人達の前はゴブリン達が並んでいた。
 さらに、背後。北都達のそばでもゴブリン達、その上にショートデーモンが13匹は飛んでいた。

「ケケケ、もう人間ニゲラレナイ」
 デーモンは、逃げる人間達の前後に障壁を張り逃げ出せないようにしていた。
「う〜ん……逃げられなくなってしまったねぇクナイ」
「……やはり無理ですか」
 クナイは【禁猟区】で何とか、町人達を逃がすための安全な道を探ろうとするが、デーモン達の魔法のせいなのか見つからなかった。
 町人達も合わせ、全員が絶体絶命だと思ったそのときだった、空が突然光った。

 空の上で、赤嶺 卯月(あかみね・うき)は【空飛ぶ箒スパロウ】に乗りショートデーモンへ【サンダーブラスト】を放つ。
 ショートデーモン達は電撃に一瞬ひるんでしまうと、障壁が解かれた。
「グ……!」
「お兄ちゃん、今です!」
「はい!」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は卯月の後ろでワイバーンにのっていた。
 霜月は卯月の合図を聞くと、すぐにワイバーンに【ブレス】を放たせる。
 ブレスは町人達の前をふさぐゴブリン達を次々と焼き尽くしていった。
「そこの人達、今のうちに!」
「ありがとう! でも、あまり建物は壊さないように気をつけて!」
「え、わかりました」
 思わぬ北都の言葉に、霜月は恐縮になりながらもゴブリン達をなぎ払っていく。
「北都、前です!」
 町の人々、北都達の前に再びゴブリンの群れが並ぶ。
「みんな! 手を繋いではぐれないようについてきて!!」
 北都は前に立ちはだかるゴブリン達へ向けて、【ホワイトアウト】をかけると叫んだ。
 目の前は吹雪で真っ白になり、視界が奪われ、ゴブリン達は完全にこちらを見失っていた。
 北都は、町の人々をつれ見当違いの方向を向いているゴブリン達の横をすり抜ける。
 全員が離れた場所を避難するのを確認して、霜月はブレスでゴブリン達を一斉に焼いていった。

「お兄ちゃん! あれを見てください!」
「ワイバーン!?」
 ブレスによって視界が見えてきたとき、卯月は驚いたような声を上げた。
 北都達の逃げた方向とは、別の方向からワインバーンがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
「みなさん! 物陰に逃げてください!!」
 霜月は大声を上げて、地上にいる北都達に連絡を取ろうとする。
 しかし、全員逃げるのに必死で霜月の声は届いていないようだった。
 そうしている間にも、ワイバーンの口に炎がはき出されようとする。
「間に合って!」
「グオオオオオッ!!!!?」
 卯月が間に合うように祈りながら、ワイバーンに向けて【サンダーブラスト】を放つと見事にワイバーンの頭へと直撃する。

「な、なに!?」
「ワイバーンですか!」
 突然の雄叫びに、北都とクナイは上空を見上げた。
 ワイバーンは、頭に電撃を受け。空を、上へ下へふらふらと飛び回っていた。
 すかさずクナイは飛び回るワイバーンへ向かって【我は射す光の閃刃】を放つ。
「グルルルルッ……グアアアアアアアアッ!」
「逃げようっ、クナイ!」
 北都達は、ワイバーンがひるんでるうちに裏の路地へと姿を隠し、安全な場所へ向かう。
 霜月はそれを見届けると、ほっと一安心し、ワイバーンを倒すことに専念しようとしたときだった。
「……居ない?」
「え、あれ!?」
 少し離れたところでゴブリン達を一掃していた卯月も目を丸くして驚いた。
 さっきまでふらふらとしていたはずのワイバーンがなんと、一瞬のうちに姿を消してしまっていた。
 あんなにダメージを受けたワイバーンが、そうすぐに遠くに行くはずが無い。そう思った霜月は卯月と共に、しばらく周りを探すが
その姿を見つけることは出来なかった。