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リアクション
第5章 真実を知る住民達
「ワーデル司祭について何か知ってることはありませんか?」
マリアは住民達の避難している室内までたどり着くと、避難する住民達に声をかけていく。
ただ、誰もたいした情報は持っていなかった。
しかし、先ほどから情報集めばっかりに必死になるマリアに八雲 尊(やぐも・たける)は苛立っていた。
「なあ、マリアっての。てめーは手紙の送り主のために犯人を見つけるんだって?」
「……ええ」
「そりゃあ、悪くはねえよ? けど、目の前をよく見ろ!! この町全体が被害に襲われてるんだぞ!
今は、犯人捜しよりも誰かを救う方が大事じゃねぇのかよ!!」
マリアは突然、尊に怒られ。何も言い返せなかった。
けど、マリアにとって今、犯人を捜さなければ逃げられてしまうと感じていたのだった。
マリアはもはやどちらを優先すれば良いのか考えられなくなっていた。
「マリアさん、我はなんとしても犯人を捕まえたあなたの気持ちは分かる。
けど今は住民を助ける方に徹した方がよいのではないのだ?」
「ごめんなさい……つい……」
天禰 薫(あまね・かおる)がむっとした表情で言うと、マリアは頭をたれて反省する。
薫は心の中からマリアの気持ちは分かっており、理解していた。
しかし、それ以上にマリアに対して言いたいことがたくさんあったのだった。
「それと――」
「きゃあああああああああああああああっ!」
「表の方からなのだ!」
突然表路地のほうから、女性の叫び声が響き、マリアと薫達は大急ぎで飛び出す。
そこには座り込んで怯える女性が1人と、何かに対峙するように後ろ向き立った女性が3人いた。
「おい、無事か!?」
熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)と薫が怯えた女性の元へと一目散に駆けつける。
女性はただ、目の前を指さすだけで何も喋ろうとはしない。
むしろ、何かに驚き喋れなくなっているようだった。
「すまんが、前の敵を倒すのを手伝ってくれんかのぅ?」
退治する女性のうち1人、神凪 深月(かんなぎ・みづき)がつぶやいた。
そんな深月を横から見た、尊は目をぱちくりして驚き、声を上げた。
「なんで、お前どんぶりもってんだ!?」
「ん、ああ。これはじゃの、そこのどんぶり屋でおいしくいただいたんじゃ」
路地の一角を指さして深月は説明する。しかし、尊はそういうことじゃなくて。とさらに説明を求める。
「……今はそれどころじゃないのです……前を見てください」
深月の横に立っていたリタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)が、前を指さす。
そこには、100は超えるであろうゴブリン達がこちらへ向かって歩いてきていた。
「げっ、まじかよ!」
「ったく、面倒事が次から次へと重なるな。どうするんだ薫」
「もちろん、みんなを守るためにここから先は通さないのだ」
「だとおもったよ」
肩を竦めながら天王 神楽(てんおう・かぐら)は銃、【碧血のカーマイン】を取り出す。
薫も同じように【草那藝之大刀】を構える。
「怪我をしたくないやつは、おとなしく下がるのだ!!」
「ハハハ、コムスメゴトキにヤラレナイゾワレラハ」
勇ましい声で、薫は押し寄せるゴブリンに牽制を送る。
しかし、ゴブリン達は引くどころか笑い声まで上げてこちらへ向かってきた。
それを聞きつけた孝高が、【超感覚】で薫よりも前に素早く飛び出ると、【妖刀白檀】で笑っていたゴブリンを一刀両断した。
「薫をバカにする奴は許さん……ここから一歩でも前に進めば斬るぞ」
冷たい目つきでゴブリンを睨み付け、孝高は次から次へと切り捨てて行く。
「先を越されてしまったようじゃの。さて、私たちもいくのじゃ」
「そんな、無防備で行くんですか!?」
「なぁに、大丈夫じゃ。わらわには”家族”がおるからの」
深月はそのままゴブリン達の方へと向かっていった。
とおもったら、すぐに折り返してくるなりマリアに丼をつきだした。
「そうじゃった、すまぬがこの丼持っておいてくれぬか?」
「え、私!?」
深月は丼をマリアに渡すと、薫達に続きゴブリンの方へと向かっていった。
マリアは丼を片手に持ち銃を遠くから撃つことしか出来なくなってしまった。
「なっ待つのだ、そんなに前に行っては危ないのだ!!」
肩に黒い子狐の姿をした儚希 鏡(はかなき・きょう)を肩に乗せ、魔鎧となったリタリエイターを身にまとい
まっすぐとゴブリン達へと突き進んでいく。
しかしその先には銃を持ち構えたゴブリン達が居ることに気がついていた薫が、深月を慌てて止めようとする。
が、突然乾いた銃声が鳴り響いた。それは紛れもなく薫の警戒していたゴブリンによるものだった。
「ふっ、きかないのぅ!」
【【常闇の帳】地球人用】で銃弾を吸い込んだ、深月は無傷だった。
素早く、拳銃を持ち構えるゴブリンに近づくと深月は肩に乗っかっていた鏡を手に取ると
鏡は【抜刀術「青龍」】と変形させる。
深月は迷いなく、構えている拳銃ごとゴブリンを切った、
「拉致あかないな……」
次々と押し寄せてくるゴブリン達に孝高はしびれをきらせていた。
「少し右へ行ってください!」
「!」
孝高はマリアの声を聞くなり、あわてて右へと避けた。
銃声と共に次々とゴブリン達が倒されていく。
「あんた――」
孝高はマリアに何故来たのかを言いかけようとするが、その言葉を引っ込めた。
マリアの瞳には、先ほどまでの迷いなんてないような。まっすぐとした視線を感じたからだった。
「住民を守ることに決心が固まった……のか。つくづくよく分からないな。あのマリアというやつは」
そんなマリアを、神楽は【サイコキネシス】でゴブリン達を吹き飛ばしながら興味深そう眺めながらぽつりとつぶやいた。
数分の後、深月と薫たちの活躍により、町人達へむかって突撃しようとしていたゴブリンは全滅した。
「これで、大体片付いたな?」
「……(コクリ)」
鏡はもとの艶やかな黒い躯体の子狐の姿となり、深月の横で深く頷いた。
「どうした?」
「……いや、気のせいだ。気にしないでくれ」
考高は神楽の様子がおかしいことに気がつき、声をかけた。
神楽の心の中では嫌な予感がよぎっていた。
たしかに目の前のゴブリン達は全滅して、住民達の安全は確保されたはずだった。
でも、神楽は何故かまだ安全になった気にはなれなかったのだった。
「あの〜……これ」
「ぬ? おお、わらわの丼!!」
先ほど怯えながら座り込んでいた女性が、深月がマリアに預けていた丼を手渡す。
それを受け取ると、深月は再び箸を手に取り食べ始めた。
中にはまだ半分程度のふんわり親子丼が残っていたのだった。
「……無銭飲食?」
リタリエイターが首を傾げながら、上目遣いに深月に聞く。
深月は苦笑を浮かべた。
なぜなら、お金を払わずに丼をもってお店から出たのは本当だからだ。
といっても、悲鳴を聞いて慌てて丼を持ち出したのだから仕方ない。(なぜわざわざ丼を持ち出したのかはひとまず置いておき)
「後でお見舞い金も併せて詫びしにいくかのぅ?」
深月は苦笑の笑みを浮かべたまま、鏡とリタリエイターにはにかんで答えた。
「ひっかかったわね。愚民ども!!」
「魔女……」
暗い空に、魔女の姿が映る。といっても、実際にそこに居るわけではなく。
ホログラムのように映し出された、魔法の投影だった。
「ほひゃ……なんじゃありゃ」
「この魔物達を引き入れた魔女です」
相変わらず丼のご飯をほおばりながら聞いてくる深月に、マリアは空をにらみながら答えた。
魔女は笑みを浮かべながら。
「そろそろ、真犯人とやらは見つかったのかしらね、マリア?」
「!」
皮肉を含むように、魔女はマリアに問いかけた。
それをかばうように深月が一歩前にでて空の魔女を見つめた。
「そんなことより、お主。今、ひっかかったと言ったな。なんのことじゃ?」
思わず質問を質問で返されたことに魔女は、驚いたかのように目をあける。
その答えはすぐに返ってきた。
「ふふふ……あなた達がここを守ってくれてる間に、この町は私の物になったのよ」
「へ?」
マリア、薫達は一同にして驚いた。
マリア自身、魔物を町に送り込んだのは司祭の陰謀だと、次第に考えていた。
しかし、この魔女の言い方では、最初から魔女の陰謀の元にすべてが動いていたかのようにマリアには思えた。
「まあ、あなた達が邪魔だったから単に、ワイバーンを適度に送ったり、よわっちいゴブリン達に町人を襲わせたりしたんだよねえ」
「すべて、踊らされていたのね。私達は……ワーデル司祭はどうしたの?」
「ワーデル司祭なら教会よ。なんなら来てみる?」
魔女の姿は、再び薄くなっていく。
「まっ、ここまで来れたらね〜あっははははっは」
魔女の高笑いが響くと共に、空はまた元通りの闇へと戻ってしまった。
「……薫さんの言いたいことは分かります。けど、私はやっぱり教会に向かいます」
「なっ、てめ――」
勢いのまま何かを言おうとする尊の口元を孝高はふさぐ。
「死んでしまった信者のためにも、この町の人達にふたたび元通りの生活を送ってもらうためにも、私は行きます!」
「わかったのだ」
強い意志をもつような、そんな強い言葉に薫も軽く頷いた。
「さて、わらわ達も行くかの?」
マリアの行こうとする方向とは逆へ振り向き、深月は言った。
その言葉にマリアは疑問を持つが、すぐに深月はそれに答えた。
「もとより、町人達を守るつもりじゃ。だれかさんの代わりにな」
首だけこちらへ振り返り、笑みを浮かべながら深月は答えた。
「では、我達は避難している町人達をまもるのだ」
「そうだな、またいつあいつらがおそってくるかも分からないからな」
薫と孝高は見合うようにして言うと、そのまま町人達が避難している方へと向かっていった。
「そうだ、マリアさん」
突然、薫は立ち止まるとマリアへと振り返った。
「グランツ教だけがすべてじゃない、マリアさんはもっといろんな世界を見た方がいいかもしれないのだ」
その言葉にマリアは、深くお辞儀すると、薫はふと笑みを浮かべ、そのまま歩いて行ってしまった。
「そこまで信じてもらえる神様がうらやましいな……」
ぼそりとつぶやき、神楽も薫の後を追いかける。
「……みなさんありがとうございます」
残されたマリアは振り向き、教会へ向かうのだった。
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