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リアクション
3.
「えっ、機晶姫の子が子供を産んだの!? それも、もう亡くなっちゃった人の子供を!?」
「僕も友達に聞いただけなんだけど……機晶学的に可能だったようなんです。魔法技術とかも使ったとか」
「へー、魔法も使ったのかー。どんな感じだったんだろう」
博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)と手を繋いで歩きながら、{SNM9999013#リンネ・アシュリング}は好奇心いっぱいの声を出した。今日はお休みだからと買い物に来て、2人でのんびりと、色んな店をまわっている。天気が良いからだろう家族連れも目立ち、小さな子供や赤ちゃんの姿も多く見かけた。
『子供、かわいいねー。元気があって、楽しくなるよ!』
リンネはそんな子供達にきらきらした瞳を向けていて、博季も嬉しそうな彼女の顔に笑顔を向けつつ、『そうですね、かわいいです』と、ほのぼのとした雰囲気の中を歩いていた。ファーシーの話を思い出したのはその頃で、そういえば、こんな方がいるようですよ、とリンネに話してみたのだった。
「今度、会ってみたいなあ。お話も聞いてみたいし」
リンネはわくわくとした口調でそう言うと、通り掛かりのお店に入って小物や雑貨、魔法のアイテム等を眺めはじめる。
(……子供……かぁ……)
その中で、博季は自分達の子供について、何とはなしに考えていた。
(……僕らには、まだ、早い……かなぁ? リンネさんは、どう思ってるんだろう?)
子供のことについて、話し合ったことって無かったけれど。
これは博季だけの問題じゃなくて、リンネの体の問題でもあるわけで。
(一時期とはいえ、思い通りに動けなくなっちゃう、わけだし……)
だから、今まで何となく、話題にしてこなかったのかもしれない。
「あっ、ねえ博季くん、これ見てみてよ、かわいいよ! ……?」
――でも……
「どしたの? 博季くん」
博季の顔の前で、リンネは手をぶんぶんと振ってみたりして「?」という顔で首を傾げる。博季は少し恥ずかしそうに、話し出した。
「リンネさん、僕たちの、子供の……お話……。……ちょっと、気恥ずかしいけど。僕たちの、将来のお話」
「え? あ。う、うん……」
リンネは一瞬驚いて、そして、博季がこの話に思い至った理由に気がついて、もじもじとしつつ頷いた。
立ち止まる2人の前を、小さな兄弟を連れた若い夫婦が通り過ぎる。
「……リンネさんが欲しいって思ったら、僕はいつでも大丈夫だから。すぐにでも、僕は大丈夫だから。
だから、いつでも言ってね」
「…………」
――でも、これだけはきちんと、伝えたい。そう思って優しい笑みを浮かべ、いつもよりも力強く話す博季をリンネはじっと見つめていた。一語一語に意思を込めて、でも、そこからは彼の思いやりも感じられて。
「うん。ありがとう、博季くん」
それがちょっとだけ頼もしくて、彼女はにっこりと微笑んだ。繋がった手は彼の気持ちを示すように温かくて。たぶん今、自分の手もその温度を上げていて。
気持ちが伝わればいいな、とリンネは思った。
「僕、リンネさんと一緒に……。パパとママに、なりたいなぁ。素敵なパパとママに」
再び歩き出すと、何となくほっとして博季は明るい口調で言った。結婚してからしばらく経つけれど、何となく、2人の関係が一歩進んだような気がする。
行く先に、子供服の専門店があるのが見える。中に入ったことはないけれど――
……今から、ある程度は準備しておいても構わないよね?
折角、買い物に来ているのだから。
「ちょっと、幼児用のお洋服とか道具とか、見て行きましょう」
「え? でも……」
リンネは、きょとんとした瞳を博季に向ける。このお店の服を実際に使う日が来るのは、早くても4、5年後になるだろう。
「まぁ、その、買わなくても……。2人で先のこと考えたり、話し合ったりしながら歩くのって、楽しいと思うし」
照れ隠しに頭をかきつつ、博季は言う。それを瞬きひとつせずに聞いていたリンネは、やがてぱっ、とひまわりのような笑顔を浮かべた。
「うん、そうだね! 入ってみよう!」
博季の手をぐいぐい引っ張って、率先してお店の中に入っていく。
「わー、当たり前だけどみんなちっちゃいねー。靴とかもほら! すごいちっちゃいよ!」
店内に並ぶミニマムな洋服を見てまわりながら、リンネははしゃいだ声を上げた。初めて間近で触れる、家族という希望に心を弾ませているのが表情で分かる。
「だけど、これを着せてあげる時には、大きくなったねって思うんだろうねー」
少ししみじみと、少し感心したように、子供用のシャツを広げてみせる。きっと今、彼女の頭の中では幼い子供に服を着せる、自分の姿が想像されているのだろう。
そんな彼女の姿を見て、博季は微笑ましい気持ちに包まれた。
これまで話してこなかったけれど、自分の想いを話す時はちょっと緊張もしたけれど、今日、こうして話すことが出来て良かったな、と、心から思う。
「……ね、リンネさんはどんなママになりたいですか? どんな風な子を育てたいと思います?」
「あたし? ……そうだなあ、子供と一緒に泣いて笑って成長していけるようなお母さんになりたいかな。子供には、リンネちゃんみたいに明るく元気な大魔法使いになってほしいよ!」
自分で言うのも何だけど、とリンネは笑う。明るさと元気さには自信があるからね! と、付け加え。
「それから、博季くんみたいに優しい子にもなってくれたら嬉しいな。……あーもう、恥ずかしくなってきたよ!」
顔を見られるのが恥ずかしい! というように前を向いて、リンネはさっきよりも早足になった。その彼女の後ろを歩きながら、博季は幸せというものを実感する。
「……楽しみですね。僕らの子。ママになったリンネさんも、素敵なんだろうなぁ。フフ」
なんて、まだ、気が早いかな?