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粛正の魔女と封じられた遺跡

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粛正の魔女と封じられた遺跡

リアクション


遺跡侵入阻止

「そろそろくるかな?」
 鍾乳洞。その立ち入り禁止区域とされている場所。そこで遺跡の入り口でもあるそこで侵入阻止にあたっている契約者の一人芦原 郁乃(あはら・いくの)はそう言う。
「ユニコーンへの襲撃が始まったようですから。そろそろでしょうね」
 ぼやぼやしていたらユニコーンの護衛に回っている契約者達がこちらに回ってくるだろう。ある程度ずらすにしても大きくずらす余裕はないだろうと蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は思う。
「しかし、主。遺跡病の予防薬。受け取らなくてもよかったのですか?」
「だって、あたしにはこれがあるじゃん」
 そう言って郁乃が出すのは一つのペンダントだ。ゴブリンキングからもらったマジックアイテム。……昨日一日煮こまれていたあれだ。
 郁乃が『リメイン』と名付けたそれをマビノギオンに見せつける。
「マビノギオンこそいいの?」
「予防薬ですか? 魔導書であるあたしがかかるとは思えませんしいいですよ」
 それにと、マビノギオンは思う。
(もし、魔導書であってもかかる病気だとしても、あたしにはかからないような……)
 そんな気がマビノギオンにはしていた。
(もしかしたら、あたしがまじないのレシピであることと関係しているんでしょうか)
 遺跡病は呪いの要素を含んでいる。そして呪いもまた『まじない』の一種だ。
(……よく分かりませんね)
「けど、粛正の魔女かぁ……もしかして村長の言ってた話の魔女と一緒なのかな?」
「『ミナスの言い伝え』ですね。彼女の納めた街は繁栄を極めたと。……この先という遺跡、アルディリスがその街で間違いないでしょうね」
「もしミナスが粛正の魔女になっちゃったんだったら悲しいよね」
「ええ。ですが……」

「? マビノギオン、どうしたの?」
 言いよどむマビノギオンに郁乃は首を傾げる。
(果たして遺跡が健在だった頃から魔女は一人だったんでしょうか?)
 光とともに必ず闇があるように。繁栄へと導いた魔女の影にその反対を司る魔女がいたような……そんな気がマビノギオンはしていた。
(どうしてかはそう思うのかは分かりませんが……どちらにしろこれを主に伝えるべきかどうか)
 きっと主は遺跡へ向かい調査しようと思うだろうとマビノギオンは思う。
(……なぜでしょう。遺跡の町を思うと寂しい気持ちになります)
 できれば遺跡には踏み入れたくないマビノギオンだった。


「さてと……ここで防衛できるのが一番なんですが」
 遺跡へとつながる入り口で非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はそう言う。
「イグナちゃんの予防薬以外はありませんからね」
 そう言うのはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。基本的に遺跡へと向かう可能性がある人には三本ずつ予防薬が持たさていたが、3本ずつを守ると遺跡担当の契約者全員の分はなかった。そのため近遠たちは辞退をし、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)だけがもしもの時に遺跡へと向かうことになっていた。
「ここで防衛を成功させれば問題ないのだよ」
「そうであればいいのでございますが……」
 イグナの言葉に不安そうな声で返すのはアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)だ。
「粛正の魔女についての情報が足りないのでございます」
 単純な力で優っていても相手の能力がわからないのは不安だとアルティアは言う。
「戦いの情報収集していくしかないですね。……今回で決着をつけられればいいんですが」
「ですわね。……まぁあたしたち四人が揃って後れを取ることはそうそうないと思いますわ」
「油断は禁物なのだよ」
「分かってますわ。力を合わせて、ですわね」
 そう言いながらは近遠たちは備えていた。


 そして、戦端は開かれる。

「……魔法系が効かない?」
 ユーリカのワルプルギスの夜や裁きの光を受けても怯まずこちらへ向かってくる襲撃者を見て近遠は考える。
「ユーリカさんは下がって支援に努めてください」
「了解ですわ」
 近遠の言葉に従い、ユーリカはホーリーブレスで契約者たちの体力の回復に当たる。
「アルティアさん、光条兵器を使ってみてください」
「了解でございます」
 向かい来る敵を光条兵器で向かいうつアルティア。しかし、インパクトの瞬間にその輝きは大きく失われ、ほぼ単なる武器攻撃になる。
「……っ」
 返す刃で迫ってくる敵にアルティアは聖剣グランドクロスを抜き放つ。
「……今のは効くんですか」
 光条兵器の力はほぼ無効化され、聖剣の力はそのままに敵はダメージを受けていた。
(…………魔法ではなく無効化しているのは契約者の力?)
 ここまでの戦況から近遠はそう判断する。
「イグナさん! 今のボクたちでは相手に大きなダメージは与えられそうにありません。支援しますからお願いします」
 敵はおそらく極端に契約者の力が効きにくい。直接契約者の力を叩きこむのはあまり効果が見込めない。だから契約者の力によって強化された体で勝負する。
「任せるのだよ」
 烈士であるイグナ。それを三人は補助する。そうすることで最初やや押されていた戦況は一瞬で逆転した。


「流石に目覚めたばかりでこの相手たちは厳しいな……!」
 一対一で敵と相対しながらティナ・プルート(てぃな・ぷるーと)はそう言う。傍目にも押されている様子が分かった。
「ティナ様!」
 あらかじめ作っていたバリケードの内側からクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)は命のうねりでティナの体力を回復する。相手にクレアの魔法が効かないため、近接戦闘が無理なレオーナは回復役を務めていた。
「レオーナ様! こうなったらレオーナ様が頼りです」
「真打ち登場ね!」
 そう言ってバリケードを越えようとする相手を『ゴボウ』で叩くレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)
「……ちゃんと効いているようですが、なんでしょう、この寂寥感は……」
「どう? クレア。ゴボウの力は?」
「いえ、分かりましたから前を向いてくださいレオーナ様」

「あっちはなんだかんだで大丈夫そうだが……」
 こっちは苦しいなとティナは思う。魔法が効かず物理攻撃が主体となり騎士であるティナに期待がかかったが、残念ながら『今』は力不足のようだ。

「少しきつそうね。サポートするわ」

 苦戦するティナの元に来るのは紅 悠(くれない・はるか)だ。ティナに迫る刃を代わりに聖槍で受ける。
「すまない」
 そう言って一旦距離をとるティナ。
「ここは悠と私が受け持ちますわ。あなたは下がって」
 悠と並び立つようにして的に相対する紅 牡丹(くれない・ぼたん)はティナにそう言う。
「いや、そういう訳にはいかない」
 そう言ってティナは悠と牡丹の動きに合わせるように敵に攻撃する。
「ふーん……苦戦してるから経験少ないのかなと思ってたんだけど」
 驚いたと悠。
「力は大分衰えているが、戦の経験はそう負ける気はしない」
「……そう。牡丹。この人と一緒に戦いましょう」
 戦力としてティナを認める悠。
「悠が言うのでしたら……」
 協力しようと牡丹は言う。
「けれど……厄介な敵ね。強さはともかく、その動きは並の軍隊を超えてるんじゃないかしら」
 自分たちの力量で最善の結果を出すようにうまく動いていると悠は敵に対して思う。こちらが小さな油断を見せれば攻めてくるし、そして敵わないと思えばすぐに一旦下がる。悠にしてみれば強くはない。けれどかなり厄介な敵だった。
「このレベルの動きの出来る集団でしたらシャンバラ、あるいはパラミタである程度名が通っていなければおかしいですわ」
 こちらの動きを伺っている敵を前に牡丹はそう言う。
「じゃあ、パラミタ以外から来たのね」
「まさか、地球からですの? でも契約者以外は……」
 パラミタの地に阻まれるはずだと牡丹。
「10年前、パラミタと地球が繋がってすぐならともかく、今は契約者以外の地球人もパラミタの地を自由に歩き回れる方法があるわ」
「……小型結界ですわね」
「ま、今はそれはどうでもいいわ。捕まえて吐かせましょう」
「無理しちゃダメよ? 悠」
「分かってるよ。大丈夫。無理はしないわ」
 そう答えながらも悠は思う。
(撃退は難しくない……けど、捕まえるのは少し無理をしないとダメね)
 相手は撤退を常に考えた動きをしている。それを捕まえるにはそれ相応の策か無茶が必要だった。
「もう……悠ったら……」
 悠の考えていることを察した牡丹は一つため息を付いた。

「うぅ……ティナが寝取られた……」
 一緒に戦っている悠たちとティナを見てクレアはそう嘆く。
「寝取られていせんから。そういう意味ではまだティナ様はレオーナ様のものじゃないですから」
 冷静に突っ込むクレア。
「世界の半分(女)はあたしのものなのに……」
「あぁ……せっかく比較的レオーナ様の行動がまともだったのに……」
 状態異常:まともはそう長く続かないらしい。
「こうなったらさっさと敵を片付けてティナをあたしの虜にしないと」
 そう言って野生の蹂躙を敵に放つレオーナ。
「……やる気が出たのはいいことなんですが、やはりレオーナ様はどこまでもレオーナ様なのでしょうか」
 いつもの調子に戻ったレオーナにため息をつくクレア。
(……大丈夫だよミナホちゃん。あたしがミナホちゃんの分まで戦うから)
 ただ、レオーナは心のなかはまだ状態異常:まともにかかったままだった。


「遺跡でありますか……どんな宝が眠っているか気になるのであります」
「……吹雪はこんな時でもいつも通りなのね」
 少し前。まだ敵との交戦が始まっていない頃。葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の言葉にコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はそう返す。
「二十ニ号が囮役やってるんだからワタシたちも気合い入れないと」
 そう言ってコルセアは鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)を見る。
 吹雪たちのいる場所は鍾乳洞の入口に付近だ。ここに吹雪とコルセアは隠れ、入口の前にたつ二十二号を囮にして敵を蜂の巣にしようというのが吹雪たちの作戦だった。
「……しっ……来たであります」
 敵の気配を感じ息を潜める吹雪。
「?…………二十二号! 下がるであります!」
 敵の姿を確認した吹雪はそう言って隠れるのをやめて前に飛び出す。
「ちょっと吹雪? どうしたの?」
 仕方なく一緒に前に出るコルセア。
「あいつらに搦手は効かないと思ったほうがいいのであります。真正面から立ち向かうのが一番勝率が高いのであります」
 そう言って二十二号の前に立つ吹雪。
「あいつらって……知ってるの?」
「地球にいた頃戦場で何度かあったのであります」
 そうコルセアに説明する吹雪。
「ほぅ……どこかで見た顔だな。そうか、最近地球じゃ見ないと思っていたがパラミタにきていたのか」
 油断なく構える吹雪たちの前にくる敵性集団。その一人がそう言う。
「久しぶりでありますな。傭兵団『黄昏の陰影』。わざわざ地球からパラミタに何のようでありますか?」
「クライアントの命令で仕方なくだよ」
「クライアント……粛正の魔女でありますか?」
「あのバケモノが我々の? 冗談はよしてくれ」
「では、誰がクライアントでありますか?」
「ふむ……そうだな。話してもいいが、代わりに我々のうち七名を先に通してくれるかな?」
 君が陣取っているのであれば通るのが困難だと男は言う。
「……いいであります」
(……吹雪?)
(こいつらを捕まえて情報を吐かせるのは一苦労であります。遺跡の中にはまだ防衛する契約者もおりますし、ここは取引に応じたほうが早いであります)
 小声でそう話し合う吹雪とコルセア。
「取引成立かな?」
「……二十二号、どけるであります」
 命令通り入り口に戦車で道を塞いでいた二十二号に吹雪はそう命令する。
「ありがとう。礼を言おう」
 そう言って男は合図をし、黄昏の陰影七名は鍾乳洞の中に入っていく。
「さて、我々のクライアントだったか。流石に名前を言う訳にはいかないが……」
「なんでもいいであります」
 言えることならと吹雪。
「そうだな……我々のクライアントは地球の組織の一つだ」
「地球の組織がパラミタのこんな辺鄙な所になんのようでありますか?」
「さてね……我々も特に詳しいことは知らされていないよ。ただ、組織の求めるものがこの奥にあるそうだ」
 ただ、と男は続ける。
「それは世界を管理するシステムだそうだよ」
「…………馬鹿馬鹿しいであります」
 吹雪の感想。それにコルセアも同感だった。
「そうだな。我々もそう思う。だが、ここはパラミタだ。何が眠っているかわからないのは君の方が知っているんじゃないか?」
「………………」
「さて、我々は一旦退こう。同士が奥にたどり着くことを祈ってね」
 そう言って立ち去る黄昏の陰影三人。
「……どう思うでありますか?」
 敵のいなくなった後、吹雪はコルセアに聞く。
「確かに不思議な力がニルミナス付近で動いてるのは確かだけど。世界をどうこうするような力では絶対にないわ」
「……で、ありますな」
 コルセアの言葉に吹雪は同意する。
「自分たちも遺跡の奥に向かってみるのであります」
「調べるのね」
 そうして吹雪とコルセアは二十二号を連れて鍾乳洞の奥、遺跡に向かうのだった。


「来るのは一人ね……分かったわ」
 M6対神格兵装【DEATH】を構えてそう言うのはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。通信相手の悠に対してそう答える。
 場所は入口の奥。遺跡とされている場所だ。ただ、まだ建築物等のある所ではなく鍾乳洞の続きといった印象だ。
「もしもの時に備えてたけど、無駄にならずに済みそうね」
 防衛が抜かれた時のためにここに陣取って構えている。
「あなたたち、準備は大丈夫? 瑛菜とアテナも」
 ローザマリアの部下である海兵隊特殊強襲偵察群と瑛菜とアテナも遺跡の中で敵襲に備えている。
『問題ないよ』
『アテナも大丈夫だよ』
 部下の返事の後に瑛菜とアテナも返事をする。
「……来たわね」
 ノクトビジョンとホークアイを使い敵の姿を確認するローザマリア。手はずでは部下たちに敵を引きつけ、銃撃。その隙をローザマリアが狙撃するという手はずだった。
「……一、ニ、――」
 三の合図で部下たちは壁の影から飛び出して引き付ける――
「――さ……っ!? 皆目を瞑って!」
 ――そうなるはずだった。

 一瞬周りが眩しいほどに明るくなる。
「閃光弾……瑛菜、アテナ、大丈夫?」
『一応、もう見えてるけど……うぅ、チカチカするじゃん』
『アテナも大丈夫だけど……逃げられちゃったね」
 アテナの言葉に確認するローザマリア。アテナの言葉通り、敵が鍾乳洞の方へ去っていっく様子が見れた。
「こっちの陣容を察して突破するのは無理って考えたのかしら? だとしたら……」
 面倒な相手だとローザマリアは思う。目標を目前にして引き際を間違わないのはそうとう経験を積んでいる証拠だ。あるいはただの臆病者か。
「……帰りに捕縛出来ればいいんだけれど」

 遺跡の侵入阻止。その目標は達成できたが襲撃者『黄昏の陰影』を捕縛することは出来なかった。


「粛正の魔女か……いったいどこにいるんだ?」
 今回の襲撃者たちの鍵。粛正の魔女。それへの接触を試みていた佐野 和輝(さの・かずき)だが、手がかりがなくまだそれは叶っていなかった。
「ユニコーンの襲撃にも混ざっていない、遺跡への侵入にも混ざっていない。なら魔女はどこに……?」
 黄昏の陰影という傭兵団。彼らが単なる地球人じゃなくなんらかの強化を受けているのは間違いなかった。
「ただ、力を与えて傍観する……か」
 そういう相手だからこそ情報が重要になってくると和輝は思う。
「アニス。『皆』はどう言っている?」
 パートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)に『皆』へ聞いたことの結果を聞く。
「だめだよ和輝。『皆』分からないって」
「スフィアはどうだ?」
 アニスに続けてスフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)に聞く。
「粛正の魔女に接触がない状況では流石に情報を取捨選択できません。それに、私の情報枠に捉えることの出来る存在かも不明です」
「やはり、難しいか……」
 ある程度予想していた答えだけに落胆はない。
「前村長から何か情報をもらっていればまた違ったんだが……」
 前村長はいつの間にかどこかへ行ってしまっていた。
「? 前村長?」
 何かに気づいた様子の和輝。
「アニス、スフィア。前村長の居場所は分かるか?」
「え? ……うん。それなら『皆』分かるって」
「近くになれば確実に捕捉できるでしょう」
 アニスとスフィアの言葉に和輝は頷く。
「なら、俺たちは今から前村長のもとに向かおう」
 おそらくそこに……。