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粛正の魔女と封じられた遺跡

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粛正の魔女と封じられた遺跡

リアクション


エピローグ1

「ダメね。やっぱり効かない」
 ユニコーンの住処周辺。捕まえた捕虜にその身を蝕む妄執をかけたセレンフィリティだがそれが捕虜に効く様子はない。
「なんでユニコーン狙ってきたのか知ってることは全部吐かせたいんだけど」
 どうしようかとセレン。
「どうしてラセンさんを狙ったのか言うんですわ。じゃないとスイカのタネをいっぱい食べさせるのですわ」
 そうイコナが尋問する。
「取引といかないか? もし俺たちを開放してくれるなら一つだけ質問に答えよう」
 イコナの発言はスルーして襲撃者は鉄心やセレンにそう言う。
「……確約はできないが考えよう」
「それでいいさ。それで質問は?」
「こちらの魔法が極端に弱くなったが、それは粛正の魔女の力か?」
 鉄心は今回の戦いで一番やっかいだった点を聞く。
「正確には魔法じゃなくて契約者の力だな。契約者の力で強化されている魔法や超能力、闘気とかはあの魔女や、その力の影響下にある奴には効きにくい」
「じゃあ、契約者の力を使わない魔法なら効くわけ?」
 セレンの疑問。
「理論上はそうだが……契約者じゃない奴らの魔法なんてたかが知れていいるし、何よりお前らはどこまでが自分の力でどこからか契約者としての力か分かるのか?」
「……もう一つ聞きたい。最後、なぜ結界を破ろうとしなかった」
「サービスだ。あの魔女の力に契約者の力が効かないのと同じように、契約者やその影響下にあるものにもあの魔女の力は効きにくい。あの結界を破るのは現在の戦力じゃ無理だったから撤退したんだ」
「……ここまでの話に嘘はない?」
「ない。というより嘘は付けない。あの魔女に力をもらう時、同時に嘘を付けば死ぬ呪いも受けている」
「ふむ…………」
 鉄心はここまでの話を考える。今回の戦いでの情報を統合すればそれが正しいだろうというのは予想する。が、それ含めてブラフの可能性も0じゃない。
「そろそろ開放してくれないか?」
「いや、すまないがもう少し……っ!?」
 話を聞かせてくれと鉄心は言おうとした所で驚く。
「なら、勝手に帰らせてもらうさ……置き土産をしてな!」
 ロープで縛られていたはずの捕虜――今はもう襲撃者――の両手足がいつの間にか自在になっており、驚く契約者達を尻目に針をユニコーンの住処に向かって投げつける。
「じゃあな」
 捕虜だった襲撃者たちはみな素早く撤退する。
「鉄心! お願いします、来てください!」
 ユニコーンの住処の中からティーの悲壮な声が響く。
「……今は向こうが先決か」
 鉄心は優先順位を考えユニコーンの住処へ入る。そこには苦しそうな様子で横たわるラセンの姿があった。
「突然針が飛んできてラセンさんに……影に潜むものに奇襲には対応するようにお願いしていたんですが……」
「粛正の魔女の力か……」
 影に潜むもの自体は契約者の力は関係ないだろうが、その影からの出入りに一部契約者の力が関わっているんだろう。粛正の魔女の影響下にある針を邪魔出来なかったのだろうと鉄心は当たりをつける。
(だが……どうする?)
 こうなってしまった理由は分かる。だが、こうなってしまったことへの対処が分からない。
「契約者の力じゃ治療が追いつかない……ユニコーン自身がその力を自分に使えれば……」
 呪いや病気。不浄なものを浄化するというユニコーン。だが、そのユニコーンであるラセンは気を失っている。
(…………どうする?)



「とうわけで遺跡の調査を提案するであります」
 鍾乳洞。遺跡の入口付近。遺跡侵入阻止に集まった契約者たちの前で吹雪はそう言う。
「私も気になるし、行くよ」
 吹雪の提案に郁乃は賛成する。滅んだ街で何があったのか知ること。それがニルミナスにとって必要なことだと郁乃は思っていた。
「あたしは……ていうかアテナがだけど。村が気になるみたいだから帰るよ」
「瑛菜とアテナが帰るなら私も帰るわ」
「うーん……あたしたちも帰ろっかクレア」
 瑛菜の言葉に続くようにローザマリアとレオーナが続く。
「……危険があるかも知れないし私達も行くよ」
 悠は牡丹と一緒に護衛を申し出る。
「この人数だとボク達全員の薬はありませんね。イグナさん。お願いします」
 当初の予定通り近遠はイグナだけを遺跡に行ってもらうように頼む。

 こうして吹雪とそのパートナーたち。郁乃、悠と牡丹、それにイグナは遺跡へと向かっていった。

「って、マビノギオンは行かないの?」
「すみません。主。ここで待っていてもよろしいでしょうか?」
「別にいいけど……どうしたの?」
「すみません……」
「ま、いいか。すぐ返ってくるから待っててね」
 そう言って郁乃は吹雪たちとともに遺跡に向かう。
「……本当になんででしょうね」
 どうして行きたくないのか。それがマビノギオンには分からなかった。

「……これは」
 遺跡の入口。遺跡に入ることはかなわなかった近遠だがその封印されていたという入り口を調べ、あるものに気づく。
「魔術を利用したメッセージ……古王国時代のものですね」
 かつて読んだ本の内容からそれに気づいた近遠は、それを魔術で解凍して読み取る。

『私達が来た時この街は既に滅びていた。シャンバラの中でも繁栄を極めたこの街がなぜこれほど短期間で死滅したのか。それは分からない。だがおそらくこの街で行われていたいう『恵の儀式』が関係しているのだろう。詳しく調べたいが、地球とのつながりが絶たれ、王国の中で怪しげな動きがある今それは敵わない。いづれ王国が治まった時、また調査に来ることを誓おう。……もし、私の誓いが果たされず何年もの時を経てしまっていた時、このメッセージを見たものにお願いしたい。この街で起こった災厄、それが何か解き明かしてほしい』

「……パラミタと地球の繋がりが絶たれる……ちょうど5000年前の鏖殺寺院の内乱のころのメッセージみたいですね」

『――ところで、この街の象徴であったミナスという女性はどこに行ったのだろう? 死したものの中にはいなかった。逃げ出せたのだろうか? だとすれば彼女に聞けばこの街の災厄について分かるかも知れない』

 最後にそうメッセージが書かれ終わっていた。


「そろそろ、全部終わった頃でしょうか?」
 ウエルカムホームの一室。その中でミナホはなぜか一緒にいるルカルカとカルキノスにそう聞く。
「かもしれないわね。そろそろ報告が来るかも」
 そわそわとした様子のミナホにルカルカは温かい笑みで見つめる。
「? ミナホ。ペンダントでもしてるのか?」
 ミナホの首に細いチェーンを見つけたカルキノスはそう聞く。
「え? あ、はい。今日お父さんに渡されたんですけど……」
 そう言って服の中からミナホが取り出したのはユニコーンの角だった。
「それはたしか……前に俺が前村長が渡した……」
 瑛菜が倒れた時にそうしたもののはずだとカルキノスは思い出す。
「なんでミナホに? 使うにしてももっと適当な人がいる気がするけど」
「さぁな。だが、前村長が渡したんならそれは理由があることだろうな」
 ルカルカの疑問にカルキノスはそう答える。

「って、あれ? ミナホ。なにか落ちたわよ」
 ユニコーンの角を直したミナホの服から2つヒラリと折りたたまれた便箋が落ちる。
「そういえば、遺跡に向かう前に手紙を受け取っていたんでした」

一通目
ミナホちゃんへ

お元気ですか。
あたしは、元気です。
ミナホちゃんはニルミナスをまとめるえらい人だからね、危ないとこ行って何かあったら、大変だからね。
あたしたちが安らげるところがなくなっちゃうしね。
だから、代わりにあたしたちが、悪いやつらをチャチャッとやっつけてきます。
首を脱臼しない程度に長くして待っててね。

P.S.晩ごはんは酢ゴボウ食べたいです

 誰からの手紙からは割愛。

二通目
ミナホちゃんへ

ミナホちゃんは村長として成長したと思う。自分の出来る事と出来ないことを理解して弁える。それって大事なことだよね。
でも、アテナは少し寂しいよ。最初の頃のミナホちゃんの出来ないことばかりで気持ちだけ先回りしてた姿が懐かしいよ。
たとえ何をすればいいか分からなくても自分の出来る事をしようとするミナホちゃんの方がミナホちゃんらしいよ。

だからこの手紙を読んで、もし思う所があったら。ミナホちゃんはミナホちゃんの出来る事をやってください。アテナからのわがままです


 対照的なニつの手紙。だが、そこに込められた本質は一緒だ。ミナホにミナホらしくあって欲しい。そういう手紙。
 レオーナは落ち込んでいるミナホを思ってこの手紙を書いたのだろう。いつもの真面目でそれでいてどこか抜けているミナホに。
 アテナはミナホに自分を抑えて欲しくないと。

「ルカルカさん。お願いがあります」
「……なぁに?」
「私をラセンさんの元へ」
「了解。安心して。ミナホは必ずルカたちが守るから」
 もともとそのためにミナホと一緒にいたルカルカとカルキノスだ。場所を変えたいというならその願いを叶えた上で守る。それくらいの力をルカルカもカルキノスも持っている。
「(……カルキ)」
「(……ああ、分かってる)」
 ルカルカに促されカルキノスはミナホに気づかれぬようルーン空間結界と護国の聖域をミナホにかける。
「…………ん?」
「? カルキノスさん。どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない」
「どったの? カルキ」
「(ルーン結界も護国も確かにミナホにかけたんだが……効果が全然出ない)」
「……失敗した?」
「そんなわけねぇんだが……」
「ま、多分もう終わってるし大丈夫でしょ。奇襲はぜったいあたしが防ぐし」
「まぁ、ルカがそう言うなら大丈夫か」
 そうして二人は疑問を持ちながらもミナホを護衛してユニコーンの住処へと向かった。


「そんなことが……」
 そしてユニコーンの住処。倒れるラセンの元へたどり着くミナホ。
「ミナホさんはヒールなど使えませんか? 一般人の力で粛正の魔女の呪いに対抗できるかはわかりませんが、それでも契約者よりは効果が出るはずです」
 鉄心の言葉。
「……すみません。私魔術を使ったことなんてないはずです」
「?……そうですか。だとしたら村の人の中で使える人を探して……」
 ミナホの言い方に違和感を覚えながらもそれどころではないと鉄心は次の方法を模索する。
「……ラセンさん」
 ミナホはラセンに近づき蕎麦に寄り添う。そして胸からユニコーンの角を取り出す。
「ユニコーンの角……それなら魔女の呪いもきっと解ける」
 安堵の声でいう鉄心。

『ミナホ。もしどうしようもない自体になった時のためにその角を持っていなさい」
 ミナホはこの角を渡された時父に言われたことを思い出す。
『でも、私はどう使えばいいのかわかりませんよ? もっとちゃんとした人に……」
『その角を使うんじゃない。その角に宿る力を感じてそれを再現しようとすればいい。お前にとっては魔術なんかよりも簡単だ』
『? よくわかりませんけど分かりました」

(この角に宿る力をただ再現すればいい……)
 父の言葉に従いミナホはユニコーンの力を再現してラセンにかける。

「? なんか騒がしいじゃん」
 村へとついた瑛菜とアテナはユニコーンの住処にたどり着き、その騒ぎに気づく。

そして――

「ミナホ……ちゃん?」
 瑛菜とアテナはユニコーンの力を使うミナホの姿を目撃した。

「あ、アテナさん。私やりましたよ。自分の出来る事を」
 治療を終えたミナホはアテナの姿を見つけそう声をかける。
「違うよ。ミナホちゃん。それは違うんだよ」
「? 違うって何がですか?」
 首を傾げるミナホ。

「それは出来る事じゃないんだよ。出来ないことなんだよ」



「シュトラールがなんでミナホさんを警戒していたのかは分かったね」
 ミナホの様子を見ていたエースは言う。
「ユニコーンの持つ癒しの力。その効果と似たようなことをするなら契約者でもいくらでも可能だろう。でもユニコーンの力自体を使うことは契約者にも出来ない」
 なぜならとエースは続ける。
「もし再現できるなら人々が聖獣と呼ばれるユニコーンをわざわざ狙ったりしはしないはずだ。ユニコーンの力はユニークだからこそ重宝される」
「なら、それを再現したあの子は?」
 リリアの疑問。
「さてね。案外新しい魔術を開発したのかもしれないけど……その割りには魔力の消費が感じられないね」
 どこからそんな力が来たのか。
「どちらにしても、普通では無いよ。このことを何処かの研究者が知ったら大変なことになるだろうね」
 ただ、とエース。
「今はシュトラールが無事生き延びたことを祝おうか」
 考えることは後でいくらでも出来るのだからとエースは言った。





『くすくす……随分大きなったのねあなた』
 森の奥。ゴブリンキングに対峙する粛正の魔女ミナ。
『困ったわ困ったわ。どうしてそんな悲しい顔をしているのかしら』
『やっぱり、あなたの仲間を私の呪いが殺し続けているからかしら?』
 それともとミナ。
『あなたの主人を殺したのが私だからかしら』
 ミナの言葉にゴブリンキングは何も言わない。ただ悲しい顔をしている。
「……今のあなたにはわかりませんよミナホさん」
『あら、奇遇ね。一昨日ぶりかしら?』
 ミナの前に現れる前村長。
「でも困ったわ困ったわ。今の私はミナホじゃなくてミナと名乗っているの』
「……そうでしたね」
『そうだ、あなたはこの子の言っていることが分かるはずよね? そういう契約だもの』
「……何も言っていませんよ。ただ、悲しんでいます」
『分からないわ分からないわ。どうして恨み事を言わないのかしら? 私はこの子の主人を奪い、この子の仲間を殺し続けているのに』
「……今のあなたには分からないですよ。ボンと……私の願いは」
『そう、残念だわ残念だわ。いつか分かる日が来るのかしら?』
「分からせますよ。絶対に」
 そう言って去っていく前村長をミナは見送る。
『くすくす……楽しみにしてるわ』
 その笑い声は静かに森に響いた。