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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

リアクション

  EJ社・内部


 コンピュータ室にて。
 月谷要と八斗は、血清を見つけたグループから連絡を受けていた。
『解毒剤があるかもしれないから探してほしい』
 佐野和輝によって、ほとんどのコンピュータは壊されていたが、彼がいた証拠に関わりのないデータは生きていた。
 要は、見取り図のデータを片っ端から調べあげる。
「自分自身が“人外”だなんて言われるからさ、誤解されがちなんだけど。俺、あんまり人間辞めるのお勧めしないのよ」
 データに目を走らせながら彼はつづける。
「ま。自分の意思で決めたなら止めないけどさ。強制されてあんな姿に……っていうのは、許せないよねぇ」
 八斗もまた、大急ぎで情報をかき集めている。コンピュータ室の書庫に保管された資料を、引っ張りだしていた。
「キメラの類は嫌いなんだ。嫌な事を思い出すから……!」
 内心ブチ切れ状態の彼であったが、データの収集を急ぐ。
 解毒剤発見のヒントになるかと思い“血清の作り方”について調べたが、人体実験めいたことしか書かれておらず、胸が悪くなったのでやめた。
 次に“蟲毒計画のデータ”を調べたが、社員によるトトカルチョの投票札ばかりがでてきたので、こちらも断念。ちなみに、一番人気は金龍雲。その次はジブリールらしいのだが、彼にとってはどうでもよかった。
 そしてついに――。
「あった! 解毒剤は、完成している」
 八斗の表情はほころぶが、要の顔つきは暗い。
 要は、背もたれによりかかって呟いた。
「駄目だよ。どれだけ調べても、肝心の場所がわからない。……いったい、どの部屋に解毒剤があるんだ?」
 解毒剤は存在する。だが、その場所はわからない。
「しかたないな。消去法でいこう」
 要は見取り図から、“解毒剤が保存できない”部屋を消去する。
 候補が半分ほどに絞られたデータを、血清班へと送った。



「……ちょっと待ってくれ」
 要から送られてきた、見取り図を見て。
 玖純飛都が口を開く。
 彼は、とある部屋を指した。
「ここは死体保管所なのか。表札がなくて気づかなかったが……」収集したデータを参照した。「この部屋には、生体反応がある」
 飛都は、血清を探すために生体反応を調べていたのだ。
 その彼が断言した。
――死体保管所に生ける者がいる。
「調べてみる価値はあるだろうな」
 腹を裂かれた子供を縫合する、ケイン・マルバスが言った。
「医者としての直感が告げているよ。その部屋に、解毒剤がある」
 モグリだがな……とは、自嘲しなかった。
 ケインは、確信めいた表情を浮かべている。
「よし。ここへ向かおう」
 一同は、すぐに死体保管所へと走った。


 死体保管所に到着した彼らは、さっそく室内を調べはじめる。
 実験に失敗した子供たちが、山積みになる部屋の中を。
……胸糞悪い。
 神崎荒神は、吐き気がするほど激怒していた。
 しかし、この場に集まる者もそれは同じだ。
 荒神は深呼吸して、気を落ちつけた。腐臭が肺に満ちていったが、思ったほど不快ではなかった。
 この子たちの仇を取る。彼はただ、それだけを考えていた。
「なにか感じるな。……この奥からだ」
 テレサ・カーマインが、積み上げられた死体を崩す。腐敗した子供たちがバラバラと落ちてきた。
 彼らが積み上げられていた中央には、強化ガラスに保護された、複数の試験官があった。
 テレサは死体をかきわけ、試験管を取り出す。中に入っているものの成分をすぐに解析した。
「ビンゴだ。これが、解毒剤だよ」
 荒神がうなずく。彼女から渡された一本の試験管を受け取り、中身を確認した。
「おいおい。これってまさか……」
 覗きこんだ彼の表情が、一瞬にして強張った。
 試験官に入っていたものは。
 うねうねと蠢く、米粒のようなもの。
 パラミタセラピーバエの幼虫――いわゆる蛆虫であった。

「マゴットセラピー、というものがある」
 テレサが、粛々とつづけた。
「蛆虫は腐った細胞を食べてくれるからな。患部に蛆を這わせて、死んだ組織だけを除去する。それがマゴットセラピーだ。このパラミタセラピーバエは、マゴットセラピー専用に品種改良された蝿なのだよ」
「それで、子供たちは治るんだな?」
「もちろん。この蛆虫たちを丸呑みさせればいい。こいつらが体内で、蟲の細胞だけを食ってくれる」
「だが――体内の蛆虫はどうなるんだ?」
「こいつらは急速に成長する。約30分後、成虫となったこいつらは、一斉に口から飛び立っていくのだよ」

 テレサが解説した治療法は、決して気持ちの良いものではない。
 それでも、パラミタセラピーバエの幼虫が、無害なことは確かなようだ。
 人の体に戻れるのなら。
 子供たちには、我慢して蛆虫を呑み込んでもらうしかなかった。