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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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蠱毒計画~プロジェクト・アローン~

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  ニルヴァーナ市外


 最後の、最後の望みをかけて。
 カル・カルカーが、少年を説得する。
「君に破滅してほしくない……。君には、だってほら……ちきしょう。僕と違って、恋人がいるんだろ?」
 どろりとした目で見上げるヴアドに、カルは続ける。
「……大切な、契約者なんだろう?」

「カルさんのいうとおりネ。この子、あなたの大切な人」
 そう告げたのはロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)だ。少年のもとへ、ゆっくりと歩み寄る。
「つれてきたヨ。あなたの、真実の愛」
 ロレンツォの隣には、地球人の女の子がいた。褐色の肌をした可愛らしい少女。
 ヴアドの恋人だった。
 ロレンツォは、地球から彼女を呼び寄せていたのである。
クペレアさん。さあ、行ってあげるよろし」
 ロレンツォが彼女の名前を呼ぶ。少女――クペレアは、微かに震えながらヴアドのもとへ近づいていく。
 蟲に改造され、ギフトと融合し、狂気の淵でやつれ果てたヴアド。そこにはもう、少年と呼べる面影はなった。
「恐がらないで……手を取るのヨ。クペレアさん」
 ロレンツォに励まされて、少女はヴアドの手を握った。
 彼の手は剣に変えられていたが。
 今は傷つけるためではなく、ただ、大切な人を感じるためにあった。
 少年に、人としての意識が戻っていく。
 恋人に触れたことで、すべてを思い出したようだ。
 自分の過去を。
 そして、自分の現在を。

「アア……アアア……」
 ヴアドは飛び退き、うなだれてしまった。
 人の意識が戻ったことで、変わり果てた今の姿に、耐えられなくなったのだ。
「僕ノ身体ハ……モウ……人間ジャナイ」
「でも。人の心、ある」
 ロレンツォが優しく告げる。
「それで十分。あなたの本質、神にだって変えられないね」
 クペレアもまた、少年に向け小さく頷いた。
 サソリにされたヴアドの身体。
 怖がること無く、クペレアはしっかりと抱きしめた。




「――小僧も正気を取り戻したようやし。わいはEJ社をぶっ潰しに行くで」
 狼木聖が、EJ社のある方角を睨んだ。装備はばっちりだ。いつでも潰す用意がある。
「よかったですの……」
 アリア・ディスフェイトは、ふたたび物陰に隠れていた。
 対人恐怖症の彼女が、鋭峰の刺すような視線に、長く耐えられるわけがなかった。
 しかし、そんな彼女も、人のすべてが怖いわけではない。
 救いの手を差し伸べてくれる人もいる。アリアはそれを知っていた。
 彼女もまた、長い封印から、神凪深月の手によって救い出されたからだ。

「さあ。けじめをつけるのじゃ。少年」
 深月が、ヴアドに告げる。
「向こうの戦闘は、すでに終わっとるかもしれん。じゃが、おぬしの戦いは終わらんじゃろう。自らの手で決着をつけるのじゃ」
 深月の言葉に、ヴアドは頷いた。ゆらりとその場に立ち上がる。
 彼の戦意を見届けた、聖が啖呵を切った。
「エグゼクティブ・ジャイナ……。どんな情けも無いと思っとき? お前らを食い破る牙が、今から行くで!」