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雨姫様の恋雫

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雨姫様の恋雫
雨姫様の恋雫 雨姫様の恋雫

リアクション

 森の中を逸れた仁科 樹彦(にしな・たつひこ)を探しながら仁科 姫月(にしな・ひめき)は歩いていた。

「兄貴ー?」

 そこへ樹彦に似た複数の夢魔が現れる。

「探したぞ」
「どこも怪我をしなかったか?」
「せっかく可愛い顔してんだ、自分を大事にしないとダメだぞ」
「ほら、ここに葉っぱが付いているぞ?」

 あちこちから姫気が言ってほしいと思っていた言葉を言ってくる夢魔たち。
 姫月は、その中の一人に笑いながら近づくと、大剣を胸に突き刺した。

「残念だったわね」

 夢魔は信じられないといった表情のまま絶命していく。

「思いを伝えられず、ずっと素直になれなかった期間を舐めないでよね。そんなんじゃ騙されないんだから。あんたらも、覚悟は良い?」

 残りの夢魔たちに大剣を向ける姫月。



◇          ◇          ◇




 同時刻、樹彦も姫月の友達『ほのか』に似た夢魔と対峙していた。

 透き通るような白皙の肌に艶やかな長い黒髪を持つ彼女は、昔己が行方不明になる前に告白してきた少女であった。

「ほのかちゃん?」
「ふふ、樹彦さん……」

 夢魔ほのかが微笑みながら近づいてくる。樹彦もまた彼女に近づいていく。


―――ズガン!!


 彼女の頭に銃を向け、引き金を引いた。
 乾いた音がした後、夢魔ほのかは倒れる。

「君の事は、好きだったよ。でも俺は、姫月を選んだ。あの時、違う選択をしたなら俺は彼女と恋人同士になっていたかもしれない。でも…………俺は姫月の側にいる。そう誓ったんだ」

 夢魔の亡骸に背を向けて立ち去る樹彦。
 しばらく歩いていると、姫月を再開するのだった。

「兄貴も誘惑されなかったみたいね。……まあ、そうよね。きっと兄貴のところには、素直で可愛い私がいたんでしょうから。だから騙されなかったんでしょう?」

 姫月は素直で可愛い自分と出会ったと思い、すねる。
 樹彦も出会った相手が昔好きだった人である為、何も言えずにいた。

「お、これか」

 双樹の樹を見つけてもなおすねている姫月。

「姫月……俺は姫月の側にいる。絶対にだ。それをここで今一度誓おう」
「兄貴……分かってるよ、そんなこと」

 いつまでも疑っていたことが馬鹿らしくなってきた姫月。

 一緒に堕ちてくる雫をすくい取る二人。

「(でも、こんな事をしなくても分かっている。兄貴はずっと私の側にいてくれる)」

 消えて行った雫を見て、共に合わせていた手をそっと握り締める姫月であった。