リアクション
現在から数年後。 ◆ 現在から数年後。 「やっぱりこっちに残るんだな」 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は確認するかのようにリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)に言った。実は地球とパラミタが平和に別れる事が可能となり、期日までにどちらに残留するのか決定しなければならなくなったのだ。 「えぇ、シリウスは地球ですわね」 リーブラはうなずいた。シリウス達も期日間近まで話し合ったのだ。 「あぁ、本当ならオレも残りたい。友達や大事な人も結構いるし残ると決めた地球人も何人もいる。けど、昨日まで散々お前とこれからどうするか話していて分かったんだ。オレの戻るべきは場所は地球だって。どんなにこっちが居心地が良くてもここはオレの本来いるべき場所じゃないんだって」 シリウスは別れの辛さを含みつつ故郷を脳裏に浮かべていた。 「……そうですか。昨日も言ったようにシリウスがそう決めたのならわたくしは何も言うつもりはありませんわ。ただ、寂しくなります」 リーブラは止めず、寂しさだけを伝えた。明日が二つの世界が繋がっている最後の日。 「オレもだよ。でも世界が別れても二人で過ごした時間は消えない。どんなに離れてもオレ達は一つだから。笑顔で別れようぜ」 寂しいのはシリウスも同じ。だからこそ笑顔を浮かべるのだ。 「そうですわね。でもわたくし、明日は見送りに行けませんわ」 リーブラは現在、予定進路通りシャンバラ王宮に士官し再編された十二星華の二代目天秤座として引退した旧十二星華に変わって精力的に活躍している。その原動力はティセラを自由にしたいという思いだ。明日の別れの時も仕事が入っている。 「……この後も行かなければいけませんし。だからシリウスの顔を見られるのはこれが最後です。不思議ですわね、シリウスと暮らしたのはそう長い年月でもないのに……ずっと姉妹で、家族で……伴侶だった気がしますわ」 リーブラはじっとシリウスの顔を見ていた。これから先何があっても忘れないために。 シリウスは静かに耳を傾けていた。 「良ければ、これを持っていて下さいな」 リーブラは身に付けていたヘッドドレスのリボンをシリウスに差し出した。 「あぁ、大切にする。こっちにいるみんなの事は任せるぜ、相棒」 シリウスは笑顔でリボンを受け取った。 「はい。シリウスもどうかお元気で……」 リーブラも笑顔で応えた。 これがリーブラと顔を合わせた最後の日だった。 地球への入管最終日。 「……パラミタもこれが見納めだな。そう言えば、昨日も今日もあいつに会わなかったな」 シリウスは最後にとパラミタの風景を目に焼き付けていたのだが、別れの挨拶をしていないサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の事を思い出した。 その時、 「それってボクの事?」 隣から聞き覚えのある声と共にひょっこりと姿を見せた。 「おわっ!? サビク。お前……」 シリウスは噂をした人物の突然の登場に驚いた。 「驚かせてごめんよ。ボクもこっちに行く事になったんだ」 サビクは陽気な笑顔を浮かべながら言った。 「こっちに行く事になったって」 また驚くシリウス。話し合いの時もサビクだけは何も言わなかったりいなかったのだ。 「何か女王の処刑人の時に犯した過去の罪でシャンバラから追放刑になってさ。まぁ、今は平和になって十二星華にも王国にも殺し屋は必要無いからね。と言う事で改めてよろしく」 サビクは肩をすくめながら陽気に自身の事情を話した。 「……もしかして」 シリウスはサビクが口にした事は嘘で自分や他の地球残留者のお守りのために志願したのではと考えていた。実際にシリウスの勘は当たっていた。 「ほら、早く地球に行こう」 サビクは突っ立ったままのシリウスを置いて歩き出した。 「あぁ、これからもよろしく頼むぜ、相棒」 シリウスは急いでサビクの後を追った。 シリウスとサビクは無事地球に到着出来た。 ■■■ 「……あっちはいつもと同じか。というかアーデルハイトのやつ、小言がうるさいからってオレに薬を掛けやがって。だから魔女ってヤツは……」 覚醒後、シリウスは仕置きを受けている双子を確認した後、アーデルハイトについて文句を垂れた。双子に対して説教だけでなく嫌がらせのような仕置きをした事を聞いて文句を言いに行ったら薬を吹き掛けられたのだ。そもそも魔女に良い感情を持っていなかったというのもあるのだが。 「……大丈夫ですか。良かったらデータ収集のために記入をお願いします」 アーデルハイト達の手伝いをするザカコがやって来てアンケートを渡した。 「あぁ、ところでオレに吹き掛けた薬はどっちだったんだ?」 シリウスは用紙に記入しながら薬の種類を訊ねた。確認する暇無く掛けられたのだ。 「紫色ですね。そちらのデータが少ないらしくて、何か不具合でもありましたか?」 ザカコは被験者リストを確認しながら答えた。データが少ないのは当然だろう。誰だって見るなら明るい方がいい。 「いや、オレが体験したのは別れと新しい出発の明暗が同居した未来だった」 不具合を訊ねるザカコにシリウスは微妙な表情で自分が体験した未来について話した。 「そうですか。そういう人が他にも何人かいましたよ。状況は暗いのに自身はそう感じず逞しく生きているというのが。暗いかどうかは被験者個人によるところが大きいのかもしれません」 ザカコは逞しい他の被験者を思い出しながら答えた。 それからシリウスから用紙を回収し、ザカコは仕事に戻った。 一人になったシリウスは 「……実際あんな事が起きたらオレはどうするんだろうな。体験した未来のようにするのか」 体験した未来と現実の先について考え込んでいた。 |
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