リアクション
現在から数年後。
空京一有名なイコンのプラモデルショップ。
「理知ねーちゃん、新しいレアパーツ入った? ここレアパーツが一番揃ってるだよなぁ」
「入ったよ。少し待っててね」
経営者である辻永 理知(つじなが・りち)は常連の上級者少年にレアパーツを渡して
「……初心者なんですが、ここは分かり易く教えてくれると聞いて……」
「いらっしゃいませ。初心者なら……」
初心者の青年には優しく教えたりとくるくると接客に走り回っていた。経理は理知のパートナーが担当している。
「理知ねーちゃん、次のイコプラ大会はいつ?」
レアパーツを購入した少年が大会の日を訊ねた。大会を企画するのも理知が担当している。
「来月かな。今月にイコプラ教室があるから良かったら来てよ」
理知はイベント予定表を確認しながら答えた。
「教室って事はあいつが来るのか!! 理知ねーちゃん、俺が勝つからって言っておいてよ」
少年は理知の言葉に闘志を燃え上がらせ、宿敵への伝言を理知に頼む。
「言っておくね……それにしても顔が赤いお客さんが多いなぁ」
理知は笑顔で少年の伝言を引き受けた後、赤い顔をした客達が自分を見ている事に気付いた。ただし、成長しさらに美人になった理知目的に来ているという理由には気付いていない。
「はぁ、理知ねーちゃんって自分が美人だっていう自覚無いもんなぁ」
理知の無自覚さにすっかり闘志が鎮火され少年は呆れていた。
イコプラ教室当日。開始前。
「翔くん、今日は頼りにしてるよ」
理知は夫の辻永 翔(つじなが・しょう)に声をかけた。昔よりもイコプラバトルの腕も上がり、詳しいのですっかり理知は頼っている。ちなみに翔は天御柱で教師をしている。
「あぁ、任せろ。あの勇ましい挑戦者も来るからな」
翔は少年との対決準備をすっかり整えていた。これまでにも何度も対決し全勝している。
「翔くん、あの子のライバルだもんね。二人共負けず嫌いだし」
理知はクスクスと笑った。
そして、教室は始まった。
開始後。
「翔にーちゃん、伝言は聞いたよな。レアパーツも手に入れたから今度は負けねぇぞ!」
例の少年がレアパーツを装備したイコプラを手に現れた。
「それはどうかな。俺の相棒は相当強いからな」
翔もまたイコプラ片手に少年の挑戦を受ける。
「……バトル開始!」
理知の合図でバトルが始まった。
接戦であったが、勝利したのは
「残念。俺に勝つのはまだまだ」
翔だった。
「くそぉ!! 今度は絶対に勝つからな!!」
少年は愛機を握り締め、悔しそうにしていたがすぐに闘志を燃やす。
この一戦が終わると翔は教えたりと教室の先生らしく忙しく動き回った。
「……やっぱり翔くんカッコイイなぁ」
翔のお手伝いとして動く理知は夫の姿に溜息。結婚して何年も経つのに未だに新婚気分。
そして、
「翔くん。いつも忙しいのにありがとう!」
理知はバトルを観戦している翔の腕に抱き付いた。
「そんなのいいって。俺にとってもいい気分転換になるし」
大勢の前のためか翔は少し照れながら答えた。
それを悲しげに見る理知ファン達。当然、本人はそれに気付いていなかった。
とにもかくにもイコプラ教室は無事に終了した。
教室終了後。
「やっぱり、先生だよね。翔くん、教え方が上手いし詳しいし格好いいし、いつも優しいし」
「どうしたんだ、急に」
理知と翔は教室の後片付けをしながら喋っていた。
「時間が経つほど毎日が幸せに思えて」
「それは俺もかな」
昔も今も幸せな理知と翔。
「でも、夜はちょっとだけイジワルだよね」
理知は最後に照れながらぽつりと言った。
「……理知」
翔は理知の言葉に照れて困っていた。
■■■
覚醒後。
「……何か翔くんの顔が見たくなっちゃったなぁ」
理知はあまりにも幸せな未来のためか夫の顔が今すぐ見たくなっていた。
◆
現在から数年後、夕方少し前。
光差す庭と遊びから戻って来た子供達の声が響く暖かな家。
賑やかに飾り付けがされた部屋。
「ママ、はりきりすぎだよー」
娘が台所で自分達の誕生日料理の下拵えをする母親
遠野 歌菜(とおの・かな)に言った。
「はりきっちゃうわよ。だって今日は二人の誕生日なんだから」
歌菜は料理をしながら答えた。本日は子供の誕生日なのだ。そのため朝から部屋の飾り付けを施し、子供は双子の兄妹ため誕生日会の料理も倍以上生産中だ。
「ねぇねぇ、おっきぃケーキはある? ハンバーグは? プレゼントは?」
息子が待ち切れずにひょっこりと料理をする歌菜の所にやって来た。
「あるよ。今日は二人の大好きな物を沢山作るから。プレゼントはパパが買って帰るから楽しみに待っててね。それより、手洗いとうがいはした?」
歌菜は嬉しそうに答えるもはしゃぐ子供達に訊ねた。
「あっ、忘れてた!」
「洗って来る!」
娘と息子は急いで手洗いうがいをしに言った。
「……あの子達は」
歌菜は呆れつつ見送った後、鼻歌を歌いながら料理を続けた。他にはポテトサラダやカボチャのスープなど子供達の好きな物を作り、飲み物に子供達にはオレンジジュース、歌菜と羽純には特別なワインを準備した。
夕方、玩具屋。
「……あの子達、喜ぶだろうな。ずっと前から欲しがっていたから」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)は予約してあった子供達の誕生日プレゼントである最新の携帯ゲーム機を受け取っていた。夫婦で相談の末、子供達が喧嘩をしないように同じプレゼントにした。
「そわそわしているだろうから早く帰って渡さないとな」
羽純は誕生日にはしゃぐ子供達の姿を頭に浮かべ、笑みをこぼしていた。自然と家に向かう足は速くなる。
途中、
「……花か」
羽純は花屋の前を通った時、足を止めた。
「せっかくだから歌菜に花を買って帰るか」
羽純は花屋に入り、歌菜のために花束を買う事にした。
「たまにはこういうサプライズも良いだろう」
買った花束を満足そうに見た後、羽純は愛する家族が待つ家へと急いだ。
夕方過ぎ、自宅。
子供と妻へのプレゼントを抱えた羽純はチャイムを鳴らした。
ドア奥から賑やかな足音が聞こえた後、勢いよくドアが開き、
「パパ、お帰り!! ママが大きなケーキを作ったよ!!」
娘がはしゃぎ気味に羽純を迎えた。
「ただいま。それは楽しみだな」
羽純は娘の頭を撫でながら言った。ちなみ羽純は大の甘党で子供達と並んでお菓子を食べて楽しんだりしている。
「ねぇねぇ、プレゼントは? 忘れてなぁい?」
息子はプレゼントが待ち切れない様子。
「忘れてないよ。ほら」
羽純は紙袋からプレゼントを出し、子供達に渡した。
「わぁ、ありがとー!!」
子供達は嬉しそうにプレゼントを抱え、行ってしまった。
入れ違いに歌菜が羽純を迎えるために現れた。
「羽純くん、おかえりなさい」
「ただいま。歌菜にも」
羽純は後ろ手に隠していた花束を歌菜の目の前に差し出した。
「花? 私に? ありがとう!!」
歌菜は花束に目を丸くするもすぐに嬉しそうに花束を受け取った。
そして、
「いつも俺を支えてくれてありがとう」
羽純は歌菜に感謝とただいまを込めたキスをした。
■■■
覚醒後。
「羽純くんとの将来、どんなカンジなのか知りたくて体験したけど素敵だったね。実際に実現するとは限らないって言われたけど実現して欲しいなぁ」
歌菜は幸せに言った。実験の話を聞いて羽純を誘って参加したのだが、素敵な日になったようだ。
「そうだな。賑やかで幸せそうだった。あれがあるかもしれない、未来か」
羽純も歌菜と子供達の暖かな未来の余韻に浸っていた。