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 現在から数年後。

 空京のショッピングモール、洒落た服兼雑貨店。

「ねぇねぇ、アイシャちゃん。こんなのどう?」
 形や趣味の悪い帽子とサングラスを装着した騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は恋人の方に振り返った。
「ぷっ、詩穂ったら何ですかそれは……」
 詩穂のおかしな姿に堪え切れずにアイシャは笑ってしまう。
 本日はアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)が祈りの間から出て来るなりデートにと空京の町に繰り出していた。
「やっぱりダメかぁ。ところでアイシャちゃんはどんな色が好き?」
 わざとらしくぼやいた後、詩穂は帽子とサングラスを元の場所に戻しながらアイシャに好きな色を訊ねた。
「詩穂が選んでくれるならどんな色でも好きになりますけど……あえて答えるなら今は緑が大好きです」
 アイシャは考えるために小首を傾げた後、笑みと共に答えた。
「緑?」
「えぇ、詩穂の瞳と同じ色ですから」
 聞き返す詩穂にアイシャは悪戯っ子の笑みを浮かべた。
「……なんかずるいよ」
 詩穂は大切な胸のブローチを握りながら頬を膨らませ、自分と対になっているアイシャのペンダントをにらんだ。アイシャは楽しそうにころころと笑っている。
 二人は服や靴を買い込んでから腕を組みながら店を出てコスメショップに向かった。

 コスメショップ。

「とても美人さんですよ」
「うわぁ、さすがアイシャちゃん!」
 アイシャにグロスを乗せて貰った詩穂は嬉しそうに鏡の中の自分を確認していた。メイク中二人は楽しそうに会話をし、詩穂は何だかうっとりとしていた。
「今度は私の番です。詩穂、美人さんにして下さい」
「うん、任せて! パラミタ一の美人にするよ!」
 アイシャはちょこんと椅子に座り、詩穂はアイシャの髪を弄り可愛くしていく。
 そうして存分に楽しんだ後、広場へと向かった。

 午後の広場。

「美味しいね」
「えぇ。今日はありがとうございます」
 詩穂とアイシャはベンチに座り、三段重ねのアイスクリームを食べていた。
「ううん、お礼を言うのは詩穂の方だよ。ありがとう、アイシャちゃん!」
 詩穂はぷるりと頭を振った後、軽くアイシャの頬にキスをした。
「……詩穂」
 アイシャはほのかに頬を染めながら隣の詩穂を見ていた。
「そして、アイシャちゃんに巡り会わせてくれた運命にも大感謝!」
 詩穂は青空を仰ぎ、どこかの誰かに盛大に感謝していた。
「私もです」
 こくりとアイシャもうなずいた。
 ここで
「わっ、アイスが!」
 詩穂はすっかり忘れていたアイスクリームの事を思い出した。一番下のアイスクリームがほんの少し溶け始め、コーンから垂れていた。
「詩穂、大丈夫ですか」
 アイシャは急いでハンカチを差し出した。そう言うアイシャのアイスクリームも詩穂と同じ状態だったが、気付いていない。
「ありがとう。アイシャちゃんのアイスも危ないよ」
 詩穂は汚れた手を拭きながらアイシャのアイスクリームを指摘した。
「あぁ、どうしましょう」
 詩穂の指摘で思い出したアイシャは困った顔でアイスを見た。
 そして、詩穂とアイシャは顔を見合わせて吹き出し、楽しそうに笑った。

■■■

 覚醒後。
「……素敵な未来だったなぁ」
 詩穂はとても幸せそうだった。



 現在から数年後。

「あぁ、早く行かないと試合が始まっちゃう!」
 杜守 柚(ともり・ゆず)はバスケの試合が行われる会場へ急いでいた。余裕を持って自宅を出たはずが、時間はぎりぎり。成長し可愛さの中に少し大人っぽさが出て来ている柚に惹かれてナンパする輩がいて柚は毎度そのせいで遅刻ぎりぎり。

 試合会場。

「ふぅ、間に合った」
 柚は息せき切って会場に到着し、何とか試合開始数分前に座席に着く事が出来た。
「あっ、海くん!」
 柚は入場する選手の中に高円寺 海(こうえんじ・かい)を発見し、少し誇らしい気持ちになる。なんせ海は柚の自慢の恋人だから。
 現在、このパラミタにもバスケットチームが出来て試合も行われるようになっていた。
 試合が始まると
「海くん、頑張ってー!!」
 柚は席から立ち上がり、大きな声で精一杯応援する。
 海が所属するチームが点を入れる度に歓声を上げ、敵チームに攻められるとハラハラしながら見守る。試合は無事海のチームの勝利で終了した。
 終了の笛が鳴ると共に柚は一分一秒でも早く海に会うために選手控え室に向かった。

 選手控え室。

「海くん!」
 柚は控え室に飛び込むなり、まだユニフォーム姿の海の元に駆け寄った。
「あぁ、柚か、来てくれたんだな」
 柚を見るなり海は嬉しそうにわずかに表情を綻ばせた。
「はい。お疲れ様です。とってもカッコよかったですっ!」
 柚は凄く嬉しそうな笑顔で興奮気味に言った。

 そこに
「いいよなぁ、高円寺は柚ちゃんみたいな可愛い恋人がいてよ〜」
「はいはい、美男美女でお似合いですよ」
 からかい冷やかす海のチームメイト。
「ったく、毎度毎度。向こうへ行ってろ!」
 海はからかわれ照れたのか声を少しだけ荒げてチームメイトを追い払う。
 チームメイトはいつもの事のなのかニヤニヤ顔で散った。
「ふふ」
 柚は嬉しそうに笑みをこぼしていた。
「何だよ、柚」
 海は怪訝な顔で訊ねた。
「ちょっとだけ嬉しくて……その海くんの恋人だって見られて」
 柚は頬を赤らめながら嬉しそうに言った。ずっと海の恋人になりたいと願い、叶った今恋人に見られている事が嬉しくてたまらない。
「ほんと、柚ちゃんは良い子だよなぁ」
 またまたチームメイトが余計な茶々を入れる。
 海は虫を追い払うかのように手でチームメイトを追い払った。

 チームメイトが去った後、
「……どうですか?」
 柚は海の足の指から大腿部ぐらいまでを掌で擦ったり揉んだりして筋肉を揉みほぐすスポーツマッサージを施し始めた。海のために出来る事を探し覚えた事だ。魔法を使用しないのは触れた方が疲れ具合が分かるからだ。
「柚のマッサージにはいつも助けられてばっかだ。ありがとうな」
 海は足が楽になっていくのを感じながら何かと自分を支えてくれる柚に礼を言った。
「それは私もです。海くんの頑張っている姿を見てるととても元気になります」
 柚は顔を上げ、満面の笑みで答えた。最愛の人のために何か出来るという事はとても幸せな事だから。
 ふと遅刻しそうになった今日の事を思い出して柚の顔が曇り
「……あの、今度の試合、海くんと一緒に会場に行きたいんだけどいい? 今日も色々あって遅れそうになったから。一緒の時は遅れないし……ダメ?」
 遠慮がちに海にお願いを口にした。また海がからかわれてしまうかもと思いながら。
「だめじゃねぇよ。オレが迎えに行くから一緒に行くか」
 海は即答した。からわれるとは分かっていても柚が困っているのは見過ごせないから。
「ありがとう! 海くん」
 柚は嬉しそうに笑った。海はその笑顔を心底喜んでいるようだった。
 幸せがその場を包んでいた。

■■■

 覚醒後。
「本当にあんな素敵な未来が来れば……」
 柚は体験した未来に満足していた。