リアクション
現在から数年後。
とある町の宿。
「今回の依頼は町外れの空き家に棲み着いた魔物の退治ですね」
「あぁ。それが終わっても別の依頼があるから急がないとな」
黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)と黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は本日の予定を話し合っていた。
「はい。本当に便利屋『黒羽』も有名になって忙しくなりましたね」
とユリナ。竜斗達が昔から続けている便利屋『黒羽』は今では有名になり今日のように忙しくパラミタを東奔西走しているのだ。
「そうだな。何もかもみんなのおかげだ。どんな依頼でもみんながいれば無敵だからな」
竜斗は感慨深げだった。仕事も充実していて家族がいて幸せそのもの。そんな自分にどんな敵が立ち塞がっても負けはしない。
「はい。おかげで私も少し自分に自信が持てるようになりました。感謝してもしきれません」
ユリナも長年夫の竜斗と共にあちこちを駆け回ったためか昔よりもずっと自信を持てるようになっていた。
「感謝するのは俺の方だ。ユリナ達の助けがなければ便利屋『黒羽』も有名にはならなかった」
竜斗は変わらず自分に力を貸してくれている家族に心底感謝していた。
「さてともうそろそろ出発しようか。別室にいる二人にも声をかけないと」
「はい。銃の点検も終わっている頃ですしね」
竜斗達は別室で行っている整備点検が終了したかを確認しに行った。
別室。
「整備、完了です。ロゼさん、どうですか?」
黒崎 麗(くろさき・れい)は整備をしたギフトであるロザリエッタ・ディル・リオグリア(ろざりえった・りおぐりあ)に具合を訊ねた。
「……麗の整備、いつも心地良い。おそらく私の成長の要因の一つ」
ロザリエッタは身体を動かし、具合を確かめた後、満足そうに言った。
現在、麗は機械の勉強をして如何なる物でも修理や整備が出来るようになり、ユリナの銃やロザリエッタの点検を任されるようになっていた。
「……ロゼさん、ありがとうございます。これからも頑張りますね」
麗は褒めるロザリエッタに照れながら礼を言い、これからも絶えず精進しようと思った。
その時、
「もうそろそろ出発ですが、私の銃の点検はどうですか?」
ユリナが麗に任せた銃を取りにやって来た。
「全部終わりました」
そう言って麗はユリナに銃を渡した。
「ロゼも準備が出来てるみたいだな」
竜斗も現れ、ロザリエッタの点検も終了している事を確認した。
「……いつでも出発、出来る」
とロザリエッタ。
「いつもありがとうございます」
銃を確認した後。ユリナは頼りになる麗に礼を言った。
「すっかり麗も落ち着いたな」
竜斗も昔と違いすっかりドジっ娘属性がなりを潜めた様子に笑みをこぼした。
「そんな事ないです。ただ、お父さんとお母さんの力になりたくて……私も魔物退治頑張ります」
麗は両親に褒められ、嬉しそうに照れた。
この後、竜斗達は現場に向かった。
現場である町外れの屋敷。
依頼内容は大量の子蜘蛛と子蜘蛛を生み出す親蜘蛛の退治である。
「争いは、やっぱり嫌……だけど、私を受け入れてくれた、皆の為に、頑張る。マスター」
成長したロザリエッタは大剣に変形した。
「ロゼ、行くぞ」
大剣に変形したロザリエッタを構え、竜斗は勇ましく屋敷に突入し、部屋の奥にいるらしい親蜘蛛討伐に向かった。
部屋中に溢れる子蜘蛛の相手はユリナと麗が銃で相手をする。
「竜斗さん、援護は任せて下さい」
ユリナは竜斗に襲いかかる子蜘蛛を見事な狙撃で片付けて行く。
「私も頑張ります。早撃ちなら誰にも負けませんから」
麗もさらに磨きがかかった早撃ちで子蜘蛛を片付けていた。
ユリナと麗の援護を受け、廊下を突っ走り、辿り着いた奥の部屋。
扉を開いた先にいたのは
「……これが親玉か」
部屋に糸を張り巡らせた巨大な親蜘蛛。この瞬間も絶えず、子を産み続けている。
「お父さん! 子蜘蛛は任せて下さい」
「竜斗さんは親蜘蛛を」
援護をしつつ駆けつけた麗とユリナが登場。
「あぁ、頼む。町に被害が出る前に退治をする。行くぞ」
竜斗は妻と娘に子蜘蛛を任せ、ロザリエッタが変形した大剣を構え直し、親蜘蛛をにらむ。
そして、ロザリエッタに声をかけて駆け出し、親蜘蛛目がけて剣を振り下ろし、親蜘蛛を真っ二つに切り裂いた。
退治後。
「……町の人達に被害が出る前に退治が出来てよかった。みんなお疲れ」
魔物を殲滅した事を確認した後、竜斗は皆を労った。
「はい。大した傷もなく無事解決が出来て安心しました」
ユリナは家族が無事である事に何よりの安心を見せていた。
「ロゼ、いつもありがとう」
竜斗は大剣形態を解いたロザリエッタに礼を言った。
「……はい。これが私に出来る最大の恩返しだから」
無表情だがロザリエッタは竜斗に役に立てている事が本当に嬉しく思っている。
「早速、町の人に報告しましょう。きっと待ってるはずですから」
「そうだな」
竜斗は麗の言葉にうなずき、町へと戻り依頼を達成した事を知らせて住人達を安心させた。
その後、次の依頼を片付けるため町を去った。
■■■
覚醒後。
「なかなかいい未来だったな。家族も変わらずいて便利屋『黒羽』も有名になって」
満ち足りた未来に竜斗は心底満足していた。
「そうですね」
ユリナも幸せな未来の余韻に浸っていた。
「私はドジっ娘じゃなくなっていたのが嬉しかったです」
麗は現在のドジっ娘属性が克服された未来に大変満足していた。
「……マスター以外、私を上手く使えるとは思えないから一緒の未来でよかった……それにマスターに大剣が似合っていた」
ロザリエッタは成長した自分を手に戦う竜斗の姿に満足だった。
◆
現在から約4年後。
「本当にしつこい!!」
数々の武勲で教導団中佐に昇進し大隊長として多数の部下を従える身となった24、5歳の
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は敵の追撃に必死に応戦していた。
「何とか逃げ切る事が出来ればいいのだけど」
セレンフィリティの副官となった
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も戦いながら逃げる隙を窺っている。
鏖殺寺院残党討伐任務を受けたのだが待ち伏せに遭い、二人を残して味方は全滅していた。
突如、
「セレン!!」
セレアナはセレンフィリティを狙う攻撃の前に身を出した。
「……セレアナ」
自分を庇い被弾するセレアナに呆然とするセレンフィリティ。
「……大丈夫よ。必ず、追いかけるから早く逃げて。早く!!」
セレアナは踏ん張って声を張り、セレンフィリティを現実に引き戻す。自分はともかくセレンフィリティだけでも無事に生還させるために。
「……分かった。必ず戻るのよ」
セレアナの気迫に押されたセレンフィリティは言われるままうなずき、セレアナが牽制している間に逃げた。
教導団に戻り手当を受けた後、
「……セレアナ……あたしのせいで」
セレンフィリティはセレアナの戦死を知らされると逃げるように去った。
その後、自暴自棄になったセレンフィリティの身に契約者を失った影響が出ていた。
どこかのとある町の裏路地。
「……セレアナ……」
契約者を失った影響で心が壊れ乳白色の玉肌にぼろ布のような服をまとったセレンフィリティは虚ろな瞳で失った最愛の人の名前をつぶやくばかり。
「……セレアナ……」
セレンフリティはふらりと立ち上がると近くの安っぽい売春宿へ向かった。心が壊れると共に家には戻らず路上生活をして娼館などを渡り歩き、淫蕩を重ねて快楽に埋める。しかし、交わった男や女の顔、人数など覚えてはいない。覚えているのはセレアナの顔を見た最後の時だけ。
そんなある日。
「あぁ……元に戻った……だけ……」
料金を巡るトラブルで胸を刺され、倒れたセレンフィリティ。広がる血の海と共にほんの少しだけ元に戻り、自嘲した。実は幼少から16歳まで売春組織で売春を強要され、挙げ句、商品価値が無くなったと乱暴されて捨てられたのだ。そこをセレアナが助けたのだ。 しかし、今は誰も助ける者はいない。
「セレアナ……もうすぐあたし死ぬけど……また、逢えるかな……」
薄れる意識の中、セレンフィリティはつぶやき、静かに目を閉じた。
現在から約4年。セレンフィリティと同じ未来。
セレンフィリティを身を挺して庇い、逃がした後。
「……セレン、無事で」
セレアナはちらりと最後になるかもしれない最愛の人の背中を見送った後、追撃を続ける敵の相手を始めた。
この後、怪我に朦朧としつつもセレアナはどうにか生きて無事教導団へ帰還した。
教導団。
「……セレンは無事かしら?」
満身創痍のセレアナは帰還早々か細い声で同僚にセレンフィリティの無事を問うた。
「セレンフィリティは少し前にここをやめたわ。貴女の帰りが遅いから自分のせいで貴女が戦死したと思い込んで……だから今はどこにいるのか分からない」
同僚は少し前の事を言い難そうに話した。
「……そう、無事なのね。良かった」
無事である事に安心したセレアナは身体を引きずりながら教導団を後にした。本当なら手当を受けて療養するべきなのだが、セレアナは構わず、大事なセレンフィリティの捜索に出た。途中、怪我で倒れて療養を余儀なくされるも捜し続けた。
どこかの町の裏路地。
「セレン!!」
裏路地を捜索しいていたセレアナは路上に倒れるぼろ布を来た人物の元に駆け寄った。近付かなくても誰なのかセレアナには分かっていた。再会はまるで最初に出会った時のよう。
「セレン」
セレアナはセレンフィリティを抱き起こし、呼びかけた。
「……あぁ、ようやく……」
セレンフィリティは虚ろな目でセレンを見上げ、か細い手を宙にさまよわせた。セレアナをナラクからのお迎えと勘違いしている様子だった。
「セレン!! 必ず救うから」
セレアナはさまよう手を握り締め、細くなったセレンフィリティの身体を抱き締めた。
■■■
「……散々だったわ。未来なんて見るもんじゃないわね」
覚醒早々セレンフィリティは不快そうに言葉を洩らした。
「それはそうよ。確認もせずに感覚だけで暗い未来の方を選ぶんだから。本当に雑ね」
セレアナはいつものように冷静なツッコミを入れた。
「あぁ、それで」
言われて薬を確かめたセレンフィリティは納得した。
「……本当に」
薬を確かめるセレンフィリティを見ながらセレアナはしみじみと思っていた。未来の内容はともかく最愛の人と共にあるのが自分にとっての幸福な未来なのだと。