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祭の準備と音楽と

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祭の準備と音楽と

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動物と音楽


「やっぱりあなたの毛並みは素晴らしいわね」
 村にあるユニコーンの住処。その主であるラセン・シュトラールにブラシをかけながらリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はそう言う。全快したラセンとの森の散歩を終えたリリアはもうおなじみとなったブラッシングを行なっていた。
「けど、祭が近いからかしら。いつもより村に活気があるような気がするわ」
 ユニコーンの住処周辺。普段は村の中でも静かなこの場所も、耳を澄ませば人の話す声が聞こえてくる。
「祭といえば、祭の日は一緒に回りましょうね。あなたなら多分特に問題なく一緒に回れるはずだから」
 ゴブリンやコボルトと違いユニコーンは聖獣として認識されている。建物の中に入るとかでなければそう問題は起きない。といっても人混みの中を一緒に歩いたりは難しいため、何も対策をせずに一緒に回るというのは難しいが、それもゴブリンやコボルトたちの問題ほど難しくはない。
「あら? チャトランも一緒に回りたいの?」
 ラセンの背に乗るキャットシーのチャトランが何か不満そうな顔をしていた。
「そうね。お祭りまでちゃんと仕事したら連れて行っても大丈夫かしら」
 ラグランツ商店の看板キャットシーとして頑張ったらご褒美にとリリアは言う。
「……やっぱり祭っていつになっても楽しみなものね」
 リリアはラセンやチャトランと周る祭に思いを馳せるのだった。


「ふむ……特にもう問題はないかな」
 ラセンの健康状態を記録したカルテを確認しながらエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はそう言う。また襲撃がないとも限らないためそこへの注意は必要だが、ユニコーンの健康自体に問題は見当たらない。
「そうなってくると気になるのはミナホさんとのギクシャクしてる理由かな」
 ラセンは人を信じると言ってくれたユニコーンだ。そのラセンがミナホを変に警戒しているのがエースは不思議だった。
(ある程度言いたいことは分かるようになったともうけど、流石に複雑な説明を分かるのは難しいからね)
 イエス、ノーや感情等はだいたいコミュニケーションの中で分かるようになってるだけにそこが歯がゆくあるとエースは思う。
「ミナホさんはこの村を取り巻く歪みの発生源……ってラセンさんは言ってました」
 そうエースの言葉を拾って言うのはティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。彼女の持つインファントプレイヤーというスキルでラセンから教えてもらったことを伝える。
「歪み……ね。シュトラールは他には何か言ってなかったかい?」
「いえ、それ以上はラセンさんにもよく分かってないみたいです。ただ、その歪みを最初から感じていたみたいですね」
 最初の頃は違和感程度だったが、倒れた時の一件でそれが歪みだと認識したらしいとティーは言う。
「なるほど。通りでシュトラールがミナホさんを警戒していたわけだ」
 その歪みというものが何かは分からないが、ラセンが警戒していたことに納得するエース。
「情報ありがとう。とりあえず今はこれ以上分かることは無さそうだし、店の方へいくよ」
 ラグランツ商店として祭の企画への援助の手続きをしにエースは向かうのだった。


「えーっと……確かこの辺りって聞いていましたけど」
 エースの去った後のユニコーンの住処周辺。リリアもチャトランを連れて店へと戻った所にミナホは入れ替わるようにして来ていた。ここで祭の企画の一つの準備が行われていると聞いていたのだ。
「あ、鉄心さん。お疲れ様です。例の企画の準備ってここですよね?」
 探している人物――源 鉄心(みなもと・てっしん)――の姿を見つけてミナホは話しかける。
「ミナホさん。お疲れ様です。視察ですか?」
「はい。……それで、例の子たちはどこに?」
 鉄心の言葉に頷きミナホはそう聞く。
「今はロゼさんたちと森に散歩に行っていますよ。まずは信頼関係からと行ったところでしょうか……っと、ちょうどいま帰ってきたみたいですね」
 鉄心の言葉に村の入口を見ると森の方角から九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)たちと一緒に多くの犬がやってきていた。犬だけでなく猫やパラミタクロウサギ、ドラゴンベビーの姿も中には混じっている。
「話には聞いていましたけど結構多いですね」
 ローズ発案の祭の企画。それを鉄心を通して聞いていたミナホだが、改めてその準備段階を目の当たりにして驚く。
「ニルミナス周辺の捨て犬や捨て猫を訓練して祭でパフォーマンスをするって聞いた時はどうなるのか全然想像つきませんでしたけど」
 ローズが祭の企画として提案したのは一種のチャリティーだ。捨て犬や捨て猫に芸を覚えさせ、それを見た人たちに飼い主になってくれないかと頼む。
「けど、あと2,3ヶ月で芸を覚えさせられるんでしょうか?」
「ティーのインファントプレイヤーがあればなんとかなりますよ」
 見ると、鉄心の言葉の通り、ティーは犬達にインファントプレイヤーでいろいろと意思疎通を行なっていた。
「それより、村側として祭までの間この数の動物たちがいるのはほんとうに大丈夫なんですか?」
「この辺りなら人家も少ないし大丈夫ですよ。村の端ですし、観光客の方が来る入り口も別にありますから」
 ローズたちの方で餌代の方は負担してくれるという話であり、その他の部分の負担や責任を村側が受け持つのはそう大変じゃないとミナホは言う。
「でも、あの子たちが住む所はどうするんですか? 犬や猫合わせると全部で20匹くらいいますが」
 流石に野ざらしにする訳にはいかないだろうとミナホは思う。
「それに関しては――」

「スープでござる。ラセン殿、よろしくお願いいたす」
 ユニコーンの住処にてそう言ってラセンに頭を下げるのはスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)だ。
「それではおやすみでござる」
 頭を上げたと思ったらそう言ってぽいぽいカプセルからふかふかベッドを取り出して潜り込むスープ。
(餌の手配や周辺住民の了解も終わったでござるから後は寝るだけでござる)
 文官や事務員にその辺りの調整を丸投げしたスープはもうやることはないと眠りに入る。
「……寝てばかりいないで、スープも手伝うのですわ! ごめんなさいですのラセンさん。この子は私の子分ですの」
 働きたくないでござるとラセンの横で眠るスープのことをそう紹介するイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)。スープとは対照的に忙しそうに動く彼女がやっているのはユニコーンの住処、その空いている部分を犬や猫達の寝床に一時的に改修する作業だ。ミニいこにゃやミニうさティーと呼ぶちびキャラたちを動員して作業にあたっているが、あんまり進んでいない。おそらくミニうさティーたちがラセンの周りで遊んでいることが原因だろう。
「……怠けてるならスイカを食べさせないのですわ」
 ミニうさティーたちにぼそっと言うイコナ。その瞬間まじめに働き出すミニうさティー。
「……どこかの誰か見たく食い意地張ってるのですわ」
 はぁと息を吐くイコナ。
「そしてこの子はやっぱり眠っているのですわ」
 ベッドで幸せそうに眠るスープにもう一つため息をつくイコナ。

「――イコナたちがラセンさんにちゃんと許可をもらって準備をしているはずですよ」
 許可はもらっているがちゃんと準備しているかは微妙だった。


「……これでよし」
 右足を引きずるようにして歩いていた犬の手当を終えたローズはふぅと息をつく。今回のチャリティー的な企画。その発案者であるローズは捨て犬や捨て猫たちのコンディションの管理だ。医学の心得のあるローズはその能力を全て駆使しその役目に従事していた。
(……絶対に成功させないとね)
 ローズの思う成功とは祭でのパフォーマンスの成功ではない。むしろその後が本番だ。里親探し。身寄りのないこの動物たちが心安らかに過ごせるように、その飼い主を見つけること。それが今回ローズがニルミナスの祭に参加した理由だ。そして自分と動物たちで交わした約束でもある。ティーを通して、祭でのパフォーマンスへの協力とそれから飼い主を見つけるまで面倒を見ることは動物たちに了解をとっている。
「がんばりましょうね」
 ローズの言葉に治療してもらった犬は首を傾げる。ただ、ワンと元気よく吠えた。


「ほら、飯だ。食え」
 そっけない態度で動物たちに餌を与えるのはシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)だ。
「っと、お前近づきすぎだ! こら舐めるな!」
 パラミタドーベルマンが餌ではなくシンに飛びつく。じゃれて遊んでというような様子だ。
(……誰も見てないか)
 当たりを見渡し、誰もこちらの様子を見ていないのを確認してシンは息をつく。
「お前、そんなに人懐っこくて大丈夫かよ」
 捨てられたはずなのにとシンは思う。
「……お前は強いんだな」
 息をつき、そう言ってシンはドーベルマンの頭を撫でる。
「ごめんな……お前ら全員飼ってやりてえんだけどオレ達の家ほんと狭くてな」
 懺悔するようにシンは言う。
「……でも、最後まで面倒見てやるから、仲良くしようぜ」
 別れがつらくなると分かっていながらシンは心からそう言った。


「ここの演出はどうしようか」
「んー……ここで流れる曲は比較的静かだから――」
 ローズが動物たちに芸を教えているのを尻目に顔を向かい合わせて話し合うのは冬月 学人(ふゆつき・がくと)斑目 カンナ(まだらめ・かんな)だ。祭のパフォーマンス。祭はミュージック・フェスティバルであるため当然音楽を絡めたものになる。
「となると――が必要になるね」
「それくらいならあたしの貯金から出せるよ」
 二人はそのパフォーマンスの段取りを道具含め話し合っていた。
(カンナ、凄い気合いの入れようだな……自分の貯金をおろしてまでライブの準備をするんだ)
 話し合いながら学人はカンナの熱意にそう思う。
(でも、僕も家が厳しくて動物と触れあったりできなかったから。ちょっと嬉しいな、皆でこうやってるの)
 自分にカンナほどの熱意があるとは言えない。でも真剣さは負けていないと思う。
(……成功させたいな)
 学人同様カンナもまた話し合いながら思う。
(あたしも動物好きだし)
 カンナはローズ同様動物アレルギーでありながら動物が好きだった。
(……そんなところまで似てるんだね)
……………………

「そろそろ動物たちを休憩させてこようかな)
 話が一段落した所で学人は言う。流石に動物たちも訓練訓練じゃ大変だろうと散歩に連れて行こうと思っていた。
「あたしは曲を試しに録音してみるよ」
 どうなるか確認してそこから調整していくとカンナは言う。
「……成功させたいね」
「当然だよ」
 学人の言葉にカンナはそう返した。


 彼らと動物たちのパフォーマンスがどうなるのか。それは祭までお楽しみだ。


「アスターやマリーゴールドは、コンパニオンプランツって言って他の植物の成長を助けたり、悪い虫から守ってくれたりもするんですよ」
 ユニコーンの住処の近くにある花壇。スイカなんかも植えられてたりするその傍でティーはパラミタクロウサギにそう説明する。
 花壇は白いアスターの花やマリーゴールドを始め夏に咲く花が彩りを添えている。
「……って、あれ? この花は……」
 その中に自分たちが植えた覚えのない花を見つけティーは首を傾げる。
「ユリの花……この時期の花ではあるんですけどこれは……」
 パラミタ種のユリよりも地球に群生するユリの特徴に近い。パラミタでこの特徴を持つ花を咲かせるには何代もの掛けあわせが必要になってくる。
「誰が植えたんでしょうか?」
 ティーと一緒にパラミタクロウサギは首を傾げた。