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祭の準備と音楽と

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祭の準備と音楽と

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エピローグ

「…………なんなんですかこれは」
 数日前まで確かに家だった廃墟を前に蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は絶望の声を上げる。予想はしていた。していたが、じっさいにこれを目の前にして何もショックを受けないのは難しい。
「あー、マビノギオンおかえり。どったの? 家の前で呆然と立って」
 誰のせいですか誰のというツッコミを置いて、マビノギオンは勇気を振り絞り廃墟へと足を踏み入れる。
「数日の間に何があったのですか?」
 廃墟にて平然としてくつろぐ主芦原 郁乃(あはら・いくの)にマビノギオンは聞く。
「それがね、どうも採集した植物の中に以上に成長がいいのがあったみたいでね。朝起きたらこの有様さ」
 何故かどや顔の郁乃。
「結局、村と変わらなくなってしまったと」
「でも動物も観察できるし、結果オーライだよねぇ」
「……ヘタしたらゴブリンたちから集落追い出されるんじゃないですか?」
「だ、大丈夫だよ、ほら、キングって優しいし」
「仏の顔も三度までと言いますが……まぁいいでしょう。それよりも主。村から手紙をあずかってきたのですが」
「んー? なになに? 『ゴブリンやコボルトたちが一緒にお祭りに参加できるよう協力してほしい』……だってさマビノギオン」
「頼まれているのは主ですからね」
「んー……でもあんまり気乗りしないんだよねぇ……だって、祭に参加するとしてここを中心とした森の守りはどうするの? 代わりに護ってくれる人がいるとしても、そんな簡単にゴブリン達が納得して役目を譲ってくれるのかな?」
 自分たちがこうしてゴブリンたちの集落にいる。それ自体がイレギュラーであるのにと郁乃は言う。
「とりあえず話だけはしてきませんか?」
「ん……そだね。村にもお世話になったし。キングとかがどう思ってるのかも聞いときたい」

「――ということなんだけど……キング、どうかな?」
 郁乃の説明にゴブリンキングは難しい顔をする。普通の人には変わってないように見える表情の違いも郁乃は分かるようになってきていた。
「キング……もし参加するならわたしが命に代えて集落守るよ。でもね、ムリに参加しなくてもいいと思うんだよ。集落が大事なものを守ってることを、わたしも今は分かってる……」
 その言葉にゴブリンキングは更に難しい顔をする。なにか伝えたいことがある、けれど伝えられないことに苦しんでいるようだった。
「ぼんは……郁乃さんのような自分が信頼出来る人間であればこの森のことを守らせていいと言っています。……ある条件を満たしていたらですが」
「前村長。……どうしてここに?」
「手紙の返事……私が直接聞いてきたほうが確実だと思いましてね。ちょうどいいタイミングだったようです」
「それで、キングのいう条件って?」
「10年前の真実と……自分の主人が自分たちに最後に託した願い……ですよ」
「10年前の真実……村が出来た時の話?」
「この2つのことを知っていない限りたとえ郁乃さんたちでも森を任せることは出来ないと。ぼんはそう言っています」
「それが、ゴブリンやコボルト達が森を、その中でもミナス草を特に守る理由なんですね」
 マビノギオンはそう言う。
「……簡単に教えてくれるはずないよね?」
「それを教えるということは一時的にでも森を任せるということ……自分たちよりも強い相手じゃなければ任せようなんて思いませんよ」
 前村長の言葉。それはどこか遠く聞こえた。それはゴブリンたちの立場からの言葉であり、その間に何か大きな壁のようなものがあるからじゃないだろうか。
「…………………………ところでキング」
 長い沈黙の後。郁乃は突然ゴブリンキングへ語りかける。
「家壊しちゃったけどまだここにいていいよね? ちゃんと直すから、おねがいだよーっ!
 はぁとシリアスな空気が薄れため息をつくゴブリンキング。
「ぼんも苦労しますね」
 その様子を前村長は嬉しそうに見つめるのだった。




「うぅ……封印さん解けないの」
 鍾乳洞。その奥。遺跡都市アルディリスへと続く扉。その封印を前に及川 翠(おいかわ・みどり)は残念そうな声を出す。鍾乳洞を今日こそ制覇するとやってきた翠だったが、今のところ封印が解ける様子はない。
「やっぱり私達二人だけじゃ無理そうですね」
 翠と同じように封印を解こうと頑張っていた徳永 瑠璃(とくなが・るり)はそう言う。
「鍾乳洞さん制覇諦めるのは嫌なの」
 瑠璃の弱気とも取れる言葉に翠は元気付けるように言う、ただ、当の瑠璃の表情は全く弱気は見えない。
「こういう時は助っ人さん、召喚です!という訳で、ミリアさん、スノゥさん、お願いです助けてください!」
 そうしてあらかじめ頼んでいた助っ人を呼ぶ瑠璃。出てくるのはミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)の二人。両方共翠のパートナーだ。
「この封印を解除……ね。解析自体は特に問題ないけど、解除自体は慎重になったほうがいいんじゃないかしら」
「ふぇ〜、遺跡都市さんに繋がってるんですかぁ〜……ミリアちゃんも言ってますけどぉ〜、封印さんを解いちゃうのはぁ〜……」
 来てそうそう慎重な意見を言う助っ人二人。抜け目なくある程度遺跡についての情報を村で集めた二人は、そう簡単に足を踏み入れる場所でも、踏み入れさせていい場所でもないことを理解していた。
「とにかくまずは解析なの!」
「……まぁ、そうね。どうやったら解けるかと調べておいたほうが安全だろうし」
「解析だけならぁ〜、問題ないですぅ〜」
「今日こそ封印さんを解除です」
 翠の意気込みに返事する三人。そこから4人とも真面目に封印の解析に当たる。
「開いたごま! なの」
「うーん……ルーン魔術に形態は近そうだけど、ルーンよりも大分古いみたいね……流石5000年前の封印」
「山!…………川って返事こないの」
「これはぁ〜、魔女の術式で解けるですぅ〜……でも、他も色々混ざっててそれだけ解除しても意味無さそうですぅ〜」
「だるまさんがころんだ! なの」
「あれ? 5000年前の封印さんなのに近代西洋魔術と近い術式があるみたいです」

 それぞれ特技を駆使したりしてまじめに封印の解析に当たる。

「こうなったら肉体言語なの」
 デビルハンマーを取り出し封印に向けて思いっきり叩きつける翠。
「うぅ……固いの」
「全く翠ったら……そんなことで破れるならもっと簡単に……って、あれ? これは?」
 ハンマーをたたきつけられた封印の壁。そこにあった5000年前のメッセージ。その下からもう一つのメッセージが顔をのぞかせていた。

『開きたくば二つの相反する力を

   封じたくば三つの干渉しあう力を』

「? どういう意味なの?」
「翠……流石にこれくらいは分かりなさい」
 比較的分かりやすいでしょとミリアは思う。
「けどぉ〜これの書き方だと〜、封印を解除とかじゃなくて〜、開け方と閉め方みたいですねぇ〜」
 つまり出入りの方法ではあるが封印自体を解除するものではないようだ。
「けど……今の私たちのスキルじゃ開けることは出来なさそうですね。……流石にここで召喚獣さんを呼ぶのは無理ですし」
 それほどの広さのある鍾乳洞ではないと瑠璃は言う。
「じゃあ、準備しなおして早速探検なの!」
「翠さん、少しは落ち着い――――誰ですか!?」
 翠を宥めようとした瑠璃は超感覚で知らない足音を感知する。
『くすくす……封印の解き方知っちゃったのね。困ったわ困ったわ』
 困った風には全く感じられない声でフードを深く被った人――粛正の魔女――は楽しそうに笑う。
『でもそうね。もうそろそろいい時期かしら。愚かな契約者に愚かな行動の結末を教える』
『あなたたち。もしよかったらあの村の契約者たちに伝えてくれる? 5000年前の真実が知りたければ私とアルディリスでゲームをしましょうと。ルールと日時は追って伝えるわ』
 そう言って粛正の魔女は姿を消していなくなる。


「……フード、あんなに深く被って暑くないの?」
「……突っ込むところそこじゃないから」
 変わらぬ翠にため息をつくミリアだった。





「おや、和輝さん。私になにかご用ですか?」
 前村長の部屋。そこに訪れた和輝に前村長は用を聞く。
「さっきあの魔女が来ました。今度契約者とゲームをするから、その時は自分を守れと」
「守れと言うことは自分で契約者たちの前に立つということですか。珍しいですね」
 本当にあの魔女は自分では戦えない。だから仮に契約者が本気で襲えば簡単に死ぬだろう。
「筋違いなお願いかもしれませんが、あの魔女を決して殺させないでください。もしあの魔女が死んでしまえば何も終わらなくなってしまいます」
「その願いを聞くのはかまいませんが、1つだけ質問してもいいですか?」
「……まぁ、このさいです。答えますよ」
 仕方ないと前村長は頷く。
「あの魔女の配下になる時、俺はひとつの命令を貰いました。それは魔女ミナスを見つけること。儀式が終わらないのはミナスが生きているからだと」
 後半がどういった意味かはまだ和輝には分からないが、これまでの情報をまとめると一つの仮定に結びつく。
「あなたの娘、ミナホ・リリィは……本当は記憶を失った魔女ミナスなんではないですか?」
「………………………………」
「違いますか?」
「……残念ながらそれだけはありえないんですよ。それだけは……」
「なぜですか?」
 和輝の疑問に前村長は酷く重い溜息をつき、そして口を開く。





「10年前。ミナスは他ならぬ私の娘……ミナホ・リリィと呼ばれるあの娘の手によって殺されたのですから」






担当マスターより

▼担当マスター

河上 誤停

▼マスターコメント

一日遅れてしまいましたがリアクション「祭の準備と音楽と」を送らせて頂きます。いかがでしたでしょうか。
次は問題発生シナリオとなります。祭りの準備に参加していただいた方には申し訳ありませんが、次のシナリオでは祭りの準備はできません。
次の次のシナリオが祭りの準備実践編(ステージを作ったり、今回の企画を形にしたり)となります。そしてその後がミュージック・フェスティバルですね。
次回の問題発生シナリオでは10年前に起こったことと5000年前に起こったことを明らかにするシナリオになります。今まであったニルミナスにまつわる謎を8割程度解決できたらなと思っています。
よろしければまたのシナリオの参加を願いましてマスターコメントとさせて頂きます。