天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

祭の準備と音楽と

リアクション公開中!

祭の準備と音楽と

リアクション


森の守り手

「ここに塹壕を……あ、土嚢が足りないであります」
 えっさほいさと熟練の動きで塹壕を作っていくのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。祭の警備。それを単純にやるのは面白く無いと思ってしまう吹雪は森を罠だらけの完璧な要塞にしてしまおうと思ったらしい。
「このあたりに地雷を埋めまくれば完璧ではないかと思うのであります」
「そうね。確かにここに地雷原を設置すれば完璧に」
 吹雪の提案に同意してしまうのはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)だ。いつもは吹雪の暴走を止める役割である彼女が罠設置に乗り気なため、歯止めは聞かず罠はどんどんと取り返しの付かない感じで増えていく。
「よし、これで地雷原完成ね」
「この地雷原に敵を誘い込めば一網打尽にできるであります」
「吹雪、また最初から防衛施設を強化して行きましょうか」
「了解であります」
 そういって楽しそうに森に罠を設置強化していく吹雪たち。吹雪達が去ったその場所にため息混じりでやってくる姿があった。この森を守るゴブリンたちだ。
 ゴブリン達は竹槍で遠くから叩き、地雷を爆発させ撤去していく。それ以外の罠も動物たちに危害が及びそうなものは丁寧に撤去していく。
 そうして、ある程度防衛としてあって便利な程度の罠や塹壕を残してゴブリン達はその場を何事もなかったように去る。

そしてまた戻ってきた吹雪たち。
「……どうやら自分たちの敵は想像以上にやるようであります」
「ええ吹雪。これは負けてられないわね」
 熱が入り、もっと完璧に罠を仕掛けようという二人。

彼女たち二人と森の守り手たちのいたちごっこはまだ続きそうだった。


「前にゴブリンたちの言葉を覚えようとしたけど難しかったのよね。どうしたら意思疎通できるようになるのかしら」
 ネコミナスの喫茶店。最近静かにジャズが流れるようになったこの店でマスターである奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は頭を悩ませる。議題は以前村長であるミナホに言われた宿題、ゴブリンやコボルトたちとの意思疎通方法だ。
「意思疎通の方法かぁ……スケッチブックとかじゃダメなのかな?」
 絵で書いたら分かりやすいんじゃないかなと雲入 弥狐(くもいり・みこ)は言う。
「でも、スケッチブックだと大きすぎて持ち運び大変だよね……」
 そう言って自分の意見を自分で否定する弥孤。
「あたしはその案結構いい線言ってると思うわ!」
 弥孤の案をそう擁護するのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)だ。
「ようは、最初はスケッチブックに頼って、徐々にいらなくしていけばいいのよ」
「? どういうこと?」
 レオーナの言葉に首を傾げる弥孤。
「つまり、最初はスケッチブックで意思疎通を図って、それで慣れてきたら絵と身振り手振りのジェスチャーを繋げていけばいいのよ。最終的にはジェスチャーだけで意思疎通が図れるようになるわ」
 どやっといいそうな感じでレオーナは言う。
「いいかもしれないわね。身振り手振りだけでも結構伝わるものだし。絵からだんだん慣れさせていくというのは的を射ているわ」
 レオーナの案をそう言って補強する沙夢。
「あぁ……まさかレオーナ様の思いつきが認められる日が来るなんて……!」
「明日はやりの雨が降る。クレア気をつけてくれ」
 レオーナのパートナー二人。クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)ティナ・プルート(てぃな・ぷるーと)の本気のお言葉。普段のレオーナの行いを考えると全然ひどくない。
「よし、そうと決まったら早速ミナホちゃんに許可を――」
「――はぁ、私がどうかしたんですか?」
 レオーナが後を振り向いた所でちょうどミナホがネコミナスにやってくる。
「あ、村長いらっしゃい。カウンターでいい?」
「ありがとうございます弥孤さん」
 弥孤に案内されてミナホはカウンターに座る。
「それで、レオーナさん。私に何か用ですか?」
「えっとね、ミナホちゃん。カクカクシカジカなんだけど」
 正座でそう言うレオーナ。ちなみにカクカクシカジカのところは本当にカクカクシカジカとしか言っていない。
「なるほど……絵とジェスチャーの結びつけですか」
「あの……村長? 店で正座されるのって地味に営業妨害だからやめさせてくれない?」
「だそうですよ。レオーナさん。……クレアさんにティアさんも。レオーナさんを真似して律儀に正座しなくていいですから」
 そうして三人を普通に座らせるミナホ。
「というより、ミナホ様。レオーナ様のあの説明でどうやって理解したのですか?」
「やはりミナホはエスパーだったか……」
 驚愕に彩られるクレアとティアの二人。この二人は妙な所で純粋だ。
「村長、少し前から来て話し聞いてたよ?」
 弥孤のネタばらし。
「それでミナホ様。レオーナ様の案は許可していただけるでしょうか?」
「結論から言うと却下です」
「……どうしてか教えてもらえるだろうか? 今回の案はそう問題がないように思えるのだが」
「問題はありません。実際素晴らしい案だと思います。……ただ、そんなまどろっこしい方法とらなくていいんじゃないですか?」
「あー……前村長……ね。ゴブリンキングと話せるあの人がいればもっと簡単かつ確実にジェスチャーによる意思疎通ができそうね」
「正直ジェスチャーというのは盲点でした。喋れないなら身振り手振りで……基本ですね」
 ゴブリンキングにジェスチャーを教え、そのジェスチャーを他のゴブリンやコボルトたちに伝えてもらう。そうすれば複雑な会話はともかくとして敵意のあるなしや買い物するくらいの意思疎通は出来るようになるだろう。
「今度、一緒に必要なジェスチャーを統一して考えて行きましょう。それを決めたら後はお父さんとゴブリンキングにお任せです」

 とにもかくにも、ゴブリンやコボルトたちと会話する方法はある程度目安がついたのだった。