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機甲虫、襲来

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機甲虫、襲来

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三章 遺物

 アルト・ロニア唯一の病院は、瓦礫の山と化していた。
「これでは、ヴェーネルトの家が分からないな」
「じゃあ、アニスの出番だね!」
 険しい顔を見せる和輝の前で、アニスは『神降ろし』を使ってみせた。
「うん……うん、そうなんだ。ありがとう。和輝、スフィア、こっちだよ!」
 何者かと交信したアニスは、とある方向を指差した。
 アニスが指差した方向は瓦礫が堆く積もっていたが、目を凝らしてみると、そこには確かに住居らしき物があった。

「喜べ。お前の家は一応無事だったぞ」
 携帯電話でヨルクにそう告げると、彼は深く溜め息をついた。
「そうか。てっきり、あの攻撃で焼けたと思っていたが……無事だったのか」
 和輝はヨルクの家に視線を向けた。瓦礫が屋根を貫通しているが、運良く瓦礫は壁に挟まり、そこに留まっていた。
 粉塵が溜まってはいるが、部屋内部に深刻な被害は出ていないようだ。文字通りの『一応無事』という有様ではあるが、調査をする上での支障はあるまい。
「今からお前の家を調べる。いいな?」
「だったら、探して欲しい物がある。ノートだ。リビングのテーブルの上に、ノートがあるはずだ。ノートを読み上げてくれ」
「いいだろう」
 スフィアを外で待機させ、和輝とアニスはリビングに入った。テーブルの上に分厚く積もった埃を払うと、一冊のノートが現れた。
(これは……機甲虫に関する資料か?)
 飾り気など一切無い、ごく普通の紙製のノートだった。表紙をめくって目を通すと、機甲虫の構造を明確に記しているのが知れた。
 間違いない。ヨルクが言っていたノートだ。
「ノートを発見した。今から内容を読み上げる」
 傍らに立つアニスの頭を撫でると、和輝はノートの一部を読み上げた。

「そうか。いや、レーザーも危険だが、気を付けるべきはステルスの方だ。ああ、そうだ。ありがとう、よくやってくれた」
 ヨルクが和輝と通話する横で、東 朱鷺は怪しい物を発見した。
『八卦の見極め』が、倉庫の隅に眠る遺物の本質を暴いたのだ。
 製作された年代は数千年前だろうか。妙に角張った黒い柱状の物体を指差し、朱鷺は己の所感を述べた。
「随分と面妖な代物ですね。ヨルクさん、これが何だか分かりますか?」
 ヨルクと数人の契約者が歩み寄り、柱状物体に懐中電灯の光を照らした。
「これは、ヘキサ・アンブレラだ」
「ヘキサ・アンブレラ? この街の語感とは、ややかけ離れているように思えますね」
「翻訳を間違えたのかもしれないな」
 ヨルクは頬を掻くと、柱状物体の横に鎮座する石版に懐中電灯を向けた。
「この石版は、ヘキサ・アンブレラと一緒に出土した物だ。ヘキサ・アンブレラの名と、過去の歴史らしき内容の古代文字が刻まれていた」
「でも、かなりの部分が読めなくなってるわね」
 リネンの指摘通り石版の表面は風化してしまっており、大多数の文字は読めない状況にあった。
 ヨルクは石版に手を伸ばすと、静かに告げた。
「読める範囲で石版の記述を翻訳すると、こういう内容になる。
『白機の国に仕える虫、光を放ち人の国を壊滅させる。
 人の国、ヘキサの傘を以て虫の光に対抗する』……こんな感じかな。下手くそな翻訳ですまんが、我慢してくれ」
「虫の光ですか。もしかしたら、機甲虫のレーザーを意味しているのではないでしょうか」
 牡丹が持ち前の知識を活かした発言を口にすると、ヨルクは難しい顔で唸った。
「だとしたら、ヘキサ・アンブレラはレーザーを反射する装置ということになるんだが……しかしなぁ……ストレートすぎる訳すぎて何とも……。
 第一、これは発掘時に修理しても直らなかった代物だぞ。ちゃんと動くかどうかは全く保証できない」
 躊躇うヨルクの肩を、牡丹が軽く叩いた。
「何事もやってみなくては分かりません。ヨルクさん、ヘキサ・アンブレラの修理をお願いできますか」
 ヨルクはしばし黙考した末、こう答えた。
「……そうだな。やってみよう」