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―アリスインゲート2―Re:

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 【グリーク】
――ジュノン、ジュノン基地内ミネルヴァ軍空軍開発局
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)両名はここに来て特殊戦略兵器カテゴリーF―code020712―のスティレットの詳細を探りに来た。
 それを持ち去ったラビットフットことレイラ博士の元にはスティレットはなく、今となってはここを調べに来るのも一足遅い状況ではある。それでも、兵器の詳細がわからない以上、その素性を探る他ない。あたっては持ちだした本人に聞くべきところだろうが、その任は別のものに任せて、研究をしていた場所を探るのが彼らのすることとなった。
「どうにも気乗りしない……」
 しかしながら、燕馬は寝ぼけ顔でやる気ない。
 ここは研究者の巣窟。――燕馬が思うには、人して外れてはいけないネジが外れているような奴らの巣窟。奇人と変人とその他よくわからない人種の方々が切磋琢磨して人を大量にブチ殺す兵器を拵えては結果報告を見て談笑しあう場所。そんなイメージがある。そんな光景がこのドア一枚隔てた場所かと思うと、ため息をつきたくなる。
 逆に、リューグナーはにこやかだった。
「未知の技術はぜひ学びたいものですわ!」
 と揚々としている。そんな彼女に対して、
「お前のような奴がこの先に沢山いるんだろうな。人体を弄くるのが大好きな同族が」
「あら心外ですわ。こんな乙女に何を言っていますのやら」
「何を白々しい――」
「人体をイジるなんてそうそう目新しいものではないでしょう? そなたもやっていることですわ」
「俺のは医療行為だ。人体改造じゃない」
 笑えない談笑をしながら蟲毒の壺へ入る。
 開発局の中は血と毒に汚れてはおらず綺麗なものだった。精密物を扱う施設なのだから空調もホコリひとつにまで管理されていて当然だ。
 管理員にAirPADを提示すると実験区画への入出を許可された。ダストクリーナーと滅菌室を潜ってようやくお目当ての場所である、レイラの職場へと着いた。
 高い天井に無数の光りが吊るされ、その下で照らされている金属群は外装を剥がされた兵器と、ロボットの簡易モデルたち、白い服とつなぎの作業服――
 手術台の並ぶ無菌室のような生体実験室かと思えば、機械工学的な光景である。
「見学者とは君たちかね?」
 白髪白髭の老人が二人を歓迎する。
「わしはここ開発局の主任のアルバート・シュレーダーだ。レイラくんの件で来たのじゃろう? 彼女の担当部所へ案内しよう」
(医者というよりピアニストか)
 握手したアルバートの節の太い指先がそう告げた。医学方面の研究者ではないようだ。
 後に知ることになるが、彼は物理量子力学における権威であり、キョウマ・ホルススの恩師にあたる。尊大な態度は感じられないが、開発中の兵器を見る目が爛々と輝いているところを見るとやはりこの老人もどこか狂っているのかもしれない。
「美人さんとカワイコちゃんが来てくれて嬉しい限りだよ。最近はレイラくんの太ももが見られなくて寂しかったところだ」
 やはり変人だったか……と燕馬は心の中で囁いた。
「レイラくんがスティレットを連れてここを出るのもわからなくもないが……なにせここは実験に実験の――おっともう着いた」
 二人が案内されたのはロボットのコックピットがむき出しにされたようなものに幾つもの計測器が繋がっているものだった。シート内にもコードや電極が無数にありそれらの端は心電計などに繋がっていた。トロイア基地においてあったそれと同型の医療機器が。
 リューグナーがアルバートに尋ねる。
「レイラ博士はここで何をなさっていたのですか?」
「スティレットの能力増幅とロボット操作におけるSP能力の利用……じゃったかな? 脳波検知による操作方式を利用して対ロボット戦でもSP能力が実用レベルになるようにする装置及びインターフェイスの開発をしていたはずだよ。人間工学と生体科学に足掛した研究じゃったからわしもよくわからないところがあるがな。特にSP能力とかそのへん」
 それに関してはアルバートよりも燕馬たちのほうが詳しい。要は《サイコキネシス》などの力だ。劇場での奇怪なオブジェはこの力を用いて作ったものだろう。スティレットのSP能力を鑑みるに非常に強力なはずだ。
(それを更に増幅したのであれば、おそろしいな……)
 実際どれほどの力があるのか聞いて見る必要があると燕馬は考える。
「シュレーダー博士はスティレットのSP能力は見たこと有りますか? 例えば鉄の柱を曲げるくらいの力があったとか」
「いいや? あの子が出来たのはせいぜいスプーンを宙に浮かす程度じゃったはずだが? そこのシートに乗ればもっともそれくらいできたが、そうでない時は腕力も年頃の子供程度かな」
 恐らくあのシート、コックピットは能力の増幅器なのだろう。イコンでいうところのBMIと同じもの。
 しかしスティレットはBMI搭載のロボットに載っているわけでもなく、生身で非常に強い能力が使えている。現状とアルバートの話が食い違う。
「どういうことでしょう? スティレットが改造手術でも受けたとか?」
「なにを言っている!? あんな子供にわしらがそんなことをするとでもおもっているのか!?」
 リューグナーがアルバートの怒りに面食らう。燕馬も思わず聞き返す。
「してないのですか?」
「当たり前だ。わしらはサンジェルマンなどとは違う。兵士のサイボーグ化ならともかく子供を改造して何になる? 少年兵を作るのも馬鹿馬鹿しい。解剖なら髪の毛一本あればDNAから全身モデルを仮想空間に作って試せる」
「でもさっきは子供にはなんたらといいましたわよね?」
「あれは、ここは子供には“退屈”だと言おうとしたのだ。そうじゃろう?」
 確かに退屈だろう。実験に実験の日々で目新しい物は触ってはいけない危ないものばかり。
 アルバートを怒らせた代わりに、スティレットに関する能力の大体の予想が出来た。スティレットが何故特殊戦略兵器と称されるのか。
 スティレットとは彼女自身のことであり、彼女の能力を強化する“小型のBMI”の一対に付けられた名称だ。剣と鞘の一対のように、二つで一つの戦略兵器と言うわけだ。
「じゃから、レイラくんはスティレットをつれて“長期休暇に出たのだろう”。子供はたまに遊びまわった方がいい」
 アルバートがそう言ったのを聞いて、燕馬の眠気眼は一気に見開かれた。