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夏の雅に薔薇を添えて

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夏の雅に薔薇を添えて

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第7章 空に花の咲く頃に10


盆踊りの真っただ中、正臣はエドゥアルト達に連れられ山の方にやって来た。


そこではかつみが片づけをしていた。


「おー、来たな。 待ってたぞ」
「かつみ! 久しぶりー! これ、おみやげのヨーヨー、いる?」





かつみと合流した一行はそのまま山の中へと入っていく。
どんどんと奥に入っていくので、さすがに不安になった正臣はどこへいくのか尋ねてみる。


「みんな縁日に行ったから、今は人がいないがこの辺には蛍が放してあるんだよ」


かつみの言う通り、進めば進むほど、薄緑の光はぽつぽつと増えていく。
雑談を交えながら進み続ける。

「考えてみれば、ナオが救出されてまだ半年なんだよな。
 契約直後は俺にすら怯えてて、笑うようになるまで数ヶ月かかったっけ。 な、エドゥ」
「そんなこともあったね」
「そういえば正臣、ジョバンナも強化人間なんだろ。 そっちはどんな感じだったんだ?」
「えっと〜……」


言葉を濁す正臣。


「おっと、ストップ。 そこ段差だから気をつけてな」
「わぁお!? アンナ、大丈夫か?」
「私、道……みえて、る」
「ああそうか。 悪い、気を付けるのは俺だけか」


そしてかつみに案内された場所には、蛍が驚くほどにたくさん生息していた。


「す、ごいー……!」


ジョバンナは目を輝かせながらその光景に見惚れる。


「本当はここ、段差も多くて暗いから立ち入り禁止なんだ。
 けど、前は八つ当たりしたりで迷惑かけたからな……」
「かつみ……」
「これは内緒な、評価委員」
「ふふっ……了解。 ありがとうかつみ」


そうして楽しい蛍観賞を楽しむはずだった。
しばらくすると花火の打ち上げが始まった。
だが、その時ナオに異変が起こる。





「≪本当に今俺は、かつみさんたちのそばにいるのかな?
  実はまだ研究所の暗闇の中で、都合のいい夢を見ているだけなんじゃない?≫」
「……えっ?」
「ナオ、どうして……泣いて、る?」
「何? おいナオ、どうかしたのか!?」


かつみとエドゥアルトがナオの両肩を支えた。


「おかしいですよね……? でも、かつみさん…
 なんででしょう……? 蛍の……光が、たびたび消えて……
 暗闇になって……そしたら俺、研究所思い出して! 急に怖くて……!」


泣き止もうとしても、止まらない涙。


「ごめんなさい……ごめんなさいっ…!」
「かつみ、エドゥアルト。 ナオに触れて」
「正臣?」
「いいから、アンナ?」
「分かった……」


肩を抱いて支える2人は目を閉じ、その背中にジョバンナの手が触れる。


そしてかつみ達はナオに語りかける。

「謝らなくていいよ。ずっと怖い思いをしてきたんだね。
もう大丈夫だから。ナオに怖い思いをさせる人たちはもういないから」


エドゥさん…?


「それに、暗闇も研究所の夜だけじゃない。
 みんなで蛍を見た 今日の夜の思い出も増えたんだ。
 そんな風にみんなでひとつひとつ記憶を上書きしていこう」


でもこれは夢なんじゃ……


「夢なんかじゃない。俺たちはちゃんとそばにいるから。
 仮に夢だったとしても、絶対助けにいくから……だから安心していいんだ」


かつみさん……





気づけば、ナオの涙は止まっていた。


「正臣、一体何したんだ?」
「………さっきの話だけどさ。 覚えてないんだアンナは」
「はっ?」
「アンナの研究所時代の話。 
 本当は覚えてるはずなんだけど、自分で意図的に忘れたみたいでさ。
 だから俺も、自分の知ってることはずっと忘れとく事にしたんだ」


それだけ言うと、ナオの様子を気遣う正臣。
ナオは直接かつみ達が心に語りかけてくれたように感じていた。
もう……さきほどの闇への恐怖はなくなっていた。





               ◇ ◇ ◇





そして最後のメインである大玉花火が打ち上げられる。


空には7色の薔薇と、それに囲まれるように中央部分に雅の文字が浮かび上がる。
こうして雅最後のおもてなし、花火の幕が下りたのであった。


「綺麗だったなー、天音さんの言った通りだ」