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夏の雅に薔薇を添えて

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夏の雅に薔薇を添えて

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第7章 空に花の咲く頃に5





小高い山の頂上。
佇むザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)
花火も始まっている中、彼の待ち人は未だ彼の隣にはいなかった。


「アーデルさんも忙しいですしね。 やっぱり来ないんですかね……」


縁日や盆踊りを楽しむ人が多く、辺りには人気もほぼなかった。
だから些細な音も耳に入る。 花火の音。 虫の声。 川のせせらぎ。
人が近づいてくる足音までも。


後ろから近づくその音には気づいていた。
どんどん迫る音には息遣いも聞こえてくる。 だがザカコは振り向くのが怖かった。
もし違ったら、自分はどれだけ落ち込むのかと。










だが……それ以上に期待が大きいからこそ、彼は振り向くのである。










「………遅刻だなんて、やっぱり大ババ様ですね」
「よ、余計な、お世話じゃ!!!!」





ここまで盆踊り会場からノンストップで飛んできたアーデルハイト。
さすがに体力を使ったようだ。
2人は手を繋ぎながら花火を見る。 そこは最も花火が近く見える場所。


「華やかなパレードの花火も良いですが、こうして自然の中で間近に見る花火もまた格別ですね」
「そうじゃな。 あの時は周りが全部キラキラしていて良かったか、こうして暗い中に
 浮かび上がる花火も美しい物じゃのう。 ルドルフが美しい物好きなのも、少し分かる気がするのう」
「これを見終わったら、一緒にイルミンに戻りませんか?」
「ああ、すまんのう。 今日は別な用もあって来とるのじゃ。もちろんお前が呼んでくれたのは嬉しかったがのう」
「そうですか……ではこれを、素敵な時間をくれたお礼の気持ちです」


そう言って薔薇の花を渡すザカコ。


「おお、ありがたく受け取るぞよ」
「ふふっ、それにしてもアーデルさん、可愛い浴衣ですね」
「わざわざ選んでもらった品じゃからのう。 もっと褒めるがよいわー!……なんてのう?」


こうして2人で笑う事も、1人で胸を痛めながら待つ時間も。
ザカコにとって忘れられない一時に違いなかった。