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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・前編

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第1章 砂嵐の向こう側へ Story1

 早朝、エリドゥへ到着した祓魔師たちは、それぞれどのエリアへ向かうか確認し合った。
「シィシャ。アンタは会議通り、敵を砂嵐の外へ接近させて」
「はい。指示通りに」
 グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)の命令に、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は無表情に答えた。
「テスタメントたちは、例の場所で待機ですね」
「えーっとまさか…。プリンを売っているショップで?…ぁ、はいはい」
 満面な笑みを浮かべて頷く彼女に、呆れ顔をするもののしぶしぶ承諾する。
「万が一に備えて、町の人は避難させておくべきだわ」
「えぇ、それは分かってる。店を借りて、代わりに営業しておくのよ」
 人々を逃がすのを最優先にするべきだと言うセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に、店主の代理として営業すると日堂 真宵(にちどう・まよい)が言う。
「ちょっと馬鹿馬鹿しい話しかも知れないけど。何度も連中がここに来てる以上、ここをずっと動かない人は必要だと思うのよ」
「ショップへ来るかどうかの確立は別として。あいつらの目的が達成されれば、まずこの町が襲われるのは確実ね」
 新たな破壊の力を手に入れれば、それを試す場を欲するはず。
 真っ先にエリドゥが標的にされるだろう。
「失敗して逃走しようとするなら、それを追う者が必要となるわ。最も行動の余力のある私たちが捕まえなきゃね」
「逃げるだけとも限らないわ。町の人を使って何かする可能性も考えるべきよ、セレン」
「―…心臓が必要だっていう話だったかしら」
 最も最適な素材は、今回の救出対象である赤い髪の子供。
 それを奪われてしまったら、次の手に移るはずだと言う恋人に頷く。
「そう言えば、最近は友好的な関係になった魔性も増えてきたけれど。魔性の属性って全部で何種類くらいあるのかな?」
 まだ知らない属性を持つ者がいるのではと、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が質問する。
「属性による優劣と、一緒に教えてもらえないかしら?」
「例えばぁ〜、水・氷ですとぉ雷・火系が有効だったりしますねぇ。ちょっと分かりづらいかもしれませんがぁ、毒属性はそれにあたりません〜」
「複合属性として、毒系が含まれていても火系の効果が高いとは限らないのね」
「風・雷・大気は、大地。火・大地は、水・氷。音・闇には光・無。時に対しては、幻・元…といったところでしょうかぁ」
「あ、ねぇねぇ。幻と元に効果ある属性はないの?」
 その2つの属性には、対抗するためのものはないかと聞く。
「うーん…無属性くらいですかねぇ。その辺の魔性は、とても力が強いですしぃ。哀切の章の扱いに長けている者でないと…」
「ふむふむ、そっかー…。綾瀬、メモしてくれたわよね?」
「いいえ?」
「な、なんでーー!?」
 かぶりを振る彼女に対してドレスは声を上げた。
「余計な手荷物になってしまいますし…」
「わたくしがメモして、皆にメールで送りましたわ」
「さすが!仕事が速いわね、エリシア。ありがとう」
 しっかり聞き漏らさずメモを取っていたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に礼を言う。
「特に質問等、何もなければそれぞれの担当エリアへ向かってくださぁ〜い」
「必要な待機ですから仕事に入りますよね?真宵にマイナス点とか無いですよね?」
 仕事として見られず、減点されるのでは…と思ったベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に聞く。
「いいえ〜?特にそんなことはないですよぉ」
「ですよね、これも立派なお仕事なのです!テスタメントたちは、先に持ち場へ参ります!」
 テスタメントは真宵の手を引っ張り、スィーツショップへ駆けていった。
「2人とも、おはよう!」
「おはようございます、今日も頑張ります」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、2人の教師に免許を見せながら挨拶をする。
「おはようございますぅ〜」
「やぁ、おはよう」
「アイデア術に協力するので、私たちも先発の突入組みに入りますね」
 受け取った砂対策用のゴーグルを顔につけ、砂が入らないように耳あてをつける。
「危なくなったらちゃんと周りの仲間に頼るんだよ」
「はい!では、行ってきます」
 ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)にぺこりと頭を下げ、砂嵐の発生現場へ向かった。



「目的を失敗して、町とは別の方向へ逃げる…なんてことはないわよね」
「その方が被害もなくていいのだけど。そうもいかないでしょうね」
 ただ逃走するだけで終わることはなさそうだとセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言う。
「さっさとこの騒動を終わらせて、のんびり海水浴したいわね」
「泳ぎたかったら真面目に働きなさい」
 海のほうへ目を向ける恋人に呆れ顔をしつつ、こんな暑い気候じゃ無理もないか…と思い、小さくため息をつく。
「オヤブン。魔法学校の校長の話だと、町を壊しちゃうかもってことだったよね」
「見せしめにってことだろうか」
「というよりも、得た力を試すためじゃないかな?」
 首を捻る天城 一輝(あまぎ・いっき)に、清泉 北都(いずみ・ほくと)は“ここを、実験場に使うでは?”と言う。
「大きな力を得れば、それを試したい。それは、人も魔性も同じだと思う。かといって、土地や人を犠牲にしてまでなんて…。さすがに容認できるものじゃないね」
「赤い髪の子供の心臓を、“ベース”が得てしまったら。それが、ここへ攻めてくることだってありえるし」
「その可能性もあるよね。町ごと守ったほうがいい?それとも、人だけ避難させたほうがいいかな」
「エリドゥの集会場のような場所に、集まってもらってもらうのはどうだ?外だろうが、地下だろうが…殺して力を試そうとするなら、狙ってくるだろうからな」
「避難経路も考えなきゃだよ、オヤブン」
「分かってる。ただ、逃走する時間をかせぐためには、建物の補強も必要となってくる。僅かな時間でも、何もしないよりはマシだろう」
 一輝は町の地図へ目を落とし、どの場所に集まってもらえばよいか探す。
「宿の大部屋を、いくつか借りるか…。外へ避難してもらう場合、砂嵐の反対方向あたりがよいな」
「逃げるにしても、数分で出られるわけじゃないから。直線的な方向がいいね、オヤブン」
 パニックにならないようにしようとして、いざ襲われたら町の人々は大騒ぎするに違いない。
 バラバラに逃げられるより、そのほうがよいだろうとコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)が言う。
「僕たちは、町の人が集まった宿の前で待機するね」
「室内待機じゃないのかよ」
 ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は照りつける太陽の暑さに、うんざりしそうになりながら呟く。
「暑いのは皆一緒ですよ、ソーマさん」
「そりゃそうだけどな」
 ご褒美でもくれれば、元気が出るのだが…と北都を見る。
「え、何…ソーマ」
「いや、ほら。アレをさ」
「うーん。ちゃんと頑張ったらね?」
 何を強請ろうとしているのかすぐに分かり、後でね?と小さく微笑む。
「約束したからな」
「―…分かったってば。…残る問題は、どうやって町の人を誘導するかだよね。誰か、その辺考えているのかな?」
「私とセレアナが説得して誘導するわ。集める場所を補強する時間を考えると、私たち2人だけでやったほうがいいわね」
「すまない、頼む」
 一輝は人々を誘導しようと離れていく2人を見送った。
「材料、足りるかなオヤブン」
「あるものでなんとかするしかないな…」
 それぞれ役割分担を決め、一輝とコレットは集会場となる宿を補強し始めた。