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鬼ごっこ3

「うーん……やることねぇな」
 ニルミナスの村。その村の中でカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は暇そうな声を出す。
「ラセンと絡もうと思ったが、誰かに連れられて行ったのかいねぇし」
 エースたちと一緒に森へと行ってるためラセン・シュトラールは今現在村にはいない。
「いつもどおりハームに絡もうにもあいつも森のほうだしなぁ」
 ハームこと前村長もラセンと同じように森の方にいる。
「……と言っても、村を空けるわけにもいかないからな」
 鬼ごっこに森の守り手の試験。普段なら何人かの契約者やニルミナス防衛団がいる。だが、今はそれらがすべて出払っている。今カルキノスまでいなくなればもし誰かに村を狙われたら守れないだろう。
「……ま、ルカたちが早く終わらせることを願っているか」
 それくらいしかすることないとカルキノスは酒を傾けながら祈るのだった。


「……見つけました」
 三度目の鬼ごっこ。地下都市の限られた空を飛び魔女の姿を補足した非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は携帯電話でパートナーたちと連絡を取る。
『こちらも補足したのでございます』
 電話の向こうから近遠と同じように空から魔女を探していたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の報告が来る。
「それじゃあアルティアさんは先に魔女の誘導をお願いします」
『了解したのでございます』
 その返事を最後にアルティアとの通話が終わる。
「ユーリカさんこちらは魔女を補足しましたが……」
『申し訳ないですの。こちらからは見えないですわ』
 次の通話の相手ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)はそう返す。
「ボクの姿は見えていますよね? なら一度合流しましょう」
 そうして通信を終えて、魔女の姿を見失わないようにしながらユーリカが来るのを待つ。その間にもう一度近遠は連絡を取る相手はもう一人のパートナーイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)だ。
「イグナさん。ボクたちは今から魔女の誘導を行います。イグナさんは先回りをお願いしてもよろしいでしょうか?」
『問題はないが……魔女の誘導は可能であるか? あの魔女は一筋縄にはいかないようだが……』
「誘導というよりも『行動予測』といったほうが正しいですね。ボクたちの妨害から魔女がどんな行動をとるか……それを予測して行き先を絞ります」
『……どちらにしても難しいように思えるのだよ』
「信頼してくださいイグナさん。これまでの動きや情報を統合すればそう難しい話しじゃありません」
 大丈夫だと自信を持って近遠は言う。
『確かに……近遠はそういうことが得意であったのだよ』
「ボクたちでは魔女を捕まえるのは難しいです。イグナさん頼みましたよ」
 そう言って近遠は先回りする地点を伝えて通話を切る。
「お待たせしましたわ。いよいよ最終局面ですわね」
「ええ。ミナホさんの開放と……この都市がが滅んだ理由がわかります」
 これまでに共有した情報から近遠は既に都市が滅んだ仕組みは大体予想している。だが、その原因となった原因。それを最後に魔女から聞かなければならない。
『アルティア一人では誘導できないのであります』
 アルティアからそんな助けを求める声が来る。
「アルティアちゃんを一人には出来ませんわ。これまで魔女は一度も攻撃行動をとっていないようですけど安心はできませんもの」
 ユーリカの言葉に近遠は頷く。
「行きましょう」


「あとはお願いするのでございます」
 近遠たちの誘導により魔女はその予測通りの動きで逃げた。その結果として魔女の行く手にイグナが待ち構えるという形になる。
「おとなしく捕まるのだよ」
 魔女を捕縛しようとイグナは魔女に接近する。
『くすくす……この場から逃げるのは苦労しそうね』
 接近したイグナの手を魔女は紙一重に避ける。
「魔女でありながらその動きとは……」
『くすくす……これでも大変なのよ? 私の力は身体能力の強化には向かないもの。……まぁ自分の体重を軽くしたりもしているのだけれど」
 通りでとイグナは思う。魔女でありながら自分と同じ程度の速さを持っているのはそのせいかと。
「それなら、素手で捕まえるのは難しいのであるな」
 そう言ってイグナは剣を取り出す。
『あらあら……剣の背を向けるなんて……優しいのね』
「そちらが攻撃してこない以上、こちらもむやみに傷つける気はないのであるよ」
『私の場合はしないのではなく出来ないのだけれど……その優しさは嬉しいわ』
 そう言い合いながらもイグナはソードプレイを魔女へと向けて放ち、魔女はその剣を紙一重に避ける。
『くすくす……このままじゃ決着がつかないわね。この近距離じゃあなたの仲間の援護も受けられないでしょう?」
 魔女には契約者の魔術はほとんど効かない。この近距離ではたとえ魔女に直撃したとしてもイグナの方がダメージを受けかねない。

「なら、もう一人接近戦する要因が増えたらどうかしら」

 神速で魔女捕縛に加わるのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。『超加速』と『ゴットスピード』を用いて魔女を超える速さでイグナと協力し追い詰めていく。
『くすくす……あなた強いわね。5000年とちょっと生きているけれど、ここまで強い人を見たのは久しぶりだわ』
 と言ってもその大半は寝て過ごしているし、この近辺からは離れていないのだけれどとミナ。
「御託ははいいわ。好き放題言ってくれちゃって……少しだけ怒ってるのよ」
 馬鹿にしたような物言い、そしてミナホを誘拐したこと。これで約束を守らなかったらルカルカは自分がどうなるかわからない。
『怖いわ怖いわ。戦えない私があなたみたいな人に狙われるなんて。けれど安心して。私は戦えないのと一緒で嘘もつけないの』
 だから私を捕まえればすべてが終わると。
「なら――!」
 言質をとったとルカルカはイグナが攻撃して作った魔女の隙を利用してトップスピードを持って捕まえる。
『あらあら、捕まっちゃたわね。けれどこんなに動きまわったのは何年ぶりかしら。楽しかったわ楽しかったわ』
 言葉通りの感情を見せてミナはそう言う。嘘をつけないというのであればそれは本当にそうなのだろう。
「それじゃ、早くミナホを開放して」
 魔女の腕を鞭で縛り、ルカルカはそう言う。
『約束は守るわ。だけどその前に、この都市が滅んだ原因を話しましょう』
 ちらりとミナは空から降り立った近遠を見てそう言う。その反応から近遠はミナが自分がこの都市について調べていることを知っていたのかもしれないと思う。


『この都市が滅んだ原因……あなたは分かっているわよね?』
 魔女に質問を掛けられた近遠は頷く。
「恵みの儀式……それは借金のようなシステムだと言いました。それなら滅ぶ理由は決まっています。返せないほどに力を借りてしまった……つまり破産です」
 それによって起こる現象、それが遺跡病なのだろうと近遠は言う。その答えに魔女は満足気な様子で続きを促す。
「繁栄の魔女がいなくなり返す手段がなくなった。それが滅んだ原因だとは分かります。けれど分からないのはどうして繁栄の魔女がいなくなったのかということ」
 まさか自分がいなくなればどうなるか伝えられてなかったということはないだろう。
『簡単よ。当時の契約者が連れだしたから』
「……悪い契約者の方だったのでございますか?」
 今もそういった契約者は少なくない。
『いいえいいえ。当時の契約者は善意で連れだしたわ。いつも一人閉じ込められているミナスが可哀想だと。そう言って地球にね』
「そうであるならミナスが帰りたいと言えば帰れたのですわ」
『ええ。ミナスは帰ろうとしたかもしれないわね。けれど残念。その時ちょうど地球とパラミタの繋がりが断たれてしまった……あとはどうなるか分かるかしら』
 ミナは続ける。
『契約者は何も悪く無いわ。だって、それが正しいと思って行動したのだもの。ミナスが可哀想。そう思ってやった行動を誰が責められるかしら?』
 けれどとミナ。
『だから私は契約者が嫌い。自分が正しいと信じて疑わない契約者が大嫌い』
 そうしてミナは話を終える。
『それではあの子を開放しに行きましょうか』
 何事もなかったかのようにミナは言う。

 こうして遺跡都市を舞台にした鬼ごっこは終りを迎えるのだった。