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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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「この宿は、我が普通に溶け込めるのでありがたいな」
 イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)は廊下を歩く様々な妖怪を見ながら言った。何せ蛸に似た外見をしたポータラカ人なのでここでは全く違和感が無い。
「きっと蛸の妖怪に思われるわね。これからどうする、吹雪?」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はイングラハムと妖怪を見比べた後、隣の吹雪に声をかけた。
「……見つけたでありますよ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は二人とは違うものを見ていた。
「見つけたって、まさか……」
 コルセアは吹雪の視線を追った。もう吹雪の口調から何を発見したのかは分かっている。
 いたのは、ローズと卓球を終えて廊下を歩く馴染みの双子。
「フフフ、このような場所で彼らに遭遇するとは」
 双子を発見した吹雪はにやり。
「全く、こんな所でも彼らに会うなんてもう因縁ありすぎよね」
 コルセアは呆れの溜息を吐いた。自分達が行く所行く所に現れるので馴染み化している。
「自分は楽しくあの二人と鍋を食べたり遊んだりするでありますよ!」
 吹雪は双子の所へいつものように駆けて行った。
「それならワタシは珍しい土産物の物色でも」
 コルセアはいつもの事で特別気にする必要は無いため吹雪とは別行動を取る事に。
「我は適当に過ごすとしよう」
 イングラハムも自分の楽しみに動き出した。

「なかなか、面白い物があるわね。記念に何か買って帰ろうかしら」
 コルセアはあれこれ妖怪製の物を手に取っては楽しく過ごしていた。

「さて、我は……」
 イングラハムは適当にうろうろしていた。
 そこへ
「あぁ、そこのもの、もしや欠席した衣蛸(ころもだこ)の蛸吉が寄越すと言っていた代理だろ」
 甘味を卸し終わった小豆洗いの宗右衛門が親しげに声をかけてきた。
「我はポータラカ人である」
 イングラハムは妖怪間違えである事を伝えた。
「いや、蛸の妖怪だろ。飲み会に行くぞ。酒と鍋と儂の作った甘味もある。ほら」
 しかし、イングラハムの外見から宗右衛門は飲みメンバーと信じて疑わず、イングラハムを引っ張って行った。
「……いや我は蛸吉なる者は知らぬぞ」
 イングラハムの訴えは行き交う妖怪の群れにかき消えてしまった。
 イングラハムがいない事に気付いたコルセアは行方不明とし、袴を着た少年猫又と一緒に捜索を始めた。散々、捜索した末、迷子放送を頼んだ。

 行方不明中のイングラハムは妖怪の飲み会に参加していた。
「蛸吉が寄越した代理だ。名前は何だ?」
 宗右衛門は仲間達に紹介したところで名前を知らない事に気付いた。
「イングラハム・カニンガムである」
 とりあえず名乗るイングラハム。
「おー、洒落た名前だな。イングラハム、鍋でも一つどうだ? 席はどこでもいいぞ」
 酔い気味の獣系妖怪がイングラハムに具材が入った椀を渡した。
「うむ」
 イングラハムは椀を受け取り、適当に座った。
「それでイングラハムはどこの海で活動しているんだ。ここかそれとも他の所か?」
 海洋系妖怪が親しげに活動場所を訊ねた。
「我はヒラニプラだ」
 イングラハムは所属先がある場所を答えた。
「山岳地帯か。そりゃ、大変だな。今日は日頃の疲れを忘れて騒ごう」
 訊ねた妖怪は仲間と信じるイングラハムを労った。
 宴会が始まり、その賑やかさによってイングラハムにとって大事な放送が聞こえなかった。

 しばらくして
『先ほど連絡がありまして、蛸吉様の代理の蛸八様が来られなくなったそうです』
 女将が現れ、先ほど受けた連絡の内容を書いたメモを見せた。
「女将、代理って……蛸八……という事は」
 メモを見た途端、宗右衛門は真っ青になってイングラハムを見た。
 そして、
「すまなかった、イングラハム。てっきり蛸吉の代理かと」
 宗右衛門は畳に土下座をして謝りだした。
「……いや、構わぬ」
 とイングラハム。
「…………(イングラハム様、コルセア様がお捜しでございますよ。放送も流させて頂きましたが)」
 イングラハムの名を耳にした女将は迷子放送の事を伝えた。
「……迷子放送とは」
 と小さく言葉を洩らすイングラハム。
「まぁ、折角だから、イングラハム、このまま楽しもうや」
「儂が作った甘味もどうだ」
 すっかりイングラハムと和んだ海洋系妖怪と宗右衛門がこのままイングラハム込みの飲み会を続行しようとする。
「……そうだな」
 イングラハムはこれと言って予定が無いため付き合う事にした。
「…………(コルセア様にお伝えしておきます)」
 女将は手振りでコルセアへの伝言を請け負う事を言った。
「すまないな、女将」
 イングラハムは礼を言い、このまま妖怪に溶け込んだ。
 女将の伝言を受けたコルセアは
「すっかり妖怪に溶け込んでるわね」
 と溜息。一緒に捜索していた猫又とはイングラハムの行方が分かった時点で別れた。猫又が一人で大丈夫だと言ったので。

「妖怪の宿で鍋と温泉かぁ。何か楽しくなる予感♪」
 楽しい事が好きな小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はチラシを見てこの宿に来ていた。
「まずは温泉に入ってみようかな」
 美羽は早速、温泉に向かった。
 ゆったりと温泉を楽しんだ後、美羽は見知った双子を見かけ、
「あの二人も来ていたんだ。鍋は大勢で囲んだ方が楽しいし誘ってみようかな」
 美羽は鍋に誘うべく声をかけに言った。

 宿前。

「ここが妖怪の宿か。ゆっくり出来そうだな」
「温泉宿か……久しぶりにゆっくりとさせてもらおうかのう。料理に温泉に妖怪との交流か……実によいモノじゃ」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)。甚五郎達は、妖怪宿に興味をそそられてやって来た。
「とても面白そうですね。もちろんお土産もはずせませんよ」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は宿に入る前からワクワク。
「とくに妖怪ものなんか気になるよな」
 とオリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)
「甚五郎よ、声をかけた九尾の長は後から来るんじゃろ?」
 ふと草薙がまだ到着していない者達の事を訊ねた。
「そうだ。連れもいるらしい」
 と甚五郎。
「なら、宴だな。飲んで食べて賑やかになりそうだな」
 鍋を囲む事を想像し、楽しそうなオリバー。
「オリバー、忘れずに持って来たかのう」
「散々、皆に言われたからな。ほら、持って来てる」
 確認を入れる草薙にオリバーは大量の食材を見せて答えた。
 その時、
「……(ようこそ、おいで下さいました)」
 女将が挨拶に来た。
「女将、開店祝いの食材だ。上手く料理してくれよな!」
 オリバーは大量に持って来た食材を手渡した。
「……」
 開店祝いを受け取った女将はぺこりと頭を下げた。
 それから甚五郎達を部屋へと案内した。

 部屋。

「鍋は長達が来てからだな。それまでは温泉や土産でも見て過ごすか」
 甚五郎。ちなみに宿には長が来たら自分達の部屋に案内するように言ってある。
「いいですね。早速楽しみましょう」
「では、わらわも一緒に行こうかのう」
 ホリイと草薙は揃って温泉と土産物色に行った。
「鍋を楽しむ前に温泉にでも行くか」
 オリバーものんびりと部屋を出た。
 甚五郎達はそれぞれ温泉や土産物色を楽しみながら九尾の長達が来るのを待った。