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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 宿前。

「クリムちゃん、今日はありがとう」
 神月 摩耶(こうづき・まや)は宿に到着したところで改めて自分の誘いを受けてくれたクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)に礼を言った。
「面白そうだったから別にいいわよ。それより珍しいわね、あたし達だけっていうのは」
 クリームヒルトは深読みせずあっさり。ただ、いつものメンバーである互いの従者がいない事だけには疑問に感じていた。何せ摩耶の誘いは自分だけに向けられたものだったから。
「それは……たまには、こういうのもいいかなぁと」
 クリームヒルトの疑問に摩耶は少し戸惑いの色をちらつかせながら笑顔で答えた。本当の理由は別にあったり。
「それもそうね。さっさと手伝いに行きましょ」
 クリームヒルトはこれまたあっさり言うなりさっさと玄関に向かった。
「うん(……本当はクリムちゃんと二人っきりになりたかったからなんだけど)」
 続く摩耶の胸の内では本当の理由をクリームヒルトに答えていた。

 宿内。

 摩耶とクリームヒルトは水着の上からお揃いのミニ着物をまとう。
「摩耶、可愛いじゃない♪」
 クリームヒルトは摩耶の着物姿を嬉しそうに褒めた。
「……クリムちゃんも似合ってるよ」
 摩耶もクリームヒルトを褒め返す。
 その後、二人は仲良く仲居的な仕事を始めた。
 開店初日とあって人、妖怪共に多く、あちこち行ったり来たりと大忙しであった。

 食事を終えた後の宿泊客が入浴中の部屋。

「摩耶、ここはあたし一人で十分だから。先に休憩取っていいわよ。ずっと動いてばかりだし」
 クリームヒルトは食事を終えた残骸で荒れるテーブルを見回した後、隣の摩耶に言った。ずっと動いてばかりで摩耶が疲れているだろうと気遣っての事。
「まだ疲れていないからボクも手伝うよ。二人でやった方が早く終わるし、ほら、お仕事するならお友達と一緒の方がいいよ」
 摩耶はにこっと笑って手伝うと言い張った。
「……まぁ、大丈夫って言うなら」
 クリームヒルトは摩耶の笑顔を見るなり追い返す言葉は口にしなかった。
「それじゃ、じゃんじゃん、片付けて行こう」
 摩耶は片付けを開始した。
 摩耶の言葉通り、二人でしたおかげであっという間に少しの食器だけとなった。
「これで最後ね。これはあたしが運ぶから摩耶は布巾でテーブルを拭いて」
 クリームヒルトは食器を抱えてさっさと部屋を出て行った。
 残った摩耶は、
「どうしちゃったんだろ、ボク。クリムちゃんとは前から良いお友達だったけど……何だろう……もっとずっと、一緒にいたくて……離れたくない、この感じ」
 一人テーブルを布巾で拭きながら溜息を洩らしていた。明らかに恋煩いの溜息だが、洩らす本人は無自覚である。

 一方のクリームヒルトは、
「摩耶、どうしたのかしら。ここに来てからずっと何かと傍に来たがって……」
 今日の事を振り返る。宿の仕事に追われる中、隣を向くと必ず笑顔の摩耶がいる事を思い出すもそこから得たのは疑問だけ。欲望には敏感なのに純粋な恋愛感情にはとことん鈍感のようだ。
 しかし、
「……まぁ、可愛いから悪くはないけど」
 クリームヒルトは摩耶の笑顔を思い出し、嬉しそうであった。クリームヒルトにとって摩耶は可愛くて守りたい存在になっているようだ。
 この後も二人は忙しく動き回っていた。

 夜、大小混合の男鬼の団体が宿泊する部屋。

「随分と逞しいのね〜。素敵だわ、そうでしょう摩耶♪」
「うん、呑みっぷりも豪快で素敵だよ」
 クリームヒルトと摩耶は団体の中で一番偉い鬼の両側に侍り大きな酒器に交合に酌をしながら武勇伝を聞いたりしていた。
 その時、
「こっちも頼む」
 他の鬼達が騒ぎ始めた。
「はいはい」
 摩耶が急いで向かった。
 クリームヒルトは先ほどの鬼の相手を続けていた。時には、豊満な身体を押し付けて、耳元で艶めかしく囁きかけたりと自分を気に入ってくれた鬼にサービスをする。良い気分になった鬼は、酔った事もあってかクリームヒルトにちょっかいを出しながら酒をかっ喰らう。
 とうとう、鬼は酒器を放り出してクリームヒルトを隣の寝床へと連れ込もうとし始めるのだった。
「あ、あぁんっ♪ 駄目よ、お客様ぁ♪」
 クリームヒルトは言葉とは裏腹に嬉々としていた。

 一方。
「お客様、お手つきは駄目だよ〜」
 給仕をする摩耶が手を離させないのを見計らって悪戯をする鬼達。やんわりと制止するも本当は満更ではない摩耶。
 しかし、
「……クリムちゃん」
 クリームヒルトが隣の寝床へ連れ込まれそうになっているのに気付くなり、急いで駆けつけるのだった。
 そして、
「ボクだったら何してもいいから、く、クリムちゃんは離して……!」
 らしくない事を言い放った。
「摩耶?」
 クリームヒルトはらしくない摩耶の発言に目を丸くして本人の顔を見る。
「……(どうしよう、こんなのボクらしくないよぉ!)」
 摩耶の顔も驚きに染まっていた。言った本人もなぜ口走ったのか分からない様子。
「摩耶ぁ〜仲間外れなんて、許さないわよ♪」
 摩耶に想われていると気付かぬクリームヒルトは摩耶を抱き抱えた。
「……クリムちゃん(もう、考えるのはやめ、今夜は愉しんじゃうんだからー!)」
 摩耶は自分を抱き抱えるクリームヒルトの顔を見て考えるのをやめた。
 そして、そのまま鬼達と寝床に消えた。

「微力ながら俺達も宿を手伝うか」
「は、はい」
 龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)白江 紅(しらえ・くれない)は忙しい宿を手伝うべく廊下を急いでいた。
 そして、困っている客に出会った。

「親分、どこに行ったんだろ。もう嫌な予感しか」
 捜し人が見つかったコルセアと別れた白猫又シロウが困ったようにつぶやきを洩らしながら廊下をうろうろしていた。
 そんなシロウに
「あ、あの……っ! 何かお困りです……か?」
 頑張って声をかける紅。
「?」
 声に気付いたシロウが振り返ると紅の姿は壁の後ろ。なぜなら紅は恥ずかしがり屋だから。それでも困っている者の役に立とうと自ら頑張って声をかけたのだが。
「あ、あの」
 壁に隠れた紅に戸惑うシロウ。
「紅が困っているのを見かけて力になりたいそうだ」
 紅の保護者的立場である廉が代わりに気持ちを代弁した。
「宿をお手伝いしている方ですね。実は親分を捜しているんですがどこにもいなくて」
 シロウは紅達の助けに本当に有り難そうにした。何せあちこち見て回ってもどこにもいないのだから。
「そうか。心当たりは全部見たんだな?」
 廉はシロウの口振りから宿内をほぼ全部見て回った事を読み取った。
「はい。土産コーナーで大量に食べ物を買い占めた事は確認したのですが、それから行方知れずで、食べたり飲んだりが大好きですからまたどこかでお腹を壊したり揉めたりしている気がして……そういう事に関しては駄目猫又になるので」
 シロウは溜息をつきながら心当たりを話した。
「あの……もしかしたら、その……入れ違いに、なっているのかも……しれません」
 壁から姿を現した紅が予想を話した。シロウがいないと離れた後に現れたという事もなくはないので。
「そうですね。もしかしたらそうかもしれません。一度捜した所は見て回っていないので」
 紅の指摘に納得するシロウ。
「……でしたら、その……三人で、分担して、もう一度……捜してみま、せんか」
 紅はまさかの提案をした。恥ずかしがり屋が一人見知らぬ猫又の捜索など思い切った事を言い出す。
「一人で大丈夫か?」
 心配した廉が思わず気遣った。
「……大丈夫です。その……早く見つけて……あげたい、ですから」
 紅はいつもの調子ながらもシロウの力になってあげようと必死であった。
 それを感じた廉は
「紅がそう言うなら反対はしないが、何かあったら呼べよ」
 止める事も付き添いで行く事もせず紅の提案通りに行動する事を決めた。
「……はい」
 紅はこくりとうなずいた。
「本当に忙しい中、申し訳ありません」
 シロウは申し訳なさそうにぺこりと手伝ってくれる廉達に頭を下げた。
「いや、気にするな。宿を手伝う者として当然の事だ」
「……廉さんの言う通り、です……捜しに……行きましょう」
 廉と紅はそれぞれ気にしていないと言った。
 とにもかくにも三人でシロウの親分食い意地の張ったミッカの捜索が始まった。

 捜索開始後。
「いないですね」
 シロウは空振りで決めた合流地点に戻るために急いだ。
「こちらの方にはいないな」
 廉も空振りだったが紅から連絡を受けて仕事を遂げた事を知るや合流地点にいるだろうシロウを連れて来るために急いだ。

 大騒ぎの廊下。

「……とても騒がしいですね。もしかしたら……」
 一際賑やかな音がして紅は確認するためにそろそろと近付いた。
 紅が見たものは、
「……あ、あれは……見つかった、という事……でしょうか」
 日本髪の着物を着た猫又が二口女と何やら一つの羊かんを巡って意地汚い争いをしている光景だった。しかも周囲の妖怪まで巻き込みかなりの大騒ぎぶり。
「……とりあえず、廉さん達に」
 シロウから聞いた特徴からミッカであると確認を終えるなり紅は廉に連絡を入れた。
 すぐに終わり、
「……私は……ここで、待機」
 紅は廉達が来るまでここで待機する事に。
 しばらくして
「紅、よく見つけた」
「親分が見つかったんですね。ありがとうございます」
 廉とシロウが急いでやって来た。
「……えと……その……あちら、です」
 内気なためか紅は礼を言われて恥ずかしそうにし、ミッカがいる方向をそろりと指さした。
 事態は紅が発見した時よりも進み、二人のスタッフが必死に制止に加わっていた。
「……はぁ、羊かん一つに何を……もう」
 あまりに情けないミッカの姿に子分のシロウは深い溜息をつき、疲れた顔をした。
「食べ物の恨みは怖いとはこういう事か」
 廉も呆れの言葉以外なかった。
「……その、ど、どうします……か?」
 紅はとりあえず二人にどうするかを訊ねた。
「……とりあえず、親分に声をかけに行こうと思います。本当は恥ずかしくて嫌なんですけど」
 シロウはじと目でミッカを見ながら投げやりな言葉を吐き出した。心の底から嫌そうであった。
「……あの、よ、よろしかったら……一緒に行き、ますよ」
 紅は恐る恐る言った。
「そうだな。被害がこっちに来ないとも限らないからな」
 廉も賛成した。何せ二口女が所構わず、物をぶん投げてミッカに攻撃を仕掛けているため、シロウに被害が来ないとは限らないので。
「ありがとうございます」
 礼を言い、シロウは廉達を引き連れ、ミッカの所へと駆けつけた。