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下着の中の奇跡

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下着の中の奇跡

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プロローグ

 町の飲み屋の席に、一人の少年の姿があった。
 そう。フレッド・クライシアスである。
 元は裕福だった貴族の少年。が、その面影は容姿と世間知らずな瞳以外を残してなにも残っていない。
 いまや彼は、貧乏暇なしの一文無し!
 そこらの冒険者よりも金がなかった。
「よー、兄ちゃん、飲んでるかー」
 そこで彼に話しかけてきたのは、一人の若者だった。
 彼はすっかり出来上がった様子で、真っ赤な顔になっている。
 足取りもおぼつかない。
 その若者――佐々木 八雲(ささき・やくも)は、倒れこむようにフレッドの隣の席に腰を下ろした。
「ふいー、良い気分だー」
「……飲み過ぎじゃないのか?」
 フレッドは顔をしかめながら言った。
 すると、八雲はにやりとしてから答えた。
「飲み屋で飲まずにどうするんだよー。へへー」
 フレッドはさらに顔を険しくした。
 まったく、話にならない酔っぱらいだ。
 けれども――その身体付きや動きだけは興味深いものがあった。
 酔ってはいるが、身体は戦闘の癖を抜けないでいるのか、隙がない。多分、殴りかかろうとすれば一瞬で反撃に合うだろう。
 屋敷に住んでいたとき、父やそのお抱えの騎士から鍛錬を受けたフレッドには、そのぐらいはわかる経験があった。
「……なにか悩み事かい?」
 八雲がふと真剣な表情になって言った。
 もっとも、顔はやっぱりまだ、赤かったけれども。
「――乗ってくれるのか?」
 フレッドは期待を込めて訊いた。
 もし、この酔っぱらいがシラフになってこっちの味方になってくれれば心強い。そう感じたからだ。
 八雲はにやっと笑った。
「面白い話ならな――。おーい親父ー、こっちに麦酒もう一杯ー」
「お、おい……」
「いいからいいから、今夜は飲み明かそうぜ」
 八雲とフレッドは、その晩はニブルナ家の話を肴に飲み明かした。

 それから一晩明けて――。
 フレッドが目を覚ましたとき、すでに八雲の姿はなかった。
 代わりにテーブルには、こんな書き置きがあった。

『フレッド、〈ニブルナ家の赤きダイヤ〉をいただく話は乗った。
 けれども、これはやはりフェアではないと思う。
 ヒーローは正々堂々と正面からいくべきだ。
 俺に任せておけ。悪いようにはしない。
 これから手紙を出しに行ってくる。では。

             親愛なる酒の友のフレッドへ、八雲より』

 手紙を読み終えたフレッドは呆然とつぶやいた。
「…………手紙って、なに?」
 それを知るのは、今晩になってのことだった。