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リアクション
第三章
総奉行、ご乱心
年末年始、忙しく働いた人たちを労いたい。そう願って開かれた今回の新年会。
主催者ハイナ・ウィルソンはすでに酒に呑まれ、べろんべろんだった。
そして気が付けば、リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)と肩を組んで、周囲の人々を巻き込んで酒を煽っていた。
ハイナに招待されて新年会に出席したリブロはハイナと共に酒を酌み交わしていて酔い潰れる事こそなかったが、理性の飛び具合はハイナと良い勝負だった。
形式張った宴会ではなかった為、ハイナの無礼講宣言にリブロがそれに拍車を掛けるが如く悪酔い騒ぎがエスカレートしていく。名付けて負の悪酔いスパイラル。
「あーはっはっはっは! 人間なぞどう頑張っても五十年くらいしか生きられん! なら人生を謳歌せよ、てな! かんぱーい!」
「そんの、とーりでありんす! 一度しかねえんでありんすよ人生なんてモンは! でしたら力いっぱい楽しむのがスジってもんでありんす! かんぱーい!」
と、リブロもハイナもこの通りにデキあがった。二人のグラスが割れんばかりにぶつかった。
ひたすら酒を楽しむ、否、酒に遊ばれている二人。リブロはすでに服を脱ぎ捨てて下着姿。身体中真っ赤だ。そんな二人を尻目に、少しずつその場から離れようとしている金髪の女性が一人。リブロのパートナー、アルビダ・シルフィング(あるびだ・しるふぃんぐ)。パートナーとともに無礼講の宴を楽しんでいたが、あの二人、とある大物に何か恨みでもあったのか、ものすごい勢いで酒を飲ませて潰していた。きっとこのままでは自分も同じになる。そう考えたアルビダはじりじりと二人から距離を置いている所だ。
「オイ、そこの」
ふと、ハイナが動いた。
「ハッハァ! 逃がすか、でありんす!」
「!?」
それは、本当にウォッカをがぶ飲みしたのかと疑いたくなるような俊敏な動き。ハイナはアルビダの腕を引っ掴むと、引き寄せ押し倒した。
「こ、この……元海賊を舐めるなよ、侍娘!」
「お? わっちとやろうって? よござんす、とことんやろうではないか!」
ハイナとアルビダが取っ組み合い、キャットファイトが始まった。二人が互いの服をひん剥こうと服を掴み合う。
「おお! いいぞアルビダ! そのままそこ引っ張れ!」
「リブロも少しは止めるとかしたらどうなの!」
「ほらほら、ヨソを気にしてるとひん剥くでありんすよ! ひっひっひ!」
周囲のギャラリーも巻き込んで、キャットファイトはヒートアップしていった。
■■■
キャットファイトは、ハイナの完全勝利で幕を閉じた。罰ゲームとして酒の一気飲みをさせられたアルビダはついにぶっ倒れ、いつの間にか寝ていたリブロともども裸で床に転がされた。
「あっはっは! いやあ楽しいでありんすねえ!」
「お、校長はん! こっちも楽しく飲ませてもろてますわ」
ハイナは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)らのグループに割って入ってきた。
泰輔は三人のパートナー、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)とツマミを囲んで酒やジュースを楽しんでいた。
「校長はんもチーズおひとつどうですか?」
「おう! 遠慮なくいただきんす。はっはっはっは!」
特に笑いどころもないのに大笑いを始めるハイナ。相当酔っている。
そのことを確認し、泰輔はパートナーたちに目配せをした。
――掛かりよった。
泰輔は外見は酒の席を楽しんでいるように見えるが、実は内心、緊張している。
力尽くでもダメだった。このまましばらくほっといても潰れる様子はない。そこで泰輔たちは考えた。
いかにうわばみでも、限度はある。飲めなくなるまで飲ませてみよう、と。
「ほら、ぬしも飲め! 注いであげんす!」
「あ、すんませんなあ。別嬪さんのお酌なら……」
と、グラスに次いでもらった透明なお酒に鼻を近づけて、その濃厚なアルコール臭に少し顔をしかめる。
「あんまり性質のええお酒やないね、校長はん?」
「そう? これくらい普通でありんしょう? 小さいこと言んせんでぐいっといきなんせ、ぐいっと!」
泰輔は苦笑いする。
――これは、アカンな。こんなん飲み続けたら十分ももたんわ。
そう言って、泰輔の反対側に座るフランツに目で合図をする。その意味を受け取って、フランツはできるだけ自然にハイナに話し掛けた。
「ところでフロイライン。校長という仕事はやはり大変なのかい?」
「ああん? 大変に決まっていんす。ったく毎日毎日先生どもの小言を聞いたり、ことあるごとに集会開いてオハナシしろだの、面倒ったらないでありんすよ」
ハイナの目線が泰輔から反れた。その隙に、泰輔は後ろに置いてあるミネラルウォーター入りグラスとすり替えた。
「せやけど、こないな宴を盛大に開くくらいの懐があるんや。校長はんも皆のことを大事に思うてはることは分かるで。ささ、ご返杯〜」
「お! あり〜! おい、ぬしも飲みなんせ!」
ずい、とハイナは泰輔の向こうの顕仁に酒を注いだ。
「ありがたく頂く。ふむ、この香り……」
顕仁は表情を変えず、静かにスキル・火術を使った。
酒の中のアルコール分を可能な限り飛ばし、軽く口をつける。
「いい香りだ。はるか昔、ミカドとして宮廷に住んでいた時のことを思い出す」
「ミカド? へえ、ぬし様ミカドでありんしたか。その話聞かせてくんなーしー」
と言いつつ、ハイナはその隣のレイチェルにもお酒をなみなみと注いだ。
普段酒の類をほとんど嗜まないレイチェルはそのアルコール臭に顔を引きつらせた。
「う……私では、一杯がやっとですね……」
「ん? どしたん。飲みなんせホラ」
「あ、ああ、はい! 頂きます……」
「ミカドも校長と似ていてな。毎日慣れない仕事と知らない人たちと、よく分からないことを話しあったものだ」
「あ! それ分かりんす! 嫌んなりんすよな、アレ!」
視線が、レイチェルから反れる。その隙に、隣のフランツからしれっと置かれた、お茶入りのグラスとすり替えて飲んだ。
「で、ではハイナさん。ご返杯です」
レイチェルも空になったハイナのグラスになみなみと酒を注いだ。
この方法でハイナを酔い潰す作戦に出た四人は、巧みな連係で出来る限りアルコールを摂取せず、ハイナに一方的に飲ませ続けた。
■■■
そんなこんなで泰輔たちによって三十分ほど飲まされ続けたハイナに、一人の女戦士が後ろから声を掛けた。
「ようハイナ! 俺も混ぜてくれよ」
オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)がハイナの肩に手を回し、彼女の顔を覗きこむ。
「あぁん?」
見るからにべろんべろん。いい感じに意識も朦朧とし始めているようだ。
「い〜いところに来てくれたぇ。今さぁ、ムショ〜に誰かに抱きつきたい気分なんでありんすぅ」
「へ? わ! 待てコラ! お前そういうキャラじゃねえだろ! うわ、どこ触ってやがる!」
「っかぁ〜、触り甲斐のあるカラダしてはんなぁ」
「変な所に手を突っ込むな! コイツほんとに酔っ払ってんのか? すっげー力だぞ!」
ハイナがオルフィナに抱きつき、色々な部分をまさぐり始めた。何とか振りほどこうとオルフィナは抵抗しているが、アルコールのせいで力加減のリミッターが狂ったのか、異常なまでの馬鹿力でハイナはワイセツ行為に没頭していく。
「あかん! レイチェル、校長はんをひっぺがすで! 校長にあるまじきコトをしようとしてはる! さっきから校長としてどうかと思うことしてはるけども!」
「は、はい! これ以上罪を重ねさせるわけにはいきません!」
「だ、駄目だ近づくな! お前らも巻き込まれるぞ!」
う、とハイナの背中から飛びかかろうとしていたレイチェルが踏みとどまった。
「ここは俺に任せろ! 一緒に天国に行こうぜ、ハイナ!」
オルフィナは近くにあった酒のボトルを掴むと、豪快にラッパ飲み。腕で口元を拭うと、あらかじめ用意してきたのか、鎖を取り出して自分もろともハイナを縛った。
「すまねえな。あとは任せたぜ」
そして、じたばたするハイナとキャットファイトにもつれ込んでいった。
泰輔たちによってだいぶ酔いを加速させられたハイナはオルフィナと絡み合ったまま、ようやく落ちた。
ものすごい量のアルコールを摂取したハイナには軽度のアルコール中毒が見られたが、レイチェルをはじめとする治療スキルだけでなんとか事なきを得た。
そのままハイナは日が昇るまで目を覚まさなかった。
■■■
その頃、特設ステージで何とか司会進行を続けているトマスのもとに、一枚の紙が届けられた。
事前に根回ししておいたおかげで、この惨劇を笑い話に済ませられそうだ。
「はい皆さん注目! 次の余興の津軽三味線は演奏者が病欠(急性アルコール中毒)により、特別プログラムに予定変更です! 特設会場において、蒼空学園校長馬場 正子(ばんば・しょうこ)先生による、今夜限りのプロレスマッチを開催致します! 皆で見に行きますよ!」
う・お・お・お…………
会場が湧いた。
まだ意識のある酔っ払いたちは総出で道場を後にし、『ある会場』へと赴いていった。
この隙に、一部の契約者たちが悪酔いして暴走する酔っ払いどもを粛清、退去させるべく動き出した。
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