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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

リアクション


 ハデスを倒すことで、ダークサイズに勝機が見えてくる。
 カロリー補給を失ったアナザ・ダイソウは、おいそれとアルテミスパワーを発揮できない。
 それはさておき。

「なあアル……合体する前に聞いておきたいんだが、その策とやらが通じなかったらどうするんだ? もしダメージが0だったら? それでやつを倒せるのか?」

 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)は、【ユニオンリング】を掌に乗せ、ひどくやる気のない声で言った。
 問われた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、一足先に自分のユニオンリングをはめ、

「やだなぁ〜。シーマちゃんは倒すとか通じるとか、そんなつまらないことを目的にいつも戦ってるの?」
「しかし……相手に効かなければ攻撃の意味はないだろう?」
「のんのん♪ 倒すか勝つかなんて後で付いてくるおまけだよ? 力や暴力が勝利と解決をもたらすなんて期待しちゃダメ。やるべきことは、ただただ殴る。そしてそのあとに結果が残る。それだけよ」

 シーマはアルコリアの言葉を数秒反芻し、

「それ暴力を使ってることに変わりはないのでは……」
「もぉー! いいから早くはめてよぉー」

 アルコリアは早く合体したい。そして結果はどうなろうと行動を起こしたい。
 シーマは長い溜息をついて、

「わかった。聞いたボクが馬鹿だった。とにかく早くしてくれ。レーズンパンの発酵が終わるまでには帰りたいからな……」

 と、ユニオンリングを装着した。
 二人は合体はしたが、パン生地が気になって仕方がないシーマのやる気のなさが反映されて、アルコリアの特徴が色濃く出ている。

「さてと……」

 合体したアルコリアはきゅっと拳を握り、

「あっちのダイソウトウを倒すには【羅刹の武術】あるのみ……」

 と、顔を上げるが、目の前に展開されている状況を見て、

「あーん! みんなずるーい! 私もー!」

 と走り出す。
 ダークサイズの考えることは皆同じ、とまではいかないが、本領発揮を始めるのはここからだ。
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)の攻撃準備の間、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が【アーミーショットガン】と【スナイパーライフル】を両脇に抱え、【弾幕援護】で時間稼ぎを始める。

「アナザーとはいえ、ダイソウトウに弾幕浴びせるのは初めてかもしれないねえー。らーらーらーらー♪」

 フランツは生前自身が作曲した交響曲を声高に歌いながら発砲。
 クラシックをバックに銃が乱射される様は、ほとんどマフィア映画のようである。
 タイミングを見計らって魔力を放出するしかなくなったアナザ・ダイソウは、銃撃をかわしながら駆け回る。
 その間に泰輔は【歴戦の回復術】でダイソウの傷を癒し、

「よし! ダイソウトウ、今がチャンスや」
「うむ。ではどう攻める」
「残念やねんけど、僕らじゃアナザ・ダイソウトウを倒すことはできひんみたいや。せやから、僕らが君をあいつに急接近させる。きっと向こうも動揺するやろうからそこで一発お見舞いしてやるんや」
「急接近か。どうするのだ」
「こうするんや!」

 泰輔はダイソウの後ろに回ると、手をまわしてがっちりとダイソウの体を固める。
 続いてレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が、ダイソウを抱えた泰輔を持ち上げた。
 レイチェルの上で泰輔が叫ぶ。

「フランツ、頃合いや!」
「オーケー!」

 と、フランツは発砲をやめて銃のマガジンを入れ替える。
 弾幕がやんだアナザ・ダイソウは体制を立て直したいところだが、泰輔に抜かりはない。

「【召喚】!」

 と泰輔が叫ぶと、アナザ・ダイソウの真後ろに讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が召喚され降り立つ。

「やれやれ、ダイソウトウと絡むとどうにも我は引き立て役に回らざるを得ないようだな……そなたがアナザ・ダイソウトウか」
「ぬ、貴様……ぐっ」

 顕仁はすぐさま右腕をアナザ・ダイソウの首に回し左手で左腕を後ろにぐいと回して固める。

「さすがだな。中年であるのになかなか鍛えられた体をしておる。泰輔、我はこうしておればよいのだな?」
「ばっちりや!」

 泰輔がそう言った直後、マガジン交換を終えたフランツがまたしても銃を構えて発砲する。
 顕仁がアナザ・ダイソウを盾にして弾丸を受ける。
 その弾丸は殺傷力はまるでなく、その代わりにパンパンと破裂し、中からコショウやらトウガラシやらの香辛料が破裂し、煙幕となってアナザ・ダイソウと顕仁を覆う。

「ぬおお……ごほっ、げほっ……」
「うおおお……か、辛い。辛いではないかフランツ! 聞いておらぬぞ。覚えておれフランツ、祟ってやる……っ」

 ダメージは受けなくともくしゃみ、せき、涙や鼻水といった生理反応は止められない。
 そして泰輔班の攻撃の仕上げは……

「【投擲】行きます! でりゃあああああああ!!」

 泰輔&ダイソウを、レイチェルが特技を使って勢いよく投げ飛ばす。

ギュンッ

 という音が聞こえそうなスピードで泰輔とダイソウは、標的目がけて飛んでゆく。
 フランツはぱちんと指を鳴らし、

「よし、作戦通り! なんだけど……二人も刺激成分に突撃しちゃうんだったね……」
「あ、せやった……」

 と泰輔の後悔も遅く、スピードを保ったまま二人は突入。
 ダイソウを弾頭として、泰輔ミサイルがアナザ・ダイソウを直撃した。

「よおっし、やっ……くしゅん! げほげほ!」

 いつもならそのまま立ち上がってくしゃみとせきに合流するところだが、さすがにアナザ・ダイソウに頭から突っ込んだダイソウは、地面にうつ伏せて気絶してしまっている。
 アナザ・ダイソウも、初めて効果のあるダメージを受け、

「お……おのれ」

 と腹部を抑えて立ち上がろうとする。
 これを好機と見て取ったのがアルコリアだ。
 彼女は気絶したままのダイソウの足を掴むと、

「【歴戦の武術】ってね、『明らかに武器とは言えないものを用いて攻撃してもよい』んですよ?」

 と言って、ダイソウを持ち上げるとブンと一回振り回す。

「おお、あれが伝説の『ダイソード』」

 伝説でもなんでもないが、リリは思わずそう言った。
 泰輔に続いてダイソウを武器とした直接攻撃が、アナザ・ダイソウに迫る。
 自分たちのリーダーの命を顧みないダークサイズの攻撃は、まさに狂気の沙汰だ。
 アナザ・ダイソウの目に動揺の色が見え始める。
 様子を見ていた七篠 類(ななしの・たぐい)が走る。

「むっ、そっちのダイソウトウは取られたか。なら、俺はこっちのダイソウトウだ!」

 そして彼は、アナザ・ダイソウの足を掴んだ。

「貴様、何をする……」
「俺のスタンスを教えてやる。俺は『両方のダイソウトウを倒す』だ! うおおおお! 俺もダイソウトウを装備するっ!」

 類はジャイアントスイングの要領でアナザ・ダイソウを振り回す。

「てやああああー」

 対するアルコリアも、ダイソウを類に振り下ろす。

がしいっ

 類はアナザ・ダイソウでダイソウを受ける。
 それを切り返して、類はアナザ・ダイソウでアルコリアに斬り上げる。
 アルコリアはダイソウでアナザ・ダイソウを叩き落とし、返す刀で類に……

がん! がん! がん! がん! ががん!……

 類とアルコリアが二人のダイソウを振るたびに、肉と骨のぶつかる音と鮮血が飛ぶ。
 ダイソウトウを傷つけられるのはダイソウトウのみ、いや、ダイソウトウをぶつければダイソウトウは傷ついてしまう。
 ギャグとかシリアスとかではなく、普通にシャレになっていない。

「だめだめだめ! それ本当にダイソウトウ死んじゃうってー!」

 これには終夏とシシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)も慌ててストップをかけに走る。
 アルコリアと類がそれで止まるわけはないのは、その目を見ればすぐにわかった。
 終夏は仕方なしに、

「【ダイヤモンドダスト】ー!」

 をアルコリアと類に放って吹っ飛ばした。
 地面に転がるダイソウに、シシルが走り寄る。

「だ、ダイソウトウさん! 大丈夫です……」
「シシル見ちゃダメー!」

 終夏がシシルの目をふさいだ。
 アルコリアは起き上がると、拳に滴ったダイソウの血を塗りたくり、

「ダイソウトウの血肉でアナザ・ダイソウトウを殴れば、効果はあるんですかね?」
「いいかげんにしなさいっ!」

 と、背筋にぞくぞく興奮を感じながら笑うアルコリアを、終夏はパカンとはたき、本日二度目の【黄金の風】を全力でダイソウにかける。

「ぬおおおお! おのれっ、ふざけたマネをおおおおお!」

 力だけでなく、頑丈さでも分があるのだろうか、ダイソウならば絶対に出さないような大声をアナザ・ダイソウは上げた。
 顔から血を流しながらアナザ・ダイソウはダークサイズを指す。

「カロリー消費なぞ知ったことか! この一撃ですべて薙ぎ払う!」

 アナザ・ダイソウは全ての魔力をその一発に注ぎ込むべく、両手に蓄積してゆく。
 終夏のダイヤモンドダストでちょっと凍った類がアナザ・ダイソウの隣に立つ。

「いいだろう! 君、もっかい俺の刀になれ。それでダイソウトウに止めを……」
「消えろーっ!」
「どわはーっ!」

 類はアナザ・ダイダル卿から突き落とされて消えていった。

「む、まずい。この魔力量はまずいぞ」

 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は、アナザ・ダイソウに増大してゆく強力な力を感じて言った。
 いつものようにパートナーであるマネキ・ング(まねき・んぐ)マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)に連れられてダークサイズにやってきたセリスだが、こんなところで巻き添えを食って死んでしまってはたまらない。

(退避すべきだろうが、さすがにみんなを放って一人で逃げるわけには……)

 と考えているところに、マネキがアナザ・ダイダル卿の上に上ってきた。

「マネキ、一体どこへ行ってたんだ?」
「フフフ……アナザ・ダイソウトウを倒す兵器を準備しに、な」
「兵器? そんなもの、すぐに用意できるものなのか?」
「フッ……我には分かっていたのだよ。奴が我の生み出したアワビ世界征服兵器(ダークサイズイコン)を、奪いに来ることは。しかし我の予想より少し早かったようだ。ほかの者より少し遅れを取ってしまったな」
「へ、へえ……」

 本気なのかホラなのかは知る由もないが、マネキにはこの事態が予測済みだったとのこと。

「ダークサイズ諸君、安心するがいい。こんな事もあろうかと対策は万全なのだ!」

 とマネキが言った後ろから、マイキーが何か大きな筒状の機械を引きずって追いついてきた。

「はぁ、はぁ。フォ、フォォーウ! はぁはぁ、マネキ、こんな重い物をボク一人に運ばせるなんて、実に歪んだ愛の表現だねぇ」
「よく一人で持ってこれたな、そんなもの……」
「愛に不可能はないんだよセリスぅ〜。みんなの愛の結晶、ダークサイズイコンが狙われているというなら、愛ゆえにボクは超人となるのさ」
「便利な愛だな……これは、大砲か?」

 セリスが、マイキーの運んできた機会をなでる。
 マイキーは口笛を一つ吹いて、

「そうさ。イコンの右腕部分を取り外して、マネキが【即席武器工房】と【調律機晶石】で作り上げた即席武器さ」
「名付けて、対ダイソウトウ最終兵器ダイソウトウ・キャノン!」

 マネキが自信満々にダイソウトウ・キャノンを見上げる。
 セリスは見上げた顔をマイキーに戻し、

「愛の結晶を分解したのか……」

 と言う頃には、

「さあマイキー! ダイソウトウ・キャノン専用弾頭を調達してくるのだ」
「オウッ! その人使いの荒さも、愛ゆえにだねぇ〜」

 とマネキの指示でマイキーは終夏のもとへ。
 マイキーは、目下ダイソウ回復中の終夏の肩を人差し指でとんとんと叩く。

「愛ゆえに! 回復中に失礼するよぉ〜」
「今取り込み中! 邪魔しないで!」

 と緊急事態の緊張感で終夏は肩を払うが、マイキーはそれを押しのけてダイソウの体を掴む。

「アナザ・ダイソウトウを倒すために、弾頭を借りてゆくよ」
「え、ちょっと!」
「だめですよう! まだ意識が戻らないのに無茶したら死んじゃいますよう!」

 シシルがマイキーをぽかぽか殴る。
 マイキーはシシルを見て微笑み、

「ボクらのダイソウトウは死にはしないさ〜」
「アナザ・ダイソウトウが相手だと死んじゃうんですよう!」

 抗議するシシルの頭を、マイキーがそっとなでる。

「みんなの愛があればダイソウトウは死なないさ。そう、ダイソウトウは永遠に生き続ける宿命にあるのさ、愛ゆえに!」
「愛、ゆえに……!」

 思わず両手を組んで口元に当て、マイキーの言葉を反芻するシシル。
 しかし終夏は冷静だ。

「こらシシル! 乗せられちゃダメでしょ」
「すまないが……」

 と、セリスが終夏の肩を叩く。

「ここはちょっと、あいつらにダイソウトウを貸してやってくれないか。迷惑なのはわかってるんだが、それで引っ込むうちのパートナーじゃなんで」
「……愛ゆえに?」
「いや……愛(バカ)ゆえに、さ」

 マネキのダイソウトウ・キャノンを見て愕然としているのはアナザ・ダイソウではない。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。

「パ……パンナコッター(なんてこったー)!」

 改造されているとはいえ、それがイコンの一部を利用していることは分かる。

「パンダ! パンダ! パパパンダー(お、お、『俺の』イコンになんてことしやがるんだー)!」

 垂にしてみれば、ダークサイズイコンは自分所有のイコンだと思っていて、自分のものを勝手に分解された怒りはひとしおである。

「パンダンダ! パンダコパンダ!(このやろー、元に戻しやがれ! 今すぐ!)」
「いやぁ、それはマネキに言っておくれよ」

 マイキーはダイソウを抱えながらのらりくらり、垂のクレームをかわした。
 垂がマネキに走って同じく文句を言うと、

「フッ……これは我が世界制圧兵器なのだぞ」
「パンダア! (いーや、俺のイコンだ)」
「何を言う、精魂込めて開発した我がアワビ兵器を横取りするというのか」
「パンダトー! パパーンダ! (なんだとー! てめーいい度胸してんじゃねえか)」

 招き猫とぱんだの口喧嘩の間に、マイキーが割って入る。

「けんかはやめて〜、アウ! 二人をとめて〜、フォウ! 二人のイコンへの愛はよくわかったよ。ただ、その間にアナザ・ダイソウトウが愛の波動砲を発射しそうだよ?」

 見れば、アナザ・ダイソウの魔力充填はほぼ終わっている。
 今までの比ではない極大魔力がアナザ・ダイソウの体を覆っている。

「死ぬがよい……」

 垂とマネキは今には発射されそうなアナザ・ダイソウを見て、はじかれたように動く。

「マイキー、ダイソウトウを装填するのだ」
「もうやったよ、愛をこめて」
「パパンダ! (それじゃ間に合わねーぜ、仕方ねえ、俺も乗る)」

 垂は気絶したままのダイソウを右腕に縛り付け、自分もダイソウトウ・キャノンの中に入った。

「みんな大丈夫か……まずい!」

 地上で向日葵やアルテミスたちを合流してアナザ・ダイダル卿に上がってきた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)
 状況を一瞬で見極め、アナザ・ダイソウに向かって飛び出した。

「【自在刀】っ!」

 涼介が刀を抜いてアナザ・ダイソウに斬りかかる。
 魔力充填に集中していたアナザ・ダイソウだが、

「こしゃくな……邪魔をするな!」

 たまった魔力が散逸してはたまるかと、アナザ・ダイソウは魔力をバリアの要領で腕を覆い、涼介の自在刀を受ける。
 涼介はアナザ・ダイソウの蹴り上げをバク宙でかわすと、

「稲妻よ!」

 と叫んで【稲妻の札】をアナザ・ダイソウに落とす。
 目くらましのスキに、涼介が連携攻撃を期待して振り返って叫ぶ。

「アルテミス、頼む!」

 しかしアルテミスはダイソウトウ・キャノンのほうを見て、涼介の合図など見ていない。

「おぬしらダイソウトウさまに何をしておるかー!」
「アルテミスーっ! 無視しないでくれー!」

 アルテミスがダイソウトウ・キャノンに目を奪われ、涼介はまた一人でアナザ・ダイソウに攻めなければならなくなった。
 攻撃が効かない相手との戦いで、涼介に疲れが見えてくる。

「おい、それで何か攻撃するんじゃないのか? 早くしてくれ!」
「させん!」

 アナザ・ダイソウはやむなく魔力の一部を涼介に放って弾き飛ばす。
 そして標的をダイソウトウ・キャノンに定めた。
 同時に、ダイソウトウ・キャノンがバチバチと電気のようなものを放電し始める。
 マイキーが発射レバーにつき、マネキとカウントダウンを始める。

「ダイソウトウ・キャノン発射まで、3」
「フォウ!」
「2」
「フォウ!」
「1」
「フォウ!」
「発射!」
「フォオオオオオオオウ!!」

 マイキーが奇声を上げてレバーを引く。
 電磁場がはじけるような音がして、垂とダイソウトウが発射された。
 しかし、それでもアナザ・ダイソウが一手早い。
 彼は両手で印を組んで魔力を放つ。

「パンダパンダパンダ(ち、こんなスピードじゃ先にあいつの魔力を食らっちまうぜ。行くぜダイソウトウ! 死ぬなよ!)」

 垂は発射直後、【ゴッドスピード】を使う。
 大砲とスキルの合わせ技で、垂とダイソウは音速を超える。
 ソニックブームが二人から飛ぶ。
 その隣を並行して、アルテミスの魔力も放たれた。

「我のおらぬ間にダイソウトウさまで何をしておったのだ!」

 アルテミスは皆を叱りながら、魔力をアナザ・ダイソウのそれに直撃させた。

「な……!」

 自分の魔力がアルテミスに妨害されて動揺するアナザ・ダイソウ目がけて、垂が叫ぶ。

「パパン、パーパンパパッンダ! (食らえ、俺とダイソウトウのフュージョンアタック)」

 垂が右腕を振り上げ、

「パーパパン、パーパパパパッパパンダァ!! (笑撃の! ファーストブリットォ)」
「う、うおおおおお!」

 一瞬の動揺で後れを取ったアナザ・ダイソウに、垂とダイソウのファーストブリットが炸裂する。
 小規模ながら、核弾頭に匹敵する爆発力。
 ダークサイズたちはその爆風に弾き飛ばされないように地面にへばりつく。
 風が収まって顔を上げたダークサイズは、さすがに全員目を丸くした。
 上半身の服は吹き飛び、血まみれながらも、アナザ・ダイソウはまだ立っていたのだ。

「どんだけタフなんだよ……」
「服吹っ飛んでも軍帽は脱げないんだな……」

 口々に動揺の言葉を並べるダークサイズ。
 それを見て、涼介の密かに思っていた予想が確信めいたものになる。

(ダイソウトウを傷つけられるのはダイソウトウのみ。だが、『倒せる』とは言っていない……)

 涼介はそう思うと、あの未来人の姿を探して言う。

「ひなげし君、やはり……あなたしかいないんじゃないか?」
「え? 俺が何?」
「ダイソウトウを倒せるのは、あなたと向日葵さんなんじゃないか……?」

 涼介は大まじめに言うが、ひなげしと向日葵はぽかーんとした顔。

「え? いやいやいやいや」
「涼介くん、いくらなんでもそれは暴論じゃない……?」
「だっておかしいと思わないか? アナザ・ダイソウトウはなぜアルテミスじゃなく、向日葵さんを妻に指名するんだ? 世界を求めるなら、アルテミスの力のほうがずっと役に立つはず。私が思うに、やつは向日葵さんを妻にしてそばに置くことで、自分を倒せる力を他に渡さないようにするためじゃないのか?」
「余計な詮索はそこまでだ、小僧……」

 と、口を挟んだのはアナザ・ダイソウ。
 涼介はアナザ・ダイソウを見て、

(やはり図星……なのか?)

 と考え、

「ひなげし君がアナザ・ダイソウトウの子かは分からないが……彼にはダイソウトウを倒せる力、『ダイソウトウ力』が秘められているはず!」
「ダイソウトウ力……! 俺に、そんな力が……?」
「そうだひなげし君、アナザ・ダイソウトウはまだ生きている。だがダイソウトウはへばってしまってる。今こそ、あなたの本当の力を解放する時なんだ!」

 涼介の言葉を聞き、アナザ・ダイソウは不敵に笑う。

「なるほど……妙な話をしていると思ったら、あれがひなげし……向日葵と私の子か」
「ちょ、違うぞ! まだそれは決まってない……」
「ははははは! よかろう。妻と子を一度に手に入れるのも面白い」

 アナザ・ダイソウの様子を見て、涼介が焦って言う。

「ひなげし君! 力を! ダイソウトウ力を解放するんだ!」
「そ、そんなこと言われても、俺分かんないよ!」
「そうはさせん!」

 アナザ・ダイソウを中心に、激しい風が吹き始める。

「確かに、お前たちには驚いたぞ。私を倒すためならば、首領の死すらいとわぬその闘志と戦略。まさに狂気よ。ならば私も正気を捨てねばなるまい……アルテミスをはじめ我が幹部たちは私の血肉となったが……そのような強力な呪術が、私個人に使えるわけではない。融合には、触媒が必要なのだ……」

 アナザ・ダイソウがそう言うと、胸のあたりが激しく光り始めた。
 シシルに提供してもらった【ショコラティエのチョコ】をほおばりながら、アルテミスが危機を察知して叫んだ。

「もぐもぐ! もぐもぐもぐもぐー! (誰か、ダイソウトウさまを助けるのだ)」