天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

モンスターハウスをぶっ潰せ!

リアクション公開中!

モンスターハウスをぶっ潰せ!

リアクション


第二章 襲撃

(準備不足が祟りましたね……まさか、こんな事態になるとは)
 屋敷の地下。
 雨宮 七日(あめみや・なのか)は溶けてボロボロになった服を抱きかかえながら日比谷 皐月(ひびや・さつき)と一緒に仕事をしなかったことを後悔していた。
 周囲には触手に捕まり、服を剥がれて養分にされている少女達がいる。地下といっても机があり洋服ダンスもあったりと一定の生活感がある中で、裸の少女達が養分にされている姿はなおのこと異常に見えた。
 七日も少女達の救助に来たのだが、今は自分の身を守ることで精一杯だった。
 正面だけは服で隠せているが、背面は素肌が露出し風が当たると自分が今いかに恥ずかしい格好をしているか認識してしまい、顔が朱色に染まる。
 正面には触手が蠢いており、七日はそれに向けて火術を放つ。熱源を関知した触手はその身体を震わせながら急速に後退していく。
「火に弱いという情報を聞いておいてよかった……今のうちに攫われた人たちを探しに……」
 七日が歩き出した瞬間──背面の壁から触手が伸びた。
「きゃっ!? や、やだ……!」
 触手は七日の脇を滑るように入り込み、羽交い締めにして壁に貼り付けにした。抱えられていた衣服は床に落ち、七日の白い肌が露わになった。
 その白い肢体にもう一本の触手が近づいていく。粘液でてらてらと光るそれは七日の身体を観察しているかと思えば、爪先の方から胸の方へとまるで舌で舐めとるように這い上がっていった。
「んん……! やぁ……!」
 七日の肌が粘液で光り、なで回されるたびに背筋に微弱な電気が流れるような感覚に襲われる。
 自分の口から漏れてしまった声に七日は顔を真っ赤にして口を紡ぐが、その口めがけて触手が入りこもうと、桜色の唇を強引に押し広げようとする。
 と、
「いい加減にしなさいよ、このエロ触手!」
 突然別方向から声をかけられて、触手の動きが止まり七日の視線がそちらに移る。視線の先にはフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が立っていた。
「くらえー!」
 フィリーネは触手に向けて火術を放つと、触手は七日から離れてどこかへと引っ込んでいった。
 身体が自由になるのと同時に七日はしゃがみ込んで身体を縮こまらせた。
「あ、ありがとうございます……」
「大丈夫? ほら、優夏! こっち見ない!」
 優夏は裸になっている七日から視線を逸らす。それと同時に、
「きゃあああああああああああ!」
 フィリーネの悲鳴が上がった。
「フィー!? どうしたんや!」
 優夏が慌てて振り返ると、優夏の頬が急激に赤く染まった。フィリーネの腹部に触手が巻き付き、胸へと昇って服を溶かし始めていた。
「おおお! フィーがエロゲーのようなシチュエーションに陥ってる! 待ってろすぐに助ける!」
 優夏は朱の飛沫で炎を呼び、フィリーネの巻き付く触手を焼き払った。が優夏の背後にも触手が迫る。
 フィーリアが声を発して危険を知らせようとしたその時、背後から火術の炎が飛び込み触手が一斉に後退した。
 見れば、そこには影月 銀(かげつき・しろがね)ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)が立っていた。
「危機一髪だったね。大丈夫?」
 ミシェルが声をかけると優夏は安堵したように笑みを浮かべた。
「ありがとう。男が触手にかかるエロゲーなんて誰も見たくないやろ」
「ミシェルも考えなしに突っ込んでるとエロ同人みたいになるぞ」
 銀にも注意されてミシェルはしゅんとする。
「ごめんなさい……でも、エロ同人って? エロゲーって?」
 ミシェルは周囲をキョロキョロ見回して皆を見つめるが、全員が一斉に視線を逸らした。
「さて、みんなを助けるよしよう。ミシェル、手伝って」
「う、うん」
 まだ納得いっていないような表情のまま、ミシェルは火術を使って少女達を拘束している触手を追い払っていく。
 銀とミシェルは一人ずつ確実に救助していくが、その中に美緒の姿を見つけることは出来なかった。
「どうも、まだ他に収容所があるみたいだな。俺たちは一度外に出るが、そっちはどうするんだ?」
 銀が訊ねると、優夏はタンスや机を引っ切りなしに開け放っていた。
「……なにしてるの?」
 フィリーネがいぶかしげに訊ねると、優夏は一冊の手記を机の引き出しから取り出した。
 ページをめくると、どうやら手記は日記として使われいたようで日付と綺麗に、あるいは神経質なほど綺麗に書かれた文面が一言ずつ書かれていた。

×月○日
 人間を保管する屋敷を開発した。これは若くて美しい女性に一定の栄養を送り込み、不死のように永遠を生きるようにする、ある種の保管庫のようなものだ。
○月●日
 なんてことだ。この家は自我を持ち始めたらしい。あれだけ綺麗だった娘が屋敷に栄養を取られて死んでしまった。改良せねば。
▲月×日
 もうダメだ。私の手では手に負えない。とっとと逃げるとしよう。

 手記はそこで終わり、優夏はため息をついた。
「やっぱり……こんなバケモン、自然にできる筈ない。作ったアホの手がかりを探してついでに美緒を助けるさ」
「それじゃあ、ここからは別行動だな。君はどうする?」
 銀は七日に声をかけた。
「……一度戻ります、このままじゃまともに動けませんから」
「じゃあ、ここでお別れだね。……ところで、エロゲーってなに?」
「……大人になったら分かるわ。ほんなら、気をつけてな」
 優夏はフィリーネを連れて逃げるように部屋を後にする。銀も弱った少女達に肩を貸しながら外へ脱出した。その間、何度もミシェルがエロゲーとエロ同人に関する質問をしてくるが、それを答えるものは誰もいなかった。


 デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)は入り口の前で仲間を待たせ、単独で屋敷の中へと潜入していた。隠形の術で触手に気付かれぬよう移動しつつ、屋敷に囚われたドクター・ハデス(どくたー・はです):と聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)を見つけ出し、位置を確認してから仲間と共に再度突入する算段になっている。
 デメテールはしらみつぶしに部屋を巡っていると、キッチンにたどり着いた。瞬間、デルメールのトレジャーセンスが冷蔵庫の中に何かがあることを告げた。
「あそこにマスターが?」
 まさかと思いながらドアを開ける。そこには、なぜかプリンが一つ保管されていた。
「……? なんで、こんなところにプリン?」
 デルメールが手を伸ばすと──プリンの中から突然触手が飛び出した。
「わっ!?」
 完全に不意を突かれたデルメールは手足を絡め取られ、服を破り捨てるように乱暴に溶かしていった。
「「や、やんっ……、服がっ……!」
 衣類が無くなるのと、素肌を触手に撫でられる羞恥でデルメールは首まで真っ赤にしていく。仲間は今も入り口で待機している。このままでは仲間も呼べない。
 と、
「はぁ……」
 ため息と共に火術が飛んでくる。
 真っ直ぐに伸びた火の球は触手を直撃し、高熱を感知した触手はデルメールを解放して逃げるように去っていった。
 火術を放ったのは待機しているはずの紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だった。
「ゆ、唯斗ししょー、こっち見ちゃだめっ!」
「あー、見てない見てない」
 やる気無く返事をしている唯斗を見て紫月 睡蓮(しづき・すいれん)がたしなめる。
「兄さん、何ですかこのお屋敷!? こんなところにハデスさんたちが捕まっているなんて……早く助けてあげましょう!」
「恐らく裸に剥かれて触手に絡まれている男を助けに行けって言われてもなぁ……デメ子の頼みで来たけど、全然テンションが上がらない……帰っていい?」
「いいわけないじゃないですか! もっとやる気を出してください! プラチナさんもなんとか言ってあげてください!」
 睡蓮はプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)に声をかけるが──肝心のプラチナは人知れず触手に捕まり衣服を剥かれていた。
「マスター! ほら見てください! エロいですよこの屋敷!」
 そう言いながらプラチナは粘液で光る触手にあちこちなで回され、くすぐったそうに身をくねらせる。
「まず助けを求めてください! ほら、兄さん! 早く助けてあげてください!」
「ん〜……? 楽しそうだからいいんじゃないか、放っておいて」
「兄さん!」
 やる気の無い返事を繰り返す唯斗を睡蓮が叱っていると、それはいきなり訪れた。
 廊下に続くドアがバタンと開いたかと思うと、黒い影が真っ直ぐに触手へと向かい、銀閃が走る。それと同時に触手が斬り捨てられ、触手は逃げ出した。
 影の正体はラナ・リゼット(らな・りぜっと)だった。
「大きな声が聞こえてきたので、事情を確認する前に助けたのですが……。大丈夫ですか?」
 ラナは用意していたタオルをデルメールとプラチナに渡して、身体を隠すように促した。
 唯斗もラナの姿を見て、ようやく食指が動いたのか顔色が少しだけ変わった。
「何々、どしたん? ラナさんの所も誰か攫われたの?」
「ええ、実は美緒が……攫われました」
「……美緒が捕まってる? 裸で!?」
 自ら裸という言葉を口にした瞬間、唯斗の死んでいた気配が濃い色を持って再生した事を周囲の人間が気付いた。
「よし、やる気が出てきた! 助ける為だ、見てしまうのは仕方ねぇな! プラチナ! 遊びは終わりだ、来い」
 唯斗は魔鎧であるプラチナを装着して、マフラー靡かせて忍び装束のような衣装へと変化した。
「し、ししょー! マスターの捜索は!?」
「そうですよ! 私たちの目的はハデスさんの救助じゃないですか! それはどうするんですか?」
「……………………………………………………え?」
「なんですかその不気味な間は!?」
「ししょ〜!」
「冗談だよ! ひょっとしたら二人が一緒にいるかもしれないだろ? 美緒を助けてついでにハデス助ければいいんだろ」
 すでに目標とついでが逆転してしまっているが、デルメールも睡蓮もツッコミが追いつかなくなっていた。
「それに、ハデスの探索ならせっちゃんたちが真面目にやってるだろ。俺たちも片っ端から女の子助けつつハデス探しするんだよ」
 どんどん優先順位が下がっていくのを感じながらデルメールも睡蓮も、スキップでもしそうな勢いでキッチンを出た唯斗の後を追った。


 人知れずハデス探索を丸投げされたせっちゃんこと辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)女王・蜂(くいーん・びー)の背中に乗り、部屋を見て回っていた。
「なんじゃろう……今、誰かに面倒事を押しつけられたような感覚が……」
「きっと、この状況下ですから疲れが溜まってるんですよ。早く、マスターを探して脱出しましょう」
 隣で同行するアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の言葉に刹那は黙って頷いた。
 しばらく探索を続けていると、天井からゆっくりと触手が降りて三人の前に立ちはだかった。
「やれやれ、めんどうじゃのう。アルテミス、奴の動きはわらわが封じるからその隙に仕留めるがよい」
 言い終わるや否や、刹那は触手に向けてしびれ粉を飛ばす。粉は真っ直ぐに触手へと飛んでいき、それを確認してからアルテミスは斬りかかる。が、
「なっ…?!」
 アルテミスは思わず剣を止めて、後ろに飛ぶ。
 触手は痺れた様子み見せず、ただ粉の影響を受けるのを防ぐために体中から粘りけのある液体を滲ませて身を震わせていた。激しく触手が身体を揺さぶると、その滴がアルテミスの鎧の留め具にかかり、音を立ててそれは床に落ちた。
「くっ……この!」
 アルテミスは怯まずに斬りかかる。が、粘液でぬめる触手は剣先が当たっても摩擦が生じずに、柳でも斬るようにまるで手応えが無い。そして、不幸にもその粘液がアルテミスの目を塞ぎ、一瞬動きが止まるのを見て、触手はアルテミスの四肢に向かって伸びていきいつもより多量に分泌された粘液が服を溶かし、肌にもべったりとかかっていく。
「あ……や、やだ……!」
 目が塞がれたことで、アルテミスの肌はいつもより過敏に反応してしまい、背中や胸を撫でられる度に甘い声を上げて、身体が反応してしまう。
 女王・蜂は紺碧の槍で触手を切り払い、さらに追い立てるように触手を突き刺していく。執拗に触手をバラバラにすると、刹那がそれを爆炎波で焼き払うと触手はあっという間に逃げ出してしまった。
「無事かの?」
「はい……ご迷惑をおかけしました」
 刹那も女王・蜂もいつの間にか粘液を浴びていたようで服のあちこちに穴が開いて、素肌が見えているが、存外気にする様子も無く、顔を真っ赤にしているアルテミスに手を貸した。
「触手が逃げたのは……この先の部屋じゃのう。部屋からも何かの気配を感じるし……行くとしよう」
 刹那はアルテミス達を連れて、ドアの前に立つとドアを蹴破って中に入った。
 そこには──裸になり、足を強引に開かされているドクター・ハデス(どくたー・はです)聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)の姿があった。
 自慢の白衣と眼鏡も取られて、完全に素っ裸に剥かれたハデスと、身体を鎧と勘違いされてひたすらに粘液をまぶされてテカテカに光っているカリバーン。
「うわぁ……」
 誰からともなく不快感の混じった声が漏れる。
「おお! アルテミス、いいところにきた! 早く助けてくれ!」
「まさか、こんな痴態を晒すとは……このカリバーン一生の不覚!」
「元気そうですね……」
「唯斗が先にこれを見ていたら黙って帰りそうじゃのう……」
「全くもって恐ろしい場所だ……。まさか、このドクターハデスの口の中を蹂躙し、定期的に生きているのか反応を見るように触手で撫でてくる時間は耐えがたいものだった……」
「俺もまるで屈辱を与えるためだけに粘液を顔中にかけられたときは思わず心が折れそうに……」
「いい! そんな気持ちの悪い状況を細かく説明するでない! 今助けるから黙っておれ!」
 刹那は不愉快そうに顔をしかめながら爆炎波で触手を外してやると、さっさと背を向けた。
「脱出するぞ。他にも人がいるようだが、まずは目標を達成せなばな」
 刹那の言葉にハデスは眼鏡も無いのに中指で鼻筋を擦って見せた。
「脱出……馬鹿を言うな! 我らオリュンポスの隠れ家の一つにするのだ! この触手も防衛用に改良すれば敵の侵入を阻め……」
 全部言い割る前にアルテミスがハデスを殴って気絶させた。
「帰りましょう。カリバーンさんもそれでいいですね?」
「おう。俺も早くここを出て身体の汚れを洗いたい」
 素っ裸のハデスをカリバーンが担ぎ、刹那たちはなるべく後ろをついてくる二人と目を合わせないように急いで屋敷から脱出した。